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雨のリズム  作者: 海来
28/94

[28] コインの表と裏

 それぞれの使命を果す為には、魔法の力が必要なはず。

タカとスカイはどうするのでしょうか?

 ヒルートの館の中で、一番大きな窓のある食堂として使用されている広間は、いつに無く大人数が入っているにもかかわらず、物音一つしなかった。

 皆が、女神の言った一言に言葉を失っていた。

『スカイが失った魔力を、タカに返してもらわなければ……』

 この部屋の中にいる全ての者が、スカイが魔法の力を失ってからの出来事を知っている。全てを知り尽くしてはいなくとも、スカイが失ったものがどれ程大きかったかは知っていた。

 タカが、聞き取りにくいほど小さな声で、呟くように言った。

「俺が、この力を持ったのは3年前ぐらいだ……スカイは、スカイは……いつ」

 女神がタカの言葉を遮った。

「そなた達が、確認しあわずとも、タカが持っている魔力は、スカイが持っていたものです。間違いはありません」

 女神がそう言ったのを聞いて、スカイがタカと絡み合った視線を逸らして俯いた。タカは、俯いているスカイをジッと見つめる。その顔は、自分自身の複雑な感情に揺れ動くように、表情をチラチラと変えている。

「俺の魔法の力は、スカイのものだった。俺がスカイから取り上げたのか? いや、ある日突然この力に気付いたんだ。俺が無理やり取ったんじゃない。でも、力に気付いたらもっと強い力が欲しいと思った。もっと、もっとって強く願った。だとすると、やっぱり俺が奪ったのか」

 タカとスカイの間にリクが割り込んだ。

「兄ちゃんが奪ったなんて、ありえねーし。そんな方法兄ちゃんシラネーだろ? ん? もしかして知ってた?」

 タカが、表情を硬くして怒ったように言った。

「知るわけ無いだろ」

「だろ。兄ちゃんが知るわけねージャン」

 クルリと女神の方に向くと、リクは女神を指さした。

「また、あんた達神様じゃねーのか? 何かやったんだ」

 女神が、リクを横目でチラリと見た。

「残念ですね、リク。私達ではありませんよ」

 リクが疑わしそうに言った。

「じゃあ誰なんだよ。そんな事できるやつ、あんた達以外にいんのかよ」

 女神は、視線を窓の外のシルバースノーにもどして答えた。

「スカイが生まれながらにして持っていた魔法の力は、元々タカとスカイの二人分だったのです。本当は、タカが二人分の魔力を持って生まれるはずだった。そして、スカイの準備が整った時、魔力は全てスカイに移行されるはずだった。昔のリアルディアでは、時として偉大な力を持つ者が生まれていたはずです。その者たちは、ある定めを持って生まれたソラルディアの人間の、対の存在だったのです。ある日突然、その者たちは魔力を失い、ある者は権力の座を追われ、ある者は殺されたのです。それも、全て古くから定められた慣わしの為」

 スカイが、顔を上げ女神を見た。

「では、なぜ私の時だけ、反対の事が起きたのですか」

 タカが女神が答えるよりも早く言葉を発した。

「世界の崩壊。果さなくてはならない俺達の使命。それが、古くから存在する慣わしさえも変えてしまう」

 女神が振り返った。

「その通り。スカイにもタカにも同じくらいの魔力が必要なのです。そして、それは未来永劫続かねばならない。二人には、それだけ重い使命が課せられているのです」

 ローショが震える声をあげた。

「ソラルディアの王の為に竜族を集める私の使命は……スカイ様の!」

「それ以上言ってはなりません!!」

 女神が、物凄い剣幕でローショを睨んだ。

 ローショはびくっと体を強張らせ、黙り込んでしまう、結構信心深いローショにとって、神を怒らせると言う事は、かなりの冒涜に値する行為なのだろう。

 大きな体は、ひとまわり小さくなったように見える。

 そんなローショをなだめるように、直ぐに温和な表情に戻った女神が、諭すように言った。

「それ以上言ってはなりません。そこから先は、スカイがある者を通じて知らねばならぬ事。良いですか、誰も口にしてはなりませんよ。とくにリク、心しておきなさい」

 リクは、自分の名前が呼ばれた事に驚いている様だった。

「俺? なんで、とくに俺ナ訳」

「そなたが一番、不安です。思ったことを直ぐに口に出すのですから、勝手に想像して口走らないとも限りません」

 女神は、小さく溜め息をついた。

 リクは、心外だとでも言うように口を尖らせた。

 タカが、女神に向かって聞いた。

「俺が、スカイに魔力を半分返したとして、二人の使命を果すのに十分なのですか?」

 女神がシルバースノーをみて頷いた。

「ええ十分です。そなた達二人には、大きな力添えがありますから。さぁタカ、スカイに魔法の力を注ぎ込みなさい。スカイそなたは、魔法の力を取り戻す事を強く念じるんのです。二人とも手を取って」

 タカが何のためらいも見せず、スカイの手を取って、右も左も同じ様に握り締めた。

 スカイはタカの瞳をしっかり見つめた。

「タカ、私に返してくれるのか。それで君は構わないのか?」

「初めから、スカイのものじゃないか。返すんじゃない、分かち合うんだ。俺達は一つなんだよ……きっと」

「ああ、元は一つだったのかもしれない。それでもやはり、感謝する。魔力は君にとって掛け替えの無いものになっているはずだから」

「ああ、そして君の掛け替えの無いものだったはずだから」

 二人の握り合った手から、周りの者達は、打ち寄せる波動を感じた。

 それは、部屋一杯に広がって、それぞれの肌や髪を細かく振るわせた。

 少しの間続いた波動は、波が引くように二人の握り合う手におさまっていった。

 誰も、何も言わない。皆が、息を呑んで見守っている中、スカイがクククッと笑った。直ぐにタカも同じ様にククッと笑った。

「戻ってきたか?」

 タカの問いに、スカイがにんまりして答えた。

「前と同じ位、強い魔力だが、全部返してくれたのでもなさそうだな。君の中に大きな魔力が感じ取れる」

「ああ半分だけだ。でも、俺にもさっきまでとほとんど変わらない魔力が残ってる。変な話だ」

「私とタカ、対の人間同士が直接受け渡ししたからなのか?」

 スカイもタカも、とても充実したような表情を見せている。

 女神が、握り合っている二人の手に、自分の手を重ねた。

「直接受け渡しをしたからと言うより、お互いが一つであった事に気付き、それをを受け入れた事で魔法の力が増幅したのでしょうね。対の人間は、生命の泉の中では、一つの命、例えるならコインの裏と表なのです。しかし、それに気付く者は無いに等しい。スカイもタカも、優れた洞察力と思考力を持っています。そなた達が使命を果すのを見るのが楽しみになりましたよ」

 女神の言葉を聞いていたリクが、首を傾げてタカとスカイを見つめている。

「対の人間がいないって事は、俺って上手く分裂できなかった出来損ないなわけ?」

 リクを振り返った女神の瞳は驚いたように大きく見開かれていた。

「リク、そなたは本当におかしな事を考えるのですね。そなたは、出来損ないなどではありません。世界を癒すほどの心の癒し手ならば、強力な魔力が必要です。二つの世界に分かれる事は出来なかったのです。それほどまでに、そなたの魔力は強いのですよ。スカイやタカ以上に強いのです」

 リクは、直ぐにフーミィを見た。

「でも、あんなにちっちゃいフーミィだって心の癒し手なんだろ? そんなに大した力じゃないと思うけどなァ」

「リク、そなた忘れていませんか? フーミィは生命の巫女の一部なのですよ。巫女は命を生み出すほどの魔力を持ち、その力は計り知れません。私達神にとても近いものです。フーミィの力は、いずれ巫女に匹敵するものになるでしょう。リクそなたの魔力も同じです」

「すんげェ〜じゃねーか俺」

 ニヤニヤ笑い出したリクの表情は、とても得意そうで、その顔のままタカとスカイを満足そうに見つめた。タカが呆れ顔になる。

「俺よりスゴイって言われたのが、そんなに自慢か」

 スカイがリクの横に立った。

「タカの弟なら、私の弟でもあるわけだ。、タカ、殴る事は許されるか? こいつに見下げられるのは、プライドが許さん」

「ああ、スカイの弟だ。好きにすればいい」

 バシッと、タカがいつもリクの頭を叩くのと同じ様に、スカイがリクの頭を叩いた。

 リクが頭を押さえて叫ぶ。

「こんな兄ちゃん二人もいらねー」

『うるさい』

 タカとスカイの声が重なった。

 女神が微笑みながら自分の額に指を当てる。

「私が成すべき事は終わったようです。そろそろ水の宮殿に帰るとしましょう。分かれの時です。皆、自分の使命をまっとうするのですよ」

 リクが叫んだ。

「待って! 最後に一つだけヒントちょーだい。ね?」

 自分が思う最高の笑顔を作って、リクは女神を見つめた。

 女神は額に指を当てたままの姿勢で、フッと笑ってから答えた。

「リクには敵いませんね。では、一つだけですよ。[大地の王の紋章]を有るべき姿に戻しなさい。全てはそこから始まります」

 そう言った後、たちまち女神の姿は銀色の光に包まれ、滲んでいく。部屋の中に、何とも言えないかぐわしい香りが漂っていて、残された者達の心を落ち着かせていった。まるで、母親に抱かれているような気分にさせるとリクは思った。(女神様って、すっげーキレイで、勿論人間じゃねーし、何でも知ってて、落ち着いてて。母さんに似てるとこなんかないのに……母さんみたいだ。この匂い、気持ちいいんじゃねーか?)リクは、知らぬ間に瞼を閉じて、自分を包み込む香りを大きく吸い込んでいた。

 女神が去った後、しばらくは誰も言葉を発せず、部屋は静かに時を刻んでいった。女神の残した香りは、これから果さなくてはならない使命を成功させる自信をくれるようだった。

 タカは、母親に背中を押されているように感じて、勇気が湧いてきた、まだまだ子供っぽい自分に、クスリと笑いがこみ上げる。

 その時、キュルルルルーと大きなシルバースノーの鳴き声が聞こえた。

 スカイが、勢いよく走り出した。

「スノーが、私の名前を呼んでいる。失礼するよ」

 スカイの顔は、喜びに輝いていた。

 レインが、リクの横でポツリと呟いた。

「古くからの慣わしって何なのかしら」

 リクは、何かをひらめいた様に二カッと笑った。

「もしかして、スカイってソラルディアの王様になるんじゃねーの? だって、兄ちゃんはッムグ」

 レインがリクの口を押さえた。

「それは言ってはいけないって女神様がおっしゃったわ。リクだめじゃない」

 リクは、レインの手の中で、モグモグと何か言っている。

 ヒルートは、スカイを待ちわびるシルバースノーを窓越しに見つめながら言った。

「色々調べた書物の中に、[竜の思い人]について細かく書かれていたものがある。その中に、古くからの言い伝えについて、少し触れている箇所があったと思うのだが……」

 フィーナが呆れたようにヒルートを見上げた。

「どうせ、全部読んでしまわれたのに、興味が湧かなかったから、忘れてしまわれたのでしょう」

 ヒルートが、片方の眉を上げたが、今までの様な嫌味な表情ではなく、何となく情けない顔になっている。

「ああ……」

 答えたヒルートの声はとても小さかった。そんなヒルートと、レインにお説教されているリクを見ながら、タカは一人思っていた。(まだまだ一人でいる方が、俺には合ってる。横からいちいち何か言われたんじゃ堪らない)

 そんな風に考えていると、いきなり首に重みを感じた。

 真っ黒で大きな瞳が、自分を見上げているのに気付く。

「ターカ、淋しいのか? 僕がいるから大丈夫だよ。ずーと一緒。タカとフーミィはずーと一緒」

 クルクルと瞳を回して笑っているフーミィが、タカの首からぶら下がっていた。















 リクにはレイン、ヒルートにはフィーナ、スカイにはシルバースノー。

「俺は一人の方がいい」

 そんなタカは、淋しいのでしょうか?

 フーミィは、タカが淋しいと思ったようですが……

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