名ばかりの使命
僕がそこにいたから、彼女は笑った。
それだけで、僕がいるだけで、幸せだと、彼女は言った。
僕の顔が見れるだけで、世界が輝くとも言った。
ラブストーリーなんてまともに読んでいない彼女の言葉を、どこまで信じたらいいかわからなかった。
盃を交わせる齢に上がる頃は、もう遠い冬のことだ。
我が永遠のマドンナ、リディア・エルドリアよ、君は今も、あの星空の下にいるのか?
「…イデルくん?大丈夫ですか?」
「あ……ああ、ごめんな。平気だ。」
「そう…次のヤードは、クレア星のカルアンシティです。服装は、僕が編みましたので、イデルくんは、荷造りだけお願いしますね。」
「そうか、ありがとう。エネス」
生まれた瞬間、この世界に呼ばれた。
先祖代々続くこのタスクは、俺が生まれた理由に過ぎなかった。
事務所は、この宇宙全体である。
何代にも渡ると言えど、俺たちの仕事はただ1つ。それは……
「そろそろいきましょうか。」
「そうだな。」
先祖代々が何千年も修整を重ねてようやく完成形になったロケットバイクは、実に見た目が美しくない。それでも実用性だけは高い。
今日未明も、あるはずのないものを探しに行く。
一体いつまで続くのかわからないが、先代たちがなぜこれを続けているのかはわかる。
俺がかつて、もっと賢い子供であったら、この連鎖を止められたかもしれない。
「イデルくん、あなたは悪くないです。だから…僕の前では、その…ごめんなさい。余計なお世話でした。」
「いいんだエネス。お前が俺を心配してくれてることも、お前の優しさも全部知っている。何年も隣にいたんだから。」
「…イデルくん…もし、僕が、…んな…ったら…」
「うるさっ!なんなんだ地球人というものは!夜明け前からバイクなんぞ乗りよって!」
「…聞いたことあります。あれは、暴走族というものです。」
「なんだその物騒な名前は…まあいい…仕事は早めに片付けて早くボイルに帰ろう。まったく地球にいるとろくなことねえわ…」
「そうでしょうか?イデルくん、あなたは、かつて地球の女性に…」
「もういいだろその話は。行くぞ」
「…はい」
探さなければ、宇宙の全生命体ごと消滅させると、俺たちは先代たちに脅されている。
探し物、それは、地球侵略のためのさらなる軍力資源。われわれの先祖はかつて、ほぼすべての文明惑星を侵略し、統治してきた。しかし、地球人だけは粘り強く抵抗し、あげくの果てには我々の母星を破壊した。
幼い頃から俺たちは、地球人は邪悪であると教え込まれてきた。
俺もそう信じていた。
あの女に出会うまでは…
「あなたイデルっていうの?宇宙人って意外とまともな見た目してるのね。」
リディアは、周りの地球人たちから忌み嫌われている。本人曰く、周りと違うからという理由らしいが、僕はそうは思わなかった。こんなに美しい女の子を嫌うなんて、その人たちがどうかしてる。
この素晴らしい人が、僕の前に現れたんだ。大切にしなきゃ…
「イデル、お前は何地球人の女とたわむれてるんだ?言ったよな?地球人は邪悪だと」
「しかし彼女は…!」
「口答えするな!」
「口答えとは何ですか!」
「口を慎めと言っている!ドルゼン家の息子たるもの、女にうつつを抜かすとはみっともない!」
「父上だって!母上を見初めたから僕が生まれたじゃないですか!」
「黙れ!」
「そもそも僕たちは何のためにこの仕事をやっているのですか!地球侵略なんてしなくても、僕たちは十分に豊かじゃないですか!」
「先祖代々受け継がれてきた高貴な血筋を何だと思っている!」
「高貴とは何ですか!みんな生き物じゃないですか!地球人が僕たちの母星を滅ぼしたのだって、僕たちが悪いじゃないですか!」
俺はあの日以来、仕事の拠点を地球から遠いところに飛ばされ続け、リディアとのつながりが完全に途絶えた。探すふりしても無駄だ、ボイルのリモート装置からすべて監視しているから、くれぐれも真剣に働くようにと言われた。そして…
「イデル、今日からお前に助手をつける。」
「エネスと申します。僕の家系は、かつてからイデル様の御家系であるドルゼン家の皆様にお仕えしておりました。」
「……さまをつけるな。俺はそんなに偉くない。」
「イデル貴様……」
「…では、ご命令に従います。よろしくお願いしますね。イデルくん」
「……おう、よろしくな」
俺がそう言って笑った瞬間にエネスの顔に紅色が差し込んだのを、俺は見逃さなかった。




