[15] シルバースノー〜旅立ち〜
タカは、シルバースノーと対面しますが、その対面は思わぬ方向に…
青竜ブルーリーは、銀竜シルバースノーの隠れている雲の目の前で、ゆっくりと羽ばたきながら静止していた。これは、結構骨の折れることで、魔法の力を使って浮かんでいなければ、落下してしまう。
彼女は、シルバースノーとこの少年の対面が何事も無く終わるか、スカイ王子が早々にやってきてくれる事を願っていた。最近歳のせいか、めっきり弱くなってきた魔法の力を使い続けることは、彼女にとってはけっこう苦痛な仕事だった。
ブルーリーは、ここ3百年ぐらいの間に、何十頭もの竜を、母親代わりに卵の時から温め、育ててきた。その中で、シルバースノーは最後の子供だった。子育てにはかなりの体力が必要だしこの子を最後に母親代わりの子育て竜を引退しようと決め、竜の飼育担当官からもその通りに許しが出た。 いつまでも強く若く見えてもはいるが、長寿の竜族にしても高齢な方なのだ。
そして、今はスカイの騎乗用竜となったのである。魔法を失い王位継承権を失い銀竜シルバースノーまで取り上げられ、与えられたのが自分のような老いぼれ竜とは、ブルーリーはスカイを哀れに思っていた。結ばれるはずのない恋に身を焦がす我が子同然のシルバースノーもまた、ブルーリーには哀れに思えた。どちらも、彼女にとって、あの子等が幼い時から深く関わってきた大切な存在だった。
今以上にシルバースノーが暴れる事はどちらにとっても最悪の事態を招く事になる。ブルーリーは、優しく語り掛ける。
『シルバー。私だよ、ちょっと気を静めて話をしないか。そのパチパチ爆ぜる稲光をおさめなさい。近寄る事もできない。こちらにおいで、かわいい子。話しをしよう』
ブルーリーの言葉に返事は無いものの、少しだけパチパチが少なくなった様に、タカには思えた。
『ブルーリー、俺に話しをさせてくれないか。君と話すのと同じように話せばいいのか』
『普段なら、魔法の力が強ければシルバーとは人間とするように話せるが、この距離では無理だ。あの子の頭に直接語りかけてみるがいい。だが、自分が誰なのか説明するのを忘れるな。スカイ様と勘違いしてからではややこしくなる。私もお前を焼いて食ってやろうかと思ったほどだ。竜族は騙されるのを一番嫌う誇り高い種族なのだよ』
ブルーリーの皮肉は、タカの元々高いプライドをに引っかかってしまった。
『自分が勝手に間違えたからって、俺のせいみたいに言って欲しくない。初めから騙すつもりも無い。自分の観察力の無さを人のせいにしないで欲しいな』
『ホーォ。私からあの子に話しても良かったのだがな。何でも自分で出来るらしいお前には、観察力の無い私は用無しらしいな。自分で話しをつけるがよかろう。せいぜい頑張れ』
しまったとタカは後悔した。プライドなどにこだわって自分を窮地に追い込んでしまったと気付いても、今更謝る事など出来ない性格のタカだった。いつもこの調子で損をする。リクのように素直に謝ったりお願いしたり出来たらとても楽なはずなのに、どうあがいても、やっぱりプライドが邪魔をする。
『ああ、自分で話してみるさ』
ブルーリーは、フンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。タカは、自分が怒らせてしまったのだから仕方ないと諦めて、魔法の力を集中させてシルバースノーに直接呼びかけてみることにした。
『シルバースノー。話しがしたい。隠れていないで出てきたくれないか。俺はスカイのっ』
『スカイ。やはりスカイなのね。さっきからあなたの魔法を感じていたの』
タカの話しが終わらないうちに、美しい声が頭に飛び込んできた。
『スカイ。魔法の力が戻ったのね。嬉しい、これで私達の事も伝えられる。ああっ愛しい人、どうして私を置いていってしまったの。きっと連れて逃げてくれると思っていたのに、あなたはブルーリーと行ってしまった。あなたの居ない場所では、私は死んでしまうと言うのに』
その声は、ブルーリーとは違い、とても心地の良い響きで、タカは思わずその姿を確かめたくなるほどに艶をおびて美しかった。タカが前方を見つめると、そこには夕日を浴びて、炎の様にウロコを輝かせた竜の姿があった。赤からオレンジに、オレンジからゴールドに、夕日を映して色を変えながら、揺らめき燃え立つように空に浮かんでいる。
大きさは、ブルーリーより、ふた周り程大きな様だ。恐ろしいと言うより、美しさに圧倒されて息を呑んだ。タカを見つめる瞳は、やはり夕日に輝き、見たことの無い美しい宝石のようだった。その宝石から、細かい涙という名の宝石が、いくつも輝き落ちていく。
タカは、声にだしてつぶやいた。
「キレイだ。こんなに美しいものを見たこと無い」
このつぶやきは、そっぽを向いたように見えても、この対面に神経をとがらせていたブルーリーには聞こえたようだ。
『馬鹿者が。見惚れている場合では無かろう。シルバーはお前をスカイ様だと思っているぞ』
「え、あっそうか」
タカは、呆けている場合ではないと気が付いた。
『シルバースノー。俺はスカイじゃ無い。スカイの代わりに来たんだ』
ブルーリーが割ってはいる。
『この少年は、スカイ様では無いのだ。落ち着きてよく見てごらん。かわいい子よ、お前の愛するスカイ様ではないのだよ』
『ブルーリーまで、何を言っているの。あなた達、私を騙すつもりなの。私がスカイの魔法の波動を間違えるはずが無いでしょう』
タカの頭に響く声は、悲しみに震えているようだった。
『違う。騙してなんかいない。俺は本当にスカイじゃ無いんだ』
ブルーリーは危険を承知でシルバースノーに近付いて行く。
『ほら、よくごらん。髪の色も、目の色も全く違う。この子はスカイ様のっ』
『まだ嘘をつくのね、やめて』
シルバースノーは、今度は口から炎を吐いた。その炎はブルーリーの右の翼をかすめた。
『おやめ。いい加減におし。今のお前は怒りに我を忘れている。でなければ、スカイ様を見紛うはずは無かろう』
『いいえ。スカイよ。スカイが生まれたときから、私は彼の魔法を感じて生きてきた。卵の中でスカイに巡り合う時を待っていた。これは紛れも無くスカイの魔法の波動。私を受け入れられないなら構わない。でも、偽りは許さない、絶対に許さないわ。スカイ、自分が助かりたいなら、私を殺して。それしかないわ。あなたの銀竜を、あなたがその手で殺しなさい。初めからそのつもりで、ここまで来たのよ』
シルバースノーが大きく首を振った。彼女の宝石のような瞳から、キラキラと涙の粒が舞い散った。
目の前の燃え盛る炎のような竜が、ひとまわり大きくなった。
「もう走れねーって。スカイまっ待って。ってここ何」
リクはスカイの後をひたすら追いかけてきた。走る事も体力も、誰にも負けない自信があった。それでも、前を走るスカイに追いつくことは出来なかった。
何がスカイをこれ程にあり得ない速度で走らせているのか、リクには理解できなかった。でも、とにかくスカイは何が何でも、誰よりも早く目的地に着きたいのだと言う事だけは解った。
やっと目的地にたどり着いたのかスカイが足を止めた。そのまま、大きな丸太で出来た台の上に置いてある船に乗り込む。
「何これ、船。羽生えてんじゃん。ウッヒョ〜カッコいいィ。これに乗るんだ。待ってェ〜俺も乗る。でも海も川もねーのにどうすんの」
「リク。早く乗れ。飛ぶぞ」
リクは梯子を上って甲板の上に飛び降りた。
スカイは、飛ぶぞと言ったわりに何もする気配が無い。どうしたのかと、リクはスカイのいる操舵席のようなところに上がっていった。
「どしたの、飛ぶんじゃねーの」
「これは飛風艇と言うものなんだが、魔法の力うを使って操縦するんだ。今の私には出来ない。忘れていた」
リクは嫌な予感がした。
「リク。操縦してくれないか」
「来たァ〜やっぱな。どうやるかわかんねーのに、簡単に言うな」
「教える。ちゃんと教える。早く行かないと取り返しのつかない事になってしまう。だから」
「ワータ。解ったよ。やりゃあいいんしょ、やりゃあ」
「すまん。ありがとうリク」
スカイは、笑顔になってリクの手を握る。リクは急に寒さを感じたように腕をさする。
「キッショー。スカイが素直って寒い。そんなかわいい笑顔も寒い。雪でも降るんじゃねーか」
スカイが、居心地悪そうに肩をすくめ、少しムッとした顔になっていた。
タタンッ
甲板に何かが落ちたような音がした。
「あんまりスカイをからかっちゃダメよ、リク。スカイはシルバースノーの事で頭が一杯なのよ。これ以上彼女に城を攻撃されたら[雲の城]は黙ってはいないわ。それが、スカイの竜であったとしてもよ。早急に彼女を逃がさないと、彼女は自分の死を持って償う事になる。そうよね、スカイ」
現れたのは、レインだ。ドレスを脱いで、ゆったりとしたシャツをベルトで締めて、細身のズボンを身につけ、その上からブーツを履いていた。今リクがしているのと、あまり変わらないような格好だ。
「レイン、何をしている。君はこんな所に来てはいけない。そんな格好までして、君は何を考えているんだ。何度言ったら解るんだ。君は君だけのものではないんだぞ」
スカイの表情が険しくなった。レインの前にサッと歩いていくと、レインの腕を取り、飛風艇から降ろそうとし始めた。
「何するの。やめてちょだい。私がいないとこの船を飛ばす事なんて出来ないでしょう。教えたって、リクにはまだ無理だわ。飛ぶのが明日の朝になっても良いのなら話しは別でしょうけど。そうなれば、困るのはあなたでしょう」
「どうして君はいつもそうなんだ。自分の事しか考えられないのか」
レインは、一気に顔を赤くして涙ぐむ。
「自分の事しか考えられないわ。だって、スカイはリクを連れて[空と大地の門]へ行ってしまう。そうなれば二度とリクに逢えなくなるわ。そんなの我慢できない。私を連れて行って。でなければ、あなたを魔術を使ってでも引き止めるわ。行かせない」
スカイは、掴んでいたレインの腕を離して、ただジッと、レインの目を見つめ返す。
「嵐雲の瞳。君がその目をするときは、誰の言う事も聞きはしない。自分が思う事を思った通りにしてしまう。[異世界への扉]をくぐった時もそうだった。君は今回も同じように、自分の決めたとおり、ついて来るのだろう」
「ええ。誰に何と言われようと必ずついて行くわ」
レインは、スカイから目を逸らさずに、更に睨みつける。
「でもレイン、一緒に行ってどうなる。いつかは必ずリクは自分の世界に帰ってしまう。リクが帰らないと言っても、タカが、あの兄が必ず連れて帰るぞ。今、一緒に行ったところで別れのときが先延ばしされるだけではないか」
レインの瞳に溜まった涙は、堰を切ったように流れ出した。
「……そんなこと」
レインは何も言えない。ただ涙が止まらない。先のことは考えないようにしていた。見ないようにしていた事実をスカイにハッキリと指摘された。リクが操舵席から見つめている。レインに向かって微笑みかけた。
「レン。その事は後で二人だけの時にゆっくり話そうぜ。スカイ、あんたになんか聞かせてやらねーよ。俺とレンの事だかんな。スカイはシルバースノーの事でも考えろ。死なせたくないんだろーが」
リクはスカイに思いっきり、アッカンベーをした。
「お前っ」
リクの子供のようなアッカンベーに、スカイは何も言う言葉が見つからなかった。幼い子供のような事をしているリクが、一番大人に思えた。今、何が大切かを知っている。
リクが、子供のように飛び跳ねた。
「レン。早くこのヒフウテイつーの飛ばしてよ。スンゲー楽しみ」
レインはスカイの横をすり抜けて走っていく。
「ええ。飛風艇は『スンゲー』美しい飛び方をするのよ」
そう言って、操舵席に上がったレインの涙は止まり、もう笑顔になっていた。寄り添う二人の姿にスカイの強張っていた顔が自然に緩む。
自由に生きたいと思ったはずなのに、どうしても大人ぶって常識めいた事を言ってしまう。身についてしまった自分の習慣に思わず溜め息が漏れる。
二人の笑顔が、飛風艇の白い翼と同じように夕日に赤く染まっている。リクとレインが一つの絵のように見えた。(ああ、そうだった。レインにはリクが一番ふさわしい)
飛風艇の翼が、ゆっくりと羽ばたき始めた。それはとても優雅で滑らかな動きだが、レインの魔法の力をうけて確実に空に向けて上昇していた。
「レイン。リクと一緒に行くのはいいが、『スンゲー』と言う言葉は、やめたほうが良いと思うぞ。女の子には似合わない言葉だ」
スカイに大声で言われて、リクとレインは顔を見合わせて笑った。リクがレインに耳打ちした。二人一緒に口を開けると、二人一緒に大声で怒鳴り返す。
「ウルセーよ」
「お前達は子供か」
飛風艇は、夕日の中に吸い込まれるように進み始めた。
「ウッワ〜キレイ。スンゲーきれい。あれが竜か。綺麗な生きものだな。でも、何かやばくねーか。この状況」
リクが指さした先には、紛れもなく大きな美しい竜が空に浮かんでいた。ゆっくりと羽く翼は夕日に輝き炎のように美しく揺らめいて見えた。だが、リクにはハッキリと感じられる。その竜が発する悲しみと怒り、そして絶望。
「シルバースノーだ。レイン、彼女に近付いてくれ。声が聞こえるぐらいに」
スカイは、そう言うと船の舳先に走って行った。
舳先にたどり着いたスカイの目に、シルバースノーが炎を吐く姿が映った。
「レイン早く。シルバースノーの真上まで行ってくれ飛び移る」
「コエ〜っっあっ兄ちゃんとローショさんだ。丸焼きにされちまう」
リクが、レインに教えようと肩をゆする。
「リク、ちょっと待って。静かにして。話しが聞こえるの。シルバースノーがすごく怒っているわ。あなたのお兄さまの事をスカイだと思ってるみたい。お兄さまは否定してるけど、彼女は嘘をつくなって言ってるの。彼女は自分を殺すか、スカイが殺されるかどちらかだって言ってるわ。急がないとお兄さま達が危険よ」
それを聞いて、リクはスカイのいる舳先に走った。非風艇はシルバースノーの斜め上方に来ていた。
「スカイ。今の聞こえたか、兄ちゃんが危ないって。俺がシルバースノーを癒すから、スカイは彼女と話しをしてて」
「癒すって、リク何考えてる。やめろ、まだ届かない」
スカイがリクを掴もうとしたが、一瞬遅かった。リクは、船の舳先からシルバースノーに向かってダイブしていた。
「リクー」
レインが叫ぶ中、リクは風に運ばれるように、シルバースノーの背中に近付いていく。レインの魔法がリクを運んでいるのだ。
飛風艇がバランスを崩した。翼は羽ばたくのを止めていた。落下し始める。船がシルバースノーの目の前を落ちていく。
舳先にしがみついたスカイとシルバースノーの目が合った。
シルバースノーは、何かが自分の背中に落ちた気がしたが、そんな事はどうでも良かった。今、目の前を愛しいスカイが船と共に落ちていく。では、もう一人のスカイは何者なのだと思う。
「スノー」
落ちていく船の上のスカイが、いつもの様に自分を呼んだ。
『スカイ』
危ういところで、レインが魔法を元に戻す。レインの魔法が非風艇の落下を止めた。
「ごめんなさい。私、リクが落ちてしまうと思って慌ててしまって。魔法の力を全部リクに向けたしまったの。でも、もう大丈夫よ」
レインが、真っ青な顔のまま謝った。飛風艇の翼は何事も無かったように羽ばたいている。その時、シルバースノーの体がひとまわり小さくなった。その背中に、ピッタリと体をひっつけたリクの姿が見える。
シルバースノーは自分の中に流れ込んでくる優しい魔法を感じて、長い首を自分の背中に向ける。優しい癒しの魔法は、この少年から送られてくるようだ。自分の中の怒りが静まっていく、悲しみが薄らいでいく。
『あなたは誰なの』
シルバースノーの問いに、タカが答えた。
『俺の弟だ。心を癒やす魔法が使える。落とさないようにしてやってくれないか』
ブルーリーが、シルバースノーの直ぐ横に並んだ。
『お前の弟か。はっこれは面白い。お前と違って、かなり勇敢なようだがな。それに、心の癒やし手とは、兄とは違って素晴らしい限りではないか』
ブルーリーの皮肉にタカの顔が強張った。
『うるさい。あいつは無鉄砲なだけだ。比べるな』
ブルーリーはバカにしたように、タカに向けてフンッと鼻を鳴らした。また、タカの目に煙がしみた。
リクは落ちないようにシルバースノーにしっかりしがみついて話しかける。
「シルバースノー。俺、竜を癒やしたの初めてなんだぜ。君は、本当はすっごい優しいんじゃん。そして、とても強い。スカイには勿体無いくらい、いい女じゃん」
リクは、わざと大きな声で叫んだ。スカイに聞こえるように考えてだ。
「スカイ。お前ってスゲーな。竜が彼女だったなんて」
リクがスカイに向かってニヤッと笑った。
「何を言っている。恋人のはずがないだろう。人間と竜だぞ」
スカイはリクを睨んだまま、シルバースノーが伸ばした尾っぽをつたって、船から彼女に乗り移る。
上手くバランスをとって、リクの体を乗り越えシルバースノーの首に抱きついた。
「久しぶりだな、スノー……私などの為に、無茶をするな」
シルバースノーはゆっくりと自分の顔をスカイに近づける。スカイに彼女のキュルルと言う鳴き声が聞こえた。
「愛しているわ」
シルバースノーは、そう言っていた。でも声はスカイには届かない。リクは、そんなスカイを見ながら、腹ばいのまま尻尾の方に移動していく。シルバースノーが飛風艇の側面に、尾っぽの位置を合わせてくれたので、簡単に船に戻れた。リクは、レインのいるところまで上がると、スカイに言った。
「イイヤ、恋人さ。生まれる前から決まってる『運命』なんだって。シルバースノーは、スカイただ一人のために生まれたんだぜ。彼女の心が教えてくれた」
リクはレインを見つめる。
「運命を感じたんなら、人間と竜だって関係ないじゃん。間違いない。なっレン」
リクの言葉に、レインがプッと吹き出した。
「ええ、そうね。間違いないわ。だってリクと私も『運命』だもの」
スカイが、まだ言い返そうとしていると、皆が浮かんでいる直ぐ後ろで、空気が震えた。ピンと張り詰めるような、空気の振動が上から下に向かって伸びていく。
「シールドが張られたわ。これで、もう誰も、城には戻れない」
レインがそう言うと、今まで声一つ出さなかったローショが大きく息を吐き出した。
「はアァ〜こんなに緊張したのは久しぶりです。恐ろしくて、もう心臓が止まるかと何度思ったか…とりあえずここから離れましょう。直ぐにでも城から追手が出されるでしょう。長居していては危険が増します」
心底疲れたと言う風にローショの肩は情けなく落ちていた。それを見たタカは、今まで頼りにしていたローショが、急に小さく見えた。
「あの〜ローショさん、あなたのイメージと言ってる事が似合わないんですけど」
タカは、ローショの顔を後ろから覗いた。スカイが笑いながらローショを見ている。
「ローショは、高いところが苦手で、生き物の中で唯一、竜が苦手なんだよ。だが、勘違いしないでやってくれ。地上では誰にも負けない強者で、剣豪だ」
いつの間にか、シルバースノーの首の根元に腰を下ろしたスカイが、シルバースノーの顔を抱きながら、ローショの弁解をした。いきなりブルーリーが、小さな炎を吐いた。
『こやつの事などどうでも良いわ。早くこの場を離れるぞ。ここは見つかってしまったようだ。探査の魔法を感じる。それに、私はもう停まり続けてはおれんのだ』
ブルーリーは、腹立たしげに翼をバサッとひるがえすと夕日が沈む方向に飛び去った。
「さあ、行きましょう。青竜が怒っているわ」
レインの号令でシルバースノーも方向転換してブルーリーの後を追った。レインの操縦する飛風艇は、ゆっくりと空を進んで二頭の後に続く。
夕日は、ほぼ沈んでいた。燃えるように赤かったシルバースノーは、その名の通り、雪のように白く輝く銀色に戻っていた。
あと少しで、黄金に輝く彼女が見られるとスカイは幸せそうに微笑んだ。シルバースノーは、リクに癒やされて本来の穏やかさを取り戻し、背中にスカイのぬくもりを感じてホッと安心する。
だが、シルバースノーには、どうしても解らない疑問が出来てしまった。スカイの魔法を、何故あの少年が持っているのか。正気でなかったから間違えたのでは無いのだ。遠くからでも、スカイの魔法は感じることが出来る。これは、紛れもない事実だった。
シルバースノーには、直接スカイに話さなければならない事がある。スカイの魔法が失われたままでは、一生かかっても伝えることは叶わないのだ。(あの少年を調べなくては。スカイの魔法の力を取り戻すのよ)
シルバースノーは、ブルーリーを追ってグッと速度を上げた。
4人と2頭の旅が始まります。まず向かうのは、決して忘れてはならない事をやり遂げる為に…