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雨のリズム  作者: 海来
56/94

[56] 悪魔の残像

新たな旅が始まってすぐ、リクの心を悩ませる恐ろしい存在。

夢なのか、現実なのか、時読みなのか、リク自身にも分からなくて……

 朝日はしっかりと昇り、森の中の動物達もエサを求めて動き始めている者達がいた。かさこそと小さな音を立てながら、リク達の周りを遠巻きにしながらチラチラと覗く、好奇心旺盛な小動物も見かけた。

 今度の旅は、暑く目立ちやすい日中は森の中の涼しい所で過ごし、暗くなり始めてから、徒歩で進む事になっている。暗くなり始めるまで、少しの間休息をとることにしていた。

 軽い朝食の後にも関わらず、炎の民のおさガザが用意してくれた、携帯用の食料の中から、リクは干した肉を選ぶと、最初の見張りにつくと言って、仲間達のいる場所から少し離れた、近付く者があればいち早く察知できそうな場所まで移動した。

 干し肉をじっと見つめたまま、口に運ぶ事もなく、何かを考えている。

「はァ〜」

 リクは、大きな溜め息をついた。

「こェ〜……さっきの何だったんだ……目、えぐられるかもって思ったっつーの」

 さっき、シルバースノーの背中に乗っているときに見た目玉と鉤爪が、リクの心に恐怖を植えつけていた。

 ガサッ!!

「!」

 自分の後ろからいきなり音がしたので、リクは慌てて身構えた。

「リク様、私です。フィーナです」

 確かに、フィーナの声だが、木の陰に隠れて暗くて顔はよく見えない。

「フィーナ? ヒルートの屋敷に戻るんじゃなかったのか?」

 サクサクッと小さな音を立て下草をふみながら、フィーナがリクの前に姿を現した。間違いなく、そこにいるのはフィーナで、リクはフーっと息を吐いた。

 フィーナが、申し訳なさそうにお辞儀をした。

「ブルーリーが屋敷まで送ってくれると言ってくれたのですが、どうしても気になることがあって、皆さんを追って参りました」

 申し訳なさそうに、フィーナはリクとの距離を置いて、佇んでいる。

「すぐそこまで、ブルーリーに乗せてもらって、魔法で降ろしてもらいました」

 この位まで明るくなってから、炎の竜が空を飛んでいれば、結構目立ったはずだ。それは、リク達一行の旅の危険を増す事につながる。そんなリクの杞憂を察したかのように、フィーナは否定するように、小さく手を振った。

「あっ、炎の竜は時々外に出て、食事を取ることは知られていますから、誰かに見られても、怪しむ者はいないと思います……」

「そう……でも、お母さんとお父さんの所に戻った方がよかったんじゃネーの? それに、そこへ戻る手段を投げ出してまで追って来た、どうしても気になることって何?」

 リクには、フィーナが何か言いにくそうにしているのが感じられた。ちょっとキツイ言い方だったのかと、リクはちょっと優しく話し掛けてみた。

「フィーナ。俺ら仲間じゃん。何でも話してよ、ね? どんな事でも、ちゃんと聞くからさ」

 リクは、フィーナに近付き腕を取って、自分の横に座らせようと引き寄せた。そのリクの手を、フィーナは思いっ切り跳ね除けた。

「いやっ!!」

 リクは、思いも寄らないフィーナの行動に驚いたものの、いきなり女の子の手を引っ張ったのが悪かったのかと、謝るつもりでフィーナに近付いた。

「フィーナ?」

「えっあっもッ申し訳ありません。リク様は何も悪くないのです。ただ、リク様の心に入り込んだ悪魔の残像が怖くて……」

「俺の心に入り込んだ悪魔の残像??」

 リクは、フィーナの言った意味を理解するのに少し時間が掛かった。

「まさか、さっき瞼の裏に見えたのは、悪魔なのか……なぜ、なぜフィーナには解る。あれが悪魔だってなんで解んだよ!」

 リクは、悪魔と言う言葉に、恐怖を感じた。数日前に、闇の妖精とは違う悪魔の特性を聞いていた。人間の恐怖心を好物とする闇の妖精とは違い、悪魔はその肉体をも好物とするのだと言っていた、その事がリクの頭をよぎる。恐怖に身体を震わすリクを、フィーナの小さな身体が抱きしめた。

「リク様、大丈夫です。今はここに悪魔などいません。残像が、私に見えただけです。ヒルート様が残してくれた守りの力が、私に悪魔の存在を教えてくれた。リク様を守れと教えてくれたのです」

「フィーナ……」

 その小さな身体で自分を包み込もうと頑張っている姿は、リクに力を与えてくれた。

「フィーナ、ありがとう。ヒルートが残してくれた守りの力が、フィーナをきっと守ってくれる。いやっ今回は俺も守ってもらったかな。あのヒネクレ野郎に見られたら殺されるかもしんないけどな」

 フィーナは、そっとリクから離れた。

「私ったら失礼しました。それこそ、レイン姫に怒られてしまいます」

 フィーナは、真っ赤な顔をして、リクからすっと離れた。

「リク様、これからの旅には、私も同行させていただきます。悪魔が近付いてきた時に、一番早く気がつくのは私ですから」

 フィーナの緑色の瞳は、日の光に輝いて強い決意を見せていた。

 リクは、大きく頷いた。

「フィーナには、付いて来てもらう。それが、ヒルートの願いとは違うかもしれないけど、きっとヒルートが喜ぶから」

「……?」

「そうとなれば、皆のところに行って休んでおかないと、これからはほとんどを歩いて旅をするんだ。体力がもたないぞ。ほら、あっちに皆いるからさ」

「はい、ありがとうございます」

 フィーナは、急ぎ足で皆のいるところへ向かった。リクは、また一人になるとぼんやりと空を眺めていた。風に流される雲が、形を変えて悪魔に見えたりする。悪魔の事を思い出しては、怯えている自分に無性に腹が立った。

「俺になんの用がある、俺の時読みの瞳は絶対に渡さない。お前なんかに負けない」

 リクは、瞬きをするのも拒むように、グッと一点を見つめていた。

 ガサッ

「リク? そこにいるの?」

 レインが茂みから現れた。

「レン、休んでないとダメじゃん。夕方には出発なんだから、これからは歩きも増えるし、休める時に休んでおかなきゃダメだってスカイや兄ちゃんも言ってただろ」

 レインはリクの横に来て、そっと寄り添うように座った。

「うん、ここで休むから大丈夫。私の休める場所はここ。リクの休める場所が私だといいのだけれど……」

 レインが何が言いたいのかよく分からず、リクは首を傾げてレインを見つめた。

「レン? どうしたの、元気ねーんじゃねーの?」

 リクは、自分の手をレインの額に当てた。

「熱? はねーな……」

 レインが、クスクスと笑った。

「リクったら、身体の調子は悪くないわ……さっき、フィーナに聞いたわ。恐ろしいものを見たんでしょう」

 リクの手が、ピクッと震えた。

「そして、フィーナはその恐ろしいものからリクを守る力を持っている。そう言ってたわ」

 レインが言い終わるか終わらないうちに、リクの腕がレインを抱え込んだ。

「レン……」

 レインは、リクの身体が小刻みに震えていることに気付いた。

「リク? だ、いじょうぶ……」

「レン……怖いんだよ……悪魔なんて、俺には……フィーナの守りの力だって、俺のじゃない、あれはヒルートが、ヒルートがフィーナを守るために与えた力だ。……俺は……レン……」

  レインには、リクの恐怖がハッキリと理解できた。リクの身体を通して、恐怖に震える心が伝わってくる。でも、リクの心を癒す力はレインには無かった。だから、レインは自分を抱きしめてくるリクの腕の下から、ぐっとリクを抱き返した。それしか、今の自分に出来る事はない、とレインは思った。

「大丈夫。リクを守るのは私。その役目をフィーナに譲るつもりはないわ。此処へきたのは、それをリクに伝えるため。あなたを守るのは私。守ってみせるから」

「レン……」

 リクは、レインの長い黒髪に顔を埋め、深く息を吸った。レインの髪の匂いは、甘くリクの鼻を刺激する。恐ろしかった悪魔の記憶が、少し薄れるような気がした。

「ホントだ。レンがいてくれたら、俺は大丈夫だって気がする……」

「気がするって、何だか失礼じゃない?」

「いいや、失礼じゃない。だって、レンがいてくれると俺、強くなれる。ヒルートがフィーナにあげたみたいな守りの力は俺にはあげられないかもしれないけど、こうして、近くにいて絶対に守ってみせる」

 リクは、もう一度レインの髪の匂いを思いっきり吸い込んだ。自分が守らなければならない者の匂いを、決して忘れないために、何度も吸い込んだ。

「ほら、力が湧いてきた。レン自身が俺のお守りだ」

 リクには見えていないが、レインの顔は真っ赤になっている。さきほどまでの、リクの心の中の恐怖が、薄らいでいるのも分かった。心の癒しの力など持っていない自分が、リクを安堵させられた事が、少し誇らしかった。

 リクの肩に顔を埋めているため、レインもリクの温もりと体臭が感じられる。ちょっと汗臭い男の子の匂いに、なぜかレインも気持ちが落ち着いてくるのが分かる。

「リク、大好き。ずっと傍にいて」

 リクは、その言葉を合図のように、レインを草の上に押し倒した。

「俺も、大好き」

 そっと、唇を合わせてから、レインの横に仰向けに寝そべった。

「ゴメン……眠い……安心したら、眠くなった。見張りしてなきゃなんねーのに…………」

「おやすみなさい。見張りは替わってあげる……」

 レインは、スースーと寝息を立て始めたリクの前髪を救い上げ、そっと撫で付ける。

「魔法なんか使ってゴメンナサイ。でも、眠ったほうがいい。最近よく寝てないでしょう」

 そう言うと、レインはリクの額にキスをした。

「悪魔が、大地の魔術師に何の用? 大地の城と関係があるのかしら……、知っていても、きっと教えてはくれないのよね……時の魔術師さん……」

 レインは、もう一度、今度はリクの唇にキスしてから、辺りに気を配る事に専念しようと、見張りの仕事を始めた。

















魔法でリクを眠らせてしまったレイン。

リクは安眠できるのでしょうか?

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