信じる者は救われる
夕方、真壁サンがマネージャーさんと共に挨拶に来た。
アタシはあえて立ち会わず社長と何故か関ダケが対応して。
帰り際、
「これからも応援してるよ」
って、精一杯の作り笑いを見せてくれた。
『正直に答えて下さい』
アタシは真壁サンを見据えて言った。
『パルミナはダイブラを下さった龍神サンへの挑戦状ですか?』
ホントは聞きたく無かった。
もしそれでそうだって言われたらそれはそれでイヤだから…。
でもどうしても気になって。
「関クンにも聞かれたよ。関クンにはキッパリ否定したけど、そう言われればそうかもね。特別意識はしてないけど。どこかそう言う気持ちはあったかも。龍神サンにも挨拶に行くよ。龍神サンに勝てるわけなんてないのにね」
物凄く悲しそうな表情だった。
いつも見る明るい真壁サンとはまるで別人で。
『ありがとうございました。お幸せに!!』
どことなく小さく見える真壁サンの背中に向かってアタシは深々とアタマを下げた。
オニ社長に容赦なく仕事を入れられ(今回のコトについてのインタビュー2件)、メンバーと合流したのは龍神サン達がホントに開いてくれた食事会でだった。
今日は朝から怒濤のような1日だったな。
やっと落ち着いたらドッと疲れが来たよ。
「お疲れ様!」
壁に寄りかかってボーッとしていたらカクテルグラスを片手に海崎サンがやって来た。
“食事会”とは言ってもそれは飲めないアタシと関の手前のあくまでも口実で、実際はワンワーとvivienサン合同の飲み会。
男子は全員イイ具合にご機嫌。
飲んでないハズの関も飲んでんじゃないか???ってくらいに盛り上がってるからちょっと輪から外れてみた。
『お疲れ様です』
カクテルが似合うなぁ。
思わず見とれてしまう。
「災難だったわね。あんなに散々アプローチ掛けてたのにね。サイテーなオトコね」
海崎サンに言われると無性にそう思えてしまう。
確かに“じゃあアレは何だったの!?”って、今さらだけど、落ち着いてみれば思うよね。
告白された時からのコトを考えると確かに振り回されたとしか思えなくなる。
やっぱりアレは告白じゃなかったってコトなのか?
「でも陽依ちゃん、カッコよかったよ。良くやったわね!」
海崎サンの神憑り的な笑顔は神憑り的な癒し効果もある。
何だかココロの中のモヤモヤがスーッと消えていく。
『みんなそう言ってくれますけど、イマイチ理解出来ません。アタシのしたコトは、マスコミにケンカを売ったんじゃないですか?』
海崎サンはクスッと笑って答えてくれた。
「確かにそうかもね。だけどオンエアされたコトにより事実をねじ曲げて報道するコトは出来ないでしょ?たくさんの証言者がいるんだもの」
ふむふむ。
頷くだけで黙って聞き続けた。
軟らかく、ふんわりと包み込むような温かい海崎ワールドにのめり込むように。
「しかもあんなに反響があるくらいだから、テレビ局にも相当問合せが行ってるハズよ。そしたら取り上げないワケに行かないしむやみやたらに悪くも言えないでしょ?そしたら局によっては真壁静哉のおめでた婚騒動よりも陽依ちゃんのコトを取り上げるでしょ」
そうか?
ちょっと顔を曇らせる。
少なくとも今日の夕刊と夕方の芸能ニュースは真壁サンとお相手の女子アナメインだったぞ?
1紙だけ
“超大型新人はお相手も超大物だらけ!!”
って違った視点で書いてあったくらいで。
まぁそう言う内容は書かれちゃうだろうね、当然。
「これだけの反響があるんだからメディアだってほっとけないでしょ。ってコトは、明日には真壁静哉のコトよりきっと陽依ちゃんのコトが取り上げられるんじゃない?」
確かに、、、
明日も容赦なく仕事が入ってる。
学校休んでるってのに社長ってばメチャクチャ喜んじゃって、今日来たオファーを出来る限り受けちゃったから。
関は明日の朝イチで帰らされるけど。
イイのか?アタシ、仕事してて。
まぁ関はともかくアタシはほとぼりが覚めるまで事務所で預かるってコトらしいから。
芸能界は分からない・・・。
何がどう転ぶかなんて、芸能界に限らず何にしても分からないモノだね。
イイ勉強になったよ。
「陽依ちゃんは好きな人いるの?」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
思わず衝撃のあまり何かにむせそうになった。
何をいきなり言い出すんだ?海崎サンてば!!!!!
酔ってる?
『いないです。好きとは違う、偉大すぎる存在の龍神サンがいますから』
一瞬思い切り焦っといて冷静に答える。
「龍神じゃダメなの?」
海崎サ→→→→→→→→→→ン!!!!!!!!!!
ココロの中のアタシ、砂浜で夕陽に向かって大絶叫。
何てコト言うのよ!!
酔っ払ってるな、完全に。
咳払いをして深呼吸して答えた。
『龍神サンは龍神サンでしかないんです、アタシにとって。向坂龍二サンにはなれないんです。どんなに手を伸ばしても届かない、だけどいつもすぐそばにいてくれる、かけがえのない先輩なんです。LOVEでもlikeでもないけど、オンリーワンなんです』
龍神サン達の輪を見つめながら。
ごくごく自然に言えた。
「アタシにはそう思える人がいないから良く分かんないケド、今のウチに恋はたくさんした方イイよ。音楽の幅も広がるしね」
海崎サンの笑顔が神憑り的に眩しかった。
『だからある意味、ストレートに直球でアタシに気持ちをぶつけてくる真壁サンがメチャクチャ羨ましかったです』
ちょっと遠くを見つめる。
「そっかぁ。陽依ちゃんならイイ恋出来るよ!」
海崎サンもどことなく寂しげな顔になっていた。
翌日-----
“真壁静哉のお相手は超人気アイドル女子アナだった!!”
スポーツ紙の一面には真壁サンの名前が見事に並んでいた。
お相手の女子アナさんも自局の朝の番組で直接説明していた。
仕事はギリギリまで続けるけど音楽番組は降板するとのコトだ。
そりゃそうだよな。
が、しかし!!!!!
スポーツ紙の最終面や一面の片隅にしっかりアタシの名前が・・・。
“龍神に続き真壁静哉もホレる超大型新人・彩沢陽依とは”
とか、
“「イイ大人のするコトじゃない」!!マスコミを一蹴!!!”
なんて。
パパママ・サヨリにも迷惑掛かるんだろうな。
昨夜連絡出来なかったから電話しとくか。
「陽依!大丈夫???」
昨日の朝ぶりのママの声にアタシはイッキに涙が込み上げてきた。
『アタシは大丈夫。それよりみんなに迷惑掛かる方が申し訳ないよ。職場や学校で色々言われちゃうね』
涙ぐみながら。
「大丈夫よそんなの!それより陽依が心配よ。3人ともテレビ見て心配してるんだから。ちゃんと寝れた?ご飯は?」
我慢出来ずに声を上げて泣いていた。
『大丈夫だよ。ご飯は心配しないでイイよ、ちゃんと食べれてるから。アタシは全然平気』
ママ・・・。
出来るだけこらえて冷静に話す。
「サヨリが猛烈に真壁静哉に怒ってたよ。“あんなオトコ人間じゃない!!”って。あんなにキャーキャー言ってたのにね」
ママは笑いながら教えてくれた。
サヨリ・・・。
みんなの気持ちが痛いくらい嬉しかった。
アタシにはこんなにたくさんの強い味方がいるんだ。
ヘコンでばかりいられないね。
誹謗中傷なんかに負けてられるか!!
よし!!!!!fightだ陽依。
夜。。。
マンションに戻りボーッとテレビを見ていたら龍神サンが電話をかけてきてくれた。
「オレのトコにも挨拶に来たよ」
って。
ホントに行ったんだね。
ちょっとビックリ。
「アイツ言ってたよ」
えっ?
思い出し笑いしてる。
「関からもヒヨからも同じコト聞かれたって」
まさかっ!
「関には否定したけどヒヨにはホントのコト言ったってな。アイツ、根っからの正真正銘の正直者なダケかもな」
“正真正銘の正直者”???
アタシにはイマイチ意味が分からなかった。
「オレに直接挨拶に来る時点で驚くのに、オレに対して対抗心があったってフツー正直に言わねぇだろ」
・・・。
黙って聴く。
「相手がいるのにヒヨに告白したりするのは許せないけど、ヒヨに対しての気持ちにウソは無かったってコトだろうな」
龍神・・・さ、ん?
益々意味が分からないよ。
「オレに対抗心抱くってコトはつまりジェラシーだろ?ってコトは、本気だったんじゃねぇの!?」
じぇらしぃ???????
嫉妬??????????
「ヒヨのコトホンキじゃなかったら嫉妬する必要ないだろ?興味本位ってコトも考えられなくはないけど、興味本位でパルミナはないだろ、いくら売れっ子でも。じゃなかったら完璧にオレにケンカ売ってるコトになるしな」
関が言ってたコトを思い出した。
“からかわれてんじゃねぇの?”
って。
さすが龍神サンはオトナだね。
“からかわれてる”なんて幼稚なコト想像する関とは大違いだよ。
って、当たり前か。
20歳も違うんだもんねっ。
一緒にする方が間違えてんね!
それにしても、、、
嫉妬...かぁぁぁ。
“龍神サンに勝てるワケなんて無いのにね”
あの時の寂しそうな表情がしっかりと焼き付いてる。
後悔の表情にも見えて。
“もしかしたら勝てるかも”って僅かにでも思ったってコト?
そう思うくらい人を好きになったコト、
無い・・・デスよぉ。。。
自分が何だか切なく感じるよ。
“今のウチにたくさん恋してた方がイイ。音楽の幅が広がる”
海崎サンのコトバも同時に甦る。
“恋”かぁぁぁぁぁ。
“恋”ねぇぇぇぇぇ。
“人を好きになる”感覚、最近めっきりご無沙汰だな・・・。
“オンナのコは恋をするとカワイくなるのよ!”
なんてコトも言ってたっけ、海崎サン。
“今のウチに青春しないでいつするのよ!”
とも言ってたっけ。
“青春”・・・、かぁ。
“青春”て、
何だろう・・・。
アタシにとっての青春ってきっと、ワンワー一色なんだと思う。
学校行事よりも、練習やライヴやバイトの方が思い出に残ってるもんな。
とことん、ワンワーづくめだったんだなぁ。
そりゃ“恋愛”の“れ”の字のカケラもないよなぁ。
修学旅行も遠足も、女子と一緒だったし。
関とはまだそこまで仲良く無かったしね。
でも、
ワンワーが青春なんだとしたら、
いつも必ずそばにいたのは関だった。
アタシにとってのワンワーに欠かせないオトコ。
関に限らず、テッちゃんに対してもまぁクンに対してもセンちゃんに対してもなおクンに対しても恋愛感情を感じたコトなんて、一度もなかった。
メンバーは先輩としてしか見ていなかったし、
関は音楽仲間としてしか見ていなかったし。
中学生の時はそれなりに好きな人いたけど。
そう考えるとこの3年間はホントに音楽漬けだったんだね。
“好きな人”・・・
“vivienのボーカルの”、
龍神サン-----
くらいだったなぁ。
恋愛か。
う゛ぁっっっ!!
ヤバひ!!!!!歌詞が浮かんで来たぞぉぉぉ!
アタシ、どこまでも音楽バカなのね。