まさかの失恋???
『ありがとう』
電話を切った後アタシはうつむいたままで関に言った。
「何が?」
相変わらずのぶっきらぼうな返事。
照れ隠しだろうけどいつものコトながらイラつく。
だからアタシはいつもソコで話を終える。
「せっかく大好きな人がそばにいるんだから、どうせだったら大好きな人に聞いてもらった方がイイだろ。オレ、そーいえば龍神サンの連絡先知らねぇやと思ってさ、テツさんに頼んだ。ごめんな」
なっ!!!!!
『何で謝るのよ!!』
とっさに手を放し、関の目を見て言った。
「勝手なコトしたから」
はぁ!?!?!?!?!?
開いた口が塞がらなかった。
ココロの中のアタシも。
らしくない極まりないよ。
何なのコイツ。
出来るコトなら開けないで返したかったけど、
龍神サンにとりあえず中を見てみてからにしろって言われたから。
「イイのか?」
いつになく真剣な関。
思わず吹き出しちゃった。
『お願いします』
小さくアタマを下げて。
関のお陰でドキドキは無かった。
完全に無いワケではなかったけど、かなり緩んだ。
ところが、
中を開けて、
アタシも関も、
時間が止まった・・・。
しばらく2人ともコトバが出なかった。
なぜなら、
中身は、
指輪だったから・・・。
我に返った関が取った行動、
「あ゛ぁぁぁっ!!」
って、
まるで時限爆弾でも手にしてるかのようなカンジで箱を離さずに自分から遠ざけた。
アタシまでつられて
『あ゛ぁぁぁ!!!!!!!!!!』
って、ついついカラダを反らしちゃって。
お互い顔を見合わせて吹き出し笑いしあった。
笑いが引き少しの沈黙が流れた次の瞬間、思わず2人同時にため息をついた。
「どーすんだ?」
アタシも関も箱の中の指輪を直視。
アタシ、反応出来ず。
とりあえずアタシが取った行動、
箱を閉めて箱を袋に戻してみた。
恐らくプラチナの、センターでねじりの入った指輪。
石とかは特に無く。
「プラチナでパルミナっていくらすんだコレ!?売っちゃえ‼」
おぃっ!!!!!
『何て下世話なコト言うの?アンタは!!』
素で怒った。
「返すよりはいんじゃねの?」
・・・まぁ静哉サン的には返されるよりはそうかも知れないケド、
アタシがヤダよ!!!!!
龍神サンに写メを送った。
高校生がパルミナのしかもプラチナなんて。
「コレさぁ、」
メールの送信ボタンを押してため息をついていたアタシに、関がボソッと言い出した。
関の顔を見る。
「もしかしてからかわれてんじゃね?」
はぃぃぃぃぃ?????
『からかう!?』
言うに事欠いて何言っちゃってくれちゃってんのコイツってば!!!!!↑↑↑
声裏返っちゃってるよ、アタシ。
どんだけゴージャスなからかい方なんだよ。
コトバが出ない。
「だって考えてみろよ。高校生がパルミナのしかもプラチナなんて。しかもコレがマスコミに見つかったら間違いなく取り上げられるに決まってるし」
・・・・・・・・・・そりゃねぇぇぇ。
そりゃそうだ。
「だいたいこのタイミングでしかもパルミナなんて、龍神サンにケンカ売ってるとしか思えねぇし」
ドキ→→→→→→→→→→ン↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑
オマエそれ言うなよ。
今の一番のウィークポイントなのに。
「そもそも指輪なんてサイズ合うのか?」
確かに・・・・・。
アタシ指のサイズ聞かれてないし。
「誰か他の人にあげようと思って突っ返されたとかじゃねぇの?」
投げやりな関。
ソレは無いだろ。
『真壁サンをフる人なんているの!?』
「わっかんねぇよぉ!?」
思いっきり力が入る関。
だってもしコレでぴったりだったら?
おどける関をヨソに、アタシはとてつもなく恐ろしい妄想が浮かんで来てしまった・・・。
もしぴったりだったらコワいよねぇぇぇ。
関の言う通り誰かにあげようとしたモノだったとしたって、
サイズを知らずにカンで買ったとしたって、
どっちにしたってぴったりだったらコワいよ・・・。
また1人で固まってたらメールが鳴った。
龍神サンだっっっ!!!
両極端な2つのドキドキを感じながら逸る気持ちを丸出しでスマホを見た。
“サイズは?”
やっぱり龍神サンもそう来たか。
男子(真壁サン)のコトは男子(龍神サン・関)の方が解るだろうからね。
はぁぁぁ・・・。
深〜いため息をつく。
ん?またメールだ。
真壁サンだ・・・・・・・・・・。
肩がズシンと重くなった気がした。
“気に入ってくれた!?”
どよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
何も言わず関にスマホを見せる。
「オレに任せろ」
えっ!?
何かを言いたそうな表情で関は何か打ち始めた。
『ちょっっっ!』
慌てて止めようとしたけど、
「イイから。サイズ確かめてみろ」
スマホから目を離さずにちょっと迫力を感じさせる声だった。
戸惑いながらアタシは言われるがまま指輪を指に入れてみた。
恐る恐る、
震えながら。
人指し指から順に入れてみる。
入らない。
中指、、、
入らない。
薬指・・・、、、
間接をすんなり抜けてスポッと付け根まで入ってしまった。
つまり、
見事なまでにピッタリ・・・・・・・・・・。
「マジか」
いつの間にか関が見ていた。
かなり落胆の声。
「アイツ、相当慣れてんな。神的なプレイボーイなんじゃね?」
え゛っっっっっ!?!?!?!?!?
「指輪のサイズを勘でだろうが当てれるなんて並の能力じゃ無理だろ。相当のプロだな」
ぐうの音も出なかった。
プロって。
『やっぱり返す』
指輪を外した。
「売ろうぜ。かなり高く売れんぞ?」
全く。
また言ってるよ。
「アイツにはそうメールしといた」
『え゛っっっっっ?????』
ケータイを奪い取った。
すかさず送信メールを見てみる。
“関です。高校生にパルミナは重すぎます。ましてや今こんな時に着けて人前に出たらマスコミの餌食になるのは目に見えてますので、コレはせっかくですが処分させて頂きます。それとも返却しますか?”
心臓が破裂するんじゃないかって程の動揺だった。
“ソレはひーちゃんにあげたものだからひーちゃんに委せる。でもオレはホンキでひーちゃんのコトが好きなダケだから。”
ソレが真壁サンからの返事だった。
“ホンキで好きなダケ”って言われてもぉぉぉ。
受け入れるべきなんだろうか。
関が帰ったあと、静まり返った部屋でひとり考えていた。
“ホンキで好きなダケだから”
このコトバが離れなくて。
そんなコト今まで言われたコト無かったから。
アタシ、“ホンキで好き”って言える人、いる???
龍神サンは・・・
好きだよ。
ホンキで好きだよ!
だけど言えないよ。
“好き”の意味が、
“男性として”よりも、
“先輩として”と、
あくまでも“vivienの”龍神サンが好きって方が強いから。
決して向坂龍二としてでは、
無いから。。。。。
だったらこんなにストレートに“好き”って言ってくれてる真壁サンの気持ちに応えるべきなんじゃないだろうか。
アタシは真壁サンのブログを前のモノから何度も何度も読み返していた。
時間が経つのも忘れて。
眠れなかった。
感情がぐちゃぐちゃ過ぎて。
“ひーちゃんと一緒に♪”
“ひーちゃんのCD!”
“明日はワンワーと一緒っ!楽しみ♪”
“新人賞おめでとう!!”
コトあるごとに出てくるアタシの名前。
“グレイトロックのオンエアを見て一目惚れした”
アタシに言ってくれたコトも堂々と載っていて。
気が付くと夜が明け始めていた。
依然としてぐちゃぐちゃな感情は全く収まらず。
昨夜のライヴ終了後の真壁サンのブログにもやっぱりアタシの名前がある。
“「今日はワンワーの地元でのライヴでした!ひーちゃん姉妹と関クンが制服姿で来てくれたよ。制服姿のひーちゃん、かわいかったぁ♪差し入れのシュークリーム、メチャクチャ美味しかったッス!!ごちそうさまっ」”
“制服姿のひーちゃん、かわいかったぁ♪”って。
こんなにもストレートに感情を表現出来る真壁サンが、どこか羨ましくも思えてくるよ。
そのせいでアタシがこんなに苦しんでいるって言う点は否定出来ないけど。
はぁぁぁ・・・。
深く大きいため息。
もう4時過ぎてるぅ。
ヤバい、一睡もしてないよ。
今日学校なのにぃぃぃ。
何か飲むか。
コートを羽織り自販機よりも近い家のすぐそばのコンビニへ。
入った瞬間アタシの眠さ爆裂の目にとんでもないモノが入った。
眠さのせいで一瞬見逃したケド、
次の瞬間、
アタシは思わず二度見してしまった。
そして固まった。
その場から動けなかった。
なぜなら、
何気無く目を向けた新聞のラック。
某スポーツ新聞の見出し。
“真壁静哉 極秘入籍!!”
何が何だか分からないまま倒れそうなのをこらえ、無意識のうちに新聞を勢いよくもぎ取り、レジ横のホットドリンクコーナーからミルクティーを取って会計をして一目散に家に帰って新聞に食いついた。
家まではホンの数分だけど、猛烈に長く感じた。
猛ダッシュで家に向かってるハズなのに。
アタマの中は真っ白で。
店員サンの前で必死に冷静を装ってた(つもりでいる)けど。
ずっと俯いてたから店員さんの顔は全く見てないけど、何か言いたかっただろうな、きっと。
家に着くなり部屋に駆け込んでコートを放り投げてベッドの上に飛び込んだ。
真っ先に新聞に目を通す。
何で??
どうして???
どう言うコト?????
アタマが真っ白、
って言うか、完全思考停止。
“ピー”って音がいつまでも聴こえてそうに。
涙は出なかった。
その代わり吐き気が止まらなかった。
実際吐かなかったけど。
ミルクティーをがぶ飲みして我慢して。
テレビをつけてみた。
芸能ニュースでやるかなと思って。
激しいめまいがする。
新聞にはパルミナのお店に2人でいるトコロの写真が載っていた。
パルミナ・・・。
女性の姿は完全に背中を向けられていて誰かはわからない。
“あの”箱に目を向ける。
ワケわかんない。
アタシは龍神サンに電話していた。
もはや5時前。
非常識極まりない時間なのは分かっていた。
だけど、“理性”より“本能”が先行していて。
もちろん出るワケが無かった。
“真壁の事務所は、事実関係はノーコメントとしている”
ワケわかんないよ。
新聞に載っちゃうコト、真壁サン知らなかったっての???
んなワケないよねぇ。
“もしかしてからかわれてんじゃね?”
昨夜の関のあのセリフが過った。
また吐き気が込み上げてきた。
フツーこういう時って吐き気じゃなくて涙だよねぇ。
“昨日の公演にも制服で来る程仲の良さをブログで散々アピールしていたwonderful☆worldの彩沢陽依とはカモフラージュ?遊び?だったのか!?”
やっと涙が出てきた。
だけどじんわりとだけ。
新聞記事で“遊ばれてたのか”なんて書かれてるにも関わらずじんわりとダケなんて、
感情コントロール出来なさすぎじゃないの、アタシ。
何だろ、この感情。
悔しい?
悲しい??
怒り!?
ダメだ、何も思い付かない。
何をするわけでもなく無気力なまま窓の外を眺めるコト数時間。
スマホが鳴った。
モトさんからだ。
「朝早くに悪い!テレビ見たか?」
電話の向こうのモトさんの声はかなり焦っているように感じた。
まだ6時前!?
かなり長い時間が過ぎた気がしたのに。
どうやらモトさんの声が起爆剤だったようだ。
アタシの中の涙のダムは相当貯まっていたようで、モトさんの声がきっかけで決壊し尋常じゃない程の量の涙が出てきた。
コンビニで新聞を見つけてしまったコトを泣きじゃくりながらも話した。
昨夜のコトも。
「分かった。今すぐこっち来れるか?学校には連絡するから。しばらくこっちにいろ。色々面倒なコトになりそうだから」
無気力プラス思考停止中のアタシは、
モトさんに言われるがままスマホを親に渡しモトさんが親に説明してくれている間に簡単に出掛ける準備をして、
1人始発で東京に向かった。
1人で東京行くのって、初めてだ。
いつも隣に必ずいるハズの関がいない。
無性に寂しくなって、それでまた泣けた。
家に置いとくのが何となくイヤだったから、かと言って持ってくるのもイヤだったけどとりあえず持ってきた指輪はバッグの奥底に隠して。
駅までの移動中、関にはメールした。
モトさんが連絡しただろうけどいつも一緒に登校するから。
新幹線の車内で真壁サンから着信が来たけど、出なかった。
出れないよ。
何度も何度も掛かってきた。
それでもアタシは出なかった。
出たくないよ。
寝てないせいか気が付くと寝ていたようだ。
目が覚めたのは東京に着く寸前だった。
スマホを見ると大量の着信とメールが来ていた。
関からも。
“「オレも後で向かう。待ってろ」”
“待ってろ”のコトバに、思わず人目もはばからず涙を堪えたせいで表情が崩れる。
こんなに多くの人の前でさすがに泣けないからグッと堪えて。
“待ってろ”・・・
関ぃぃぃ。
昨夜のコトが時系列に蘇る。
放課後2人で真壁サンのコトを話しながらの帰り道、真壁サンから連絡が来て、
仕方無くサヨリを連れてライヴに行って。
真壁サン、凄く喜んでくれたのは何だったの!?
やっぱりからかわれてた!?
ほんのちょっと真壁サンに気持ちが動き掛けてたのに。
これは運命のイタズラなのか?
それとも運命の神様か何かがストップをかけてくれたのか?
自分が馬鹿らしく思えてきた。
歩きながら前が見えないくらいうつむいて泣いた。
コートのフードを深く被って。
泣いてるトコロをマスコミに見つかったら、
“遊ばれていた彩沢陽依、失意の帰京”
とか書かれちゃうんだろうか。
だけど今は、
そんなコトどうでも良かった。
改札口を確認する為にふと顔をあげたら、
迎えに来てくれてたモトサンが目に入った。
また涙が込み上げてきて、またフードを深く被った。
「彩沢サン!」
隙を突かれて張っていたマスコミがスッ飛んで来た。
すかさずモトさんが前に入ってくれる。
さすがに顔は上げれないけど、声を聞く限りでは恐らく3人くらいだろうか。
カメラのフラッシュの光や音もして。
「真壁サンの御相手は実は彩沢サンなんじゃないですか?」
あ゛ぁぁぁ?????
笑えないギャグ言うねぇ。
「彩沢とは何もありません。全くの無関係です」
モトさんが必死に弁明してくれる。
「入籍のコトは御存知でしたか?」
「真壁サンとはお付き合いしてたんですか?」
んなワケないでしょ!!
ココロの中では鋭く突っ込むケド無言で首を横にだけ振った。
「今の心境は?」
次から次へと質問が容赦なく飛ぶ。
足早に駅を出る。
出るとすぐ、タクシーに乗り込んだ。
「事務所前にもいるだろうけどとりあえず事務所に行くか」
力なく頷く。
何でも良かったから。
スマホを見るとまた大量の着信とメールが来ていた。
着信のほとんどが真壁サンだったけど龍神サンからも来ていた。
電話に出ないからかメールもくれていた。
“電話出れなくてゴメン。大丈夫か?”
たったそれだけだったけどまた泣けてきて。
“今東京です。とりあえず事務所にいます”
とだけ返信した。
途中でいつもの移動車に乗り換え、案の定事務所前に張っていた十数人のマスコミを目を見張るモトさんのカースタント並のドライブテクニックで何とかまいて、地下駐車場に入った。
ハリウッド映画さながらのカースタントにアタシの心臓は超バクバクだった。
シートベルトしてても思わずしがみついちゃったもん。
『モトさん、芸能事務所じゃなくてカースタントやったら?もしくは交通機動隊とか』
軽い息切れのアタシにモトさんはただ笑って交わしていた。