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キズナ

気を取り直してアタシと関は駅の近くのカラオケに移動した。


「テツさんにメールしといたよ。ココにいるって」


アタシが選曲している間に関はそんなコトをしてくれていたのか。


『ありがとう』


みんなのコトは信じてるけど心配は心配。


テッちゃんには帰れって言われたケド気晴らししたかったから関に付き合わせて。


練習の続きにもなるしね。


「無理もねぇよ。きっとみんなそれぞれにプレッシャーを感じてんだよ。今だってフロントでお前声かけられただろ?」


関の言うコトは確かに思うよ。


プレッシャーはハンパないって。


だけどそんなヒマは無いのも事実なのに。


確かにさっきフロントで声かけられたよ?


“「頑張って下さい!」”


って。


今に限らず最近やたらと声をかけられる。


“写真撮って下さい”とかも。


それはアタシだけじゃなくみんなもそうだと思う。


実際ライヴの動員数も増えてるし。


それがあーいうコトになったのも分かるよ。


だけどそんなの大好きなみんなじゃないから。


グレイトロックって言うとてつもないモンスターに潰されるなんてワンワーらしくないから。


だからアタシは言っちゃったんだ。


言って後悔してるけどね。


気が付くとため息。


「言って良かったんじゃねぇの?」


見かねたのか関が一言。


「ヒヨが言ったってのは意外とデカいと思うぞ」


恐らく気のせいだと思うけど関が頼もしく見えた。


『だとイイんだけどね』


またため息。


「だって無理無いよ。相手はグレイトロックだぞ?デカ過ぎるよ。あーなって当然だよ」


関のいうコトはそりゃ全くだ。


『だけど目の前であからさまにメンバーが押し潰されんのなんて見たくないよ』


アタシは窓の外を眺めていた。


『他にも大会は何コかあるんだし、アタシは全国大会に出れただけで十分だと思ってる。だってさぁ、グレイトロックの全国大会に進んでるハズのバンドが他の大会であっさりコケてたらおかしいでしょ?だから“グレイトロックだから”とか何とかってのはしたくないの』


コーフンして涙が滲んでいた。


「それもまた男女の違いなのかもな。やっぱり男女混成の方が上手くいくかもな」


含み笑いで関が言った。


『関、やたら“男女の違い”にこだわるね。何かあったの?』


最近のキーワードか?


関、今自分のバンド演ってないし。


「いや、ワンワーを見てるとつくづく思うからさ。今までヤローだけでしか組んだコトねぇから」


ふーん。


何だか思わせ振りだけどあえて突っ込むのは止めよう。


たぶん今までの自分の過去を振り返って言ってるんだと思うから。


しかし何だかんだ言って結局歌ってるより喋ってる方が多いな。


「よし!歌うぞ!!」


何故か突然、関が吼えた。


関が入れたのは関が大好きで超リスペクトしているバンドの曲だった。


アタシも関の影響で聴くようになって。


だから関とカラオケに来るとアタシが入れた曲も関が入れた曲もお構いなしにひたすら2人で歌ってしまう。


気晴らしにはもってこいなのだ。




もうそろそろ練習が終わる時間だな。


『大丈夫かなぁ』


また外を眺めながらぼんやり呟いた。


「大丈夫じゃないワケねぇだろ。大丈夫じゃなかったらどうすんだよ。こんなんでどうにかなるようなバンドか?」


関が鋭く突っ込む。


『そりゃ、そうだけどさぁ』


ちょっとふてくされる。


「後悔してんのか?」


ズバリ関に指摘される。


『ちょっとね』


ひきつるアタシ。


「後悔する必要ねぇって。さっきも言っただろ、ヒヨが言って良かったんだって。ヒヨはワンワーの起爆剤だから」


“ワンワーの起爆剤”?


今日の関はヤケに頼もしい。


アタシが弱ってるからかなぁ。


弱ってる時ってココロにスキマが空いちゃうからちょっとしたことでも良く見えたりするもんだからな。


でも、、、


『ありがとね』


言わずにはいられなかった。


「あん???」


照れ隠しなのかニラみ返されてしまった。


「何だよ歌ってねぇのかよ。入れろ入れろ!!」


ナオくん?


「もしかしてお取り込み中だった?」


まぁクン??


えっ?????


みんながぞろぞろと入ってきた。


センちゃんもテッちゃんもいる。


みんないつも通りだ。


良かったぁ。


「時間延長してきたからさ、歌うぞ!!」


無理になのか張り切るナオくん。


“ごめんね”


って言い掛けた。


そしたらテッちゃんが何も言わずただ優しく微笑んで頷いた。


気付いたまぁクンも同じように笑顔で頷いてくれて。


練習後のミーティングがワンワー史上初めてのカラオケに変わったってのが今回の一番の功績かも知れない。


みんなよっぽど溜まっていたのか物凄く盛り上がっちゃって。


アタシの発言が効いたのかこのカラオケが効いたのかは定かじゃないケド、何にしてもその後の練習はみんな肩の力が抜けていつも通りの練習に戻れた。


「あの時カメラ来てなくて良かったな」


なんて笑い話になるくらい。


『来てたらアタシキレてたかなぁ』


考えると恐ろしいワ。


でも後日談としてはテッちゃんがインタビューで答えてた。


「もうワンワーは大丈夫だろうな。後は優勝に向かって一直線だ!」


ある日の昼休み。


ここ最近昼休みは関にトレーニングに付き合ってもらってる。


腹筋してる最中に突然関が言い出した。


『何よ突然。言ってるでしょ?全国出れただけで十分だって』


呆れるアタシ。


『他の大会もあんのよ?』


アタシはまるっきりその気なし。


メンバーじゃない関が張り切っている。


腹筋を続けた。


「オレもワンワーに入れば良かったな」


あまりにも切なそうにボソッと言う関にアタシは不覚にもドキッとしてしまっていた。


関のこんな寂しそうな表情なんて見たコトが無かったから。


アタシは何も言えなかった。


“入れば?”なんて軽々しく言えないし、


“ワンワーよりもスゴいメンバー見つければイイじゃない”なんて無責任なコトも言えない。


アタシは腹筋を続けた。





でもその日の夜アタシはテッちゃんにメールしてみていた。


“関をメンバーに入れられないか”


って。


想像以上にテッちゃんは驚いていた。


「どうしたの?ヒヨ」


なんて。


最近の関の発言と昼休みの発言を話して。


「アイツもメンバーに苦労したんだろうな」


ボソッとテッちゃんが言った。


テッちゃんはすぐに続けた。


「ヒヨはすぐにワンワーだったから分かんないと思うけど、メンバーの相性って、なかなか難しくてさ」


テッちゃんも経験者なんだろうか。


コトバの端端に何かを感じた。


アタシは恵まれていたんだな。


「オレがワンワーに絶対の自信を持ってるのはソコなんだ。」


えっ???


意味が分からなかった。


「ヒヨが入ってメンバーが全員揃った時にピンと来た。インスピレーションてヤツ」


直感??


「メンバーとの相性なんてインスピレーションなんじゃないかな。じっくり音楽性を話し合ったっていつかは食い違うし、音楽性が合ったって人間的に合わなきゃどうしようもないし。初めて合った時に感じた。この前ヒヨが帰った時にそんな話になってさ。ナオもまぁもセンも言ってたよ」


コレは奇跡なんだろうか。


全員が全員同じコト思うなんて。


全員が同じコトを思うなんて、奇跡以外の何物でもないよね。


「だけどオレは、関もステージには上がらないけどwonderful☆worldの立派な一員だと思ってるよ。みんなもそう思ってんじゃないかな」


アタシはその夜、詞を書いた。


この出逢いに感謝して。


みんなで共作に出来たらイイななんて思いながら。










昨夜のグレイトロックの番組でウチらがオンエアされた。


テッちゃんがインタビューで話した、“あの事件”のコトを見事に取り上げられて“奇跡の復活”なんて言われちゃって。


関が言ってたみたいに“後は優勝一直線!!”だとも言われて。


“トラブルを乗り越え視界が完全にクリアになったwonderful☆world。”


なんて大げさなナレーションまで。


アタシは狙ってません!!!


て心の中で叫んだよ。


でもみんなはこのフレーズをやたらと気に入っちゃったようで…


スローガンかのように口に出している。


“優勝一直線だぁぁぁ!!”


って拳を突き上げたりなんかして。


“「天狗になるな」”ってテッちゃんに言われてる。


他の大会の予選やライヴハウスや対バンの人達からの出演依頼が増えちゃってバイトに学校に練習にライヴにで、アタシは嬉しい悲鳴が止まらずやむ無くバイトを休職するコトになった。


アタシは退職を申し出たんだけど店長が休職にしてくれて。


「頑張って来いよ!」


って言ってくれたり。


バイトがなくなって気持ち的にはラクになったけどそれでもハードな日々は続いて。


この数ヶ月、ホントに殺人的だった。


いくら体力が有り余っている女子高生とは言えコレはツラすぎた。


関との昼休みトレーニングが睡眠時間に変わってしまうコトもしばしばで。


その代わりってワケじゃないけど、毎朝のランニングはずっと欠かさなかった。


アタシがワンワーに加入した時から続いているから。


もう完全に習慣だよね。


朝、自然とその時間に目が覚めちゃうんだ。


どんなに睡眠時間がなくても。


恐ろしいワ。


今までの予選の日も喜びに明け暮れた翌朝も欠かさなかった。


特に今朝はいつもよりも早く目が覚めた。



そう、いよいよ


グレイトロックフェス全国大会当日-----


前の日は早く寝たよ。


テッちゃんに釘刺されて。


“「ここまで来たら後はベストを超える状態で挑むしかない。だから今夜はすぐ寝るコト。深酒しなきゃ酒も許す。ヒヨはダメだけど。とにかく寝ろ。睡眠不足なんてふざけた真似したら容赦なくブッ飛ばす」”


普段のテッちゃんとは思えないほどの迫力だった。


みんな頷くしかなくて。


ためらいながら頷くしかなかった。


だから練習後のミーティングも無しで。


そのせいと緊張のせいなのかいつもよりも早く目が覚めちゃった。


だからいつもよりも早くランニングに出た。


3月の早朝だからちょっとツラいケド、それよりもアタシはコーフンしていた。


距離は変えずに近くのスーパーの駐車場で控え目に発声練習をしてみたりして。


何だかヤケに清々しい気分だった。


“「やるしかない」”


そう覚悟を決めてたから。


途中でみんなにメールしてみた。


“おはようございます。目覚めはどうですか?いよいよだね。ここまで来たらやるしかないよね。いつものワンワーらしく楽しくやろうね。みんな、ありがとう。ワンワーに入ってホントに良かったです。みんな大好きだよ!ヒヨ”


こんな早い時間いつもならみんな寝てる時間。


だけどテッちゃんからもメールが来た。


“みんなへ。

おはよう。ちゃんと寝れたか?マジで寝不足はブッ飛ばすからな。いよいよ本番だけど、コレが全てじゃないから気負うことなく、肩の力を抜いて頑張ろうな!!オレは正直、wonderful☆worldならイケると本気で思ってる。だから大丈夫。自分を、仲間を信じて。関も合わせて6人でワンワーだ。byテツ”


ちょっとアツくなっちゃった。


“自分を、仲間を信じて”


ってトコが特に。


しかも関の名前まで。


続けて来たのはまぁクン。


“オッス。あんまり早く寝たモンだから夢見ちゃったよ。全員でステージに立ってて、目の前にはたくさんの人がメチャクチャ盛り上がってて。気分良かったぁ。だからさ、みんなも想像しろよ。オレだけ1人こんなに気分イイの、イヤだから。ステージ上にテツもヒヨもセンもナオもいて、目の前には満員の観客でみんな盛り上がってる。ステージの袖には関もいる。気分イイだろ?今日は絶対大丈夫だ!行くぞ、優勝一直線だぁぁぁ!!”


歩きながら泣き笑いしちゃうよ。


何かホントにみんなサイコーだよ。


2人のメール、保存。


みんな関にも送ってるのかなぁ。


それにしてもまぁクンからのメールが来た今でまだ5時だよ?


確かに今日の集合は7時だからいつもよりは早く起きなきゃいけないケド。


ナオくんとセンちゃんはまだ寝てんのかな?


メールを読み終えてジーンとしながらも再び走り出して家に向かった。


ん?着信ランプが点滅してる。


どっちかな。


センちゃんだ!。


“ぁんだよオマエら、目覚めてびっくりしたよ。ヒヨ、大丈夫か?寝れたか?wonderful☆worldはヒヨで持ってるようなモンだからさ。テツの冷静な判断も、ナオの音楽に対する誰にも負けないアツい想いも、まぁの明るくてみんなを想う気持ちも、関の絶妙なサポートも、それがあってwonderful☆worldだから。オマエらでホントに良かった。もうこの先これ以上の出逢いは無いと思うから、今日は思う存分暴れような。”


ダメだ、泣けちゃうよ。


何なの!?この展開。


センちゃんのメールを読んでる途中、ナオくんからも届いた。


それだけでさらに泣ける。


“オマエらずりぃぞ!人が寝てる間に!!オレが言うコト無くなるじゃねぇかよ。今まで何度もバンドを辞めて来て、正直初めはワンワーもそんな気持ちだった。だけどすぐにその不安は消えた。センの言うコトはもちろんだけど、ワンワーの音楽の源はセンの抜群のドラムセンスだ。センだけじゃなく、誰1人として欠けたらワンワーじゃない。もし誰かが何らかの理由で辞めたとしても、新たにメンバーを加えたらきっとそれはワンワーじゃないと思う。オマエら全員まとめて最強だよ。この世のモノとは思えねぇ。サイコーだ!”


いつの間にか声を出して泣いていた。


ホントにみんな、グレイトだよ。


こんな時に泣かせないでよ!!。


そして最後に関からも。


“ヒヨの付き合いで行ったのがきっかけでオレまでこんなグレイトな想いを味わえて、本当にオレは幸せモンです!オレはステージには立てないケド、気持ちはステージにいさせて下さい。ヒヨの隣で歌ってるつもりで応援してます。そして、勝手に居座ってるオレに何も文句も言わないどころか、こんなに受け入れてくれて、感謝のしようもありません。本当にみんな大好きです。ありがとうございます。5人なら大丈夫です。こんな最強なバンド、見たコトないです。オレは宇宙一の幸せモンです。”


関の分際でなかなかやるじゃないの。


アタシも関に相談してなかったらこんな風にはならなかったと思うしね。


そもそもアタシのメールが発端でこんな展開になるとは思いもしなかったよ。


こんなコトならもっと想いをぶつければよかったなぁ。


なんて後悔しつつまた思い付いたコトをこの前書いた詞のページに続けた。


今日が終わったらきっとまた新たに書きたいコトが増えるだろうから、みんなに見せるのはまだにしよう。


さっ!そろそろ戻って準備するか。


とにかく楽しむぞっっっ。


顔を出し始めた朝陽がヤケに輝いていた。

























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