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雨のリズム  作者: 海来
64/94

[64] ローショの父

シルバースノーに乗ってスカイとウィンガーは空の城に戻ってきた。

まずは、城の内部の様子が知りたいが……

 空は、どんよりとした雲が流れ、月を覆い隠していた。全くの暗闇ではないが、忍び込む者にとっては、ありがたい位の闇だった。

「兄上……どうしてこのような場所を選ばれるのです。ここは危険だ」

 ウィンガーは直ぐ前をを行く兄スカイに小声で抗議した。ここは、空の城「浮遊城」の謁見の間の真上にあるスカイに自室だ。つい3時間ほど前に、浮遊城の裏手に当たる岩場地帯からスカイ達は空の城に降り立った。そこは、竜たちが自由を与えられている竜の棲みかだ。竜を隠すなら竜の中、シルバースノーは二人を乗せたまま、魔法で身体を青く変色させて侵入した。

 勿論、他の竜たちには、その青竜がシルバースノーであるのは一目瞭然で、乗ってきたのが城の二人の王子である事も気付いているが、あえて自分の主人である人間達に知らせる者はいなかった。

 それ以上に、シルバースノーが人型に変わり、スカイがシルバースノーの想い人であった事の方が、彼らの興味を引いていた。シルバースノーは、竜の中でも古参の雄竜に声をかけ、城の中の様子を聞きだそうとしたが、竜たちには、伝えるられるほどの情報はなかった。

 そこで、スカイは思い切って城の中枢部分に一気に入り込む計画を立てたのだ。

「ウィンガー、敵の動向が分からなければ、先には進めない。お前が城を後にしてから、事がどう動いたのか、見極めなければな」

 浮遊城の下層部は、一般市民の居住区になっていて、普段なら商人や使用人などが城と行き来をしているが、今はその扉は閉ざされたままになっていた。

 スカイとウィンガーは、食事に出かける竜の後ろに隠れ、シルバースノーに抱えらてスカイの部屋に入り込んでいた。

「ウィンガー、この部屋は安全だ。私はいつもこの部屋に閉鎖の魔術を掛けてから出掛けるんだ。私か、ローショ以外にこの部屋に勝手に入れるものはいないのだよ」

 ウィンガーは、淋しそうな表情で兄を見た。

「兄上は、ご自分の部屋に閉鎖の魔術を掛けられるほど、孤独だった……」

 スカイは、こみ上げてくるウィンガーの涙を見て、ふっと微笑むとウィンガーの髪をクシャッと撫でた。

「これまではな、でも今は……違う。スノーがいるし、ウィンガーお前もいるじゃないか」

「あにうえ……」

「お前は、私を頼ってくれた。だから、私はこの城で、もう淋しいなどと思うことはなくなるだろう。ありがとう、ウィンガー」

 ウィンガーは、嬉しそうにスカイに微笑んだ。スカイも微笑を返したが、直ぐに表情を硬くする。

「誰かくるぞ……」

 スカイは、物音のした自室のバルコニーを睨んだ。

 バサッ

「スカイ様っローショでございます。遅くなって申し訳ございません」

 ローショの金の翼は、漆黒に変えられており、闇に溶け込んでいた。

「ローショ……何故お前がここに?」

 ローショは、スカイの前に跪くと、頭を下げた。

「大地の妖精が、リク殿からのメッセージを持ってきてくれました。スカイ様の危機に馳せ参じよと……」

 スカイがククッと笑った。

「馳せ参じよっとは言ってないだろう。どうせ、スカイが危機一髪、空の城まで助けに行け。位じゃないのか?」

 ローショの肩が震えた。

「はい、その通り。さして変わりは無かったように記憶しております」

 スカイは、ローショに近付きしゃがみながら、その肩に手を置いた。

「ローショ、お前が来てくれて心強い。ここには着いたばかりなのか?」

「はい、スカイ様の気をおって、この部屋に真っ直ぐに参りました」

「そうか、着いて直ぐで申し訳ないが、偵察を頼めないか?」

「……かしこまりました。で、どの様に?」

 スカイは少し考えた後、床の方を指した。

「この下の謁見の間に、女王とその仲間がいるのは分かっているのだが、警備の配置を知りたい。闇の妖精といえども、警備ぐらいはしているはずだ。その網に掛からず、女王を捕らえ、最上階に上りたい」

「そう言うことでしたら、やはり翼を黒く変えておいて正解でした」

 ローショは、コクリと頷くと、バルコニーから飛立った。

 シルバースノーが、スカイの後ろからその様子を窺っていた。

「ねェ、スカイ。最上階まで行くなら、私とローショで連れて上がれるわよ。何も戦う事は無いわ」

 スカイは、シルバースノーの手を握ると、ウィンガーの方を見つめた。

「スノー……女王は、ウィンガーの実の母だ。手遅れになる前に、闇の妖精から助けてやりたい……頼む、手を貸してくれ」

 シルバースノーは、スカイの肩に額をつけて小さく頷いた。

「分かった……ウィンガー、お母様が助かるといいわね」

 スカイに寄り添ったまま、ウィンガーに手招きしたシルバースノーは、近付いてきたウィンガーを優しく抱きしめると頭を撫でてやった。

「シルバースノー……竜だなんて信じられない……いい匂いがする。昔の母上みたいないい匂い……」

「そう……」












 ローショは、スカイ達のいる階から、飛び立つと滑るように横に移動し、謁見の間のドーム型の屋根にある天窓から中を窺がった。

 つい先程、スカイの部屋に舞い降りた際にも、ローショは敵の様子を十分に窺っていたが、女王を捕らえるとなると、こっそりと侵入するだけの時とは全く違う。細心の注意を払って、偵察し、報告しなければ、スカイが立てる計画は上手く行くはずは無かった。

「敵の大将を捕らえるなど……スカイ様らしい」

 謁見の間では女王が、豪奢で大きな椅子に、肩肘をついて、横に置いてある毒々しい色をした飲み物の入ったグラスを指でかき混ぜていた。女王を囲んで、酔いつぶれた様に見える衛兵が数人転がっていて、その周りを黒い影が蠢いている。蠢いていた影は、徐々に近付き一つの塊になった。

 そして、謁見の間に、もう一つの影があった。その影は人間で、蠢く陰の塊から逃げるように、謁見の間の隅に引き下がっていく。

「やめろっ!! 私に近付くな!! 私は闇の妖精に心をくれてやったりはせんぞっ」

 その声にローショの心臓が、ドクンと鳴った。

「父上……」

 声の主は、ローショの父親ティルズ・マイーザだった。ティルズは手を広げ、影に向かって魔術の炎を放った。一瞬、影はバラバラに散ったが、直ぐに元に戻ってしまう。

「…っ…」

 ローショは迷っていた。

 今、父を脅かしている者は、闇の妖精なのは間違いない。自分が助けに入れば、父は助けだす事は出来る、しかし……自分達の存在を、みすみす女王に教えてしまうことになる。それでは、自分の主であるスカイを裏切ってしまう事になるではないか……父は何と言って自分を育ててくれたのか……

『ローショお前は、スカイ皇子の侍従。どんな時でも、どの様な状況下においても、我が事よりもスカイ様を優先せよ。それが、己の命と引き換えになろうともだ』

 今まさに、その時だった。ローショは、固く唇を噛締めた。

「父上、お許しください……」

 目を伏せたローショの肩に、そっと手が置かれた。

「ローショ、諦めるなんて良くないわ」

「シッシルバー……様」

 ローショの横には、シルバースノーが、ローショと同じ様に翼の色をを黒く変えて屈みこんで中の様子を窺っていた。

「行くわよ! ティルズを助けて、女王を捕まえるの。二人なら出来る」

 ローショが止める間も無く、シルバースノーは天窓を突き破って謁見の間に降り立って行った。

「くっ!!」

 ローショも直ぐに後を追った。シルバースノーは、真っ直ぐにティルズの前に舞い降りた。

「ティルズ、そのまま後ろに下がってて」

 そう言うが早いか、シルバースノーは自らの身体を硬い銀のウロコで覆うと、口から炎を吐き出した。

 吐き出され続ける真っ赤な炎の中で、影が蠢くのが見えるが、ダメージは与えれているような感じは無い。何と言っても相手は影なのだから……

「シルバー様、闇の妖精の影は炎では倒せません」

「ええ、知ってるわ」

 そう言うとシルバースノーは、前に出ようとしている自分と同じ様に硬い金のウロコで身体を覆ったローショを、手で制した。その瞬間、シルバースノーの口から、吹雪のような真っ白いドラゴンブレスが吐き出された。炎で熱くなっていた影は、氷によって急激に冷やされ、バンッと弾け飛んでしまった。

「どォ?」

「あなたが、神々の竜である事を忘れておりました……神々のドラゴンブレスですか」

 その時、謁見の間の出口に向かって、女王が走り出した。

 バシッ

 その足元に、長い杖がぶつけられた。

「ぐはァ!!」

 女王が、ドレスと共に絡まったツエに足を取られて床に倒れこんだ。

「魔法では敵わぬが、人間には知恵と心がある。逃がさぬぞ!! 陛下のところには行かせはしない!」

 ローショの父ティルズが己の魔法の杖を女王目掛けて投げつけていたのだ。ローショは素早く動くと、女王を捕らえ、羽交い絞めにした。

「女王陛下の身体から出てもらおうか。闇の妖精」

 女王が、顔を歪めて笑った。

「頭がおかしいのか。この女は、俺様と繋がってるから生きてるんだ。出て行って欲しかったら、いつでもこの身体から出て行くぜ? こいつが死んでもいいならナ」

 ローショは、シルバースノーを見た。シルバースノーの硬いウロコは、顔も覆っている為、表情が窺がえないが、首を振った。

「分からない。魔法で女王様の中を探ったけど、こいつが言ってる事が真実かどうかは分からないわ。ただ……」

 ローショとシルバースノーの後ろから、ティルズが女王の前にまわった。

「ただ、どちらにせよこの闇の妖精を逃がすわけには行かないのですよ、お二方。この城に来た真の目的を知らねばなりません」

 ローショは、父が自分を息子だと分かっていない事に気付いた。ローショも顔までウロコで覆ってしまっている。まさか実の息子が竜人だとは思わないだろう。

「そうですね、逃がすわけには行かない。シルバー様、コイツを女王陛下の身体に縛り付けておく事はできますか?」

「ええ、できると思うわ」

 シルバースノーは、女王の身体の隅々まで行き渡るように、薄いドラゴンブレスを吹き付けた。

「私のドラゴンブレスは、神々の祝福を得ている。闇の妖精には効果的よ」

「では、他の闇の妖精に勘付かれる前に、上の階に戻りましょう」

 ローショは、女王を抱えて舞い上がった。

「ティルズ、私の肩につかまって」

 ティルズは、怪訝な表情を浮かべる。

「なぜ……私の名を? あなた方は? いにしえ竜人(りゅうびととお見受けするが、その様な方々に知り合いはおりませぬ」

 シルバースノーは、はーッと溜め息をついた。

「ティルズ、私はシルバースノー、以前はスカイの騎乗用の竜だった。今はね、スカイの許婚よ。よろしくね」

「えっ? はっ?」

 シルバースノーは、目をパチパチとさせているティルズを無理やり抱えて、舞い上がった。




























 

 

訳のわからぬままのティルズ、ローショが竜人だと知ったら?

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