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雨のリズム  作者: 海来
40/94

[40] 己が見

ローショとブルーリーとリクの三人しか出てきません。って竜って(何人)って言わないですよね……

 青いウロコが、陽の光に輝いてキラキラしている様子は、なぜか心を癒してくれるような気がしたが、寝不足のリクには、癒しが眠気を誘っているようで、うつらうつらと現実と夢の中を行き来しているように、意識がハッキリしない。

 とうとう眠気に負けて、ブルーリーの腹に身体を預けて眠ってしまった。

 そんなリクを、ブルーリがいつになく優しい眼で見つめている。

 境の森の前に作られたドームから少し離れた、大きな岩のある場所に、ブルーリーはリクを乗せて飛んできていた。

 ローショが、後からやってくることになっている。

 他の仲間は、夜の旅立ちの前にドームで仮眠をとっているが、その前にどうしてもリクと二人だけで話しがしたいと、ローショがこの場所を指定したのだ。

 ローショ自身は、これからの道程などをきめる為に、スカイとキートアルとヒルートと共に、話をしてからやってくる事になっている。

 ブルーリーが、溜め息とともに小さな炎をポッと吐き出した。

『……かわいそうに…。偉そうな事ばかり言っているが、まだ母親が恋しい歳だろうに、救世主とはな。背負った荷が重すぎねばいいがな…』

 カサッと音がして、ローショが岩の前の草地に降り立った。

「ブルーリー、申し訳ない。あなたも眠たいだろうが、少しの間、私に時間をくれないか」

 ブルーリーは、少し頭を下げるようにした。

『もったいない、ミーシャ様の願いとあらば、私は喜んで承ります。いつでも、お使いください』

 優しく微笑んだローショは、ブルーリーの顔の前にしゃがんだ。

「ブルーリー、私はミーシャであってミーシャではない。今まで通りに竜を恐れる世話係とは思えなくても、竜族の姫としてではなく、友人にして欲しい。ローショとだけ呼んでくれないか」

 ブルーリーは困ったように首をよじったが、眼を瞑り一言だけ言った。

『では、ローショ様と……友人になりましょう』

「ああ、ありがとう。では、友人からの頼みだ。リクが起きたら、少し話をしようと思う。リク自身の事については、あなたの胸にしまっておいて欲しい。もう一つの話は、炎の竜についてだ。これには、私の母から譲り受けた知恵を借りたい。どうだ…」

 ブルーリーが、ゆっくりとローショの眼を見つめ返した。

『一つ目は、お約束しましょう。ですが、二つ目は何の事をおっしゃっているのか分かりませぬ』

 ローショは、優しくブルーリーの眉間を撫で上げた。

「ブルーリー、洞窟であなたが母から何かを譲り受けた事は、私には分かっている。あなたの中に、母の魔法の波動を感じるのだから。それについては、きっと母から口止めをされているのだろう。それを明かせとは言っていない。一緒に授かったであろう知恵を借りたいと言っているんだ。頼む」

 その時、リクがビクッと動いた。

 もごもごと口を動かすが、声は発しないまま唇を震わせ、眉間にしわを寄せて苦しそうに顔を歪めた。

 その様子をジッと見つめていたブルーリーが、ローショを見た。

『これは、もしや[己が見]……この様に苦しんでいるという事は、かなり見たくないものを見ているのでしょう』

「ああ、自分自身に対する予言は、起こって欲しくない出来事の場合、かなり苦しむと聞いている。普通[時読み]の力を持って生まれた者ならば、[己が見]と言うのは心の成長とともに、緩やかに現れると父が言っていたが、リク殿の場合は持って生まれた力ではない分、急激に現れたのかもしれない。どうしてやれば良いのだろう」

 ブルーリーは、苦しそうに身体を小刻みに震わすリクを、自らの長い首で包み込むように抱いた。

『自らが、予言を受け入れるだけの心の力が必要です。受け入れ切れなければ、壊れてしまう。受け入れて、なおかつ予言に流されない強い意志が、この子にあると良いのだが』

 ローショは、何も言わず、ただリクを見つめ続けた。

 ローショとブルーリーの見守る中、リクが大きく首を振り、いきなり眼を大きく見開いた。

 リクは、自分を見つめるローショと、目の前にあるブルーリーの顔を交互に見て、とっさに照れ隠しの様な表情を浮かべた。

「何? 俺の寝顔ってそんな可愛いか。あんま見つめんなよ。男と竜に見つめられても、あんま嬉しくねーし」

 頭を掻きながら、リクはわざとらしくアハハハと笑って見せた。

 ブルーリーが、いつもの冷めた目つきでリクを見た。

『強がる事はない。苦しいのだろう。子供は子供らしく泣けばよいものを、自らの予言を見るのは辛かろう』

 ブルーリーの言葉に、リクの身体がクッと硬くなった。

「何の事だよ。俺は予言なんて見てねーし、子供でもねんだよ」

 ローショが、ブルーリーの頭をよけて、リクの直ぐ横にやってきて抱きしめた。

「リク殿。私もブルーリーも、あなたが見ているのが自分自身に対する予言だと知っている。我慢などしなくてもいい。苦しければ、苦しいと言えばいい。今にも泣きそうな顔で笑わなくてもいい」

 ローショの腕の中で、リクは苦しさを閉じ込めた箱の蓋が開いていく様な気がした。

 ホッとする様な感覚に、自然としゃくりあげてしまっていた。

 強く逞しいローショの腕の中は、何だかお父さんの様だとリクは思った。

 悲しい時は母に、困った時は兄に、辛い時は父にと、リクはいつも誰かに頼ってきたし、皆に愛されて甘えて育ってきた甘えん坊なのは間違いない。

 救世主になったから、時の預言者になったからと言って、それが直ぐに変わるわけでもないのに、次々と降りかかる災難や決断の時を、リクはやっとの思いでやり過ごしていた。

 そう言えば、自宅の玄関先からこの世界にやって来てから、幼い頃から頼りにしていたタカでさえ、リクが自分の予言を見てしまってからは、心の底から頼ってはいけない様な気がして落ち着かなかった。

 それが今ローショに抱きしめられて、心の中の色々なものが、駄々をこねるように湧き上がってくる。

「こわっ怖いんだ…ひっくっ分かってる、予言がヒックっ本当に起こるんだって分かってるから…ウック……怖いんだよ」

 ローショは優しくリクの背を撫で続ける。

「いいえ、あなたは予言の一部を見るだけ。そうだろう? 一部分だけを見て、全てを決めてしまってはいけない。特に自分自身の予言を見る予知夢「己が見」では、全ては見えてこないだろう。違うか?」

「ヒックっうん…バラバラにしか見えない。でも、しっかり見えるんだ」

 ブルーリーが、リクの顔の近くに、自分の顔を寄せてゆっくりと話した。

『愚か者、バラバラにしか見えんのなら、全て分かった気になって苦しむ事はなかろうが。予言は予言。[時読み]の予言も、バラバラにしか見えなければ、他の予言と同じ事。どう転ぶかなど、決まっておらんわ。予言に流されるな。恐れてはいけないのだよ、ハナタレ小僧の甘ったれが!』

 リクのしゃくりあげがピタッと止まった。

「このクソババア。ハナタレ小僧なんて言い方すんな! 決まってねーんなら、予言なんて、くそ喰らえだっつーの…ひっく…クソッうっく」

 ローショの腕から逃れて、ブルーリーの鼻先に自分の鼻をくっつけて、リクはブルーリーとにらみ合った。

「ブルーリーばーさん。あんたってさ、人が苦しんでッ時にいやみなんか言って楽しいか。あんまひねくれてっと、誰も相手にしてくんなくなるぞ。年寄りは可愛らしくってな」

 ブルーリーは、鼻からフンッと煙を吐いた。

「憎まれ口はお互い様だろうが。子供も可愛らしくせんと嫌われるぞ、ハナタレ」

 リクが自分の鼻を服の袖で拭いた。

「鼻水出てんのか?」

『泉の如く出ておるわ』

 リクはいきなりブルーリーの鼻先に自分の鼻をゴシゴシと擦り付け、そのままブルーリーの大きな頭を抱えるように腕をまわした。

「元気がでた。ありがとうブルーリーばーさん」

『汚い事を!! その鼻、噛み切ってやろうか。ハナタレ小僧め。まァ予言を受け入れ、流されん事だ。忘れるな。それを忘れて溺れて死ぬなら、屍はひろっておやつに食ってやろう』

「はんっババアのおやつには、俺の骨は硬すぎるって、無理すんな」

 リクとブルーリーの掛け合いを、笑いながらローショは見ていた。

 リクの心の波動が元気に回復しつつあるのを感じる。

(竜の子を何頭も育て上げたブルーリーは、人間の子もあやし上手なのか。いや、この少年が、竜に近い強さを持っているのかもしれない。普通、人間の少年がこんなに早く、立ち直るとは考えにくい。竜は人間の様に、いつまでも悩みを引きずったり、それに振り回される事もない。リク殿も、いつでも立ち直りは早いし、切り替えも早い。私などよりも、ずっと竜の心に近いかもしれん)

 ローショは、ここ数日のリクを思い出していた。リクが壊れてしまわないかと気に掛けていた事が、可笑しかった。自分が何も言わなくとも、この少年は[己が見]を受け入れられたかもしれないと思う。

 だが、ブルーリーと共に、リクをこれからも見守らなくてはならないとも思った。色々な力を、ここ数日で手に入れたリクは、何も解らず、どうすれば良いのかなど知らずに力を使っている。

 本能で力を使える事自体が不思議な事で、リクの天真爛漫さと、優しさ強さといった様々な持って生まれた要素が可能にしている事なのだろうが、まだまだ不安が残るのも確かだった。

 ローショが、物思いに耽っていると、素早くブルーリーの背に這い上がったリクが、手招きして呼んでいる。

「早く、木のドームに帰って寝ようぜ。今なら、何かゆっくり眠れそうな気がすんだ。早く!」

 ローショは慌ててブルーリーの背に這い上がる。

「リク殿。聞きたい事がまだある」

「なに? 予言の中身は教えないよ」

 ローショは、ブルーリーに飛び立つのを待てと合図を送った。

「いえ、その事ではなくて、炎の竜の卵のことだ。本来の時読みの様に、全てを見たのか? 人間の女が、卵を産み落とすところを、と言う事だが」

 ローショの質問に、リクはしばらく黙ったまま考え込んでいた。ローショが、痺れを切らしたように眉間にしわを寄せた。

「リク殿? どうなんだ、大切な事だ。教えてくれないか」

 リクは、やっと口を開いた。

「見たよ。卵を産むトコ。それは間違いないんだ……ローショさんは竜から生まれたんだよな。だから、今回の予言とは反対って事になる……ねェブルーリー、人間が竜の卵を生むって事、このソラルディアでもあった?」

 ブルーリーが、ローショを見つめた。

『ローショ様が生まれた時も、生まれる前も、竜が人間を生む事もなかった。ローショ様の母上ルビーアイ様は、人型のままローショ様を産み落とされた。竜型で生んだのなら、姿は竜であったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。ルビーアイ様は、トワィシィ様の気持ちをおもんばかって、子供を人型に生むことを望まれた。だが、望んだからそうなったのかは、ルビーアイ様ご自身にも分からん事だ』

 ローショが呆然とブルーリーを見つめた。

「母は、私を人型に生みたかったと、父がそう望んだと言うのか……」

『いえ、父上がそう望まれていると、母上が考えられたと言う事です。実は、父上はそんな事を少しも思ってはいらっしゃらなかった。結局、お二人ともに、どんな姿であろうと、あなた様を愛されたと言うことではありませんか?』

 ローショは、フッと笑った。

「そうか。私は愛されていたか……どんな姿であっても。そうか、ありがとうブルーリー。だが、私は竜に生まれたかった。誇り高き竜にな」

 ブルーリーがローショを見つめる眼が、ほんの少し笑ったような気がした。ローショもほんの少し笑いながら言った。

「可笑しいか?」

 ブルーリーは、首を振る。

『いいえ。嬉しいのですよ』

 リクがローショの胸をコツンと叩いた。

「ローショさんは、そのまんまでカッコいいじゃん。でも、これじゃあ、何にも分かんねーよなァ。もっと知りたい事があんのになァ」

 コクンと頷くと、ローショはリクを真っ直ぐに見つめた。

「リク殿? 何か他にも見たのだろう。あなたが気にするところを見ると、何かありそうな気がしてならない」

 リクは、ローショから眼を逸らすと、真っ直ぐに空を見上げた。

「うん見たよ。でも、言わない。きっと言わない方がいいんだ。いやっ言っちゃいけないんだと思う。さあ、行こう。眠くてしかたねーからさ」

 ローショは、ブルーリーに飛び立つ為の合図を送った。

「私も、ブルーリーに乗せてもらって帰るとしよう。リク殿、どうして言ってはいけないと思ったんだ」

 リクが答えるのを待たずに、ブルーリーが、尻尾をブンッと回すと、勢いよく走り出し、一気に空に舞い上がった。

 強い向かい風を避ける様に、リクは自分の後ろに座っているローショの方を向いた。

「予言は、聞かない方がいい事もあるって分かったからさ。特にその予言の中に出てくる連中と行動を共にするなら、言わない方がいいって事。ローショさんも、ブルーリーも、ついうっかり言っちゃったって事あるかもしんねージャン」

「それは、私達にも関わりがあると言う事なのか!!」

 ローショは、声を張り上げて叫んだが、リクは聞こえなったと言う様に、ニッコリと笑っただけだった。ローショは仕方なく、聞くのを諦めた。

(聞いても答えないと言う事か。父上も言っていた、予言は預言者の腹の中に溜めておかねばならん事が殆どだと。リク殿あなたは、短い間に色々と学び、成長するのだな。もう[時の預言者]の顔になっている)

 木のドームが見えてきた。竜の背に乗った空の旅は、あっという間に終わりを告げた。








リクが見た、炎の竜の卵に関する予言には、どんな謎があるんでしょうか?

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