幾千の出逢いと一の奇跡
“ウチのバンドっておかしいんじゃないだろうか・・・”
グレイトロックの当日、ふとそんなコトを考えた。
誰1人として緊張してないんだもん。
フツー緊張するだろ。
グレイトロックだぞ?
初の野外だぞ?
客席、だだっ広いんだぞ?
国際的な音楽の祭典だぞ!?
少しは怯めよ!!!!!
ってオマエもな!
って言われそうだけどね。
確かにアタシも緊張していない。
むしろワクワクしている。
リハの時も開演直前の今も...
もしかして緊張し過ぎて逆にナチュラルハイってヤツか!?
・・・そうかも。
人間、感情が強すぎると1周してしまうのかも知れない。
確かに昨夜キャンディバーのメンバーさんとお話し出来たからウチのメンバー全員のテンションが上がってるってのはあるよ?
男子全員がリスペクトするバンドだからね。
あのテッちゃんが感情をあらわにしたくらいなんだから。
リハの時も演奏中もずっと龍神サンがソデから見てくれてたって言う緊張はあったけど。
そのお陰もあったかもな。
客席には見たコトがある顔がたくさんいてそういう緊張は全く無かったし。
いつものライヴみたいで。
もちろん話題性から初めて観てくれている人の顔もたくさんあったけど知ってる顔のお陰で自然に出来たし。
全国大会の時の方がよっぽど緊張したワ。
まぁまだアマチュアのウチらはもちろん一番下っ端の扱いだから演奏も一番最初だから余計にラフな気持ちで出来たってのはかなり大きいと思うけどね。
終わった後は思う存分グレイトロックを楽しんだよ。
みんなバラバラになって自分の観たいライヴを観に行って。
と言ってもキャンディバーの時は当然全員集合したけどその後はアタシはもちろんvivienさんのトコロにも行って。
観てくれていた御礼も兼ねてね。
控室でメンバーを見送った後アタシは大急ぎで客席に行った。
ウチのメンバーが全員揃っていた。
「ウチのカオがリスペクトするバンドだ。観とかないとな」
ナオくんが言った。
『そんな』
“ウチのカオ”って...
テレますなぁぁぁ。
そうじゃなくてもメンバーは“日本を代表するバンド”としてもvivienさんには敬意を表している。
「別にヒヨのプライベートにまでとやかく言うつもりはナイけど、相手が超大物だってコトは忘れないようにね」
テッちゃんのコトバの意味が分からなかった。
けど、
『ん?・・・、うん...』
戸惑いながら答えた。
ハテナを飛ばしながら。
「だぁいじょうぶッスよテツさん!!!!!」
ん?
アタシのハテナが吹き飛ぶくらいの砕けた関のコトバと高笑いが響いた。
吹っ飛んだハズのアタシのハテナがまた現れた。
何のコト?
「あの“天下のvivien”の龍神がこんな小娘なんか相手にするワケないッスよ!」
関、笑いすぎ!!!
んんん?“相手”??
演奏が始まってるのに、会話が気になる。
「だからこそ余計気を付けないとな」
はぃぃぃぃぃ?????
何言ってんだよこの2人は。
気にせずライヴに集中しようっと。
だけど、、、
“ドライブ行こうね”
を思い出してしまいそのコトバがアタマから離れなかった。
んなワケないよね。
バカバカしい。
アタシは17歳、龍神サンは37歳なのよ?
どう頑張ったってただのガキにしか見えないでしょ。
ましてや相手は超大物、神の域に達するくらいの人よ?
んなワケないじゃない!!!!!
圧巻のステージで8曲を終え、アンコールの声が響いている中アタシのスマホが鳴った。
「ヒヨ、鳴ってっぞ」
気付いてくれたのは隣の関だった。
龍神サンだ!
心臓が突き抜けるくらいの衝撃。
ライヴ直後のタイミングで電話なんて・・・!
関がテッちゃんに伝えたのかみんなの視線がアタシに集まる。
アタシはその場を離れて少し離れたトコロで出た。
『もしもし』
努めて冷静に。
電話の向こうは賑やかだ。
「アンコール、一緒に歌ってくれないかなぁ」
『え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?????』
力の限り叫んでしまった。
叫びすぎてノドがやられそう。
スマホを離さずに大騒ぎしたにも関わらず冷静な龍神サン。
「blue moon 歌えるよね?」
なっっっっっ!!!!!
しかもblue moon!!!!!?????
アタシが一番好きな曲だ・・・。
ウソでしょぉ?
ぃや、ウソだってか夢だ。
金縛りかってくらいに固まる。
「ひよりちゃん?」
龍神サンの問いかけにも答えられない。
彩沢陽依、硬直中。
今日一番、いや!人生イチの緊張を今、全身で感じている。
時が止まる。
「待ってるからね」
電話が切れた。
「ヒヨ?」
関にカラダを揺すられやっと現実に引き戻された。
「何だって?」
とその時イッキに歓声が沸き起こった。
足がすくむ。
ステージ上の龍神サンの登場に気を失いそうになる程に動揺。
今のアタシの心拍数、計測不能だワきっと。
苦しさすら感じ始めてる。
スタッフらしき人がこっちに向かってくる。
近付くに連れスタッフさんのネームが見えてきた。
“vivien'staff”
メチャクチャキレイな女性。
「この度、オレにもやっと」
龍神サンがマイクを通して話し始めた。
客席はざわついている。
「vivienのマネージャーの海崎です」
キレイな女性はテッちゃんに挨拶してる。
「プロデューサーには許可を頂きました。彩沢さんにステージに上がって頂いても宜しいですか?」
あ゛〜あ。
プロデューサー許可のマネージャー経由じゃアウトだな。
「もちろんです。光栄ですし彩沢の勉強にもなりますから是非!宜しくお願い致します」
テッちゃんは海崎サンにアタマを下げた。
「この世界で妹と呼べる存在が出来たんだ」
ドキ→→→→→ン!!!!!
何かに撃たれた...
どよめく観客。
vivienはこのステージの大トリ。
当然満員御礼。
盛り上がりはこの上ないほど。
加えて入場制限付き。
「年離れ過ぎだろ」
ギターの雷神サンが笑う。
「確かにな。彼女じゃねーよ。ビックリした??」
おどける龍神さんに客席はどよめいているけどアタシは全く表情を変えられなかった。
ウチのメンバーの視線がモーレツに痛い。
ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ→→→(脳の中の何かが壊れた…。)
「ありがとうございます。お預かり致します」
海崎さんの手がアタシの前にぃぃぃ。
「お願いします」
なっ!なんて眩し過ぎる笑顔なんだ!?
この笑顔すら神の域だぞ。
アタシは海崎サンに手を引かれるままステージに向かった。
「彼女は、友達と行ったオレらのライブがきっかけでバンドを始めたらしい」
移動中のアタシに気付いた観客がざわつきだす。
心臓が動いてるかどうかすら判断出来ない程に大暴れしてるよ。
「そのコがこうやって今、グレイトロックって言うステージに一緒にいれると言うコトは、オレにとってこの上無い光栄なワケだ」
拍手と歓声があがる。
「紹介します」
龍神サンがステージの一番前に来てアタシに手を差し出してきてくれてる。
眩しすぎて直視出来ないよ!!!
悲鳴、文句、怒号、罵声、歓声、拍手、声援全てが耳に入る。
「今年のグレイトロック、日本代表、wonderful☆worldのボーカル、彩沢陽依さん!」
もはや何が何だか分からなかった。
思考回路は完全に停止していた。
満員の客席。
経験したコトのない数の人達の視線がアタシに集まっている。
気力と本能だけがアタシを動かしていた。
「お邪魔します。初めまして、wonderful☆worldボーカルの彩沢陽依と申します。宜しくお願いします」
マイクを向けられ、アタシが口から出たコトバ。
自分でも不思議だった。
こんなに未知の世界とも言えるオーディエンスの前でこんなに堂々としていられるなんて。
しかも完全アウェイとも言える状態で。
何せ思考回路が完全停止してるモンで、こんなコト言えるのが自分でもビックリで。
一応拍手が起きた。
もちろん良く思わない人だっているだろう。
そんな人の為にもアタシは全身全霊を掛けて精一杯歌った。
“「ココにいる全員、オマエのファンにしてこい!!オマエなら出来る!」”
そう言って送り出してくれた関やみんなの笑顔がはるか遠くに見える。
コレは夢か?
隣に龍神サンがいて、同じステージに立っていて、vivienのメンバーがいて、アタシが一番好きな曲を2人で歌っていて。
こんな夢、贅沢過ぎるにも程がある。
バチ当りの域だよ。
でもあっという間に終わるあたり、やっぱり夢だったのかな…。
「wonderful☆worldの彩沢陽依ちゃんでした!」
終わっちゃったぁぁぁ。
歌う前よりは歓声が大きくなっていたのにはちょっと安心した。
たくさんの拍手の中みんなの元に戻るとみんなはサイコーに温かい笑顔で迎えてくれた。
いつものようにもみくちゃにされて。
「オマエすげぇよ!こんなに大勢の中で堂々としてたよ。アッパレだ」
珍しくテッちゃんが昂っている。
みんなもメチャクチャ笑顔で。
こっちは死にそうだったケドね。
やっぱり普段から歌ってる曲だったしみんながいてくれたし。
『みんなのお陰だよ』
もみくちゃにされながらも言った。
「まさかヒヨを客席から見ると思わなかったよ。何か遠くにヒヨがいた」
『センちゃん、ヤメてよ恥ずかしい!!』
ホンキで照れちゃうよっ。
「確かに初めてヒヨを客観的に見たワ。オレらにとってもイイ経験だったな」
ナオくんまで。
関は無言だった。
しかも不機嫌そうに。
「関も何か言ってやれよ!ヒヨが頑張ったんだぞ?」
まぁクンに促された関が放ったのは、たった一言、
「お疲れ」
と、実に気のないコトバだった。
目も合わさずに。
何だ?コイツ。
ヘンなヤツ。
夜、ホテルの部屋に戻ってもアタシはまだ夢見心地だった。
たくさんの人達の前で龍神サンと、一番大好きな曲を歌えた。
そう簡単には余韻が消えるワケがないよ。
地に足がついてない。
あ゛っっっ!!!!!
ヤバっっっっっ。
こんな場合じゃないよ、龍神サンにメールしなきゃ!!
“今日は大変貴重な経験をさせて頂きありがとうございました”
送信!っと。
ふぅぅぅぅぅ。
ひゃぁぁぁ。
また余韻に浸る。
おっ!?
スマホが光ってるよ?
メールだ。
龍神さんだ!!!!!
返事かな。
“こちらこそありがとう。今ご丁寧にテツくんが挨拶に来てくれたよ。とっても良いバンドだね。羨ましいよ。あっ、ブログ見てね。おやすみ”
えっっっっっ?テッちゃん!?
急いでテッちゃんに電話した。
「おぅヒヨ、どうした?」
もう部屋かな?周りが静かだ。
『龍神サンのトコに挨拶に言ってくれたんだね、ありがとう』
「ヒヨにとって貴重な体験させてもらったんだ、リーダーとして御礼をしただけだよ。相手は天下のvivienだしね」
やっぱり淡々としている。
“天下の”かぁぁぁ。
そりゃそうだよな。
ウチらは今はまだアマチュア。
かたや相手はデビュー15年超の大御所。
今や海外ツアーもやっちゃう程の。
当然粗相は出来ないよね。
あ゛っっっブログ!
いつもチェックしてるのに今日は余韻に浸ってばっかりだったよ。
龍神サンのブログ。
え゛ぇぇぇ?
テッちゃんと龍神サンのツーショットが。
しかも2人の手にはビール。
ナニ意気投合してんのよ!!
“wonderful☆worldはみんな良いヤツだ。「ウチのひよりに大変貴重な経験をさせて頂きありがとうございました」って、ビール片手にリーダーでギターのテツがご丁寧に挨拶に来てくれた。しかもオレより遥かに年下なのにさすがグレイトロックの日本代表になるバンドを引っ張ってるだけあって考えがハンパなくしっかりしている。「オレ達にとっても、自分達のボーカルを客観的に観れるイイ機会でした」なんて言われて、オレ鳥肌立っちまったよ。テツもメチャクチャ気に入った”
テッちゃん!!!!!
スゴいね、あの龍神サンにここまで言わせて。
アタシはやっぱりどう考えてもスゴいバンドにいるんだね。
そしてありがとう。
あたしゃホントに周りに恵まれてるな。
と、人との出逢いに感謝しつつ。
空を眺めると無数の星が空一面に散りばめられていた。
人との出逢いもこの星空みたいに無数にあるのに、その中でこんなに奇跡みたいな出逢いもあるんだね。
星空を眺めながら考えた。
もしもあの時、関が連れていってくれたのがあの楽器店じゃなかったら・・・。
一緒に行ってもらったのが関じゃなかったら?
ワンワーがメンバー募集をしていなかったら?
アタシがボーカルとして採用されてなかったら?
ワンワーのメンバーが、このメンバーじゃなかったら?
そう考えたら途方もない程の確率の出逢いなんだよね。
ぅおっっっっっ!!!!!
また歌詞が浮かんできたっ!!
すかさずメモしよう。
今夜はイイ夢が見れそうだね。
おやすみなさい..........