桜の樹の下で
初野外ライヴに初レコーディングに初取材に初収録。
初物尽くしで高校生活最後の夏休みはあっという間に終わってしまった。
冬休みには引っ越しかぁ。
コレもまたあっという間なんだろうな。
でもとりあえずは“高校生モード”に戻らないと。
とは言えまだ卒業ソングが出来上がってない。
ムチャ振りオタクのテッちゃんにはとびきりの笑顔で
“「9月半ばには完成させてね!」”
って言われてしまい、ムチャクチャ焦ってる。
あの一件の後、結局関も作曲に参加してくれたから何とか曲は大筋で出来たし、詞もみんなの想いもアタシの想いも全部込めてほぼ完成なんだけど。
どうも最後の最後がキマらない。
みんなには、
“「名曲って意外とパパッと書いた曲だったりするんだよな」”
とか、
“「悩み始めたら悩むダケ悩み続けて抜け出せないぞ?」”
って言われてるんだけどさぁ。
とりあえず一旦離れよう。
“高校生モード”に戻ろう!!
学祭もあるしな。
「彩沢!関!!」
ある日の昼休み。
昼食を済ませ、ボケ〜っとしていたトコロに学祭委員長の水戸クンがやって来た。
水戸クンはウチらのトコロに来るなり唐突にこう言った。
「ステージ、もちろんワンワー出てくれんだろ?」
ウチらは全く予想してなかった展開に、つい目をまん丸くしてしまった。
「えっ!?」
『えっ!?』
2人声を合わせて。
「何だよソレ!!ツレねぇなぁお前ら」
ウチらの反応は想定外らしい。
学祭のステージをワンワーで???
2人とも唖然。
「売れっ子だからムリなんじゃない?」
「ギャラ払えんのか?水戸!!」
「学祭出れんの?」
イヤミが容赦ない。
でもウチらはそれどころじゃなかった。
アタシはスマホを持ってベランダに出た。
事務所のモトさん(本宮達基サン、37歳、2児の父) に掛けてみる。
まだマネージャーと言うまででは無いケドウチらの管理を今のところしてくれてる。
「アレヒヨちゃん、どうしたのこんな時間に」
高校生がこんな時間に電話しちゃそりゃ驚きもしますわな。
「やっぱり来たかぁ」
ヘッ?
アタシ、フリーズ。
“やっぱり来たか”???
予想してたんかぃぃぃ!!!
だったら対策教えとけや!!
「実は事前に学校側には話してあるんだ。あえてそうなった時に話すって事になってた」
ぅおおおおおぃ!!!!!
だからだったら言っとけやぁぁぁぁぁ。
と心の中で絶叫。
「色々、安全面や近隣の学校の関係とかも熟慮した上で、学校側は基本的に校外の人間のステージは認めてないからワンワーでのステージは禁止。だけどヒヨちゃんと関クンは生徒だから、2人が出るのはイイよって」
イマイチ飲み込めてなかったけどとりあえず水戸クンにはそのまま伝えた。
「そっかぁ。学校が禁止じゃ仕方無いな」
がっかりして水戸クンは帰っていった。
「やっぱりグレイトロック上がりは違うわね」
またイヤミ。
うるさいよ。
アタシと関で?
路上ライヴじゃん!!
「じゃオレら4人ダケの状態の音源があればイイんだな」
さすがテッちゃん!!
あったまイイ♪!!!!!
その日の放課後、練習だったからテッちゃんに言ってみた。
『関の友達や部のメンバーとかにお願いしようかとも思ったんだけど』
あの後に関と話したんだ。
“「学祭のステージに校外の人間が立っちゃいけないなら校内の人間でワンワー演りゃイイんじゃね?」”
って関が言い出して。
でも、
“「ただでさえ自分らの曲を練習しなきゃないのにそれの他に1ヶ月そこいらでワンワー何曲もなんて出来るわけねぇだろ!」”
とか、
“「演って2曲とかだ!」”
と言うお叱りを受けてしまい、その考えは敢えなく却下するしかなかった。
「イイんじゃね?2人ワンワー。面白そう」
まぁクンがかなり乗り気。
「またオレらが客観的に自分らのフロントマンを観る機会が出来たしな」
とセンちゃん。
「何演るか決めたら教えろよ」
ナオくんも賛成してくれてあっさりと2人ワンワーのステージが決定した。
「ソレも面白いな!分かった、ステージプログラムに入れとくよ」
意外に好感触。
“「ぁぁぁあん?」”
とか思いっきり嫌がられるかと思ったのに。
翌朝早速水戸クンに報告。
早速関と休み時間を利用して選曲を始めた。
「もちろん@は演るよな?」
同じクラスの男子が入ってきた。
「そりゃもちろん。みんなが知ってる曲は演るよ」
関が答える。
関とだってそんなに仲イイってワケじゃないコだからちょっとビックリ。
「いっちょ新曲演りますか姉さん!」
!!!!!!!!!!
ビックリして何かを詰まらせちゃった。
アタシ咳き込む。
「学祭の頃には出来上がってるだろ?ウチの学祭限定で初披露って言ったら盛り上がるぞ?」
スゴいワクワクした顔してるよコイツ。
「新曲!?イイんじゃね?メンバーが来ないならそのくらい蔵出ししろよ」
今度は別の男子が入ってきた。
結構みんな聴いてくれてんのね。
結局@とROCK!!と新曲を含む5曲に決定した。
最後がキマらないまま期限が来てしまったので、結局卒業ソングは仕方無くそのまま提出するしか無かった。
「ご苦労様。“桜の樹の下で”か。タイトルからしてイイね」
テッちゃんは笑顔で受け取ってくれた。
とりあえずはひと安心。
してイイのかなぁ。
後はどんな仕上がりになるかに期待するしかないか!!
プロの技術に乞うご期待!、・・・だな。
そしていよいよ。
「おはよう」
今日は学祭。
ウチらのステージを撮る為にモトさんを含めた事務所スタッフ数人がやって来た。
カメラクルーまで。
「他のメンバーから預かって来たよ。録りたてホヤホヤのオケ」
「ぁざ〜っす」
関が受け取った。
現在他のメンバーはレコーディングで泊まり込んでいる。
もちろん2ndの“桜の樹の下で”と全英語詞の“tomorrow”。
その傍らで今日用のオケを録ってくれたのだ。
「みんなからしっかり2人ワンワーを撮って来いってお達しがあったからね」
モトさんはカメラを指して苦笑い。
「挨拶してくるよ」
そう言ってモトさんは校舎に入っていった。
さっ、練習するか!!!
今日の練習場所は屋上。
じゃないと集中出来ないからって。
「天気良くて良かったな」
見事な青空を眺めながら関が呟いた。
確かに雨でも降ろうモノなら屋上で練習出来なかったからね。
屋上なら入口のドアに鍵かければ済むだけだからって、学校が許可してくれたの。
そりゃ学校だって下手にトラブルとか起きて欲しくないだろうからね。
「全国大会の前も、こうやって2人でココで練習やトレーニングしたな」
何だか1人でふけってないか?コイツ。
「まさかあの時はオレがメンバーとして加入するなんて予想もしなかったけどな」
仰向けになって空を眺めてる関が何だか無性に微笑ましく見えてしまった。
『そうだね』
関につられてアタシも仰向けになってみた。
“練習しろ!!!!!”
って声が聞こえそうだけど。
『気持ちイイね』
たまらず言っちゃった。
思えばこんなにのんびりした時間、最近さっぱり無かったから。
もちろん空を仰ぐなんてのも無かったな。
気ぃ抜いたら寝ちゃいそうだよ。
ダメダメ!練習しなきゃ。
気が付くと関のスマホが鳴っている。
「はい。おぅわりぃ!ぅす」
会話はたったそれだけだった。
「行くぞ」
呼び出しだったようだ。
アタシは関の前で立ち止まり、腰の前辺りに手を出した。
「えっ?」
戸惑う関。
『2人でもワンワーはワンワーでしょ?今日は2人でやろ』
アタシの提案に関はすっかり面喰らってる。
無理もないよね。
2人でなんて、円陣になってないのに。
「まだ早ぇだろ」
照れてる関。
確かにね。
でも…
『2人ワンワーなんだから2人でやんなきゃ。体育館行ったらモトさん達とかみんながいるでしょ』
アタシのコトバに関は照れながらも笑顔で手を前に出してきた。
「学祭ステージ、2人ワンワー、」
『思いっきり大暴れしてやるぅぅぅ』
一瞬止まり2人でアイコンタクトして笑い合っちゃった。
2人で改めて深呼吸して
『ぞぃっっっ!!!!!』
「ぜぃぃぃぃぃ」
突き上げた手の遥か先の青空に叫んだ。
『行くぞぉぉぉぉぉ』
つられて関も。
「しゃぁぁぁぁぁ!!!」
『ヘンなの』
くすっと笑いながら屋上を出た。
「オレが言うのもなんだけど“青春してる”ってカンジがするな」
歩きながら関が言った。
『えっ?』
聞き返さずにはいられなかった。
『関、今日おかしいよ』
さっきから浸ってばかり。
「青春だろ?今しか出来ねぇんだから。しかも制服でライヴなんてさぁ」
何だかいつもの関じゃないみたいだよ。
ドアを開けるとモトさん達が待ってくれていた。
みんなにハイタッチで迎えられる。
ライヴ前と後にいつもみんなでやりあうんだ。
テンション上がって来たよぉぉぉぉぉ↑↑↑
ライヴステージが始まるとイッキに体育館は盛り上がりを見せた。
合間を見て模擬店で腹ごしらえしつつ。
恥ずかしながらウチらは大トリ。
まだまだ先だけどステージは見たいからって下りてきたの。
“青春したい”からねっ。
とりあえずみんなと一緒に盛り上がる。
何か関のコトバの意味が分かってきたよ。
“青春してる”の意味が。
別に今のこの瞬間に限らず他にも“青春してる”瞬間は当然あったんだと思うケド、まさかその時は意識なんてしてないからね。
ウチらの前のバンドが終わった。
自然と関と目が合う。
2人でお互いをジッと見据えて大きく頷いた。
お互いの拳を突き合わせて。
ん???
次の瞬間、ウチらの顔が一気に変顔に変わった。
“つつじが原高校のみなさん、こんにちわ。wonderful☆worldです”
「えぇぇぇぇぇ!?!?!?」
大音量で関が叫ぶ。
何コレ!!!!!
館内がイッキにざわめく。
バッチリウチらの様子はカメラに収まっていた。
視線がイッキにウチらに集まる。
“今日はオレらはあいにくそちらには行けませんが、我がワンワーのフロントマン2人でステージなんてねぇ、”
“貴重ですよ?恐らく二度とないでしょう”
ナオくんに続いてセンちゃんが話す。
ウチらは物凄い視線の中、ステージに移動した。
“来月、いよいよメジャーデビューします”
テッちゃんはやっぱり淡々としている。
それでもフロアのみんなは盛り上がってくれてる。
“今日の音源は、もちろん今日の為の録り下ろしです。しかも未発表の、ヒヨと関の創った全くの新曲も演っちゃいますよぉぉぉ!”
テンションを上げるセンちゃん。
一段とフロアのみんなが盛り上がってくれる。
“「自分の高校、自分達の街からプロのミュージシャンが出た」と皆さんが胸張って言えるよう、我々全員精一杯頑張りますので”
まぁクンの声だ。
“来月発売のデビュー曲共々、ワンワーを”
“よろしくお願いしま〜す!”
テッちゃんに続いて、みんなが声を合わせて言った。
フロアが異様にコーフンしている。
「じゃ、改めて。モトさん達も!!」
関が言い出した。
やっぱり把握してないモトさん達の肩に触れて円陣を促す。
“では2人ワンワーの最初で最後のステージ、スタートです!!”
まぁクンのフリにフロアの歓声がイッキに沸き起こった。
みんなからのコメントに続いて、ウチらのライヴでのオープニングSEが流れ始めた。
否応なしにテンションが上がる。
苦笑いのアタシと関。
ここまでやるかぃ。
最近逢ってないみんなの顔が過る。
“ありがとう”
もう一度みんなに感謝してアタシからモトさんに言った。
『モトさん、お願いします』
「え゛っっっ??オレ!?」
当然、戸惑うモトさん。
“ヒヨリぃぃぃぃぃ!!”
“関ぃぃぃぃぃ!!!”
フロアからは多くのコールが聴こえる。
関も笑顔で待つ。
カメラを向けられ、あからさまに動揺しているモトさん。
咳払いして口を開いた。
「学祭スペシャルライヴ、オレは見てるダケだけど」
みんな吹き出す。
「全身全霊をかけて、大暴れしちゃうぅぅぅぅぅ」
『ぞぉぉぉぉぉい↑↑↑』
「ぜぃっっっっっ↑↑↑」
「ぜぇぇぇぇぇっ‼」
モトさん達スタッフにハイタッチで見送られ深呼吸しながらステージに出た。
歓声が大きくなる。
手を上げて応える関。
同じステージに立つ関も含めて観客の大半が同じ服って異様な光景だなぁ。
しかも制服でのライヴってのも何だか異様。(しかも体育館シューズで)
カーキ色のブレザーに黒のプリーツスカート。
学年別のリボンでウチらは緑に白のブラウス。
新鮮と言えば新鮮なんだけどね。
「ひーちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」
「純ちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」
純ちゃん??
あぁ、関って純ちゃん(関純也)なのか。
忘れてたよ。
「純ちゃんて言うな!!」
照れ隠しにマイクを通さずに叫ぶ関。
『ご声援ありがとうございま〜っす!ひーちゃん純ちゃんでぇっす♪』
必要以上にテンションを上げる。
みんなも必要以上に盛り上がってくれてる。
「純ちゃんて言うな!!」
今度はマイクを通して突っ込む関、もとい純ちゃん。
「んじゃぁ早速最初で最後のスペシャルステージ、行くぜぇぇぇぇぇ!!」
恥ずかしさをごまかすためか関がさっさと進めた。
ちなみにMCの打ち合わせは一切ナシ。
今日は自分らの学祭のライヴなんだから自然体で行こうって2人で決めて。
この格好じゃ気取るもへったくれも無いしね。
一曲目は“ROCK!!”。
フロアとの一体感を出すにはコレでしょうと言うコトで。
この曲は途中で関のサックスが入る。
グレイトロックでも演った曲。
1曲目で全体がほぼ一体になれたトコロで2曲目と3曲目を立て続けに演る。
ソコでMC。
「次の曲は、ひーちゃん渾身の新曲です」
歓声が上がる。
簡単にいきさつを説明。
『“卒業ソングを作りたいから当事者のお前らが創れ”と言うお達しが出て、みんなの協力を得てアタシがまとめました。曲は純ちゃんと作りました』
大拍手。
『ありがとうございます』
軽くアタマを下げる。
関がプチボイコットしたコトは言わないでおこう。
「つい先日出来上がったばかりなのでウチらもどんな仕上がりになったか分かりません。なので凄い楽しみです」
今回演るのはアップテンポバージョン。
と言うコトでアタシはコーラス(サビ)とラップ(間奏)とピアノ。
歌うのは関。
アタシが体育館のピアノに座る。
「ひーちゃぁぁぁん!!」
歓声に軽く会釈。
そっと深呼吸してピアノに手を添える。
この曲はアタシのピアノから始まる。
イントロを弾き終えた後、ステージ中央に移動する。
とりあえずはみんなノリで盛り上がってくれてる。
「“お元気ですか?”」
関が歌い出す。
歌い出し、一番悩んだよ。
悩んだ末の“お元気ですか?”ですけど!!
アレレ?
みんな固まってる。
もしかして引いてる?
うわぁぁぁやっちゃった??
やっぱり“お元気ですか?”は無かったかなぁ。
不朽の名曲の予定がぁ・・・。
“お元気ですか?”じゃダメかぁ。
落ち込んでも、顔や声には出せないから。
つい関の顔を見てしまう。
「“世界中ドコを捜したってこんな出逢いは二度とないから”」
はぁ??
歌いながら関はアタシを見てガッツポーズしてる。
何でよ!!!!!
とりあえずコーラスに入って前を向く。
「“もしもあの時”」
.....ぅ゛え゛え゛え゛え゛え゛?????
泣、い、て、る??????????
良く見えないけど、泣いてる人チラホラいないか?
このみんなの涙はなんだろう。
感動??
それとも落胆?????
どっちだ?
気になるよ。
気になるアタシと、喜び満面の関。
歌い終わると割れんばかりの拍手喝采が沸き起こった。
アタシ、当然号泣。
座り込みたいのを我慢。
「ひよぉぉぉ!!!」
男子の低めの声援が余計に響く。
関がアタシの肩に手を回してきた。
ヤメろバカぁぁぁぁぁ!!!!!
余計に止まんなくなるだろがぁぁぁぁぁ!!!!!
「ラストぉぉぉぉぉ!!!」
力の限り関が叫ぶ。
関の目にもうっすら涙が見える。
『みんなありがとぉぉぉぉぉ!ラストナンバー“@”!!』
涙声爆裂で叫んだ。
よっぽど思い余って、こんなコトまで叫んじゃった。
『青春しようぜぇぇぇぇぇい!!!!!』
って。
盛り上がりは最高潮を迎え、思わぬアンコールもあり、サイコーの盛り上がりの中スペシャルステージは終了した。
「気持ち良かったぁぁぁ」
『ねっ』
その後は片付けに参加出来ないほどたくさんの人達に囲まれて2人でゆっくり話も出来なかったから、夜、明日からの秋休みを利用したレコーディング合流の為に東京への移動中に2人で遅ればせながら余韻に浸ってた。
「頑張った甲斐があったな。良かったな。おめでとう」
関が笑顔で握手を求めてきた。
『ありがとう』
こうして、不朽の名曲は出来上がってしまうのだった。。。