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信じていたい

ウソ...でしょ?


夢だよねぇ‥‥‥‥‥。


どんだけ凄いバンドなのよ、wonderful☆worldって。


全国大会だよ??


“あの”グレイトロックの!!!


あたしゃもう満足だよ。


その証拠に名前を呼ばれてからしばらく涙が止まらなかった。


目が見事に腫れてる。


会場を出た今でも思い出すと感動が込み上げてきて涙が滲む。


さすがのまぁクンもテッちゃんも浮かれていた。


「いやぁ・・・、オレ的には3度目の正直で一気に全国かよ」


遠くを見つめながらナオくんが呟いた。


「オレも5年越し」


とまぁクン。


「言っただろ、行くと思うよって」


イヤミっぽいテッちゃんのコトバもまた、みんなのテンションを更に上げた。


みんなのテンションはしばらく収まらなかった。


アタシはその姿を見てもじわっと涙が込み上げるのだった。


カメラマンさんが1人ウチらに付いてきている。


番組用らしいんだけど、今の状態だとカメラが向けられてようが向けられてまいがテンションは同じだった。


“「誰か報告に行ける人いませんか?どこにでもいいんですが」”


テレビ的な映像の為にと求めるカメラマンさんに応えたのは協議の結果、アタシになってしまった。


家族よりも反応がありそうだと判断し、バイト先に行くコトに。


行くとみんな明るく温かく迎えてくれて、みんなの表情に加えカメラがいるコトで敏感に察して一気に大喜びしてくれた。


報告した本人が一番驚いてるけどね。


その後カメラマンさんは帰っていった。


全国大会まで何回か取材にくるらしい。


正直、オンエアを見るまでは実感沸かないかも。




・・・と、思ったんだけど..........






影響はまさかの練習中に如実に出てしまうコトになる。


「ゴメン」


練習中、まぁクンがいきなり演奏の手を止めた。


気にせずみんな平然と演り直す。


だけどソレはセンちゃんにも感染した。


「何演ってんだよ!」


キレるナオくん。


イヤな予感がしてならなかった。


すかさずテッちゃんが判断した。


「休憩!」


ちょっとひと安心。


無言のまま喫煙組はスタジオを出ていった。


アタシもみんなのコーヒーを買いに外に出た。


喫煙所のセンちゃんとナオくんとまぁくんは笑い合いながら楽しく話していた。


さっきの雰囲気がウソみたいに。


だけど練習終了後のミーティングでまた起きた。


「全国大会だぞ!?どーゆーコトか分かってんのか?」


まぁクンの何の気ない一言にナオくんが噛み付いた。


2人ともそれぞれにグレイトロックには並々ならぬ思いがある。


でもそれはみんな同じ。


ダブってしまっている大会の予選について話している時だった。


合格通知が来ている2つの大会もしっかり同じテンションで受けようと言うまぁクンに、他の大会は捨てようと言うナオくん。


メンバー内の衝突は今に始まったコトではない。


むしろ良くあるコト。


だけど間違いなく言えるのは、今まで以上にちょっとしたコトが原因になっている。


フタコト目には、


“「全国大会だぞ!?」”

“「グレイトロックだぞ」”


って出るくらいみんな“グレイトロック”と言う巨大なモンスターに喰われてしまっていた。


つくづくアタシはコトの大きさを感じずにはいられなかった。


しまいには、


意見がまとまらなくて候補曲がなかなか決まらないって言う異常事態まで。


こんな時もテッちゃんはやっぱり冷静。


あたふたするアタシにテッちゃんはただ一言、


「気にすんな」


ってサラリと言い飛ばして。


気にすんなって言われても候補曲が決まんないって。


とは言えどうやら気を揉んでるのはアタシだけみたいで。


関も静観。


『なんでみんな冷静でいられんの?』


ある日の夜、アタシは電話で関にぶつけていた。


「オマエはメンバーのコト信じてねぇの?」


関は一言そう言い放った。


えっっっ。


正直一瞬ためらった。


「信じてるから黙ってんだろ?信じてるから言いたいコト言えんだろ。お互い信じてるから、言っても大丈夫ってボーダーラインが引けんじゃねぇの?」


関はやたらとあっさりしていた。


アタシはしばらくボー然としてしまっていた。


「みんながぶつかり合うのは、その時だけだろ?男は女と違って長引かないからさぁ」


“男と女”・・・。


確かに男だらけのバンドで1人アタシは戸惑うコトが多々ある。


そう言えばハラハラしてるのはいつもアタシだけだった。


“男と女”か。


おっっっっっ!!!


ふと歌詞が浮かんできた。


『ごめん!ありがとう』


慌てて電話を切りバタバタとアタシはノートに書きなぐった。


“男と女”


単語単語ではあるけど思い付くコトバを全て。


男心と女心はまるっきり別のモノなんだよね。


前にテレビで“男と女じゃ脳の造りからして違う”って言ってたし。


“男のコトは男に委せとけ”ってか?


そうするか。






テレビでこの前のブロック大会のコトがオンエアされ、深夜番組とは言え“グレイトロックのアマチュア代表を決める大会”の注目度は想像以上に高く、


“「頑張って下さい」”


って知らない人に声を掛けられたり握手を求められたりし始めてきたり。


正直戸惑いを隠せない。


もう冬休みだから通学中や学校でどうこうってのがないからまだイイけど。


バイト先で声を掛けられるコトは多いかな。


アタシのバイト先はファミレス。


店にメンバーで押し掛けてみんなに報告する場面がオンエアされちゃってるしね。


全国大会まであと1ヵ月半...


まだ候補曲すら決まっていない。。。


大丈夫か?ワンワー!




『アンケート取らない?』


ある日の練習の最中。


突然アタシは閃いた。


みんな何事かと驚いてる。


『今度のライヴで来てくれた人達にアンケートを取るの。誰目当てに来たかとか、ウチら目当てなら何回目かとか書いてもらって』


アタシのキラキラ顔にみんなポカンとしている。


『ウチらで決めようにも決まんないんだからさ、当日だってウチらを知らない人が大半なんだからちょうど良くない?ウチらがイイと思っても観客がイイと思わなかったら何の意味も無いんだし』


アタシがここまで仕切るのは今までなかった。


「イイね、それ」

「やるな、ひー」

「思い付かなかったワ」

「お見事」


みんなの意見は一致した。


来ていた関と目が合い関が小さくガッツポーズしてくれた。


アタシも笑顔でガッツポーズで応える。


“メンバー内でモメてるヒマはない!”


内心そう叫びたかったけどね。


結局アンケートはアタシが作るコトになりライヴで関が配布し、MCでアタシが呼び掛けた。


オンエアの影響でウチら目当てのお客様が増えてきた。


対バンの皆さんにも、


“「ワンワーが出るって言うと今までより売りやすくなった」”


とか、


“「ワンワーが出るなら行くって言われる」”


なんて嬉しいおコトバを頂くようになり。


ライヴハウスからも出てくれって言われたり。


今まで無かったコトに戸惑いまくってる。


幸い冬休み中だから学校がある時よりは比較的ラクで、今までよりもライヴの回数が増えてるにも関わらずバイトにもあまり迷惑を掛けずに済んでいる。


有難い限りです。


とは言え所詮冬休み...


あっという間に終わってしまうんだけどね。


ソレが終わればまたスーパーハードな日々が始まる。。。


しかももれなく期末試験付き。


前回の試験の時もキツかったってのに今回は更にキツい。


単位を落とさない程度でやろっと。


今回はとりあえずダブんなきゃイイってパパママにも言われてるし。。


みんなの協力でアタシは成り立っております。


ライヴのアンケートでようやく候補曲が絞られた。


やっとだよ。


いつも演ってた曲ダケに何もしなくても完成度はかなり高いハズなんだけど、、、


「何か違う」


突然演奏を止めたのはナオくん。


またか。


「行くぞ!」


構わずテッちゃんがイントロを弾き始める。


弾きながらも納得行かない雰囲気のナオくん。


「セン、ちょっと走り気味じゃね?」


ナオくんがまた演奏を止めた。


「走ってねぇよ」


センちゃんもキレ気味。


もちろん雰囲気悪い。


もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


限界を一気に振り切った。


『モメてるヒマないでしょ!みんなしっかりしてよ!!こんなのwonderful☆worldじゃないよ!』


自分でも驚いたけど、それだけ我慢してたんだなって気が付いた。


もちろん異様な空気になった。


「ヒヨの言う通りだ。オマエらヒヨに言わせんなよ。ヒヨが言うなんてよっぽどだぞ!?」


テッちゃんが入ってくれたお陰で空気は何とか良くなったけどアタシはいるに耐えなくなって、


スタジオを飛び出した。


涙が溢れてきちゃって。


“何で言っちゃったんだろう”


“どうして我慢出来なかったんだろう。”


後悔が怒濤のように溢れ出てくる。


アタシはトイレに駆け込んだ。


すぐに関の声がした。


「ヒヨぉ!」


涙で返事出来ない。


ドアを叩いて反応する。


「大丈夫か?」


大丈夫なワケないだろ。


ノーリアクション。


「今休憩してる。出れるか?」


うつ向いたままトイレットペーパーで鼻を押さえながらトイレを出た。


顔は洗い流したから濡れたままで。


関はアタシのアタマに優しく何も言わずに手を当ててくれた。


「今日はもう2人で帰ってイイよ。関、ヒヨをよろしくな」


テッちゃんの声だ。


「あっ、すみませんありがとうございます!」


うつ向いてる視線の先にアタシのバッグが見えた。


テッちゃんが持ってきてくれたのかな…


「ヒヨ、ありがとな。ヒヨに言わせちゃってゴメンな。ヤローだけでキッチリカタつけるから」


今度はテッちゃんの手がアタシのアタマに触れた。


男子の中でテッちゃんが一番アタシのアタマに触れてるからか、テッちゃんの手は感触でわかる。


“ヤローだけでキッチリカタつけるから。”


何だか頼もしいような寂しいような、フクザツな気持ちだった。


でも、確かに今日はもう無理だからテッちゃんに任せよう。


『じゃあ帰るね』


“男のコトは男に委せろ”


関の言う通りにしよう。


寂しいけど。






















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