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初めのイッポ

夢にまで見た憧れのステージ。


友達の付き合いで初めてライヴを見に来てあまりの迫力に圧倒されたのもまた、このステージだった。


ソレがアタシの原点で。


そのステージにアタシは今、立っている。


夢みたいだ。


カラダがフワフワしてる。


足が地についてないみたいで。


目の前には満員のファンの人達。


みんなの顔が涙で滲んで見える。


“頑張ってー!!!”


客席からたくさんの声が聴こえる。


アタシの頬には大量の悦びの涙。


止まらない。


大好きなメンバー達がアタシの元へ次々に寄ってきて次々にアタシのアタマを軽く叩く。


みんなのためにもアタシは歌う。


声を振り絞って.....










数年前.....



「お帰り」

「お帰りヒヨリ」


『ただいま。お腹空いたぁ』


バイトを終えて家に帰るといつもパパとママが迎えてくれる。


帰りはだいたい毎日21時過ぎになるんだけど。


彩沢 陽依(ひより)・高校2年。


加入して1年になる愛する我がバンドの為に日々バイトに励んでます!


入浴・食事を済ませて部屋に戻ってするコトはキーボードの練習。


アタシはバンドでボーカルとキーボードを演ってる。


約1年前、友達の付き合いであるアーティストのライヴに行ったのがきっかけで。


アタシはすぐにバイトを始めた。


同級生のバンドを演ってる男子の関に“とにかくバンドは金が掛かる”って聞いたから。


パパもママも2つ返事でOKしてくれたおかげでアタシはバンドもバイトも始めるコトが出来た。


関が学校帰りに楽器屋に連れてってくれてソコで見つけたのは男だらけのバンドだった。


でも演りたいジャンルがアタシと一致したから即連絡を取ったら偶然にもその日練習があるからってすぐ合流して。


演りたいジャンルが一致してるだけに、“コレ歌ってみて”って言われた曲がアタシがカラオケで良く歌ってる曲だったってのとどういうワケか一発で意気投合したってのでアタシは即加入が決定した。


アタシが加入したバンド、“wonderful☆world”は、アタシ以外のメンバーはかなりのキャリアでそれぞれが別々のバンドから集まったばかりだった。


にも関わらずバンドとしてももうかなりのレベルで出来上がっていてアタシはかなりの疎外感を感じたからとにかく練習した。


バンド練習もバイトもない時は1人でカラオケに行ったり、


いろんなバンドのライヴ映像を見て研究したり。


そんなある時に関に言われたの。


「オマエさぁ、キーボード演ってみたら?」


って。


初めは呆気に取られたよ?


正直“何で??”って。


関が言うには、


“ワンワー(wonderful☆worldの略称)ってギターは2人いてキーボードはいないからキーボード演ってみたら?バンドの戦力になるならないは別としてさぁ。曲創るのに役立つし。”


ってコトらしく。


メンバーと初対面の時に関も一緒にいて、他のメンバーのテクニックに惚れちゃって今じゃすっかり関とメンバーは大の仲良し。


そして関は、アタシの良き相談相手。


関とは演ってるジャンルが違うけどとってもイイ音楽仲間。

早速次の日に関とキーボードを買いに行って。


まだ練習段階だからメンバーには言ってないけど。


まだ言えるレベルじゃないからこっそり練習中。


早く言えるようにって必死で練習中。


そんな時だった、


アタシのキーボードの上達を否応なしに急がせたのは。



ある日の夜、リーダーでギターのテッちゃん(新藤哲弥)からいつものように一斉連絡が来た。


“明日の練習前いつもの店に4時に集合!”


なんだろう。


いつもは練習後にファミレスでミーティングなんだけど。


“当たり構わずあらゆるオーディションやコンテストに出しまくる”大作戦の中のどれかの結果でも来たのかな?


ちょっとした期待を持ってみたりして。


それにしても学校が終わってからだから着替えに帰る暇ないな。


仕方無い、学校に着替えも持って行くか。




翌日ー


『今日の練習はそのまま行くね。夕飯は済ませて来るよ』


着替えを入れたデカバックを持って学校へ。


「おはよう、ヒヨリ。どうしたの?その荷物」


クラスメイトに呆れ気味に声を掛けられる。


『おはよう!今日は練習に直行なの』


「ふ〜ん」


確かにアタシ、異様な出で立ちだ。


「アレ?彩沢、今日練習じゃねえの?」


廊下でアタシの異様な出で立ちに気付いた関がドアにもたれかかって言ってきた。


机に荷物を置いて廊下の関のトコロへ行った。


『うん。今日は練習前にミーティングらしいんだよね。集合が早いから』


重いカバンを下ろし一息付きながら。


「何か結果来た?」


嬉しそうな表情の関。


『分かんない。何も言ってないけど』


関もウチらの“当たり構わず応募しよう大作戦”は知っている。


関も気になる様子。




放課後、幸い掃除が無いアタシは大急ぎで学校を後にした。


途中、駅のトイレで着替えていつものファミレスに着くともう他の4人は全員集まっていた。


「お疲れ!ヒヨ」


立ち上がり呼んでくれたのはテッちゃん。


テーブルに行くと4人が口々に挨拶。


「おぅ」


と軽く手を上げたのはベースの“まぁ”クン (矢幡学)


「お疲れぃ!」


ハイタッチを求めて来たのはドラムの“セン”ちゃん(風間千多)。


無言で手だけ上げているのがもう1人のギターの“ナオ”くん(渡部直弘)。


我がwonderful☆worldはアタシを含めたこの5人。


制服が入ったデカバックをソファーの脇に置き、ナオくんの隣に座った。


「じゃ、ヒヨが来たトコロで改めて」


テッちゃんが徐に1枚のハガキをテーブルの上に出した。


何なに??やっぱり結果かな?


身を乗り出してハガキを確認。


「すげぇ」

「マジで??」

「やっぱオレらってすげぇんだな・・・」


口々に感嘆の声を上げる男子の中アタシは唖然として開いた口が塞がらなかった。


ハガキに書いてあったのは驚くべき文字だったから。


“一次選考通過のお知らせ”


悦びも束の間差出人を見た瞬間アタシは目がテンになった。


“グレイトロックフェス事務局”


「テツ、オマエグレイトロックにも出したの?」


声が上ずるほどに驚いているのはまぁクン。


顔色1つ変えずに冷静にテッちゃんは答える。


「当たり構わずって言ったろ」


何も言い返せないまぁクン。


今度はナオくんが言った。


「当たり構わず過ぎだろ。グレイトロックだぞ?」


ちょっとキレ気味にも見えるナオくん。


「まだ一次だよ」


失笑気味のテッちゃん。


「そりゃそうだ」


ボソッと呟いたのはセンちゃん。


アタシはただただ絶句。


ナオくんやまぁクンの反応は無理もない。


グレイトロックフェスと言えば、毎年夏に行われる国内最大級最高峰な国際レベルの音楽の祭典。


ジャンルを問わず超一流のミュージシャンが世界中から集まる超ビッグなお祭りだ。


そこにアマチュア枠が2つあって、1つの日本枠を決めるオーディションが約1年前から始まるのだけど、


来年出場枠のオーディションの1次選考を通過してしまったのだ。


確かにセンちゃんの言う通りまだあくまでも1次選考だ。


だけどコレはかなり一大事だ。


何せそんだけデカ過ぎる“お祭り”なダケにアマチュアのみならずプロだってみんな憧れを抱く。


出たいが為にアマチュア枠にも関わらずプロでも応募してくる人たちもいるほど。


それ故オーディションの応募数だって毎年ハンパ無い。


そんな中でステージに上がっちゃったら否応なしに注目されるのは必至。


それ故そんな大会の1次選考とは言え通過したなんてかなり凄いコトなのだ。


アタシはつくづくとんでもないバンドに加入してしまったコトに恐ろしさすら感じたのである。。。


アタシの運命を変えた、初めて行ったライヴを演ったバンド、“Vivien”や


メンバー全員がリスペクトしている“キャンディバー”もまた、グレイトロックのアマチュア枠がきっかけでデビューした人達だった。


どちらも今や日本を代表するBIGアーティストだ。


だからたかが1次選考、 されど1次選考なのだ。


「オレ今まで毎年応募してきたけど1回1次通ったダケだった」


コーヒーを一口飲んで物々しい声を出したのはまぁクン。


「オレは何回か出して全滅」


ちょっとコーフン気味のナオくん。


みんながみんな、1次選考を通ること自体どういうコトなのかをわかっているからだ。


アタシは震えが止まらなかった。


テッちゃんは自信ありげな含み笑いを止めなかった。


「やっぱりすげぇんだな、このメンバーは」


アタシ・ナオくん・まぁクンとは逆に、笑顔のセンちゃん。


「オレ行くと思うよ、グレイトロックのステージ」


テッちゃん?????


次の瞬間、


「はぁぁぁぁぁ?」


まぁクンのすっとんきょうな声が見事に店内に響き渡った。


でもアタシも心の中では大絶叫。


それとは真逆にめちゃくちゃ涼しげなテッちゃんとセンちゃん。


確かにアタシが初めて4人と会った時テッちゃんは言っていた。


“最強な予感がする”


って。


男子4人のレベルは確かに凄まじい。


アタシがかなり足手まといに見える程。


でもアタシも何となく思えちゃう。


“このメンバーなら何とかなるんじゃないか”


って。。。


2次選考は2ヶ月後。


「練習、週イチに増やして大丈夫?」


とテッちゃん。


「当然だろうな」


ナオくんのコトバに全員頷いた。


「オレ、マスターに聞いて見るわ」


センちゃんはスタジオ兼ライヴハウスでバイトしている。


たまにスタジオ代節約の為に、ライヴのない午前中とかスタジオの予約が入っていない日に時間が合えば安く貸してもらっているのよね。


「頼むわ」


とテッちゃん。


その後スタジオの時間まで選曲でかなり白熱した。


練習はさらに白熱した。


もともとみんなかなりのキャリアなだけに何かと音楽の意見では衝突する。


みんながみんなバンドのコトを考えているからこそなんだけど。


それでなくても今日の演奏はコトあるごとにストップした。


みんな気合いが入りすぎて空回りして。


『普段通り演ろうよみんな。普段通りに演って1次通ってるんだから』


アタシのコトバにソッコーで噛みついてきたのはナオくん。


「普段通りって、グレイトロックだぞ!?」


見事にコーフンしている。


「ひーの言う通りだ」


センちゃんが仲介してくれた。


センちゃんに目をやるとその斜め後ろのテッちゃんも頷いていた。


ホッ。


「ヘタに空回りして悪化したらどーすんだよ。グレイトロックも他のオーディションも同じだよ」


テッちゃんが言った。


頷くアタシ。


「だいたい応募してんのはグレイトロックだけじゃないんだから。当たり構わず作戦はまだまだ続くんだからグレイトロック一本てワケにはいかないよ」


続けたテッちゃんのコトバにナオくんは黙ってしまった。


またも頷く。


そしてもう一度ホッ。


胸を撫で下ろす。


そんな調子で練習は終わった。


大きくため息。


その後、いつも通りファミレスミーティングへ。


2時間のスタジオ練習でウチらの持ち曲全てを演奏して、それを元にミーティングでみんなで話し合ってグレイトロックの2次選考の曲を決めるコトにした。


「あのさぁ、ちょっとイイかなぁ」


テッちゃんのコトバにみんなテッちゃんを見る。


「“moon”は次に取っておきたいんだ。ちょっと考えがあって」


「ぁん?」

「・・・おぅ」


センちゃんとナオくんはためらいながらも承諾。


「確かにバラードはまだ出すのは早いな」


珍しくまぁクンがテッちゃんの意見に一発で乗った。


このバンドの暗黙の了解、


“テッちゃんとまぁクンの意見がイッパツで合致した時は素直に聞け”


に従いバラードの“moon”は今回は見送るコトに。


テッちゃんとまぁクンは正反対の性格だからいつも衝突してばかりいる。


だけど、


だからこそ?2人の考えが同じ時はだいたいイイ方向に行くコトが多い。


「まだアップテンポでイイだろ。次ってライヴハウス審査だろ?ノリ重視だな」


まぁクンの意見で曲が絞られていく。


とりあえず3曲に絞り1ヶ月の練習で決定するコトにした。


帰り際.....


帰りはいつもテッちゃんと同じ。


「コレ、練習しといて」


テッちゃんがギターケースの中から1枚のクリアファイルを取り出した。


街灯の光でクリアファイルから中身を取り出す。


アレ?


『“moon”のスコア?』


「イントロでキーボード演って欲しいんだ」


パキ.....ン


アタシの心臓が砕け散ったような気がした。


「純也に口止めされてるから他のヤツらにはまだ言わないからゆっくりでイイよ。今はあの3曲中心で」



・・・・・・・・・・。


スコアを見つめたままボー然。


純也?


関???


ひゃっっっ!!!!!


まさかアイツ・・・。


血の気が引いた。


「オレで良かったら練習付き合うからさ。ヒヨのキーボード、楽しみにしてるよ」


ちゅど→→→→→ん

(アタシの中の何かが崩壊する音。)


関ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!


全身の血の気が引いたと思ったら今度は一気にアタマに血が昇るのがわかった。


何とも説明のしようのない感情がアタシに今沸き起こっていた。


「純也は悪くないよ。純也はちゃんと言ってたからさ、“アイツに口止めされてる”って」


・・・。


「って言うかさぁ、前に純也にボヤいたコトあったんだ。“キーボードいたらイイなって思うコトがある”って。そしたら純也がヒヨが悩んでたからキーボード勧めたって言ってて。すげぇ嬉しかった」


ぷしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…。

(何かが抜ける音)


気が遠くなりそう。


「でもコレだけは言っとく。オレだけじゃなく、ナオもまぁもセンもみんな、ひよの歌、大好きだよ」


ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。

(思考停止の音)


「センのドラムがあって、まぁのベースがあって、オレとナオのギターがあって、ひよの歌があるからwonderful☆worldなんだよ。オレの自信はこの5人だから起きるんだ」


テッちゃんの優しい笑顔が胸を刺した。


ちょっと涙が滲む。


『ありがとう』


涙声で呟いた。


テッちゃんはアタシのアタマを優しく撫でてくれた。





翌日.....


「彩沢!」


関だ。


校門近くで関が駆け寄ってきた。


『おはよー、関』


関に言わなきゃ。


「で、何だった?」


子供みたいな無邪気な顔の関。


『関、色々とありがとね。テッちゃんに聞いたよ』


照れ気味で意を決して言ったのに関はあっけらかんとして言った。


「何が?」


このヤロー・・・。


一瞬怒りが込み上げた。


『グレイトロック、1次選考通過した』


ふて腐れ気味に言うと、関は一変、


「すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


照れたアタシよりも真っ赤な顔で絶叫して喜んでくれた。


何度も何度も無意味な程にハイタッチを求めてくる。


若干周りの視線が痛かった。


この日を境に、


アタシの日常はモノの見事に激変した.....

























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