bye for now
『ちょっと!!!!!』
アタシは力ずくで関の腕を振りほどいた。
関の力がハンパなくてなかなかほどけなかったけど、関も観念したのかようやくほどけた。
ド真剣な関に向かって全力で叫ぶ。
『あんたナニ言っちゃってんの!?』
余りの動揺っぷりにとてつもなく声が裏返っている…。
「ぷっっっ」
一転、いつもの笑顔に戻った関。
超高速で顔が紅くなる。
『アタシをこれ以上スキャンダル女にしないで!!そもそもメンバー内で恋愛なんてあり得ないし!!』
今のアタシの脳内→
“スキャンダル女に早くも次のお相手!!”
“デビューして早くも3人目!!華麗なるプレイガール、彩沢陽依”
ぃやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!
「何してんだ?オマエ」
冷ややかな関。
アタシはしゃがみこみアタマを抱えてうずくまっている。
Oh my God!
誰のせいなのよ!!
「解ってるよ、んなコト。だから今ココで言ってんだろ」
『ぁん?』
力の抜けた声だった。
「オマエが今まで龍神サンの時にしろ真壁の時にしろ、どんだけ悩んできたか、一番近くで見てきたのはオレだろ」
何だろう。
温もりさえ感じる、優しさと温かさに満ち溢れた声でしゃがみこんでいたアタシのカラダを優しく包み込むように立ち上がらせてくれた。
アタシは、
泣かずにはいられなかった。
ショックだった。
今まで“小僧”だと思っていた関に、
“好きだ”
なんて言われちゃったコトが。
「だから、この気持ちからも卒業したいんだ」
んなっっっっっ!!!!!
泣き顔のまま関から目が離せなかった。
「オマエがこれ以上悩むの見たくないし。言わないままの方がオマエの為になるとは思ったけどな」
あれ?
言い掛けて関は背中を向けた。
「オレ、ちょっと武者修業に行ってくる」
*※♯∞@↓◎§↑⇔∀◇▲★??????????
クラクラしてきたよ。
またアタマを抱える。
「グレイトロックTVの企画でさぁ、UBRの地元のロンドンで武者修業しないかってボスに持ち掛けられたんだ」
何言ってんの?関。
感情が交錯し過ぎてワケ解んない。
UBRってのはウチらがアマチュア枠で出た時のグレイトロックの世界代表のバンド。
笑えないし怒れないし泣けないし喜べないし、全くの無感情。
「もちろんテツさんは知ってるよ。テツさんはあの通りだから笑顔で賛成してくれた。他のメンバーにはまだ言ってない」
ばっっっっっ・・・
コトバが出ない。
“『バカじゃないの!?』”
って、思いっきり全力で叫びたいのに。
「実は」
またコトバを濁す。
今度は何!?
「この企画、龍神サンのアイデアなんだ」
ピ→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→(思考回路完全停止の音)
龍神サン・・・・・・・・・・
ダメだ、立っていられないや。
アタシはその場にへたりこんだ。
関は柵にもたれ掛かって続けた。
落ち着けアタシ。
何度も深呼吸。
「“オレ、今のままじゃ男としてヒヨに向き合えないです”って」
息が苦しい。
ノドがカラカラ。
リュックからペットボトルを取り出す。
「龍神サンはすげぇなやっぱり。オレがオマエを好きなコト、気付いてた。その上で聞かれたんだ。“ホントに好きなのか?”って」
りゅう・・・じ、、、さ、ん???
アタマの中錯乱。
龍神サン・・・。
「さすが天下の龍神だよな。“オマエにとって大事な存在であるコトよりかは負けるだろうけど、オレにとってだってヒヨは大事な存在だ。だからこそオマエを同じオトコと見込んで言う”って。メッチャカッコよかったぁぁぁ」
思い出して薄ら笑いしてる。
龍神サン・・・。
「“ヒヨへの想いを確認するためにもイイんじゃねぇか?”って言ってくれたんだ。真壁じゃねぇけど龍神サンに勝とうなんて、死んでもこの先も思わねぇけど、今のままじゃ自分自身に納得行かないんだ」
龍神サンからもらったネックレスを強く握り締める。
龍神サン?どういうコトかアタシ、全然理解出来ません。
関?
アタシの目の前にいるのはホントに関なの?
アタシの知ってる関なの!?
3年間同じクラスだった関純也なの?????
まるで違う人みたいだよ?
アタマに血が上って、益々把握出来ない。
「ちょっと、来てくれ」
関はアタシに寄ってきてスッとアタシの腕を掴み、そのまま屋上を降りた。
もうほとんど人気のない校内。
アタシと関が3年間通った高校。
アタシと関が出逢った場所だ。
すれ違う人達に写真や握手を求められながら着いた場所は...
桜の樹の下だった。
校庭にも人気は無い。
まさに“桜の樹の下で”のモチーフになった桜の樹。
まさに思い入れのある場所だ。
ちょっと感慨深い。
「いつでもどこにいてもキズナは強くあるから」
関が桜を見上げて歌い出した。
コレ、関Ver.の“桜の樹の下で”だ。
あれ?そーいえば・・・。
この関Ver.って、
もしかして・・・
「心はずっと離れない いつでもどこでもココロは1つだから」
モーレツに鳥肌。
さっきはただフツーに聴いてたけど、
「あの日あの時君に出逢えてなかったら」
今聴くと、もしかして?
「今は無数の星屑でも いつか必ず夜空に耀く星になるまで歌い続ける 明日の為に」
まさか・・・
「今のオレの気持ち。気付く人は気付いたかな」
やっぱり.....
「一応、こんなオレでも、旅立つ前にヤれるだけヤってみようと思ってさ」
一言一言ゆっくりとどことなく照れ臭そうに言う。
「半年から1年。自分で納得行くまで行ってきてイイよって、テツさん言ってくれたから」
何なんだっての?
「今のままじゃオレ、ワンワーのメンバーとしても、オトコとしても、胸張ってオマエの隣にいれないから。今よりも遥かにでっかくなって戻ってくるから」
顔がアツい。
全身の血がアタマじゃなくて顔に昇ってるみたい。
どうなってんの?
“今より”って、、、
今でも十分なのに?
“『何勝手なコトばっかり言ってんの!?』”
とか、
“『バカじゃないの?』”
とかコトバは次々出てくるのに、
口に出せない。
なぜだろう・・・。
その後も制服で通る最後の通学路はアタシは終始無言だった。
アタマの中は、関の発言や今までの関との想い出で埋め尽くされていて。
“今のままで十分だよ”
そう言いたいのに・・・。
コイツのココロのモヤモヤは、
アタシが勇気を振り絞ってカミングアウトをしたにも関わらず、
全然晴れてなかったんだね・・・。
アタシに対する勘違いかも知れない想いが邪魔してたんだね。
今のアタシには関に掛けるコトバがナイよ。
龍神サンに対しても何て言えばイイか、
全くコトバが見つからないよ。
自分の部屋の最終撤去作業が全く以て上の空。
手はかろうじて動いてるのに。
今日中には出発しなくちゃいけなくてその出発時間が迫ってるってのに。
今のアタシのアタマの中にはこんな時でもやっぱりvivienサンの曲が流れてる。
“「この企画、龍神サンのアイデアなんだ」”
関のコトバが何度も繰り返し甦る。
「ひーちゃん?早くしなよ!!乗り遅れるよ!!」
サヨリの超音波はホントに耳を貫くよ。
とっさに詰めるだけ詰む。
「それ要らないでしょ!!」
かなりの動揺っぷりに意味不明に制服を入れ掛けて突っ込まれる情けない姉。
ホントに着替えとか“お泊まり道具”的なモノしか無いハズなのに、
とんちんかんな行動ばかり続く。
卒業証書まで入れてみたり。
「持ってく・・・、の?」
疑いの冷やかな眼差しのサヨリ。
苦笑いでごまかす。
そんなこんなで何とか時間内に準備を済ませ、
みんなに飛びきりの笑顔で見送られアタシは関と旅立った。
『おばさん達、何て?』
新幹線の車内で窓の外を見ながら話し掛けた。
「そりゃビックリしてたよ。でも、すぐ賛成してくれた。TVの企画なら大丈夫だろうって」
あっけらかんとしてる関。
もう多少のコトじゃ驚かないのかな、関パパママは。
付いていったダケのハズの息子まで何故か契約書を持って帰ってきてみたり、
上京するハズの息子が国内どころか国外に行くコトになったり。
関パパママ、“この親にしてこの子あり”を地で行くからな。
カラカラしてて明るくて。
さっきも眩いくらいのメッチャ笑顔だったし。
『ゴメンね』
自分で言っといて、泣きそうだ。
「何が?」
いつもと同じ、素っ気ない言い方。
だけど余計にツラい。
“関がそんなに悩んでるってコトに全然気付いてあげられなかった”ってコトがモーレツにココロの中で。
「ゴメンはオレの方だろ。余計なコト言っちまったんだから」
かぁぁぁぁぁ。
アタマに血が昇るのが明らかにわかった。
『アタシが小僧なんて言ったから気にした?』
恐る恐る尋ねる。
「バカ言え」
ハナで笑われた!!
メチャクチャ気にしたのに!!!
ついふてくされる。
「オマエに言われた事で今までどんだけ励まされてきたと思ってんだよ」
関・・・。
苦笑いで答えた。
と同時にちょっと胸が痛んだ。
新幹線の中は気がつけば2人とも寝てしまっていて、目が覚めたのは間もなく東京に着くコトを知らせるアナウンスだった。
関がいなくなるってコトが夢ならイイのに。
今のアタシの脳内は関に好きだって言われたコトよりも、
その何億倍も、
例え半年であろうとも関がいなくなると言うコトの方がショックで耐えられない。
と言うかワケがわからない。
アタシには、とても理解しがたい。
エスカレーターを降りてても、
改札まで歩いてても、
ワケが解らなすぎて泣くに泣けないでいる。
ちょっとダケ涙腺が弱くなったのは、改札を出てすぐに待ってくれていたメンバーの顔を見た時だった。
他のメンバーはライヴ終了後にみんなで片付けをして一足先に帰ってきていた。
今日はこれからみんなで卒業祝パーティー。
でもアタシは、
『テッちゃん』
その前にどうしても、
「ん?」
行きたいトコロがある。
『アタシ、ちょっと用事を済ませてから行ってもイイかな』
テッちゃんはいつもと変わらない優しい表情。
どうしても行かなきゃいけないトコロ。
今すぐ逢わなきゃいけない人。
自分でも全然分からない。
“衝動的”ってこのコトを言うんだろう。
「オメェら、かっこよかったぞぃ!!」
みんなにもみくちゃにされてる関のそばでハンパなく真剣なアタシと、
いつもと全く同じ笑顔のテッちゃん。
「ヒヨの用事のある人はもう八重洲口で待ってくれてるよ」
まっ!!!!!!!!!!
驚きの余り心臓が飛び出しそうになったのと同時に瞬間的に目を見開いて、
アタシは1人一目散に走り出した。
目にたくさんの涙を溜めて。
無我夢中だった。
八重洲口までの距離がこんなにも永いモノだっただろうか。
いろんな想いが駆け巡り視界がぼんやり滲む。
声に出して泣きたい。
今すぐ。
龍神サンの前でなら泣けるから。
思い切り。
“龍神サンが待ってくれてる”
それだけで天にも昇る想いなのに、
今はとにかく逢いたい。
いつもの妄想暴走モードも当然発動してるのに、
とにかく逢いたい。
なぜだろう・・・。
アタシにとって龍神サンはかけがえのない存在。
唯一無二の存在。
loveでもlikeでもないハズ。
だけどそれは、
テッちゃんも、まぁクンも、なおクンも、センちゃんも、
関も同じだ。
だけど、
やっぱり龍神サンは別だ。
“龍神サンは龍神サンでしかないんです、アタシにとって。手を伸ばしても届かない、だけどいつもそばにいてくれる。loveでもlikeでもない、only oneなんです”
海崎サンに言ったコトバが甦る。
もしかしたら海崎サンの言う通り恋愛感情なのかも知れない。
現に、
関のコトでこんなにアタマの中が埋め尽くされてるにも関わらず、
やっぱりどうしようもないくらいに龍神サンに逢いたい...
好きなの?アタシ、龍神サンのコト。
“「実はこの企画、龍神サンのアイデアなんだ」”
龍神サンの真意は分からない。
それどころかどうして関が龍神サンに相談したのかがアタシにはさっぱり分からない。
正直関と離れるってコトが全然想像がつかなくて。
考えたコトもなかったよ。
龍神サン!!
“何で関に海外修行を持ち掛けたんですか?”
って食って掛かりたい気持ちと、
“関と離れるなんて想像付きません”
って弱音を吐きたい気持ちと、
“関に告白されちゃいました”
って甘えたい気持ちが三つ巴で埋め尽くしている。
アタシにとって龍神サンはonly one・・・。
likeでもloveでもないんじゃなくて、
その上(最上級)だってコトなの?
龍神サン...
早く逢いたい!!!
我を忘れて猛ダッシュで外に出たのはイイけど・・・
龍神サン?
ドコ??
あ゛っっっ!!!
あの車は!?
見覚えのある車にアタシは全力で駆け寄った。
龍神サンの車だ。
アタシに気付いたのか、車のウインドウが開いた。
「お帰り!!」
だぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛↑↑↑
でゅーじざぁぁぁん!!!!!(訳:龍神サぁぁぁン)
雪山が雪崩たみたいに物凄い勢いで涙が込み上げてきて、
瞬殺で大号泣しちゃった。
何なんだ、この壮絶なまでの安堵感。
神々しさすら感じる。
やっぱり龍神サンは龍神サンだ。
だけど気付いた気がする。
“アタシにとって龍神サンは龍神サンでしかない”コトは、
“決して向坂龍二ではない”ワケじゃなくて、
“龍神サンは龍神サン”に違いなくて、それ以上でもそれ以下でもないダケなんだって。
「そんなトコで泣いてないで早く乗れよ。誰も張ってないけど」
龍神サンの笑顔、眩しすぎる。
こんなにぐちゃぐちゃの泣き顔のアタシでも。
いつもの何億倍も。
しかも今日はいつもと変わらないハズの龍神サンの声がヤケに胸に響く。
こんなにも胸に響くコトなんて今までなかった。
でも、、、確かに車の前で泣いてたら目立つよな。
よし!!!!!
人生2度目の、龍神サンの愛車に乗った。
『お邪魔します!』
前回同様、心臓が木端微塵に砕け散りそう。
なのになぜか落ち着く。
何だか不思議な感情。
龍神サンの車内で流れていた曲はとても懐かしい曲だった。
“振り返りはしないさ また新しい出逢いの未来が必ずあると信じているから”
アタシが小学生の頃に流行った曲。
卒業式で歌った想い出がある。
メッチャ久しぶりに聴いたよ。
“今そこにあるのは光耀く素敵な明日ダケ 君がいるそれだけで何もいらないから”
小学校の卒業式だからもう6年前か。
関のコトが浮かんじゃうなこの詩。
今はこの時期でもあまり聴かなくなった。
“「今日は卒業ソング特集をお送りしてます」”
ラジオだったのね。
3月アタマだからどストレートに時期だもんな。
“「全国の卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。続いては、ご自身も今年高校を卒業なさいました、この方達のナンバーです。今年の卒業ソングの代表曲となりました」”
まさか?
顔を上げると龍神サンの微笑みが見えた。
“「wonderful☆world“桜の樹の下で”」”
車は走り出した。
今日、何回耳にしただろう、この曲。
今日は(特に今は)この曲、ヤケに泣けてくる。
泣きじゃくりながら卒業式でのコトを話した。
ずっと笑顔で聞いてくれて。
「すげぇな。聞いてるだけでも鳥肌だよ」
龍神サン。
何だろう、この同じ人間とは思えない神憑り的な安堵感。
人間業とは到底思えないよ。
収まっていた涙が再び溢れ出す。
そしていよいよ本題へ。
『関に、、、武者修業持ち掛けたんですか?』
泣きながら聞いた。
「アイツは大したオトコだよ。オレ的には自分で言う程ちっぽけじゃないと思うんだけどな」
龍神サンのコトバに涙増量。
「でも、だからこそ言ってみた。アイツがテツヤじゃなく、オレに言ってきた意味を考えてな」
“龍神サンに言ってきた意味”??
思わず顔を上げて、運転中の龍神サンを見た。
龍神サンの表情はどことなく優しさと憂いが入り交じっているように見えた。
アタシには解らないケド、
きっとコレが“オトコ同士の何とか”ってヤツなんだと思う。
このバンドにいて得た知識の1つ、
“オトコのコトはオトコに委せろ”
に従おう。
「でも驚いたよ。今回はテツヤ経由じゃなく、直接アイツからオレに言ってきたからさぁ」
思い出し笑い?
でも嬉しそうに見えるよ?
アタシもビックリだよ。
「ヒヨは?関のコトどう思ってる?」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
何と唐突な!!!
涙ひいてないってのに!
なんとムチャな。
何度か深呼吸して。
『正直分かりません』
うつ向いたままで。
無言の龍神サン。
『今のアタシがあるのは、ワンワーって言うとんでもないモンスターバンドの中で、無我夢中でいろんなコトを経験しながら、こんな小娘の暴走とも取れる行動を何も言わずに見守ってき続けてくれたテッちゃん達最高のメンバーの中で、女子1人で必死になってボーカルを務めてきたからなダケで、もしワンワーじゃなかったらきっとアタシは今のアタシじゃなかったと思うんです』
目の前に広がる夜景を前に素直な気持ちを龍神サンにぶつける。
ぐずぐずの声で。
『そのアタシを造るキッカケを作ったのは誰あろう関で、アタシにとってアイツは最高の友達であり、言わば悪友と言うか戦友です。アイツがいなかったらワンワーのヒヨは存在しなかったハズですから。だから、アイツがワンワーのスタッフをやるまで一度たりともドキドキどころか恋愛感情を持ったコトはありませんでした』
鼻をちょいちょいすすりながらゆっくり答える。
『全国大会が決まったくらいから何度かドキドキしてしまうシーンがありましたが、あくまでも友達感情の方が遥かに強いのでアタシはすぐに抑えられました』
尚も龍神サンは無言。
『だから関の気持ちを知って、それはもう驚きました』
ただただ笑顔の龍神サン。
アタシは龍神サンの笑顔につられてなのか全て打ち明けた。
高校3年間はとにかくワンワーとバイトに明け暮れたから、恋愛がどうとか一切考えなかったって話から、
中学の時はそれなりに好きな人はいたってコト、
その後はもう龍神サンに影響を受けていたってコト、
海崎サンに言われた内容のコトまで。
聞かれてないコトまで喋ってた。
もう自分でも何が何だかわからなかった。
ただ1つハッキリと解るコトは、
今のアタシは龍神サンの前で完全に無防備だってコト。
完全に“コドモ”だった。
“妹”でも、“舎弟”でもなくて。
「別にイイんじゃねぇの?ソレで」
へっ??
夜景がキレイに見える場所で車を停めた龍神サンが発したコトバは、驚く程に何とも簡潔な一言だった。
「ソレでイイと思うよ、別に。ソレはソレでヒヨなりの愛情なんだから」
かなり拍子抜け。
一世一代くらいの大告白だったのに!?
「そりゃ海崎の言う通りヒヨくらいの時代はいろんな恋をした方がイイとは思うケド、ヒヨみたいなのもアリだと思うぞ?」
龍神サンに言われると無性にそう思えてくる。
不思議な力だ。
「そう言うのも、一種の“恋愛”だと思うし」
コレも“恋愛”?
呆気に取られるアタシ。
「“人を想う”って気持ちには変わりないだろ」
あ・・・。
目からウロコだった。
“人を想う気持ちには変わりない”
なんて。
思い付きもしなかったよ。
さすが龍神サンだ・・・。
やっぱりスゴいよ、この人は。
目の前に広がる夜景が何となく切なく見えてくる。
さっきまで涙で歪んでた視界が今はハッキリとクリアに見える。
神のような超ロマンチックな夜景の前で、隣に龍神サンがいるにも関わらず最初みたいなドキドキが全然ない。
むしろこの世のモノとは思えない、無限大の安心感がある。
「そう言う感情ってさぁ、ソレだけヒヨが気持ちが温かい人間だから持てるコトだと思うんだよ」
アタシが、
“温かい”人間???
ハテナがぶっ飛ぶ。
「ソレだけ周りに恵まれてるとも言うんだと思うケド、やっぱりオマエは大したヤツだよ」
ぷっっっしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ→→→→→→→→→→(全身の穴という穴から力が抜ける音。)
龍神サンの手がアタシのアタマに触れた。
途端に肩の力が抜けた。
「ヒヨが思う通りの、今のままのヒヨに、真壁も関もオレもホレてんだから、イイんじゃねぇの?」
え゛っっっっっっっっっ!!
“オレもホレてる”って・・・。
だから何でこの人はそう言うコトをサラッと言っちゃうワケ!?
ドキドキしちゃうよぉぉぉ!!!!!
いくら心臓があっても足りないよ!
アタシをショック死させたいのかなぁ。
って言うか、
マジになるからヤメて下さい。
いゃ、ちょっと危険水域に入ってるな・・・。
「オマエらにしかない友情なんだろうな」
えっ?
遠くを見つめるような目の龍神サンに益々ドキドキしちゃう。
「アイツもヒヨとほとんど同じコト言ってたよ。だからこそ、離れて確認する為にも、ボーカリストとしての武者修業の為にも、持ち掛けたんだ」
何だかわずかに罪悪感。
「羨ましいな。オレにはそこまで想える女性がいないからな」
あれ?この表情とセリフって、、、
海崎サンを思い出すよ。
「じゃ、行くか」
『えっ!?』
車のエンジンが掛かった。
とっても落ち着くカーコロンと座り心地抜群の座席。
車内照明の紫も何だか龍神サンを照らしてるようで何とも華やか。
落ち着くな、やっぱり。
何なんだろこの安心感。
誰にも感じたコトのない感覚だ。
やっぱり“love”とか“like”とかの次元の問題なんかじゃないんだな。
今アタシの目の前にいるのが“vivienの龍神サン”だろうが“向坂龍二サン”だろうが、アタシにとっては“龍神サン”以外の何者でもない。
ソコに恋愛感情があるとしても。
奇跡篇はコレで完結致します。
この後、続篇に続きます