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雨のリズム  作者: 海来
14/94

[14] 魔術学校の生徒?

やっぱり、リクはオッチョコチョイ。呼び出すのはレインじゃないでしょう…

 リクは、ピョンピョンと跳ねていた。レインの部屋の前まで来たものの、人が大勢すぎて中には入れない。どこかにスカイの姿はないかと跳ね上がって見ているのだ。

「何をしていらっしゃるのかしら。まァ魔術学校の生徒さんね。レイン様にご面会ですか」

 リクの後ろから声を掛けて来たのは、バラの花が一杯の籠を抱えた女性だった。濃紺のワンピースに白いエプロンをして、ニコニコ笑っているが、急いできたのかキッチリと後ろにまとめた髪が、少しだけ緩んで額には薄っすらと汗をかいている。

「今から、レイン様は湯浴みをされますもので。このバラを湯に入れると、とてもいい香りがするってレイン様のお気に入りなんです」

 レインの侍女の話は、リクには刺激が強かったようで、頭の中には、先日見た、黒髪の間から覗いていたレインの白い背中がグルグル回りだした。一瞬にして顔を真っ赤に染めたリクを見て、侍女はフッと笑顔をもらす。

「あら、私ったら余計な事を、でも、皆様部屋から出て行かれると思います。その前にお会いできるように、レイン様にお伝え致しましょうか」

「はっはっはい、お願いします」

「はい、かしこまりました。レイン様には、どなたがいらっしゃったとお伝えすればよろしいでしょうか?」

「リクでいいです」

「リク様ですね。かしこまりました」

 そう言ってから侍女はしげしげとリクを見つめた。そして意味ありげにフフフっと笑うと、人の壁を上手い具合に潜り抜けて、中に入っていった。

 リクは、その姿を見送りながら、何が可笑しかったのだろうと、ローブを開いて自分の姿を確認する。そんな事をしている内に、自分の失敗に今になって気付いた。

「レンを呼ぶんじゃねージャン。スカイだよ、スカイ。しまったァ」

 その時には、人の壁は崩れて、部屋から出てくる波となっていた。リクは、壁にピッタリとくっついてその波をやりすごす。

 中から、先程の侍女の声が聞こえた。

「レイン様、魔術学校のご友人が面会されたいとおっしゃっておいでです。お名前をリク様とおっしゃる可愛らしい殿方でござおますが、お通ししても差し支えございませんか」

 中では何やら話しているようだが、寝室の入り口に立っている侍女の声しか聞き取れない。

 侍女が戻ってきて、おじぎをして中に通してくれた。

「こちらの部屋でお待ちください」

 そう言った侍女の後から、渋い顔のスカイが現れた。

「何をやっているんだ。こんな所に戻ったら危険なのが解らないのか。お前が誰なのか、中で問題になってるんだぞ」

 スカイは他の者に聞かれない様に、小声で話しているが、かなり怒っている。

「解ってるって。ローショさんから伝言持ってきたんだよ。間違ってレンを呼んじゃったけど、スカイに用事だよ」

「ローショが何だって伝言をリクに頼むんだ」

「大変なんだよ。シルバースノーが、この城の上空の雲の間に隠れてるんだってさ。怒ってるみたいだぜ。危険だってローショさんが言ってた」

「シルバースノーが……なぜ」

 スカイもリクも自分達の会話に集中していたせいで、自分達の横に移動してくる影に気付かない。

「スカイ王子。この者はあなた様のお知り合いか」

 ハッとしてスカイは声の主に目を向ける。二人の横に立ち、リクを上から下まで眺め回す男は、リクの着ているローブよりも上等なローブを着て、両手をローブの袖の中で組み合わせていた。

 リクは、着ている物は全然違うのに、自分の中学の校長先生みたいな感じだと思った。スカイは、焦りを気取られないように、相手に好印象を与えられる最大級の微笑を浮かべた。

「ズカーショラル校長。先程から、いつご挨拶させていただこうかと迷っておりました。レイン姫の体に異常が無いかをタナトシュ殿と懸命にご診察されておいでで、なかなかその機会に恵まれませんでした。申し訳ありません。お久しぶりですね。相変わらず、お元気そうでなによりです。魔術学校からレイン姫の為に、わざわざお越しくださったのですね」

 ズカーショラル校長は、スカイの挨拶に丁寧にお辞儀をしたが、リクからは目を逸らさない。

「スカイ王子。私は、自分が校長をしている魔術学校の生徒の顔は、全て覚えているのです。この者の顔は初めて見るのですが、もう一度お伺いいたします。この者はあなたのお知り合いか」

 ズカーショラル校長はまばたきを全くしていない。

 スカイは思い出していた。自分が魔術学校に通っている時に、校長自らが唯一行っていた授業は、読心術だった。それは、行動や言動から心を読む普通の読心術では無い、真に心を読む魔術である。この魔術において彼の右に出る者はいないと言われていた。明らかに、ズカーショラル校長は、リクに魔術を使っている。誰なのか、何の目的を持ってレインのクラスメイトと偽るのかを探っているのだろう。

 リクを見ると平気な顔で校長と睨みあっている。普通ならこの魔術を使われると、頭がボーっとしてくるものなのだが、リクにはその兆候は見受けられない。リクの特殊な魔法が邪魔をしているのだろうかとスカイは思った。それならば、取り繕う事も可能かもしれない。

「この者は、[空の城]にて私の手伝いをしてくれているのです。ご存知と思いますが、私の魔法の力が失われた為、色々と不便がありまして。この者には強い魔法の力があるので、結構助かるのですよ。そろそろ、魔術学校の試験でも受けさせようかと思っているところで、ローブを着たいと言うもので、私の物を与えてしまいました。私は、供の者には少々甘いようで、父によく注意を受けるのですが、なかなか直りません。どうやら、また勝手なことをしたようです。すぐに脱がせましょう」

 ズカーショラル校長は、リクから目を外すと、スカイを横目で見つめる。その目はわずかに細められ、王子である自分にも魔術を使うつもりかと、スカイは背筋が寒くなった。

「スカイ王子、あなたは少ししゃべりすぎていらっしゃる。心の動揺を隠すなら、あまり多くを語らぬほうが賢明ですぞ」

「何をおっしゃりたいのか、わかりませんが」

 明らかに、動揺したのは相手に解ってしまっただろうとスカイは思った。

「解らないとおっしゃるか。では、解るようにお話しせねばなりますまい」

 ズカーショラルの目は挑むように見開かれた。

「先程から、魔法の壁をめぐらせて、私達から何かを隠そうとするレイン姫。今度は、この私の魔術でも心を読むことの出来ぬ魔法を持つ少年。スカイ王子、あなたを中心に二人が繋がったと思うのは私の勘違いですかな」

 ズカーショラルの目は、また、まばたきを止めていた。

 スカイは息を呑んだ。この場で、魔法の力の無い自分の心を読む事など、この男にとって赤子の手をひねるほどに簡単だろうと、スカイは思った。

 スカイが、どうすればこの場を切り抜けられるのかと、思案していたその時、激しい稲光と轟音に続いて、部屋全体が揺れ始めた。

 スカイは窓に走り寄って外を見る。部屋に残っていたほとんどの者も同じように窓に近付いて、外を見ようとしている。

 城壁に稲妻が落ちたようだ。粉々に砕けた壁の周りは黒く焼け焦げ黒煙をあげていた。

「何事だ。乱雲の来る季節だからといって、このような天候で稲妻が落ちるなどあり得ない。陛下、この稲妻は自然のものではございませんぞ」

 タナトシュの叫びに、自分も窓から外を見つめていた王が険しい顔で答えた。

「タナトシュ。魔術でシールドを張れぬのか。最近は各領域で不穏な動きが報告されている。何者によるものかは解らぬが、我城も襲撃されているのやもしれぬ」

「解りました。丁度、魔術師も大勢おります。強力なシールドを張れるでしょう。すぐに広間に彼らを集めてシールドを張って参ります」

 レインの部屋は、あわただしく動き始めた人で騒然となった。その隙に、スカイはリクの手を引いてレインの部屋を飛び出した。ズカーショラルはこの騒動で、二人を詰問する機会を失ってしまっていた。

 悔しそうに唇を真一文字に引き結び、二人の去った後の扉を睨みつけた。ズカーショラルは、肩に重み感じて振り向いた。肩に手を掛けてきたのはタナトシュだった。

「ズカー。先程の少年が着ていたローブは、魔術学校の試験に合格した祝いに、レイン様に私が贈った物。私が保護の魔法を自ら掛けたのだ、間違いない。レイン様の悪戯にスカイ様は巻き込まれているのだろう。あの王子が何かを仕組むなどあり得んからな。まァ、この件は私に任せてくれ、探ってみる。また、大騒動を起こされては困る。だが、今はその時ではない。最優先次項はシールドを張る事。さっ魔術師を集めに行ってくれぬか。私は、先に広間に行って準備をしておこう」

 タナトシュは、ズカーショラルと同期の友人でありながら、彼の前任者にあたる魔術学校の校長であった経歴を持っている。ズカーショラルは全幅の信頼を置くタナトシュの言葉に素直に頷くと魔術師達が集っているであろう図書館に向かった。

 その時、またしても稲妻が城を襲った。今度のものは、レインの部屋のある塔に程近い小塔に落ちたから、衝撃も先程とは比べ物にならないほど強かった。窓辺で外をうかがっていたレインと雲の王はバランスを崩し、倒れそうになっていた。

「お父様。大丈夫ですか、ほらこちらにお掛けください」

 レインはそう言うと、父王を椅子に座らせた。

「やはり、何者かが城を攻撃しているのかもしれません。私も、他の魔術師達がシールドを張る手伝いをしたいと思います。陛下、私が広間に行く事をお許しを頂きたいのですが」

 レインの言葉に、父王は、やはりと言うよな顔で額に手を当てた。

「そう来ると思っておったわ。レインそなたは先程戻ったばかりではないか。ゆっくり体を休めるようにと、タナトシュも言っておった。お前はこの部屋でゆっくりしているが良かろう。あまり父に心配を掛けるものではないぞ。ワシももう若くは無いのだから。これ以上の心配は掛けんでほしいものだ」

「何をおっしゃるのです。お父様は、まだまだ若くて素敵だわ。でも、早くも、私にこの城をお譲りになりたいのでしたら仕方ありません。お父様はゆっくりお休みになればいいわ。私は、ゆっくりなどしている訳には参りません。この城が無くなっては譲り受ける意味はありませんもの。ダメだとおっしゃるなら、勝手に行くまでですわ」

 レインの言葉に苦笑いする父王だった。

「そう来たか。そなたがワシを陛下と呼ぶときは、既に何をするか決めてしまっている時なのを忘れておったわ。では、自分の城は自分の手で守って見せよ……その代わり後でゆっくり休むと約束しなさい。よいな」

 レインは父王の首に腕を回すとしっかり抱きついた。

「ありがとう。お父様、愛しているわ。心配ばかりかけてごめんなさい」

 そう言うと、まわした腕をほどいて立ち上がり軽い足取りで部屋を出ようとしたところに、父王の声が掛かって振り返る。

「可愛いレイン。ワシもお前を愛している。無理はするでないぞ」

 レインは黙って頷いて部屋を後にした。(お父様…ごめんなさい)レインは、心の中で父王に、何度も詫びた。これ以上の心労は掛けたくなかったが、そうもいかないだろう。今度の父王の落胆がひどすぎない事を祈るのみだ。

 さっきのスカイとリクの話は、魔術を使って簡単に聞くことが出来た。シルバースノーが、勝手にここへ来ているなら大変な事になる。それが、城を攻撃したとなれば、空と雲の領域同士の政治的問題に発展しかねない。その原因となったシルバースノーは、領域間の摩擦をなくすために、[空の城]の者の手によって捕獲され処刑されてしまうだろう。スカイがかなりシルバースノーを可愛がっていたことを考えれば、彼の行動は想像できた。スカイを王子の地位に繋ぎ止めていた足枷は、かなり弱いものになっているのは確実だ。スカイは必ずシルバースノーと逃げる、そう思った。

 しかも、リクとタカも連れて行くに違いない。レインは魔術師達が集められる広間とは反対の方向に走り出した。





「陛下、レイン様に甘すぎるのではございませんか。扉をくぐって異世界に行ってしまった反省も、まだではございませんか」

 バラの花弁をつまみながらドーリーが溜め息をついた。父王は、情けなさそうにドーリーに笑いかける。

「すまぬなドーリー。やはりワシはレインに甘いかのう」

 ドーリーはバラを一輪、王に差し出すと同じような笑い顔になった。

「レイン様は、亡くなられた王妃様にそっくりでいらっしゃいます。陛下は奥様にも大変甘くていらっしゃいました。王妃様は、ご自分の決められた事は、決して後には引かれない方でしたもの。ご自分の体よりも、レイン様をこの世に生み出される事を領域の大事とお決めになられて…」

「そうよのう。そなたにレインを任せて逝ってしまった。ドーリー、そなたにも気苦労ばかりかけてしまうのう」

「……」

「さて、ワシも広間に行って魔術師達の仕事を見てこよう」

 王は、ドーリーにもらったバラを胸にさすと、椅子から腰を上げた。

「ドーリーそなたも、たまにはバラの香りのする湯浴みと言うのも、気が晴れるのではないか。今から入ってみてはどうじゃ」

 部屋を出て行く前に、王は茶目っ気たっぷりにドーリーにウィンクしていった。ドーリーは可笑しくなって、つい笑ってしまう。

「まァ…でも、本当ねバラも勿体無いし、私が入ろうかしら」

 奥で片付けをしていた侍女がビックリして振り返る。

「そんな顔しなくても、冗談ですよ。さっ早く片付けてしまいましょう」

 笑顔で侍女達に指示を始めたドーリーだったが、窓の外の光景が目に入ると、レインの事が急に引っかかり、心は一気に不安になってしまった。











周りの心配をよそに、レインは今度は何をしようと言うのでしょうか…

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