precious
いよいよ今日は卒業式。
結構緊張するワァ。
とは言えみんなもさすがにバカじゃないからおおかた予想はついてるらしいよ。
今日こそ“ワンワーが揃う”って。
先生達もウチらもキッパリ否定はしてるんだけど、
全く効き目無し。
朝から言われてるよ、
“メンバーは?”
って。
アタシも関も誘導尋問に引っ掛からないように細心の注意を払ってるんだけど、全く無意味で。
午前中にセッティングは済ませておいてくれてるみたい。
まだ生徒が来ないウチに。
卒業式は午後から。
アタシと関は今日も一緒に登校した。
あれから関の様子は何ともなかったけど、アタシがヤケに意識しちゃって。
“好き”とかじゃなくて。
何だかとっても良く分かんないんだ。
態度には出てない(と思う)ケドねっ!
「今日で最後だな」
ボソッと関が言った。
『そうだね』
何だかちょっとしんみり。
「3年間、ありがとな」
なっっっ!!!!!
何てコト言い出すのよ↑↑↑↑↑
顔が紅くなっちゃうじゃないのよ。
『何言ってんの?コレからもよろしくでしょ?』
心臓バクバク。
「高校生活は今日で終わりだろ」
まぁ、・・・そうだよね、確かに。
アタシは深呼吸して立ち止まった。
他の生徒がすれ違う中で。
『3年間ありがとうございました』
深々とアタマを下げた。
「こちらこそ!」
関もアタマを下げる。
周りの同級生たちがジロジロ見てる。
さすがにすぐにまた歩き出したケドね。
「何やってんだ?」
呆れ気味の冷めた突っ込みがウチらに向けられていた。
2人で顔を見合わせて吹き出し笑いしちゃったよ。
「続いて、卒業生代表答辞、」
来たっっっ!!!!!
心臓が飛び出すかのような衝撃。
「3年F組、彩沢陽依」
『はいっっっ!!!!!』
よしっっっ、行くぞ陽依!!
立ち上がり、大きく深呼吸して階段を上がった。
制服で隠れてるダイブラのネックレスに手を掛けて。
「ひよぉぉぉ!」
「ひーちゃぁぁぁん」
えぇぇぇぇぇ??????????
まさかのコールにアタシはイッキに緊張が緩んだ。
『3年前、私たちがこの学校に入学して早3年。あっという間のこの3年間、この学校で過ごせたコトを大変誇りに思います』
若干うるうる。
ちょいちょい目が行ってしまう関の表情が落ち着く程に優しい。
『ですが正直な話、私の高校3年間の想い出はバイトとワンワー一色と言っても過言ではありません』
ドッとざわつく。
呆れてる関の顔が見える。
『とは言え、もしもこの高校じゃなかったら、バイトももちろん、ワンワーも思う存分出来なかったと思います』
拍手が起きる。
・・・答辞ってこんな雰囲気だったか?
もっと厳粛なモンなんじゃないのか?
アタシの内容もどうかとは思うけどさ。
イイのか?コレで・・・。
構わず続ける。
『そして、“桜の樹の下で”もこの高校じゃなかったら、恐らく生まれなかったコトと思います』
「ぃよっ!!神曲!!!」
「1位おめでとう!!」
ぉいぉい。
何なんだこの雰囲気は。
先生達も黙認してる。
ま、いっかぁ!
『この学校だからこそワンワーが出来たし、バイトも出来たと思います。だから、私はこの学校が大好きです。私はもちろん、皆さんがこの先もずっとつつじが原高校の卒業生だと、ワンワー2人と同じ高校の卒業生なんだと、胸を張って言えるように今よりもっと音楽活動に精進して参ります。この高校に関わる全ての皆様、3年間本当にありがとうございましたっ』
終了!
アタマを下げるとたくさんの拍手が鳴り響いた。
ちょっとうるうる。
「卒業生、起立!」
えっ?
元生徒会長の芦田クンが突然発した。
芦田クンの声に3年生が全員立ち上がる。
戸惑うアタシと関。
卒業生の1人がピアノに向かった。
・・・ま、さ、か??ぁぁぁ。
イントロが始まった瞬間鳥肌と同時に涙が止めどなく溢れてきた。
“桜の樹の下で”合唱Ver.だ。
そんなぁ。
いつの間に?
涙でみんなの顔が見れないよ。
こんな段取り聞いてないし。
涙で歌えない。
思わずその場に座り込む。
“この桜の樹の下で いつかまた 笑って逢おうね”
今のアタシは、笑えないよぉ。
何とか立ち上がりみんなの顔を確かめる。
泣いてる人もいる。
先生たちもみんな歌ってくれてる。
笑顔の関。
父兄の皆さんも。
パパママが泣き笑いでアタシを温かく見つめてくれている。
聴いたコトがない程の大音量の“桜の樹の下で”に、アタシはとてもじゃないけどガマンしきれなかった。
体育館裏のメンバー達、どう思って聴いてんだろう。
“咲き終わっても誇らしげに立ち続けるように 陽の光を受けながらひっそりとそれでもドッシリと立ち続けるように 寒い冬をジッと耐えて立ち続けるように 春が来て精一杯力を振り絞って咲くように そんな桜の樹のように強くありたい”
まだつぼみもつかない校庭脇の桜の樹が窓の隙間から見える。
“ここで出逢ってここで育って いつも桜は見ていてくれるから”
みんなのコトバを使わせてもらっても、歌詞に行き詰まった時、アタマに浮かんだのはあの桜の樹だった。
3年間ずっと見てきた桜。
“ココで出逢えた奇跡を大切にしたいから 何年経っても 何十年経っても 桜の樹の下でまた逢いましょう この桜の樹に誓おう”
アタシは歌が終わりピアノの演奏が終わるまで、ずっとみんなに向かってアタマを下げ続けた。
大歓声のなか涙で視界が歪みながらもアタシは階段を降り、ゆっくりとみんなの顔を確かめながら自分の席に戻った。
座る直前に
『ありがとうございましたぁぁぁ!!!』
って叫んで。
みんなありがとう!!
イヤミを言われたコトも今となっちゃイイ想い出だよっ!
アタシはその後も式が終わるまでずっといろんなコトを思い出しながら泣き続けていた。
「以上を持ちまして、」
来たっっっっっ!!!!!
この閉式宣言がライヴスタートの合図。
否応なしに涙が引く。
「・・・を終了致します。礼!」
ざわついた瞬間だった。
ウチらのいつものスタート用SEが流れる。
イッキにテンションが上がり、アタシと関が極上の笑顔でステージにダッシュした。
周りのみんなもイッキにコーフンしてくれて。
無造作に倒れたイスが散乱している中を飛び越えながら前に押し寄せる人の波を掻き分けアタシと関がステージに上がるとすかさずモトさんがマイクを渡してくれた。
『今日は2人じゃないよ!!フルワンワー、スペシャルサプライズライヴ、スタート!!!!!』
アタシの掛け声と同時に紅白の幕がイッキに落ちて、メンバーの姿が現れ“@”のイントロが始まると、マイクの声も聴こえないんじゃないかって程の大歓声が沸き起こった。
嬉しビックリなコトに@もみんな歌ってくれてる。
“マイクなんかいらない”
そうとっさに感じたアタシはマイクを床に置いてマイク無しでみんなと一緒に歌った。
関は一瞬ひきつってたけど、関はコーラスだからマイクを置かずに時折アタシにマイクを向けてくれた。
今日のライヴは今までのライヴの中でも一番自然体。
2人ワンワーの時よりグレイトロックの全国大会の時よりメチャクチャ自然体。
今まで考えたコトも無いくらいの動きとかコトバとかが次から次へと出てくる。
関もしかり。
テッちゃんもなおクンもまぁクンもセンちゃんも驚いてる。
“自分の卒業式の後の自分の高校でのライヴ”ですから。
盛り上がらないワケがないよねっ。
@が終わる頃にはイスがフロアの端に押し出されて、みんながステージ前ギリギリまで詰めてきていた。
もちろん先生たちや父兄の方々も。
続けてウチの校歌のワンワーVer.(もちろん初出し)、ROCK!!、tomorrowをノンストップで演った後、桜の樹の下での関Ver.。
学祭の2人ワンワーの時のコトを思い出してちょっとアツくなる。
アタシがピアノに向かう間、関が繋ぐ。
「えーっ、とぉぉぉ」
何だ?
煮え切らないヤツだなぁ。
「この曲の歌詞は御存知の通り、メンバー全員の想いをヒヨがまとめたモノですが、今日は僭越ながら、オレVer.で歌わせて頂きます」
はぃぃぃ??
開いた口が塞がらなかった。
何勝手なコト言っちゃってんのよ!
「コーラスのトコロは変えてないから大丈夫だよ」
関がアタシに向かって言った。
不覚にもドキッとしてしまう。
「もちろん初披露です」
みんなの歓声がドッと大きくなる。
関がアタシに向かってゆっくり頷いた。
アタシも頷き返してイントロを弾き始める。
歌が始まるとアタシはまたステージ中央に向かう。
「人との出逢いがこんなに奇跡を起こすなんて初めて知ったよ」
ん?何となく替えてるな。
「出逢えた奇跡、永遠の宝物だよ」
このフレーズって、
最後の最後まで悩んだフレーズだ。
もしかして憶えてた?
って言うかコレってまさか、
“関Ver.”って言うよりほとんど悩んだフレーズ達じゃないのよ。
関ぃぃぃ・・・。
滅多に聴けない関のバラードに泣いてる女子がチラホラ。
アタシも一緒にジーンとしちゃうよ。
もともとコイツの歌唱力はかなりのモノだと思ってたケド、やっぱりアンタは十分成長してるよ
何言っちゃってんのよ、ったく!!
こっちの方が名曲になったかも・・・。
ちょっとジェラシー。
と言うか後悔。。。
関Ver.が終わったトコロで、
「ラストナンバー行ってもイイですかぁぁぁ?」
関が叫んだ。
うわっ!!!!!アタシの持ちネタなのに!!
人の楽しみパクんなよぉ。
アタシ思わず頬っぺたを膨らます。
気づいたフロアのみんなが笑う。
関は気にせず煽り続ける。
あれ?・・・
関の目、潤んでないか!?
目にうっすら涙があるような。
さすがの純ちゃんもアツくなっちゃったか。
「ラストナンバー行ってもイイですかぁ?」
「ダメぇ」
「ヤダぁ」
「イイですかぁ?」
「ダメぇ」
「ヤダぁ」
このやり取りの繰り返しを何回かやるのが通常のライヴでもお馴染み。
今日は“「ヤダぁ」”コールにアタシも加わる。
んで、シメは、
「行っちゃうもんねぇ!」
って思いっきりドヤ顔で。
コレもパクリかよ。
まぁイイや。
ご褒美にやらせてあげるよ。(何様だ?)
ラストは、
「オマエらホントにラッキーだぞ?」
周りが反応する。
「学祭の時の桜の樹の下でと、今日の桜の樹の下でと、校歌に続き、」
気づいた人達がざわつく。
「最後の曲も、今日が初披露だぁぁぁ!」
館内、イッキに盛り上がる。
「しかも!」
関がアタシの顔を見る。
笑顔で返す。
「この日の為、ダ!ケ!に!!作りましたぁぁぁ!!!」
アゲ気味関を隣で黙って見守る。
みんなもなぜか異様なくらいに盛り上がる。
初披露曲を含む全6曲を終え、ライヴは終了した。
ソッコーでアンコールしてくれて、アタシと関は着替えずにそのままブレザーだけ脱いでとりあえず2人で出ていった。
2人でみんなに何を聴きたいかのリクエストをその場で募って。
意外にみんな“いつの間に!?”ってくらいに詳しく知ってくれていて、こっちが驚くような曲名をあげてくる。
中には真壁サンの曲を言う声もあって関がすかさず突っ込んだり。
「バカ言え!!」
館内がドッとわく。
普段のライヴにはないノリのライヴだな。
客席に向かって“バカ言え”なんてさすがに言えないもんね。
言うコトも無いだろうし。
いかにも自分達の高校のライヴだよ。
“「blue moon」”
えっっっっ!!!!!
いろんな曲名がコールされる中、はっきりと聞こえた。
「何かメッチャコアなコト言い出す人いるねぇ。もしかしてグレイトロック行ったでしょ!?いんじゃね?、あの“伝説の”blue moonひよversion」
ばっっっっっ、バカなっっっ!!!!!
何勝手なコト言ってんのよ、関ってば!!
「さっき体育館裏でスゴいモン聴かせてもらったからな。お礼に演るか」
えぇぇぇぇ?????
テッちゃんのコトバが合図になり、blue moonのイントロが。
みんな、いつの間に?
フロアのテンションが最高潮に達した。
さすが天下のvivien!!
しかもblue moonを知らない人はいないんだね。
ってかイイのか?勝手に演って。
しかも超難関ナンバーと言われるblue moonを弾けてるウチの皆様って。
泣きすぎて歌えないじゃないのよ!!!!!
バカぁぁぁぁぁ!!!!!
って、、、
関ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!
サックス吹いてるよぉぉぉ!!!
いつの間に・・・。
関のサックスにも大歓声。
ダメだ、アタシ。
ホントに、
アンタの方が十分遠くに見えるよ、
関・・・。
vivienの神曲とも言えるblue moonをおこがましくも泣きじゃくりながら演った後、一番リクエストの声があった“桜の樹の下で”アタシVer.(もちろんマイク無し)の2曲を演奏して、サプライズライヴは終了した。
最後のホームルーム終了後は殺人的な記念撮影攻撃をしばらくの間2人で受け続けた。
同級生、後輩、果ては先生達までも。
撮影ラッシュがやっと終わって歩き出した時だった。
「屋上行かねぇ?」
関からの思わぬお誘い。
『イイねぇ。ウチらの想い出の場所だもんねっ』
ご機嫌のアタシとは正反対に、何だか真剣な関。
『どうしたの?めっちゃマジメな顔しちゃって』
関の顔を覗き込む。
関は無言。
「楽しかったな。撮影攻撃はキツかったけど」
話そらされたぁぁぁ!!!
まぁイイや。
『楽しかったねぇ。ってかアンタ勝手なコト言わないでよ!!勝手に演って良かったの?』
本人達の許可無しに勝手に演っちゃダメでしょに。
「ダメだったらモトさんが止めてんだろ」
まっすぐ見つめたままの関があからさまに呆れて言った。
確かに・・・。
そっか。
って事はもしかして想定内だったって事?
『しかもアンタいつの間にサックスアレンジなんてマスターしたのよ!』
アタシ、まくし立てる。
また無言。
ただ薄ら笑いして。
『アンタさぁ、』
さすがに関の顔を見れないからうつ向いて。
「ぁん?」
おっっっ!反応してきたよ。
『アタシが遠くに見えるなんて言ってたけど、アタシからしてみりゃアンタが遠くに見えるよ。だいたいアンタがアタシのコトをそう見てたってコト自体、アタシにしてみりゃショックだし、桜の樹の下でのコトにしても、サックスアレンジのコトにしても、』
言うのを止めちゃった。
「ぁんだよ。」
一段と真剣な関。
ますます顔が見れないじゃないのよ!!
屋上到着。
立ち止まり、空を見上げて言った。
『いつまでも小僧関だと思ってた!』
言っちゃったよ!!
恥ずかしっっっっっ!!
「ぁんだよそれ。」
若干キレ気味の関。
そりゃそうよね。
「お前さぁ」
ん?
いつになく真剣。
ってか、最近良く見るよ?この表情。
「龍神サンのコト、好きなのか?」
ぁあああん?
何だコイツ!!!!!
やっぱり小僧関だっ!!!
『アンタ何回同じコト聞くのよ!!やっぱり小僧だね。アタシにとって龍神サンはスキとかキライとか言うレベ・・・、、、』
アタシの視界が一瞬グラついた。
『関??・・・』
グラついた後には、
アタシ、
関に、、、
強く、
しっかりと・・・
抱き締められてない・・・
か?????
衝撃が許容範囲を軽くぶっちぎってるから全くコトバが出ない。
関の力の強さに身動きも取れない。
事態が全くと言ってイイ程把握出来てないヨ。
イヤ、出来るワケないでしょ!!
一体何がどうしてどうなったらこんな展開が起きるってのよ!?
誰が予想出来んのよこんな展開!!!!!
ってかこれって夢!?!?!?
夢なら醒めて!!!!!