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雨のリズム  作者: 海来
29/94

[29] 銀の髪の少女

 女神が水の宮殿へ帰ってから、かなりの時間がたったのに、リクは食事を与えられず、今にも死にそうな顔になっています。

 タカ、スカイ、ヒルートの三人は、真剣に今後の事を考えているようですが……


「あーもう疲れた。それに腹へり過ぎ。昼ご飯食べ損ねたから、もう死にそうだ」

 リクは、座っていた椅子の背に体重をかけ、背伸びしていた。女神が去ってから、数時間をかけて、これからの自分達の行動について議論し合っていたが、それでも答えはなかなか出て来なかった。

 反り返った事で、突き出している格好になるリクの腹を、タカが拳で殴った。

「痛っ。すきっ腹を殴るなよ兄ちゃん。口から胃が出る」

 事実、日は傾き外は夕日に赤く染まり始めていた。

 皆、空腹だったが、これからの事を話し合っていると時間が進むのはアッと言う間だったのだ。

 タカも、同じ様に腹が減っていたが、今は空腹感よりもこれからの事の方が心を占めていた。

「食う事しか頭にないのか、お前は」

 リクの文句を溜め息混じりに受け流しながら、タカはソラルディアの地図を一心に見ている。地図の上に、身を乗り出して指先を地図に走らせていたスカイが、リクを無視して話を始める。

「女神が言っていた。[大地の王の紋章]を元の姿に戻すという事が、[大地の城]の大広間にある岩を削って作られた台座に紋章を戻すと言う意味ならば、とりあえず大地の領域に入らねばならない。竜や飛風艇では目立ちすぎる。陸路を行くしかないだろうが……」

 スカイの気持ちを察するように、ヒルートが口を挟む。

「陸路を行くならば、竜は動きが取れない。だが、シルバースノーを置いては行きたくない。と言うことか」

 スカイが、少し顔を赤らめてヒルートを見た。

「竜を連れて行動する事に、無理があるのは分かっています。ですがっ」

 スカイの言葉を手を振って押さえ込んで、ヒルートは片方の口角をキュッと上げて微笑んだ。その顔は、皮肉屋の独特なものだったが、なぜか優しく見える。

「スカイ、全てを言わずとも分かっている。私も、フィーナを見知らぬ土地に置いていけと言われれば、承諾しないだろう。それが竜だとしても、君にとっては何も変わりはないのだろう」

 スカイは、小さく頷いた。

「しかし、私がここに留まる訳にもいかない。タカとリクは、ソラルディアの事は何も知らない。レインにしたって、城の中以外は魔術学校に数回行った事があるだけで、何も知りはしないのです。ローショを供につけたとして、やはり争いごとに巻き込まれた時は、彼が、剣の達人だとしても、相手の数が多ければ、切り抜けるのは難しいでしょう。それに……」

 ヒルートの顔が少し歪んだが、落ち着いた様子で話を継いだ。

「そして、この私が同行しても、この森の中以外に何も知らないと言いたいのだろう。だが、優しい君は、私の生い立ちを考えると、それは言えないだろう」

 スカイはグッと言葉を呑んだ。ヒルートの言ったことは、当たっていた、ヒルートは生まれて間もなくこの森に連れてこられてから、一度もこの森を出たことが無いと、彼の弟のキートアルから聞いたことがあった。プライドの高いヒルートに、遠まわしであっても、あなたは世間知らずだとは言いにくかったのは確かだった。

 スカイが返答に困っていると、広間の扉が開いて、それぞれに台車を押したフィーナとその両親が入ってきた。フィーナが、テーブルの上から地図をどかして、キレイに拭いた。

「さあ皆様、お食事の用意が出来ました。お腹がすたまままでは、いい案も浮かばないのではございませんか? ヒルート様に合わせていたら、食事抜きになってしまいますよ」

 フィーナの言葉に、リクが素早く反応する。

「いっただきまーす! …うぐっむぐ……うっまい。みんな喰わねーんなら、俺が全部食ってやる」

 テーブルの端で、分厚い古い本を読んでいたレインが、あわてて席に着いた。

「リク、行儀がわるいわ。ゆっくり食べて。ほら、喉につかえるわよ」

 既に喉に食べ物を詰まらせたらしいリクの背を、レインが叩いた。その姿を笑いを堪えて見ていたフィーナが、大きなバスケットをスカイに向かって差し出した。

「スカイ様、シルバースノーさんのところで召し上がるのでしょう。用意して参りました。どうぞお持ち下さい」

 笑顔で差し出すフィーナに、あっけに取られながらもスカイは、嬉しそうに微笑んだ。

「すまない。よく気がきくんだね……きっと良いお嫁さんになるよ」

 そう言ってヒルートをチラリと見た。

 フィーナの母に入れてもらったハーブティーを口に含んだまま、ヒルートが真っ赤な顔になった。ヒルートが、ハーブティーをやっと飲み込んで、文句を言おうにも、スカイの姿はもうそこには無かった。











 スカイは、シルバースノーが休んでいるはずの空き地にたどり着いていた。しかし、そこにはシルバースノーの姿は無く、夕食の入ったバスケット抱えて、スカイは辺りを見回した。

「スノー……何処に行ったんだ……」

 その時、スカイの耳に水の跳ねるような音が聞こえてきた。

 シルバースノーが水でも飲みに、川に行っているのだろうと予想をつけて、スカイは彼女を驚かそうと、足音をしのばせ、自分自身にシールドを張ってシルバースノーに気取られないようにそっと川に近付いていった。大きな木の陰に隠れて、シルバースノーの姿を探す。

 かなり大きなシルバースノーの体は、隠れるところなどなく、直ぐに見つかるはずなのだが、いっこうに見当たらない。

 予想が外れて、シルバースノーは食料を求めて飛び立った後で、水音は他の動物の立てたものだったのだろうかと肩をおとした瞬間。川の上流から泳いでくる何かを見つけて目を凝らした。どんどんスカイの隠れている方へ近付いてくるその影は、夕日を浴びて長い毛を金色とオレンジ色に揺らめかせていた。

 ゆっくりと岸に上がってきたそれは、抜けるような白い肌に銀色の髪を持った少女だった。少女といっても、スカイと同じくらいの歳だろう、女性らしい体の曲線と膨らみに、スカイは全身の血が沸き起こるのを感じた。見てはいけないと思った。女性の水浴びを盗み見るなど、許されることではないと自分の中の何かが攻め立てていた。

 だが、昼間に出会った女神と見紛うほどの容姿をした少女の美しさから、目を外すことが出来ないスカイだった。強張ったスカイの体が傾いだ。足元で、小枝が折れる小さな音がした。

 川から上がってきた姿を見た時に、張ってあったシールドはあっけなく解けてしまっていた。少女が顔をこちらに向け、金色の瞳が光ったのが、スカイにもはっきり見える。

「……スカイ? あなたの魔法の波動を感じるわ。隠れてないで出てきて、ほら私を見て」

 その声に、スカイはビクッと体を振るわせた。

「スノー? お前なのか……なぜ、その姿は……」

 シルバースノーの声で語りかけてきた少女は、スカイに走り寄ると、濡れた体のままスカイに抱きついた。しっかりとスカイの首に腕を回し、首筋に顔をピッタリとつけて優しく抱きしめてくる感触に、スカイは頭に血が上り、心臓がバクバクとなり始め、呼吸がしにくくなってきた。

 目の前がクラクラするし、肩で息をしているために体が大きく揺れた。

「スカイ? どうしたの気分が悪いの」

 スカイの異常さに、少女はスカイの顔を覗き込む。

「まァ、こんなに赤い顔をして熱でもあるのかしら」

 裸のままの少女は、スカイの額に手を当てる。

 あわててスカイが少女の手を握ってそれを拒んだ。

「スノー……なのか?」

 手を握られたまま、少女が微笑んだ。

「そうよ。驚いた? 私も頭では分かっていたのだけれど、この姿になった時は驚いたもの。でもね、この形のほうが、スカイを抱きしめやすいわ。とっても」

 シルバースノーは、スカイに握られた手をそのままに、片方の空いた手をもう一度スカイの首に巻きつけた。

 まだ壊れそうなほど鳴っている心臓の音を、彼女に聞かれていないか気にしながら、スカイが言った。

「スノー、その形と言えばいいのか……そうなった理由が聞きたい」

 シルバースノーは、スカイから少しだけ体を離し、上目遣いにスカイを見つめながら微笑んだ。

「スカイが、私を愛してくれたから。竜の姿のままの私を、心の底から女性として愛してくれたから。私は人間の形になることができたの。種族の違いを超えた愛だけが、私にこの姿を与えてくれる……」

 スカイはシルバースノーの人間の体を見つめる事は出来なかった。早鐘を打つようにドッドッドッドッとなる自分の心臓の音に気が変になりそうだった。確かに、人間の姿の彼女は、とても素晴らしかったし、心臓の音と呼吸困難のような状態が治まれば、ゆっくりと鑑賞したい芸術品のような価値さえ感じる。だが、スカイには聞いておきたい不安があった。

「スノー、お前はずっとこのままの姿なのか? 銀竜には、戻れないのか……」

 そう言ったスカイの表情が、少し硬くなって眉間にしわが寄ったのを、シルバースノーは見逃さなかった。

「まさかスカイ、あなた私のこの姿が気に入らないの? 竜のままだった方が良いとでも言うの!」

「……」

 スカイは返答に困っていた。自分の質問に、シルバースノーがこんなに声を荒げるとは思っていなかったのだ。

「スカイ! どっちなの人間の私? 竜の私どっちがいいの」

 シルバースノーは、スカイの胸をドンっと叩き、睨みあげた。

「スッスノー待ってくれ。どっちが良いとかでは無いんだ」

「じゃあ、何なの」

 スカイが人間の姿になったシルバースノーを、初めて自ら抱きしめた。

「私が愛したのは、シルバースノーお前自身だ。人間だとか竜だとかではなく、スノーなんだよ。でも、こうしてお前を抱きしめられる事も嬉しいが、竜のお前と空を翔ることも、私にとってはとても大切な事だった。お前も同じだと思っていた。だから、もうそれが叶わぬのなら私はっ」

 スカイが言い終わらぬうちに、シルバースノーの柔らかい唇が、スカイの口を塞いだ。スカイは、その柔らかく甘い感触に頭の中が真っ白になり、体に力が入らなくなってしまった。

 少しだけ唇を離して、シルバースノーが囁いた。

「スカイ……あなたは、人間の私と銀竜の私、どちらも手に入れた。私はいつでも竜に戻れるし、人間にもなれるわ安心して……そして、スカイは世界で唯一のソラルディアの王になる運命を授かり、古くからの慣わしに従って、[龍の思い人]となった」

「りゅうのおもいび……と」

 スカイが憧れたもの、竜と共に世界を回りソラルディアを守る竜の警備隊の指揮官の通り名を、シルバースノーから聞こうとは、スカイは思ってもいなかった。

「スカイ、勘違いしないでよ。竜の警備隊の指揮官ではないわ。竜を花嫁とすることの出来る人間のことを、昔はそう呼んでいたの。私たちは、もう忘れてしまうほど昔の慣わしによって結ばれた。今の人間は、警備隊の指揮官の事だと思っているでしょうけれどね。スカイ? あなたも、そうでしょう」

「そうなのか? 知らなかった。では、[竜の思い人]はソラルディアの王の事だったのか」

 シルバースノーが首を振った。

「そうではないわ。私は純粋種の銀竜よ。昔は[神の竜]とも呼ばれていた、水の領域の種族よ」

「だが、お前は空の領域の浮遊山で孵化する前にみつかったんだ。水の領域の種族のはずはない」

 シルバースノーはクスクス笑った。

「私は、あなたの為だけに生まれたの。あなたのものになる為に、あの浮遊山で待っていたのよ、卵のままで長い間ずっと。[神の竜]を花嫁に出来るチャンスを与えられたのは、あなただけ。スカイは見事勝ち取った。ソラルディアの王は、唯一あなたのみ。そして、私たちの子供達だけ……」

 そう言ってシルバースノーは、意味深な微笑をスカイに投げると、しっかりとしがみついた。

「唯一のソラルディアの王。私の使命は、古くからの慣わしの中にあると女神がおっしゃった。それは、この事だったのか」

「ええそうよ。そして、使命の為に竜と結ばれ様などと考えれば、真実の愛では有り得ない。私達は結ばれる事無く、私は人間の姿を与えられる事も無かった」

「そして、私の使命は果される事はなかった。使命を伝えねばならない者と言うのは、スノー、君だったのか」

「ええ」

 二人はきつく抱き合った。

 今まで、種族の違いがこうして抱き合う事を邪魔していたのを取り戻すように、体をピタリと寄せ合い、互いの温もりを感じあっていた。

 スカイは、いつもシルバースノーに包み込まれるように抱かれ眠っていた。だが、今こうして自分の腕の中にすっぽり納まる彼女の体は、はかなげで頼りない人間の少女のものだった。

 二度と手離したくない想いは、スカイの中でまた一段と強くなっていった。

「スカイ、愛してるわ。二度と置いていかないで」

「ああ、二度と離さない。何があっても」

 二人は、もう一度唇を重ねて、ゆっくりと幸せをを味わうようにお互いを確かめ合った。

 スカイが、唇を離し既に日が落ちて暗くなった空の星を見つめた。

「スノー、館に戻ろう。お前を改めて皆に紹介しないと」

 スカイは、これ以上この姿のシルバースノーと抱き合っていたら、頭がおかしくなりそうだった。とりあえず、今はこれより先の行為には進めないと思っていたし、今やめなければ、自分を抑えておく自信が無かった。

「さあ服を着て、その格好では皆には会えないだろう」

 スカイの言葉を聞いて、シルバースノーは首を傾げた。

「どうして? 私は服など着ないわ。スカイは竜が服を着ているのを見たことがあるの。ふざけた事いわないで」

 すんなりと伸びた白い手足を振ってシルバースノーが歩き出した。銀色のさらさらした髪が、それに付いて揺れ、まるで流れる川のような輝きを放った。その肢体と髪のあまりの美しさに、スカイはボーっとその場に立ち尽くしていた。

「スカイ、皆の所へ行かないの? それとも、口付けの続きをする?」

「えっ? イッイヤ直ぐ行く。だが、スノーやはり服は着た方がいい!」

 胸をドギマギ言わせながら、スカイは裸のシルバースノーに向かって走っていった。












 

  







 


 自分の使命を知り、花嫁となる銀竜シルバースノーと愛を確かめ合ったスカイですが、シルバースノーに服を着てもらうのにも苦労しそうです。

 どうやら、スカイも愛する女性に振り回される運命なのでしょうか? 

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