恋せよ乙女!!
『お疲れ様でしたぁぁぁぁぁ!!』
「したぁぁぁぁぁ!!」
改めて事務所に戻って打ち上げ。
ライヴに来てくれた関係者をみんな招待して。
アタシと関はもちろんドリンクで乾杯。
『ハナッから泣いちゃいましたけど、とっても最高でした』
1人1人コメントを言わされて。
「龍神サンに何のためらいもなく抱きつけるくらいだもんな」
関のとんでもない発言にアタシの顔は急速的に火を噴いた。
今更ながら自分の行動に後悔せずにはいられなかった。
『ホントにすみませんでした!!!』
勢い良くカラダを直角に曲げて。
「オレすげぇ嬉しかったから」
有り得ないほどの笑顔で言ってくれる龍神サンに、益々アタシは照れるしか無かった。
「龍神に影響されたって言っても龍神よりもはるかにスゴいフロントマンだよ、ひーちゃんは」
凱サンのコトバにまたしても顔から火を噴くアタシ。
全身で否定。
みんなが頷いてくれてもアタシは全身で全力で否定。
あまりの否定っぷりにコトバも出ない。
なんて砕けた雰囲気の中、打ち上げはあっという間に終わってしまった。
関やまぁクン、センちゃん、ナオくんなんかはキャンディバーの皆さんと話がかなり盛り上がってて。
あんな関の輝いたカオ、もしかしたら初めて見たかも知れない。
アタシとテッちゃんはほとんどvivienの皆さんとお話させて頂いていて。
途中、3組が入り交じって音楽談義に華が満開になっちゃって凄く楽しかったよ。
「今度みんなでイベント演りたいな」
なんてトコまで盛り上がっちゃって。
凄くみんなに感謝しちゃうよ。
“人との出逢いに感謝!!”
だよ。
「じゃ、ドライブ行こっか」
帰り際、いきなり龍神サンからのとんでもないお誘いを受けた。
アタシは当然固まった。
脳が非常事態を表すかのような警告音が聴こえそう。
もちろん反応出来ない。
「デビューのお祝いにって約束しただろ?」
龍神サンの声は脳に入ってくるケド処理する余裕が全くない。
「モトさん、テツ、イイ?」
固まるアタシをよそに、龍神サンは周りから固めようとしている。
「海崎もイイ?」
モトさんとの話に盛り上がっていた海崎サンにも許可を取る龍神サン。
倒れそう、アタシ。
ってか実はもう、倒れてんじゃないだろうか。。。
コレは夢なんじゃないだろうか。
アタシはどこまで運を使えば済むの???
これ以上の幸せってあるの?
感情がマヒして涙も出ないよ。
「アタシも同行する?」
固まり続けるアタシに、女神のような微笑みの海崎サン。
「何ならオレかテツもついてくか?」
モトさんまで。
マネージャー同伴てのはいくらなんでもどうかと思うので、テッちゃんに付いてきてもらうことになったのだけど
“vivien龍神・wonderful☆world彩沢陽依超年の差保護者同伴ドライブデート”
数日後、芸能ニュースでこんな報じられ方をしてしまった。
事務所公認と言うコトでお互いの事務所が上手くやってくれて、全然大事にはならなかったのだけど、、、
通学が大変だった。
視線が痛いの何のって。
こんなにめちゃくちゃ肩身の狭い想いをしたのなんて初めてで。
家まで関が迎えに来てくれたのには正直驚いた。
関がボディーガードを買って出てくれて。
思わず泣いちゃったよ。
お互いの事務所は、
“2人のドライブは承認済です。龍神本人から直接申し出があり、お互いのマネージャーが即OKを出しました。”
と対応してくれて、
龍神サンは直接コメントを出してくれて。
それにもまた泣いちゃって。
“以前から公言している通り、自分に影響を受けたと公言してくれている彩沢さんにデビューのお祝いと御礼を兼ねて、以前から自分が彩沢さんに提案し約束していたコトです。自分的には妹分として公言もしています。お騒がせ致しまして申し訳ありません”
って。
しまいには
“まだ学生で、しかもデビューしたばかりで学業と仕事を頑張って両立させているので彩沢さんに取材等はご遠慮下さい”
なんてハンパない御配慮まで頂いて。
まぁ結局その日の放課後にモトさんから連絡があって、アタシからもコメントを出すコトにはなったんだけどね。
“私にとって龍神サンは偉大すぎる程の存在です。私が音楽を始めたきっかけの方です。グレイトロックの時にご一緒させて頂いた程の、リスペクトする大先輩です。お騒がせ致しましたコトをワンワーはもちろん、龍神サンのファンの皆様を始め、関係者の皆様にお詫び申し上げます”
って。
アタシの気持ちをモトさんがまとめてくれたダケなんだけど。
もちろんブログでも報告。
寄せられたコメントはほとんどが応援メッセージだった。
もちろん嫌がらせのコメントもあったケド龍神サンファンの方からの応援メッセージがあったのには号泣したね。
“「ひーちゃんを信じてるよ」”
って、ある意味プレッシャーと言うか予防線を張られてる気がしないでもなかったけど、とにかく嬉しかった。
まぁお互いに常々ブログで逐一報告してるダケに掲載されたのは1紙のみ、取り上げるメディアも1社しかなくあっという間にいつも通りの日常に戻った。
.....かのように見えた。
冬休みが始まり、年明けの引越に向けた準備が着々と進む中今日は年末の音楽特番の収録。
まだまだ物凄く緊張しちゃうよ。
グレイトロックでの龍神サンとの共演や、“あの”スキャンダル(?)のお陰なのか、@の時よりも前評判が高くなっちゃって、
アタシの渾身の“桜の樹の下で”は発売前からかなりの話題になってくれているらしい。
学祭でのエピソードも話題の理由の1つらしく。。。
作った本人、一番プレッシャー.....
そんな中・・・
『おはようございまぁす』
かなりのバックテンションでの朝の挨拶。
今はまだホテル泊まり。
クリスマスや年末の特番やイベントが落ち着いた年明けに引っ越すから。
全員ホテル泊まりだから全員まとめて集合。
メンバーイチのバックテンションのアタシ。
自信満々のメンバー達。
「テツ、モトさんから連絡来たか?」
キラキラしているセンちゃん。
他のみんなも笑顔。
「今から会うの分かってるからわざわざ連絡しないでしょ」
テッちゃんも嘘みたいに笑顔。
心臓が熱く焼けそう。
「5位以内には入ってるだろ」
なっっっ!!
ナオくんの超爆弾発言にアタシは気絶寸前。
・・・今日は、“桜の樹の下で”の初動売上とダウンロード配信数が出る日。
だから、アタシが尋常じゃないプレッシャーを抱えているのだ。
心臓が、
痛い。
とっても.....
来たっっっ!!!
「おはよう!!」
いつもと変わらないテンションのモトさんが。
「ぁざぁっす!」
「ッス!!」
「おはようございます」
「ぁよざいまぁっす」
「あっす」
高めのテンションのメンバー達。
『おはよーございますぅぅぅ』
背中を丸め、小声で、伏し目がちに挨拶するのはもちろんアタシ。
モトさんはもちろん、みんなの顔が見れない。
「さっ!行きますか、大型新人の皆さん」
ぁぁぁ↑ん??
顔がひきつる。
「もしかして!?」
「おぅっ?」
「まさか??」
「やっちゃった???」
「当然でしょ」
最後の“当然でしょ”は、当然テッちゃん。
かなり自信満々に。。。
外に出てすぐ発したモトさんのコトバ、
どうして勿体ぶるかのように外に出てから言ったのか…、
そりゃ外に出てからじゃないと言えないよ、
みんな絶叫しちゃうもん。
アタシは完全にトリップ。
「“桜の樹の下で”、デイリーランキング1位・ダウンロードデイリーランキング1位おめでとうございます!!」
完全にトリップしていた。
グレイトロックで優勝した時よりも。
みんなの声が歪んで聴こえる。
「すげぇ!!」
「やぁっっったぁぁぁ!」
「マジかよ」
口々に発するメンバーの中、1人関は絶句していたらしい。
テッちゃんはただただ笑顔だったらしい。
アタシの記憶が戻ったのは、移動中に掛かってきた一本の電話だった。
「ひー、着信」
隣のまぁクンに激しくカラダを揺すられて引き戻された。
スマホに目をやるとディスプレイに出た文字が一気に緊張感を高めた。
“龍神サン”
ちょっと待ってよ...
今はちょっとぉぉぉ。
『テッちゃん!テッちゃん!!』
どうしていいか分からず声にならない声でテッちゃんに渡した。
何喰わぬ顔でテッちゃんは出てくれた。
「お疲れ様っス!テツヤです」
「ありがとうございます!!今本人は放心状態です。どこかにぶっ飛んでます」
チラッとテッちゃんがこっちを見る。
アタシのスマホを持ったテッちゃんの手が、アタシに近付く。
ぃやめてぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!
心臓が宇宙の彼方にぃぃぃぃぃ.....
アタシの放心状態は移動中はおろか、会場に着いても収まらなかった。
“「おめでとう!」”
って龍神サンに言われても、
どんなにすぐ側でメンバーがコーフンしていても、
会場入りしてすれ違う人各々にコトバを掛けられても、
アタマを下げるのが精一杯で。。。
どんなにメンバーに
“「ひよ!」”
とか、
“「戻ってこぉぉぉい」”
って言われても、言われてるのは解ってるんだけど・・・・・
誰にあっても何をしていても話題はそのコトにしかならなくて。
やっと戻れたのはリハーサルに入り演奏が始まった瞬間だった。
やっぱり曲が流れると否応なしに戻っちゃうよね。
グレイトロックの予選から全国大会までのステージや、グレイトロックの当日の自分達のステージや龍神サン達とセッションしたステージも、
演奏が始まった瞬間にすぅっと素に戻れた。
つくづく感じるよ、
“歌の力”
を------
いろんな意味での“話題の新人”だけあって初対面のミュージシャンの方でも向こうから何気無く声を掛けてきてもらっちゃって、
年末特番ダケに出演者もハンパなく豪華で、何だか恐縮しっぱなしのまま収録は終わった。
『お疲れ様でした!!』
楽屋を出てすぐPinky dollってバンドの皆さんとすれ違った。
ボーカルの真壁サンがすっごく気さくな方で、
“「オレヒヨリちゃんのファンなんだ」”
って、溢れ出る笑顔で握手を求めてきてくれてアドレスまで交換しちゃって。
真壁サン、ドラマとかでも活躍されてるし抜群のスタイルだからモデルとしても活躍されてて物凄く人気ある方だから、恐縮しまくっちゃうよ。
メチャクチャかっこいいしね。
「お疲れ様」
笑顔で返してくれた。
このさりげなさがまたイイね。
Pinky dollは良くTVや有線やラジオで流れるから買ったりダウンロードしてまで聴いたコトは無かったケド、詳しく聴いてみようっかな。
何てったって今年の賞レース独占って言われてる程の実力者だからね。
『お疲れ様でしたぁ』
ホテルの部屋に着いてふとケータイを見ると、早速真壁サンからメールが来ていた。
そこに書かれていたコトバは、アタシの息の根を瞬間的に止めた。
“良かったらオレと付き合ってくれないかな。”
アタシの思考回路は完全にフリーズした。。。。。