ライオンが兎を食す
ここでの恋愛格差とは…
一方は、容姿が優れていてコミュニケーション能力の高い人間――もう一方は、全く逆の人間との格差の事をいう。
暗闇の中、ひとすじの光が差しこむ――――
寝室に入って来たそいつは、威嚇するように低い声で唸った。
耳をピクン――と動かし、
その声に反応し目を覚ました少女が、
暗闇の中…毛布にくるまり、
ぎゅっと眼を閉じ、聞き耳を立てる。
ギシ…――
奴が、ベットに足をかけた音だ…
少女の背後から、突き刺すような目線を感じる。
頭の中で危険を知らせるサイレンが鳴り響き、
とても生きた心地がしない思いに晒されていた。
振り向けばきっと、すぐそこに奴がいるだろう……
「くっくっく…」
不気味な声が、頭から振ってきた。
血色の悪くて薄い唇を、横に広げて笑っているのだ。
だけど少女には分かった。
その声に、少しの苛立ちが混ざっていたのを…
それに気がついた時、少女の耳に激痛が走った。
「い、いたっ…」
食いちぎられるんじゃないかと…
一瞬、身の危険を感じた私は、
悲鳴を上げて耳を引き剥がした。
耳がジンジンと痛む…思いっきり噛まれたようだ。
「あの…」
小さな肩を震わせ、
身を包む毛布をぎゅっと掴む潤んだ目は、
その真っ黒な瞳に、恐怖の色を浮かべた。
少女の頭の上から、再び男の低い笑い声が降ってくる。
「くっく…小娘、お前が寝たふりをするからだ」
酒と女の香水が混じった匂いが、
少女の鼻をかすめた。
「酔っているの?」
「…いいから、こっちへ来い」
奴のたくましい腕が、
木の枝の様なその腕を掴み、引き寄せた。
「い、いやっ」
奴の獣臭がきつくなり、厳しい顔つきで両手を突きだす。
「いや…?くっく…ちゃんと、目を見て言ってみろ」
体重を前にかけ、覆いかぶさられた少女は、
足で体を固定され、身動きが出来ないところに、
顎を軽く持ち上げられる。
―――――ドクン…
入口の僅かな光で照らされた、
男の目が浮きがっている。
鈍く、光る眼が、人魂みたいに灯って恐ろしい。
(この男と、目を合わせてはいけない…)
心の中で呟いたが、
色素の薄い、茶色がかった目が二つ。
少女を捕えた。
ニヒルに笑うそいつは、その首に顔をうずめる。
「…心配するな。すぐ終わる」
「あ……う!!」
首の痛みは、初めての衝撃で…思わず背中を仰け反った。
少女の腰に手を当てて、男は間髪いれず、さらに深く肌に吸いつく――
「はあっ…――――ああっ!!」
口を首からそっと放し、力の入らない体をベッドに寝かすと、
奴はおでこにプチュッとキスを落として、頭を撫でた。
包み込むような温かい手が乗せられている。
「何をしたの…」
問いかけたが、奴は無言で部屋を去ろうとする。
入り口で振り返り、奴は両端に生える牙を見せて笑った。
光が透けて、雷鳴が落ちたかのような金色のたてがみが、
ふわりと宙を舞い――――その姿は一瞬にして、消えた。




