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雨のリズム  作者: 海来
18/94

[18] 迷子のフーミィ

いつもは静かな森が、騒々しい一行に迷惑しています。

 ソラルディアは、空・大地・水の三つの領域から成り立っている。一つ一つが、かなり広い空間を持ち、空間は二つずつの城の領地に分かれ、領地は其々の城を中心に、数多くの町や村が集まって出来ている。

 ここは、空の領域と大地の領域の境界を過ぎて、緑の城の領地に入ったばかりの森の中。真夜中の森の中は静かな事が当たり前のように思うのだが、今夜のこの森は珍しい侵入者達によって、眠りを妨げられているようだ。

「んんごご〜ウンゴー※☆×★※※○☆んゴー」

 これは勿論、リクのいびき。

  パチッ  ボフッ

 これは、リクのいびきがうるさくて、寝られないタカが、リクの額を叩いて、その後自分の布カバンをリクの顔の上に置いた音。

「ゴロゴロゴロピュー」

 これは、最近年のせいか喉と鼻の調子が悪い青竜ブルーリーのいびき。これには誰も何もしない。下手な事をして起こしてしまったら恐ろしい事になりそうだ。

 こういった音の重なり合いが、森の生き物達を怯えさせているなどとは、当の本人達はいささかも思っていないようだ。この一行を偶然見つけた者がいたとしても、逃亡者などとは決して思わないだろう。

 レイン達は、日が沈み始めてから、全速力でこの地まで逃げてきた。それでも、ここまで辿り着くのに数時間を要していた。乗って来た飛風艇は小型の運搬用のため船室は無く乗っていても寒さはしのげない。夜の飛行は人間達から体温を奪っていった。その為、仕方なく今夜はここまでとこの森に着陸したのだ。最初の目的地まではまだ遠い。

 ここは、大地の領域の端に位置するせいで木々のまばらな箇所があって、着陸しやすい。それに加えて、姿を隠すのにうってつけの森がじきに始まっていて、空を行く逃亡者にはありがたい場所だった。

 太陽の日差しに焼かれる暑い季節を過ぎて雲の城の領地では嵐雲の通過する季節だが、緑の城の領地にとっても木々の緑が黄や紅に染まり始める頃である。ここでも夜は結構冷え込む。昼と夜の温度差はかなりあるだろう。相談の結果、リクとレインとタカがブルーリーの腹の横でローブを布団代わりに眠りにつき、ローショは最初の見張りを買って出て小さな火を熾し暖を取っている。

 結構、騒々しい一行の中で一組だけが静かに互いを確かめ合うように寄り添っている。

 星空を見上げながら、スカイはシルバースノーにもたれかかったまま彼女に話しかけている。

「スノー。お前といると落ち着くよ。私のいるべき場所はお前の傍なのだと思える。しかし、今お前の主人は弟のウインガーなのだ。本来なら、[空の城]へ送り返さねばならない」

 シルバースノーが、抗議するように鼻を鳴らした。

「怒らなくてもいい。私はもう二度とお前を手離すことなど出来そうに無い。離れている間、お前を思わぬ日は一日だって無かった。私は何も望まない。王位継承権も、城の財産も、家族さえも要らぬのだ。お前だけいればいい」

 シルバースノーの長い首がスカイの身体を包み込み優しく抱きしめる。スカイも彼女の首を抱きしめ返した。スカイは、この思いは何だろうと考える。以前シルバースノーに感じていた、人間が所有する動物に対して感じる愛情とも全く違っている。かと言って、シルバースノーが言っているとリクに聞かされた、結ばれる運命と言うのも少し解らない気がした。

(生まれる前から、結ばれる運命など誰が決めるんだ。人間と竜の間で、恋愛感情が生まれるなど信じられない。ならば、この高まる思いは何なんだ)

 スカイは以前とは違う思いで、確かにシルバースノーを愛していた。この世で唯一失いたくないもの。それがシルバースノーだった。もう二度と、今日のように彼女を完璧に失うかもしれない恐怖を味わいたくは無かった。自分は、シルバースノーがいなければ生きていられないだろうとスカイは思った。

「スノー、何故あんな無茶をした。[雲の城]をお前が攻撃したとなれば、父上は領域間の友好関係を維持する為に、お前を捕らえ処刑しなくてはならなくなる事ぐらい、お前なら考え付いただろうに」

「キュルルゥー」

 シルバースノーは小さく鳴いてスカイを見つめた。

「私のせいか……魔法を失っていた事を隠し、皆を欺いていた私など、もう何も望んではいけないと思った。それでも、別れを言えば失う辛さに我慢できそうに無かった。だから、黙ってお前を置いていった。お前に無茶をさせたのは、身勝手で弱い私なんだな。スノー……すまない」

 また、シルバースノーは鳴いた。今度は先程よりもかなり長い鳴き声だ。竜の言葉は、魔法を失ったスカイには鳴き声にしか聞こえない。

「スノー、心配するな。私はお前を誰にも捕らえさせはしない。何処までも一緒に逃げよう」

 スカイには、彼女が何を言っているのか解らなくても、彼女の気持ちは何故か伝わってくる。彼女が謝っているのだと言う事。そして、愛していると言っている事も伝わってくる。シルバースノーの抱擁が強くなった。だが、それは彼女のぬくもりを強めるだけで、決して苦しいものでは無くどこまでも優しくスカイを包み込んだ。スカイは、シルバースノーの心地よいぬくもりにそのまま自然と眠りについた。

 シルバースノーは、スカイの寝顔を優しく見つめる。そして、その視線はゆっくりとタカに向けられた。(スカイと話しをしなければならない。その為には、あの少年の持っているスカイの魔法の力を取り戻さなければ。でも、どうすれば良いの。無理やり取り戻す事は出来るのかしら。ブルーリーなら知っているかもしれない、明日にでも聞いてみよう)

 タカを睨んでいたシルバースノーの瞳は、もう一度スカイを優しく見つめる。そして、ゆっくりと閉じた。







 パチパチと小さく音を立ててはぜる焚き火にあたりながら、ローショは一人考えていた。今後の行動について、皆で食事をしながら話し合った事をもう一度頭の中で検討していた。皆が、其々に自分のこれからの旅の重要性を主張したために、ある程度の結論に達するまでにはかなりの時間がかかった。

 スカイとレインが幼い時から、立場上あまりでしゃばる事無く二人の喧嘩の仲裁をしてきたローショにとっても、今回の話し合いを進めるのはキビシイ仕事だった。スカイとレインの言い争いに、タカが加わり、リクが引っ掻き回すと言った具合で、まとまりかけては崩れるといった事を何度も繰り返した。

 まだ、若すぎる一行の中では20代に入っているローショは、自分がしっかり舵を取っていなければ、あり得ない方向へ皆で飛ばされそうだと思っていた。まずは夕飯をどうするかと言う問題に行き当たった時も、皆が揃ってローショを見つめたのだ。飛風艇の中には食料らしきものは、一切載っておらず、食料を調達する術もローショ以外に知っているものはいなかった。

 当然ローショが狩りをすることになり、獲物を調理するのも勿論ローショの仕事だった。スカイの侍従であるのだから、それ位のことは出来るしやって当たり前だ。ローショに不満があるわけではない。嵐雲の通過するこの時期は、飛風艇は飛行が危険な為、清掃して乾燥するのを待って格納庫にしまわれる。この飛風艇は最後に港に帰ってきたため、清掃後の自然乾燥が間に合わず魔術を使って乾燥させるのを待っていた数艇の中の一つだった。当然この飛風艇には、旅に必要とされるものは何一つのっていない。と言うことは、この一行には、旅仕度など何も無いと言うことになるのだ。今夜は、二羽の野ウサギを上手く仕留める事が出来た。と言っても、本当はたまたま巣穴で寝ていたのを見つけ捕まえただけなのだ。ローショ自体、野宿の旅など経験豊富と言うわけではない。むしろ、無いに等しい経験だった。

「ふ〜」

 ローショの口から、思わず溜め息がもれた。肩を落としたローショは、シルバースノーに寄り添って寝ているスカイと、竜の腹にもたれて、のんきに寝ている少年二人とレインに目をやってつぶやいた。

「どうして竜の腹で寝れるんだ」

 ソラルディアで生まれ育ったレインは、スカイが乗って来る竜を何度も見ているし乗った事も度々あったからそれ程不思議でもない。数年前には、赤ちゃんだったシルバースノーのウロコをむしり取ったぐらいだ。

 だが、異世界から来たこの兄弟は今日初めて竜の存在を目にしたはずだ。なのに何故、恐ろしく無いのだろう、やはり竜と話しができるからだろうか。自分も竜と話すことが出来れば恐ろしくは無くなるのだろうか。いいや、きっと無理だ。話が出来たらもっと恐ろしくなるかもしれない。等とローショは、色々な思いにふけりながら、眠っている青竜ブルーリーの顔の方に目をやった。すると、ブルーリーの鼻の穴に手をかざしている人影が目に入った。そんな事をしては危険だと叫ぼう思ったローショだったが、焚き火の向こうに見える影は、ハッキリとはしないが人間では無いようだ。少し近付いて見てみると、人間の幼い子供ぐらいの大きさではあるものの全身を毛で覆われており、先の尖った耳は異様に大きかった。どうしたものかと迷っていたその時、鼻の穴に触れられた不快感からか、ブルーリーがフンッと鼻から小さな火を噴いた。

「ギャッ」

 その生き物は慌てて手を引っ込めたが遅かった。手を焼かれたのだろうその手を抱え込んだ。その声にブルーリーは目を覚まし自分の顔の前にいる生き物に目を止め、ジッと観察でもしているかのように睨み続けた。なぞの生き物は、竜の眼力に力を奪われたように、手を抱えたままへなへなとその場にしゃがみこんでしまった。

「まァ、可愛そうに。手を怪我してるの」

 同じように目を覚ましたらしいレインが、なぞの生き物に近寄って話しかけた。タカもレインの後に続くように起きだした。と言うより、リクのいびきがうるさくて、寝ていなかったと言った方が正しい。タカは、ブルーリーをチラリと見てから言った。

「そいつが、ブルーリーの鼻の穴をいじってたらしい。それで、むず痒くて火を噴いたんだって。ブルーリーが言っている」

「ええ、私にも聞こえたわ。どうしよう、直ぐに癒やしの魔法で手の内側から治療しないと灰になってしまう」

「じゃあレンちゃんが癒やしてあげれば」

 そう言ったタカの顔を、レインはジッと見つめて首を横に振った。

「私の魔法の力は、本来癒やしの力を持っていないの。授業では習うのだけれど、軽い怪我しか癒やす事は出来ないし、してはいけないの。力が足りないと、もっと酷い状態にしてしまうわ」

 二人は、目の前で大きな黒い瞳からポロポロと大粒の涙を流しながら、歯を食いしばるようにしている生き物を見つめた。今にも叫び出しそうになるのを、竜への恐怖が押さえ込んでいるのだろうが、痛みに全身が震え始めた。その時、シルバースノーの声が、タカに語りかけた。心なしか冷たく感じる。

『タカ。あなたの魔法の力で癒やしてあげればいいのよ』

 タカは、シルバースノーの方を見た。金色に輝く瞳がタカをジッと見つめていた。タカには、その瞳が冷ややかに自分を見つめているのがハッキリ解った。

「そんなこと無理だ。俺は癒やしの魔法なんて知らない」

『いいえ。あなたの魔法は、強い癒やしの力を持っている。念じるだけでかなり酷い状態の患者でも癒やす事が出来るほどに、強い力を持っているのよ。それとも、初めての事を成し遂げる勇気と決断力が無いだけかしら』

 イヤミたっぷりのシルバースノーは、ジロリとタカを睨んだ。タカは無性に腹が立ってきた。今日初めて出会った竜に何が解るんだと思った。そしてシルバースノーの冷ややかなイヤミな態度にもムカついていた。

「何故そんな事が言い切れるんだ。何も知らないくせに」

『あら、当たっていたのかしら。随分怒らせたようね。でも今はその生き物を救ってあげる事の方が大切でしょう。さあ、早く癒やしてあげなさい。早くしないと、無くなるのは手だけじゃ済まなくなるわよ』

 あくまでもイヤミで冷たい態度のシルバースノーに、苛立ちを感じるタカだった。そんなタカとシルバースノーの会話を聞いていたブルーリーがタカに言った。

『小僧。お前の腹立ちも解らんでもないが、シルバーの言う通り、早くせんとこの生き物は全て灰になってしまう。そうなっては私も寝覚めが悪い。お前の魔法はスカイ様の魔法によく似ていて、癒やしの魔法の力を感じる。強さも十分だ。安心して癒やしてやれ』

「ブルーリー、小僧は余計だろ。でも、助言に感謝するよ」

 タカはブルーリーの言葉に、自分の魔法に自信が出てきた。方法は解らないが、シルバースノーは念じればいいと言っていた。タカは、なぞの生き物の焼けた手をとって、気持ちを焼け爛れた傷に集中させる。手の内部を想像し、奥へ奥へと入って行く。そして、今度は内側から外側へと治癒していく様子を想像する。だが、なかなか上手くいかない。それもそのはずで、動物の身体の内部など生物の授業でサラッと習った程度しか知らない。

 知らないなら今この時に知るしかないと、タカは判断した。生き物の、もう一方の焼けていない手を取ると、魔法の力で手の構造を探る作業を始める。それと同時に、焼けた手を正常な構造に修正していく。修正と言うよりは、実際は作っていると言うほうが正しいかもしれない。

 この生き物の手は、既にひじの上まで灰になりかけていたのだから。タカは、強く念じ続けた。やっと手の外側に戻ってきた。皮膚が再生され、体毛がそれを覆う。その時にはタカの体力も、精神力も底をついていた。

「終わっ…た…」

 そう言ったタカは、生き物から手を離して立ち上がり、夜空を仰ぐように顔を上げたと思ったら、そのまま後ろに倒れた。タカの身体は、ブルーリーがとっさに頭で受け止めたおかげで、地面に激突せずにすんだ。タカを頭に乗せたままブルーリーが言った。

『この小僧、やりおったわ。頭の良さも、決断力も、スカイ様に似ておるわ。そうは思わんかシルバー』

『……』

 黙ったままのシルバースノーの首に包まれたスカイが、やっと目を覚ます。スカイはシルバースノーの身体から離れて、皆のところに駆け寄ってきた。

「タカ、どうしたんだ。ん、ローショその生き物は何だ」

 ローショは、なぞの生き物を抱きかかえて、レインが敷いたローブの上にそっと寝かせていた。

「私もこれまで見た事のない生き物です。これが、ブルーリーの鼻で遊んでいて、手を竜の炎で焼かれたのです。それをタカ殿が癒やされました。見事な魔法でした。まるで、スカイ様の癒やしの魔術を見ているようでした」

 スカイの顔が一瞬曇った。対の人間と言うのはとことん似ているらしいと思い、失った魔法の力を思い出し、少し淋しく思うスカイだった。

「そうか、タカが癒やしたのか…眠っていて気付かなかった。そんな事があったのに、気付かずに寝ていたなど……」

 スカイは、自分が騒ぎに気付かなかった事を恥じているようだった。その様子に気付いて謎の生き物から目を上げたレインがスカイを慰めるように言った。

「仕方ないわ。スカイはまる二日間寝ていなかったのだもの。そんなに恥じる事はないわよ。ほら、リクなんてまだ寝ているわ」

 スカイは、リクの寝ている方に目をやった。幸せそうないびきが、布のカバンの下から聞こえる。スカイは、相当に図太い神経を持っているリクを見て、小さく首を振った。

「一緒にするな」

 その時、レインの直ぐ横から声がした。

「ごめんなさい……それと、ありがとう」

 それは、謎の生き物が発したものだった。皆が、いっせいに生き物を見つめた。

「この子、人間の言葉をしゃべったわ。あなたは何なの」

 レインは、生き物の方へ屈み込むようにして微笑みながら話しかけた。レインは微笑まずには居られなかったのだ。その生き物のあまりの可愛らしさに、抱きしめるのを我慢するのが大変なほどだった。女の子は可愛らしい生き物には、無防備に優しくしてしまうものらしい。謎の生き物も、それに答えるようにニッコリ笑った。

「フーミィは魔法で出来てるんだよ。前は人間の子供だったんだって父さんが言ってた。でもボクは知らないんだ。母さんは、フーミィの事ユージュアって呼ぶんだ。だからボクはきっとその子だったんだって思うよ。それと、えーと、お姉ちゃん可愛いね」

 レインはプッと噴出していた。こんな小さな、人間に似た魔法の生き物に、お世辞を言う事を教えたのはいったいどんな人だろうと思ったのだ。

「ありがとう嬉しいわ。さあ、手を見せて、もう痛くないかしら」

「うん、少し変な感じだけど、大丈夫、大丈夫」

 フーミィは、左右に手を振って見せた。フーミィの様子を笑顔で見ていたスカイが、気を失っているタカを、ゆっくりとブルーリーの腹のところに移動させている。タカに自分の着ていたマントを掛けると、レインの横に来てしゃがみこんだ。

「フーミィ、それじゃあ一つ質問だ。君は何処から来たのかな」

 フーミィはスカイの顔を見て、丸い愛らしい瞳をくるりと回してから、首をかしげながら答えた。

「僕わかんない。あのね、迷子って言うみたいだよ。ずっと迷ってるんだ。ずーっと」

 フーミィの瞳が淋しそうに下を向いた。レインが、フーミィに手を伸ばしかけた時、フーミィが顔を上げタカを見つめた。タカは全ての力を使い果たしぐったりとブルーリーにもたれかかって眠っている。

フーミィはタカに駆け寄ると 

「ターカ……ターカ。大好き。ありがとう」

 と言いながら、タカの腕の間に入り込んで眠ってしまった。残された全員が、ポカンと口を開けていた。

「なぜ、お兄さまの名前を知っていたのかしら。ターカってお兄さまの事でしょう」

 レインが、不思議そうに首をかしげた。ローショが真面目な顔で答える。

「それは、私達の話しを聞いていて解っただけの事でしょう」

 スカイは、ローショの言葉に同意するように頷いた。

「そうだな、見た目は可愛らしくて幼い様に見えるが、知能は結構高いのかも知れない」

「そうね。きっと聞いていたんだわ。でも、迷子って言っていたけれど、親とはぐれてしまったのね」

 ローショも心配そうにタカの腕の中で眠るフーミィを見て言った。

「直ぐに見つかると良いのですが、とりあえず今夜は無理ですし、レイン様とスカイ様はお休みください。私が、見張りをしながらタカ殿をみていますから」

 ローショに言われて、二人は元の場所に戻って寝る事にした。レインは、リクの顔から布のカバンを下ろして隣に腰を下ろした。リクのいびきは少し小さくなっていた。レインは、自分の方に向いているリクの顔を愛しそうに見つめてからチョコンとリクの鼻に触った。

「こんな中でも寝ていられるなんて、リクあなたは大物だわ」

 レインは、自分の言った事にフフフッと笑いながら、そっとリクに寄り添いその肩に頭を乗せた。

 心臓がドキドキと鳴っている。このままで寝られないのではないか心配になったが、それでもしっかりとリクにくっついて、ニッコリ笑って目を閉じた。

  









「ホー」

 レインがリクに寄り添って眠りについた場所から、さほど離れていない木の枝に一羽のフクロウが止まっていた。フクロウは、レイン達一行の言動を全て捉えていた。

 そのフクロウからかなりの距離に、木にもたれ掛かりながら、小さな声で呪文を唱える人物がいた。

 呪文を唱えているはずの口は少しも動いておらず、体もピクリとも動かない。深くフードを被って、ローブをきつく身体に巻いている。寒さをしのいでいるのだろう。

「ふぅー」

 その人物が大きく息を吐いた。今までフクロウの中に自分を入り込ませ、レイン達を監視していたのだ。今は、魔術を打ち切って自分の中に戻っていた。

「ユージュア。上手くやるのよ」

 そう呟くと自分の周りに結界を張り、張った結界に小さな穴を開けると指から白い煙を出し穴を通らせた。煙は結界の穴をぴっちりと埋めながら外に出ると、先程のフクロウの方へ進んで行きフクロウの頭と繋がった。しばらくの間、煙は白くその線を残していたが自然に消えたように見えた。

「これであちらが動けば直ぐに解るわ。母さんも寝るわね。ユージュアおやすみ」

 


 結界の外で、黒い影がゆっくり動き出した。










結界に迫る黒い影は、いったい何なのでしょうか……

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