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雨のリズム  作者: 海来
6/94

「6]リクの魔法

リクにも魔法の力が・・・・それに絡んで兄のタカとのよくある兄弟の確執が・・・・親友の翔汰はコミカルに兄弟にからんでいきます。

 とりあえずリクとレンと翔汰はリクの家の玄関まで無事にたどり着いた。

 鍵を開けながら後ろを振り向いたリクは、自分たちに背を向けて、じっと身動きしないレンの姿を見つけた。

「鍵あけたから早く入れよ。近所のババアに見られたら何言われっか解んないじゃん」

「ホントだな。お宅のリクくんたら昼間っから女の子つれこんでたわよ。近頃の子供はそういう事には進んでるって言うものねェ。とか言われんだろ。プップッはずれては無いかもな」

 翔汰はくねくねとしなを作ってわざとらしいマバタキをしながら笑っている。

「うるせぇーよ、翔汰、レン早くして」

 リクの声に振り向いたレンは、目にいっぱいの涙をためていた。膨れ上がった涙の粒が今にもこぼれ落ちそうに、その時を待って震えている。

「どっどしたの」

 男二人の声は微妙に重なった。

「ごめんなさい。扉が消えてて、いつもの事なのに、いつも一時間ほどしか現れないのよ。でも、こんな時だから、不安で……」

 思わずリクはレンの手を握り締めた。自分でも何故そうしたのか全くわからなかった。レンが自分の中を通り過ぎたときに残ったリズムと同じリズムを感じたからだろうか。

「だっ大丈夫だって。いつもと同じなんだろ。いつも通りなら平気だって。な?」

 レンがまばたきすると、瞳から大きな涙がポロリと落ちた。それは、日の光に当たってキラキラ輝く通り雨の後のしずくのようだとリクは思った。リクは、レンがプっと吹き出すまで自分がレンの顔に見とれていた事に気がつかないほど、自分の世界に入り込んでいた。

「あんまり見つめないで恥ずかしいわ……でも、リクは励ますのがじょうずなのね。ありがとう。少し気分が良くなったみたいよ。でも……不思議……まあいいわ。さっ、中に入りましょう」

 その時、突然に雨が降ってきた。リクはレンの表情にあらわれた何かが気になったが、何なのか聞くチャンスを失った。

「おーいリク。なんか食うもんねーのかよ。俺はお前と違って色気より食い気なんだかんなァー早くなんか食わせろ」

 先に中に入っていた翔汰が、キッチンのほうから叫んだ。

「食いたきゃ勝手にその辺のもん食っとけよ。いっつもそうじゃねーか」

 二人の会話を聞いていたレンが、リクと翔汰を交互に見て不思議そうな顔をしている。

「あなた達いつもこんな感じなの。会話が乱暴と言うのかしら、ケンカをしているみたいだわ。仲が悪いの」

 早速、何かを口に運びながら翔汰が答えた。

「え? ケンカしてるみたいか。これで普通なんだけど。なっリク」

「ああ、でもレンの住んでる世界とはちがうんじゃねーかな。なんちゅーか、ん〜言葉使いってのがさ」

「そうかもしれないわね、特にお城では私に対して、あなた達のような話し方をする者はいないもの……これでも私お姫様なのよ。どお」

 そう言って、ドレス替りにエプロンをつまんでクルリと回ってみせた。

「あっと、忘れるとこだった。母さんのエプロン洗濯しとかないと怪しまれちまう。着替え俺のでいいかな」

「いいわよ。でもなるべく可愛らしいのがいいんだけれど……お願いね」

 リクは、レンの注文に頭を抱えながら、着替えを探しに自分の部屋のある二階へあがっていった。

「可愛らしいのって、何だよ、それェ……」

 これからのことを考えると、良くない頭がより一層悪くなった気がした。



 








 模試を終え自宅に帰り自室のドアを入るといきなり誰かに口をふさがれ、背中から押し倒されそうになったタカは、反射的に相手を背負って投げ飛ばし、そのまま押さえ込んだ。

「いってェ〜なにすんだよ。クソあにき」

「お前はバカか。いつになったらその空っぽの頭は活動しはじめるんだ。何すんだよは俺のセリフだろ」

 自分のベットからジッと見つめる少女と、リクが飛び掛ってきたであろう側とは反対側のドアの横で、ニヤニヤ笑いを張り付けたままの翔太を見つけたタカは、フーっと溜め息をつくと、落ちたカバンを拾って机に置き中身を机に並べ始めた。あっという間に狭い机の上は参考書でうめつくされる。

「模試で疲れてるんだ。面倒なことには係わり合いになりたくない。俺の部屋から出て行け」

「疲れてるのは知ってるよ。でも、彼女困ってるんだ。助けてやってよ兄ちゃんが頼りなんだ。俺達じゃ何にもわっかんねーし。兄ちゃんに見放されたらレン可哀想だろ」

「知らないな、俺には関係ない……嫌な予感がしてたんだ。その子を玄関の前で見始めてから、いつかこんな事になるんじゃないかって。でも何もなけりゃあいいかと思ってたんだが」

「兄ちゃん。やっぱり知ってたんだ。スゴイ天才だ」

「そんな問題じゃない」

「何処から来たかもわかるのか。俺なんか幽霊だって思ったぜ」

「うるさい。出て行けって言っただろ」

「さすがだよなァ。なっレン。俺の兄ちゃんはすごいんだ」

 タカは、自分の話を聞いていないリクと、自分をジッと探るように見つめ続ける少女に、イライラしてきていた。

「お兄さま、あなた魔法使いね。あなたの周りに整理のついていない魔法の力が流れ出してるわ。でも、魔術を学んだことはないようね」

「違う。魔法使いじゃないね。超能力さ。それより魔法うんぬん言ってるお前は何者」

「怪しい者ではないわ。リクに逢うために違う世界からきたの」

「……リクに逢う為……」

 タカは自分の胸がジリッと焦げるように感じた。別にこの少女が好きなわけではないし、自分に好意を持っているだろうとも思っていなかった。ただ、弟に会う為に来た、そのことが気に障った。いつも何の努力もなく笑顔一つで欲しいものをかっさらっていく弟が妬ましかった。ただそれだけ。その弟を、自分自身がとても大切に思っている事がはがゆい。それを知るはずもないのに見事に兄に甘える術を知っている弟が気に入らない。ただそれだけ。

「そんな理由で。じゃあ願いはかなったわけだからもう帰れば。さようなら」

 タカとレンの話しにリクがとりなす様に割って入った。

「兄ちゃん。それが無理なんだって、兄ちゃん魔法つかえるんだろ。助けてやってよ」

 またしても弟は簡単に助力を頼む。今回は助けて等やるものか、なぜか意固地になる。

「俺の力が魔法だとして、それがどうしたんだ」

「スッゲースッゲースッゲー。やっぱり魔法なんじゃん。勉強もスポーツも何でも出来るのにその上魔法まで使えるんだって。スッゲーよなァ。翔汰聞いたか」

「バーカ。タカ兄ちゃんの顔みろ、かなり怒ってんぞ。少しは人の話し聞けよ」

 リクを睨んだままのタカは、手にギュッと力を入れ怒りを静めようとしているようだった。

「翔汰の方がまだ物がわかってるようだな……うんざりなんだよ、リク。お前の子供っぽいとこが、そうやって何でも素直に喜ぶとことか、お前の拾ってきた厄介ごとを片付けるのも、うんざりなんだよ。もう出て行け。話しは終わりだ」

 そうだ、今回は嫌だ。なぜだか気に障って仕方ない。

「なんでだよ。ヒドイじゃねーか。いっつも俺ら助けてくれんジャン。なんでレンはだめなんだよ」

 詰め寄ってくるリクと、睨み合っているタカが握り締めた拳は真っ白になっている。タカの怒りが、あまりにも唐突で、リクにはそれが分からない。

「頭も良くって、何でもできて、魔法も使えんのになんでだよ」

 タカは、自分に助けてもらうことに何の疑問も持たないリクに腹が立っていた。いつもなら、それでも我慢できたのかもしれない。でも、今日はこの少女の存在が、いつもくすぶっているタカの心の熾き火に火をつけた様だった。少女自体にと言うよりは、リクに逢いにきたと言った言葉が火をつけたのかもしれない。

「この子をじゃないさ。リクお前を助けたくないんだ」

「どー言うこと。なんで俺? ありえねーし」

「どーせお前は何にも解っちゃいない。頭もよくって、何でも出来るって言ったな。お前に何がわかるんだ。何の努力もしないで、ニッコリ笑えばいつでも何でも許されて」

「なに言ってるの、兄ちゃん。どうしちまったんだよ、なんでそんなウソ言うんだよ」

「いつもがウソなんだよ」

「そんなはず無いじゃん」

 タカは何の疑問も持たず、自分を信頼し頼ってくるリクの真っ直ぐな大きな瞳がたまらなかった。これほど拒絶しても、兄が助けてくれると信じて疑わないリクにイライラした。

「優秀で、お前のいいお兄ちゃんでいる事が母さんの望みだった。そうする事でしか家族の中の俺の価値はない。でも、それを続ける事がどんなに大変か……何でも出来る力が欲しいと、どれだけ願ったか。 そのために今はこの力を使ってるんだ。でもな、お前なんかを助ける為に絶対この力は使わない。使うもんか。お前なんか大嫌いなんだよ」

 兄のこれ程の激情を見たことなど今まで一度もなかった。いつも冷静で弟の自分に声を荒げる事もない、そんな兄だった。リクが困っているといつも助けてくれた、母に叱られても兄だけは守ってくれた、それは偽りだったのか。自分が愛すると同じ気持ちで愛されていると思っていた。

 リクの頬に涙がつたい、ただ呆然と立ち尽くしていた。リクにしてみれば、いきなりのタカの怒りだったし、信じられないと同時に裏切られた気がしていた。でも、腹が立つより悲しかった。悲しみの涙は止まりそうになかった。

 そっとレンが自分を優しく包み込むように抱きしめてくれたのがわかった。なぜか、自分でも解らないままリクは手を伸ばしてタカが握り締めている拳に触った。その時、タカの心が自分に流れ込んできた。兄の心のリズムが聞こえた。

 兄の、弟の自分に向けられていた嫉妬を感じ、自分に対する憧れを感じ、兄の心は、ずーと幼い頃から泣いていたのだと分かった。賢く、優しい兄を演じ続けることに疲れた心を知った。

 兄が、なぜレンを助ける事を拒絶したのかも分かった。それは、自分だけが見つける事ができた少女までも、自分では無く、弟を選んでいた事実に、打ちのめされてしまったから、全ての者は、自分では無く、可愛らしい弟選んでしまうと思い込んでいた。兄の心を知ったリクの口は、自分の心の声を勝手に話しはじめた。

「それでも、俺は兄ちゃんが大好きなんだ……俺が替わりに泣くから、もう泣かなくていいよ兄ちゃん……兄ちゃんは皆に愛されてるんだから、泣かなくていいんだ。兄ちゃんは知らないの? みんな兄ちゃんが大好きだし、それは兄ちゃんが立派だからじゃないって、知らないのかよ」

 リクを抱きしめていたレンにも、二人の心のリズムが伝わってくる。

「リク……これは魔法なの。あなたから優しい音が聞こえるわ。やさしいリズムね……これは、魔法だわ」

 リクを抱きしめるレンの手がほんの少しふるえた。タカの顔から赤みが消え青白くさえなってきた。

「バカ。大好きって、小さい時みたいな事言って、ほんとバカなんだからおまえは……」

 タカは泣いてはいなかった。幼い頃、母にお兄ちゃんは泣いてはいけないと何度も言われていたから、涙を流す事も忘れていたのかもしれない。それでも、これ以上涙を流すまいとでもするようにタカは天井を見つめて大きく目を開いた。リクに触られたその時から、タカの中に燃え上がった怒りは消え、そのかわりに暖かい安堵が押し寄せていた。タカの頬に涙がつたって、涙が暖かいと初めて気付かせてくれる。

 それまで黙ったまま、壁にもたれて二人を見守っていた翔汰が口を開いた。

「何ですかァ〜リクも魔法使えちゃうの。なーんだ、この中で魔法使いじゃねーの俺だけってか。ふっざけんじゃねーての。ちょっとォタカ兄ちゃんさァ、かなり屈折してねーか。俺なんかさ、将来うちの病院継ぐ出来の良い兄貴と、カッワイイ妹なんかに挟まれちゃって、どうでもいい子まっしぐらだぜ! 三人兄弟の真ん中なんて結構つらいのよ。でも、自由ってものは持ってんだぜ。誰に期待されなくっても、誰に見てもらえなくっても、俺が自分で知ってりゃ良いんじゃね。と思うわけよ。どんだけ頑張ったかってさ、自分が知ってりゃいいって。タカ兄ちゃんもそんだけ頑張ったんならさ、魔法なんて使わなくても、十分リクの大好きなスッゲー兄ちゃんで居られるんじゃねーの」

 静まり返った部屋の中に雨が降ってきた。

「何で部屋ん中で雨降ってんの。ありえねーし……」

 翔汰は、理解できない現象だが、自分も涙ぐんでる事がばれずにすみそうだとホッとしていた。タカ兄ちゃんの気持ちも、リクの気持ちもどっちも解っている翔汰だった。(泣きたいのはこっちだぜ。バカ兄弟)翔汰は軽く鼻をすすった。

「そうかもな、翔汰……」

 そう言ったタカも鼻をすすって少しだけ笑った。

 とりあえず、落ち着いたところで今までのいきさつを三人から聞かされた後、タカはつぶやくように話しはじめた。

「翔汰、ありがとな。リクも……ありがと、それとゴメンっ大嫌いじゃないよ、逆だな。でもな、ちっちゃい頃の俺は母さんが全てで、お前にとられるって……それだけさ……お前を見つめる母さんのキラキラした優しい顔が自分のものになればいいのにって、その時から俺は可愛いはずのお前に嫉妬してたんだよ。でもな、嫌いだって思いたいのに、俺の後を追いかけてニコニコしてるお前を見てると、やっぱり好きなんだ。バッカみたいだな。今日は、リクの服着て座ってるレンちゃんを見たとき(ああ、やっぱりどこの世界でも俺はリクにかなわない、俺の方が先に見つけても、この子もやっぱりリクの笑顔を選ぶのか)って……母さんと重なっちまって、なんの関係も無いはずなのに勝手に落ち込んだ。ホントにゴメン……ん? アッ勘違いするな。レンちゃんのことは何とも思ってないから……翔汰っわかったな。くだらない考えはやめろ」

 翔汰は考えて声に出そうと思った瞬間にタカに牽制された。

「チェーつまんねーの」

(なんで解っちまったかなァ。話しが面白くなるかと思ったのになァ。兄弟三角関係なんてさ。まァバカ兄弟のバカな恋愛相談聞いてるよりましか)と、とりあえず無理に納得してみる翔汰だった。

 だが、自分の顔に面白い事発見の信号がハッキリ出ていたのは、全く気付いてはいない。

 リクが、前に座っている翔汰を睨んでから、タカに向き直った。

「もういいよ兄ちゃん、わかってる」

 リクは自分が兄に抱いていた嫉妬よりも、強い兄の嫉妬を理解していた。そして、兄が自分を思ってくれる気持ちも同じように理解していた。

「さっき兄ちゃんの心が俺の中に流れ込んできたんだ。きっとレンが傍にいたから俺に魔法がかかったんじゃねーのかな。俺、魔法なんて使えないし、レンに逢ってからなんだぜ、いっつもって訳じゃないんだ。悲しいとか、不安とか、そんな時の人の心がわかるみたいなんだ。その後は必ず雨が降るんだけど、それは、関係ないか」

 それを聞いたタカと翔汰はそろって叫んだ。

「じゃあ、お前ら離れてろ」

 ぴったりひっついて座っていた二人は、初めてそれと気付いて慌てて離れた。二人を見ながらタカが軽く溜め息をついた。

「何回も部屋に雨降らされたら、たまったもんじゃない。さてと、レンちゃんがあっちの世界に帰る方法はっと、それ考えないとナ……まず、何がいけなかったかだな。彼女が使った魔法の何に問題があったかって考えてみようか、レンちゃんは心当たり無いの」

「あの、さきに言っておくけど、私のは魔法じゃないのよ。魔術なの」

「何が違うんだ。一緒ジャンなー」

 チャチャを入れた翔汰は、リクとタカに視線だけで怒られた。翔汰は小さくなるふりをした。小さくなった翔汰の頭の上から、膝立ちになったレンが言った。

「違うわ。魔法は初めから持っている力よ。魔術は学んでいくものだわ。だから、ソラルディアでは魔力の強い者だけ魔術を学び、魔術師になるのよ。魔術を学べるほど魔力の強くない者が、意思の力だけで行うのを魔法とよぶの。魔術には強い魔力と魔法の素材や呪文が必要なのよ」

 気の強そうな瞳を大きく開いて熱弁をふるうレンを上目遣いに見ながら、リクが聞いた。

「ふーんレンは魔術師なんだ。何かかっこいいんじゃね。でも、なに間違ったの」

「……恥ずかしくて、言いにくいの……」

 うつむいてしまったレンにタカは容赦なくつっこんだ。

「恥ずかしくて言えないほど簡単な事なら、やり直すのも簡単なんじゃないの。言わなきゃ、俺達の協力は得られない。それでも黙ってるのかな」

「兄ちゃん、キツイよ言いかたがさ。レンまた泣いちゃうぜ」

「泣かないわ。私を泣き虫みたいに言わないで。失礼ね。言うわよ、言えばいいんでしょ」

 翔汰が、怖がるようなジェスチャーをした。

「こっわー、リクこりゃ彼女にするのはキッツィかもよ」

 と言って肩をすくめるようなかっこうをした翔汰は、レンに睨みつけられた。翔汰の横の椅子に腰掛けているタカが、少し移動して翔汰の頭を小突いた。

「翔汰、お前がいいヤツなのは知ってるが、今は黙ってろ。いいな」

 タカにも睨まれて、またしても小さくなるふりをしたが、彼の心はほんの少し傷ついた。(さっき助け舟だしてやったの俺だし。ちょっとぐらいの冗談は大目に見てくれたっていいんじゃねーの)翔汰の方を横目で見てニヤーと笑っているリクと目が合った。リクの口が音もなく(バーカ)と動いた。

「あのね、笑わないでよ。全部うまくいってたの、魔法円も魔術のスペルも声のトーンもうまくできてたの。えっと……あの……リクの顔がほんの近くに見えるまでは、上手くできていたの。嬉しくて、ドキドキして、間違ったみたい。最後の最後に声のトーンを……」

「何で間違ったってわかるの。魔術を失敗するほど気持ちが不安定になってたんなら、自分で気が付かないでしょう、違うかな? 勘違いじゃないか。最初の時点で勘違いから始めちゃうと全てが違う方向に行っちゃうから、よーく考えなきゃ。ね、レンちゃん。」

 フーと息をはきだしてレンはタカの質問に答える準備をした。

「勘違いじゃないと思うの。その最後の呪文の言葉は私自身の名前だったから。レンじゃないのよ私の名前。でも、リクには(レン)って聞こえた。さっきまで確信はなかったの。でも、さっきリクの魔法の力を確認したから、魔法の力を持ってるなら、リクの聞き間違いではないわ。私は自分の名前を間違った間抜けな魔術師なのよ」

「それで俺が君の名前はレンだって言ったときあわてたんだ」

「ふーん、それが原因か。間違いなさそうだな。ん? アッお前らひっつくなよ! 雨が降る」

 そう言いながらタカは天井を心配そうに見上げた。

「ところでさレンちゃん、リクの魔法の力って何なの?」

 レンは、少し首を傾げた。

「リクのは、ん〜よく解らないのだけれど、癒しの魔法に似ているようだわ。でも、違うのよ。癒すのは体ではなくて、心なの。独特っていうのかしら? リクは相手の気持ちを自分に取り込んで洗い流すって言うのかな? それを元ある場所に返すの。私の時もそれを感じたわ。悩んでたり、不安だった気持ちがスーと無くなる感じ……お兄さまの時もそうだったのじゃなくって?」

「うん、そんな感じかな? あの後、気持ちが軽いって言うのかな? そう感じるよ。だから、いったん自分が取り込んだ気持ちは理解できるんだな。スゴイなリクの魔法は」

 レンも感心するように目を輝かせた。

「すごく優しいの。リクの魔法……好きだわ」

 リクは居心地悪そうにゴソゴソしている。自分の事を自分抜きで話されるのを聞くのはくすぐったい気分になった。そんなリクをよそに、翔汰が浮かれた様にはしゃいだ。

「間違いがわかれば、直せばいい。同じよーに呪文を唱えて丸く円かきゃすべてOK! ってな感じっすか。めでたしめでたしパチパチパチ」

 拍手をする翔汰をうらめしそうにレンが見つめる。

「それが、そうでも無いのよ。強い魔術を使うにはしっかりとした強い体が必要で……」

 リクは、心配そうに言った。

「それがレンには無いんだ。どーするよ」

 真剣な顔のリクに翔汰が笑いながら言った。

「そんなん誰かに借りればいいんじゃねーの? 後で返せばすむじゃん」

 リクもはしゃぎ始めた。

「アッそっか! 翔汰あったまイイ!」

 二人の頭にタカ兄ちゃんのゲンコツがはいった。

「どこで返すんだよ! レンちゃんは異世界に帰るんだ。貸したやつもあっちに行ったまんまになるんだよ。翔汰、お前は頭いいのか悪いのかわからんな……リクの親友だけのことはあるわ」

 翔汰が口を尖らせた。

「何だよーちょっと先走っただけじゃん。よーく考えたら俺にもわかるさ」

 今日は何度も小さくならないといけない日のようだと翔汰は思った。そして、もう一つ大事な事を思い出した。

「お腹すかね? もう4時なんですけど。昼もまともに食ってね−し。3時のおやつまで抜かれたら死んじゃうよォ〜」

 リクが拳を上げた。

「昼飯に俺の弁当全部くっといて何言ってやがる」

 そうは言ってもリクもお腹がすいていたし、タカもレンも同じだと顔に書いてあった。

 その時、下から声が聞こえた。

「タカ〜リクぅ〜ただいまァ〜いるんでしょ。下りてらっしゃい。駅前にできたパン屋さんで美味しいパン買って来たよ〜翔汰君もいるんでしょ、一緒に下りておいでよ〜」

 タカがドアを指さした。

「でた、新店好きの買い物好き! リク早くいって全部とって来い! ニッコリ笑えば全部持ってきたって大丈夫。母さんを癒して来い」

「それって無理。俺が食いもん取ったら、いっつも母さんオニババに変身すんだから。希望の星の兄ちゃんなら上手くいくじゃん。頭を使うとお腹が減るでしょって母さんいっつも言うじゃん」

「お前なァ〜……」

 兄弟が睨みあっていると

「いいです! 俺がおばさんにもらって来るから」

 翔汰は言うが早いか階段を駆け下りた。すぐに何事か起きたのは間違いない。

「*※★・※×・・・・××※☆※**・・・!!!」

 下から母の吼える声がしたかと思うと、翔汰が部屋に飛び込んできて鍵をかけた。

 リクが、引きつった顔で聞いた。

「お前、何やったの?」

「おばさんにクリームパン一個おいて逃げてきただけだよ……おばさんクリームパン嫌いだって叫んでた。何でかなァ」

「バカ! クリームパンは俺の好物だって。交換にいかないと知んないかんな。ばか、なんで盗ったりすんだよォ」

 翔汰は半泣きの状態だ。

「だって、腹へってたし、おばさんの好き嫌いなんて知んねーし」

 その時となりにあるリクの部屋のドアが勢いよく開けられた。

「翔汰! でてきなさい! リクあんたが共犯なのはわかってんのよ!!」

 翔汰の顔から血の気が引いた。

「さっきは翔汰くんだったのに、もう俺……呼び捨てかよォ」

 タカが頭を抱えた。

「ばか!」




リクとタカの仲は本当のところどうなんでしょうね?それと、私は個人的に翔汰が好きです。こんな友達いませんか?

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