[34] 友人になる事
ローショの真実は何なのか。ローショが竜を恐れる理由はなんなのだろう。
静まり返った洞窟の中で、ローショはルビーアイに背中を見せた。
ローショの立っている位置からだと、他の者達にも、その背中ははっきりと見える。その背中には、ちょうど肩甲骨の辺りと、背骨に沿って上下に、金色に輝くウロコにびっしりと覆われていた。それは、まるで金竜が羽を広げているように見える。
トワィシィが、砂になりながら落ちて無くなっていく手を伸ばして今にも歩き出しそうになっている。
「ルビーだ……ルビーが飛んでいる……」
自分が歩き出しそうになっている事に気付いて、トワィシィはハッとして動きを止める。自分の手が少しずつ無くなって出来ていく、小さな砂の山に目を移しジッと見つめた後、もう一度ローショの背中を見た。
「この者の背中の金竜は、ルビーに瓜二つ。何故この者の背中にルビーがいるのか……大地の魔術師よ、過去の砂を使ってはみぬか。この者の過去を追え。さあ、この砂を手にとるのだ」
リクは、トワィシィの真剣な眼差しに射抜かれ、思わずトワィシィの手首まで無くなりかけた手の下に、自分の手を出して砂を受け取った。リクの片手に、小さな[過去の砂]の山が出来ていく。
トワィシィがゆっくりと頷いた。
「もう良いだろう。大地の魔術師リク。過去を見てまいれ」
リクは、手の上の砂を、こぼさない様に恐る恐る身体を動かし、少し広い場所へと移動する。
無言のまま、目を閉じる。
(俺に、強い魔力があるのなら、東西南北を教えて欲しい。ここじゃ何にもわからねェ……教えてくれ、俺の魔法の力。東西南北、東西南北……)
リクは目を開けて、もう片方の手で四方に砂を撒いていく。
作業を終えると、時計回りとは反対に指を回し始めた。
(時の進む方と反対ってことはァ……太陽の進む方と反対ってことか? ソラルディアも、リアルディアと同じでいいのかな? くそっそんなん分かるかよ! でも、これしか思いつかねェ、ローショの過去を見るんだ。ローショの過去、ローショの過去だ!!)
リクの指は回り続ける。
何を見ているのか、何も見ていないのか、他の者達には全く分からない。
ただ黙ってみている事しか出来ない。
その中で、ローショだけが身体を硬くしたまま、後ろを向いていた。
リクの閉じた瞼の裏に、砂がサラサラと流れ落ちていく。
砂の向こうに何かが見えてきた。
女性の叫び声が耳に響き、何事かと砂の向こうに目を凝らす。
小さな部屋の中にあるベットの上で、女性が苦しんでいる姿が見え、女性の手はベットの木枠を力の限り握っているのか、服からのぞいている体は赤く熱を帯びているようなのに、握った手だけは白くなっていた。
女性の口は、絶えず苦しそうな喘ぎ声と叫び声をあげている。その女性の足の間には、別の女性が屈みこんで何か作業をしているように見える。屈みこんでいた女性の肩の力が少し抜けたように思えたとき、ベットに横たわる女性が大きく息を吐き出したのを見て、もう一人の女性が何かを持ち上げた。
「ホンギャーおぎゃうぎゃ!……フンギャー」
(赤ん坊だ。うっせーなァって、まさかローショさん?)
部屋の扉を開けて、男が一人入ってきた。
「どっちだ? 男か女か? ライラは無事か」
赤ん坊を横においてあった布にくるむと、赤ん坊を取り上げた女性はニッコリ笑った。
「男の子ですよ。旦那さんによく似ておいでだわ。奥さんも元気ですわな。こんな旅先で出産なんざ、不安だっただろうに、よく頑張んなすった。でもね旦那、奥さんも坊ちゃんも、まだ用事が残ってるんですわ。さあ、男は外で待ってなさいな」
父親を外に出すと、産婆らしい初老の女性は赤ん坊をベット脇のたらいに張ってあるお湯で優しく洗い出した。
母親は、相当にくたびれているらしく、目を閉じて身動きもしないでいる。
産婆の肩が大きく揺れて、震えだした。
「あ、あ、あ、こんな事が……この子は竜神か……」
母親が目を開けて、産婆と赤ん坊の方へ、怪訝そうに目を向ける。
「何? どうしっ……}
母親が、手で口を覆った。
産婆の手の中にいる赤ん坊の背中が見えた。
やっと昇り始めた朝日を受けて、金の竜がキラキラと輝きながら飛んでいる。
そこまでで、テレビのチャンネルが変わるように、場面がうつる。
同じ様に、知らない女性が出産する場面。
生まれた赤ん坊の背中には、金のウロコの竜が飛んでいる。
何度も何度も、同じ様な場面が繰り返される。
今度の場面には、知った顔が見える。
トワィシィが金竜に乗って、谷間にある長細い塔から飛び立った。
(ルビーアイかな? 月の光でキラキラしてる綺麗だなァ)
トワィシィとルビーアイは、揃って塔の方を振り返った。
『トワィシィ、あの子の事が気になる。大人になったとは言え、竜と人間の間に生まれたあの子を、一人にするのは心配じゃ』
トワィシィは眉間にしわを寄せている。
「可哀相だと思うのは、私も同じ。だがな、我らが眠りにつかねばならぬ時は近付いておる、行かねばなるまい。ミーシャを約束の場所には連れて行けぬ。ミーシャは強い、心配要らぬ。さあ参ろう」
『そう、あの子は強い。強く育てた。心配は要らぬな』
二人の瞳に涙が浮かぶが、ルビーアイが身を翻した瞬間にそれは飛び散った。
塔の中の一室で、若い娘が机の上に置かれた手紙を、食い入るように見つめている。娘の瞳は、瞬きも忘れたかのように見開かれ、止まることなく涙があふれてくる。一心に見つめていた手紙を優しく持ち上げ、自分の胸に寄せると、壊れ物ででもあるようにそっと抱きしめた。
身体がフルフルと震え、やっとの思いで閉じた瞼にギュッと力が入る。
娘の着ている薄いドレスのような服の背中が、いきなり裂けたかと思うと、人間の姿の時のシルバースノーの様な翼が開いた。
色は金色で、やはりコウモリの羽に似ている。裂けてしまったドレスが、するりと床に落ちると、娘の身体が首から上以外は金のウロコで覆われているのが分かる。
娘は、自分の背中に現れた翼をそっと掴むと、自分でも見える位置に翼の先を持ってきた。
翼を見つめる瞳は、ルビーアイと同じ赤色だった。
「母上の翼。私にも竜の翼があった。これは神様のおくりものですか?」
他に誰もいない部屋の中は静まり返ったままだ。
娘は、意を決したように窓辺により、夜空を見つめる。
「もう遠いところまで行かれてしまわれましたか父上。でも、聞こえていると信じています。だから、誓います。私は、ミーシャは、父上の願いどおり子孫を作り、父上の使命を果す手助けをするよう伝えて参ります。ですが……誰も私をめとる者が現れず、もし子孫を残す事が叶わぬ時は、私自身が何度でも転生いたしましょう。必ず、父上と母上の目覚めの時には参上いたします。必ず」
燃えるような、ミーシャの赤い瞳が、リクの見た最後の映像だった。
リクがゆっくりと瞳を開いた。
今、自分が見たものを、他の者達に聞かせている間、過去を見ていたときと同じ様に、ずっと瞳を閉じたままのリクだったのだ。
「ローショさん。聞いてくれた? ローショさんの過去を見てたら、ミーシャに行き当たった。ローショさんは、ミーシャの生まれ変わりなんだ……」
後ろを向いたままのローショの肩が震える。震えていると思ったら、ローショは全身に力を入れて、咆哮を上げた。
皆がギョッとする様な声は、洞窟全体を揺るがし、聞く者に恐怖を与えるのに十分過ぎる威力があった。それは、人間のだせるものではなく、竜の咆哮そのものだった。
咆哮が止むと、ローショの背中の肩甲骨辺りから、金の翼がバサッと開いた。皆が息を呑む中、ローショが振り返ったが、その瞳はグレイがかった青ではなく、ルビーアイのような赤だった。
ローショは、ゆっくりとトワィシィの前までやってくると、片膝をついて頭を下げた。
「父上。無事のご帰還お慶び申し上げます。私は子孫を残せとの父上の願いを叶える事は出来ませんでしたが、長い年月転生を繰り返し、父上のご帰還をお待ちしておりました」
俯いたままのローショの肩は小刻みに震えている。トワィシィは、ローショに触れようと伸ばした手が、肘のところまで無くなっているのに気付いた。
トワィシィの身体が砂に変わる速度は、だんだん増していくようだ。自分の手を見つめ、戸惑っているトワィシィの横から、ぬっとブルーリーの顔が現れ、長い首にローショを抱き取った。
『ミーシャ愛しい子。竜と人間の間に生まれたばかりに、私達が去った後、苦しい道を歩んだのではないか? それでも生まれ変わりを繰り返し、こうして私達の元へきてくれた……ミーシャ、母を抱きしめておくれ』
ローショの腕が、やさしくブルーリーの首を抱きしめる。
まるで、ブルーリーの中に居るルビーアイを、その手に感じているように頬を摺り寄せ、幸せそうな顔をしている。
「母上……お会いしたかった」
いつまでも、この時が続けば良いのにと誰もが思っていた。トワィシィが流れるままになっている涙を、振り払うように首を振った。
「ルビー、ミーシャすまぬな。時は来たのだ、今一度別れねばならん。ルビー私の中にお入り。共に行こう」
そう言ったトワィシィの腕は既に無く、肩も無くなってしまうのにさほど時間は掛からない様に見えた。
「父上。後の事はご心配くださいますな。私の使命を果す事が、父上と母上の使命を終わらせる事だと肝に銘じております」
瞳の色が深い藍色に戻っているブルーリーは、ローショを既に放していた。トワィシィの口を借りたルビーアイが、我が子にやさしく話しかける。
『お前は、何度生まれ変わっても堅苦しい子供じゃな。この様な時ぐらい母に接するように、父上にも接すれば良いものを、気丈なこと……じゃが、これからはその気丈さが必要になろう。決して諦めず使命をまっとうするのじゃ』
「はい……母上。神がお二人に幸福なる時と場所をお与えくださるでしょう。さらばです」
ローショが別れを告げると、トワィシィの身体が一気に崩れ始めた。ローショは思わずトワィシィの身体を支えるように手を出したが、それはむなしい事で、指の間を大量の砂が落ちていくだけだった。
「父上……」
あまりにあっけ無い短い再会と別れに、呆然と自分の手をすり落ちていく砂を、ただ見つめたままのローショの肩に、リクがそっと触れる。
「ローショさん、いやエッとミーシャさんの方がいいのかな? お父さんの残してくれた[過去の砂]を集めるのを手伝ってほしいんだけど、いい?」
ローショが、ハッと顔をあげる。
「リク殿。あなたの手も心も、とてもやさしいのだな。リク殿の癒しの魔法は、とても心地良い……癒して貰っているついでのようで申し訳ないが、リク殿に一つだけ頼みがある。どうか父の砂を大切に使って欲しい……約束してくれるか」
リクは、満面の笑みを作ると頷いた。
「勿論あったりまえジャン! この砂はミーシャさんのお父さんなんだから」
しばらく見つめ合ってから、二人は[過去の砂]を集め始めた。
誰も二人に声を掛けることなく、黙って見守っている。
そろそろ、砂がなくなりかけた頃、トワィシィに渡された袋は、砂を入れても入れても一杯にはならない事にリクは気付いた。間違いなく、砂は袋に入っていくのに、入れる前と同じ小さな何も入っていないような袋にしか見えなかった。
リクは、首を傾げて中を覗いた。
「不思議な袋だなァ。魔法の袋っつーとこかなァ。魔法って不思議だし便利だ。この袋みたいに一杯にならない魔法とか、トワィシィみたいに若いままでいることも出来んだろ? だって、[過去の砂]使って見たミーシャさんは、俺より年上に見えた。トワィシィはそん位の子供がいる年には見えないっしょ」
最後に残ったものを手に取り、ローショがニコリと笑う。
「確かに、この袋は魔法が織り込まれた袋だ。リアルディアから来たリク殿とタカ殿には不思議だろう。これは旅に行く時などには重宝する魔法の道具の一つだ。だが、父上の若さは魔法ではない。竜のツガイとなった者は、竜の命を分け与えられる。父は、母の命をもらい普通の人間の数倍は長生きのはずなんだ」
「ウッソ〜じゃっじゃあ、スカイも長生きすんだ」
リクに名を呼ばれ、スカイがビックッと背筋を伸ばした。何故か黙ったままでいるスカイの赤く見える顔を、シルバースノーが覗き込んで、小さな声で囁きかけている。
スカイの顔は、より一層赤くなっていくようだった。スカイとシルバースノーから目をはなし、ローショがリクの手を掴んだ。
「リク殿……父の[時読みの瞳]だ。約束通り、父の残したものを受け継いで欲しい……」
リクはローショに握らされたものを、見る事が出来なかった。とても大切なものなのは分かっているし、トワィシィとの約束も忘れてはいないのだが、今から行わなければならない事を考えると、余計に見る事はできなかった。
怖いと心底思った。手の中のそれは、まだ温かいように感じられる。その事が、リクの恐怖を駆り立てていた。ローショの手が、やさしくリクの手を包み込むようにあてがわれた。
「リク殿、実際に見てしまったほうが、楽になるかもしれない。リク殿が思う様なおぞましい姿ではない。さあ、下を見て」
「簡単に言うな。まっまじコエーんだからさ」
そう言いながらも、リクは意を決して下を向いた。やはり、リクの好奇心はいずれは恐怖に打ち勝つらしい。
自分の手の上を見て、リクの目が丸くなった。
「きれェ〜……」
リクの手にのっているのは、虹色のピンポン玉ほどの大きさの丸いガラス玉に見えた。
「これなら出来そう……」
ローショがやさしい顔で頷いた。
「ありがとう、父も喜んでいるだろう」
虹色の[時読みの瞳]を、リクが目の高さまで持ってきた時には、仲間達はリクを囲むように円になっていた。不安そうな表情で皆が見守っている。リクの手がゆっくりと動き、玉を自分の瞼に押し付けた。
ブツブツと独り言を呟きながら、手は動かさず玉を固定している。
玉の大きさで、丸くなっていた手が平らになっても、リクは手をどかそうとはせず、何かを呟き続ける。
瞼を塞いでいた手に、涙なのだろう雫がたれてきた。
「トワィシィ、確かにもらった。[時読みの瞳]と[過去の砂]……ありがとう」
そう言うと、リクは手を外して瞳を開いた。
「ね? 俺の目って、もしかして虹色だったりする?」
皆の肩から力が抜けて、それと同時に溜め息が漏れる。タカは自分を見つめてくる、リクに言った。
「いいや。いつもと同じ、茶色だよ。残念でした」
「くっそー。みんな何かに入られたら目の色が変わるじゃん。なんで俺だけ変わんねーんだよ。トワィシィに文句言ってやる」
ローショが笑いながら首を振った。
「もう遅い。父はこの世ではない楽園に、母と共に行ってしまった。何を聞くことも、怒る事もできはしない」
少し淋しそうにローショは笑っている。ヒルートが、ローショの横にやってきた。
「ローショ……いやミーシャ殿と呼んだほうがよいのだろうか?」
「いえ、ミーシャは生まれ変わりを繰り返し、ローショとなったのです。どうぞローショと今まで通りにお呼び下さい」
ローショが頭を下げた。
「では、ローショ殿。私は魔術師トワィシィ殿に、本当の事を申し上げなかった事が心残りなのだが……もう遅いのだな。それに、多くの事を彼から学びたかった」
ローショが不思議そうに、奥歯に物の挟まったような言い方をするヒルートを見つめた。
「ヒルート様は、父に何をかくしておいでだったのですか」
ヒルートの瞳が、下を向く。
「トワィシィ殿は、私を緑の魔術師と呼ばれた。だが、私は魔術師ですらない。ただの魔法使いに過ぎん事は、あなたも知っているだろう」
ローショが、納得したと言う様な表情でヒルートを見た。
「その事ですか。ご心配には及びません。父と母とミーシャだった私が暮らしていた頃は、魔術師と魔法使いの境はほとんどと言って良いほど無かったのです。魔力の強い者は、自分の魔法の属性と同じ魔法の力を使う師匠に魔術を習う。学校などと言うものは存在しなかったのですよ。父からすれば、あなたも、タカ殿やリク殿も、スカイ様と同じ強い魔力を持ち、操る術を知っている立派な魔術師なのです。あなたは、父にとっても私達にとっても、立派な魔術師なのです」
ヒルートの瞳に涙が滲んできた。頃合を見計らった様に、リクが間に割り込んでくる。
「ヒルートさァ。あんまくだらねー事を悩まない方がいんじゃねーの? 魔術師だって魔法使いだって、ヒルートぐらいの力があれば関係ねーだろ。まッ俺にはわかんねんだけどさ」
リクの口が横に広がって、ニーッと笑った。
ヒルートもつられて笑う。
「そうか。何だかとても嬉しい話を聞いたようだ。リクありがとう。ローショ殿ありがとう」
ローショが、あわてて膝をついた。
「ヒルート様。私のような者を、その様にお呼びになってはいけません」
今度は、ヒルートも膝をついてローショの腕を握る。
「ローショ殿が言ったのではないか。強い魔力を持ち、それを操る術を知っている者は、立派な魔術師だと。ならば、前世の記憶が戻り魔力も戻ったのなら、私と同様の魔術師ではないか。ローショ殿から溢れんばかりの魔力を感じる。では、私と同等か私以上の立場だ」
ヒルートの眉が、片方だけ持ち上がり、いつもの皮肉な笑みを浮かべるが、その笑顔は何故か嬉しそうに見えた。
「ローショ殿の魔法が、私の持つ緑の魔法とは異なる事は分かる。だが、きっと多くの事をお父上から学ばれているのだろう? お父上から教えられた事を私にも教えて欲しい。これからは私の師匠になってくれると嬉しいのだが」
ローショが目を見開いた。
「ヒルート様は、とんでもない事をおっしゃる方だ。ですが、私はミーシャであった時、事故で死ぬまで180歳まで生きたのです。父から学んだ事以上の事を、ヒルート様にお教えすることは出来ます。ですが、師匠などには決してなれませんし、なりたくもございません。それでも、魔術を学ぶ友人としてなら……ヒルート様にお教えすることは出来るでしょう」
ヒルートは、ローショの腕を握っている手に力を入れた。
「ありがとう。これで私も魔術を学ぶ事ができる」
「はい、ヒルート様」
ヒルートが首を振った。
「いいや。ヒルートだ。私もお前を友人として、ローショと呼ぼう」
ローショがやわらかく微笑んだ。
「はい。ヒルート……これからよろしくお願いします」
二人の会話を少し離れたところから見ていたブルーリーが、鼻を鳴らした。
その瞳は、怒りを隠して冷たく光っている。
『私は、まだお前とは友達になってないんだがなァ? 何か挨拶はないのかい、妖精使い!』
ブルーリーの直接頭に話しかけてくる耳障りな声は、かなり冷たく聞こえた。
ヒルートが、ブルーリーに負けないほどに冷たい瞳で睨み返した。
やっと自分の身体を取り戻せたブルーリーは、ヒルートに仕返しをしようと言うのか?