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そうだ、ザマァをしよう!〜1週間冷遇された嫁の逆襲はクレープを添えて〜

作者: HAL
掲載日:2026/07/09


息抜き作品。

前に途中まで書いていたものを発掘。


頭空っぽにして読んでくださいませ。





「旦那様!!!!」



 バターン!と勢いよく扉が開く。

 ノックも何もなしに侵入してきた女は名目上、嫁と呼ばれる存在。



「うわっ!!!な、な、な、な、んだ君は突然ノックもなしに部屋に!」



 男は慌てた。

 ベッドには裸の自分と妻ではない裸の女がいる。不貞は今更だが、流石に寝室に乗り込んでこられて現場を見られては慌ててしまう。



「わたし、お腹がすきました!!!」

「―――は?」

「お腹が!!すー!きー!まー!しー!たーぁーあーあー!!!」

「〜〜〜〜うるさいっ!!!」



 邸中に響き渡る声に両耳を塞ぐ。頭が割れそうだ。夕べは少し飲み過ぎたので、二日酔いの頭にはなお辛い。



「だから、お腹がすいたんですってば―――!!」

「だ―――っ!!喧しい!好きに食べたらいいだろう!!わざわざ私に言いに来るな!!」

「でも、旦那様がいないと私、ご飯もらえませんよ!!」



 返される言葉の全てが大声で、男はとにかくこの煩い雌鳥を部屋から出て行かせたかった。



「調理場にでも行けば何かしらあるだろう?!」

「でも!勝手に食べたら、駄目だって言われました!!」

「あー!もう!好きに食べろ!私が許す!」

「えー!いんですか!でも、あとで怒られますよ!」

「この家で私が一番偉い!文句は言わせん!早く行け!」

「じゃー、好きに食べていい、ってサインしてください!」

「〜〜〜よこせ!!………ほら書いたぞ!早く出ていけ!」

「わーい!ありがとございましたーー!」

「〜〜〜〜」



 バタンと激しく扉を閉めて出ていった嫁なる人物。やっと静かになった寝室で、男は再び眠りについた。なんたって、まだ夜が明けてまもない頃なんだから。



「るんたー♪るんたー♪お、な、か、が、す、い、た、ぞっ!!」



 名目上の嫁とされるこの女性、名をケイトと言い、 子爵家からこのダッカント伯爵家に嫁ぎにきたのだが、この通り、お飾りの嫁としてしっかり冷遇されていた。

 しかも、お屋敷の旦那様にはベッドを共にする愛人が常駐していて、嫁としてひと言物申そうとしたら激昂された。使用人はこちらを金で立場を買った非常識な女だとして、最低限の―――使用人以下の扱いをしてくる始末。愛されない嫁に払う敬意は無いのだろう。


 そうはいっても、この貧乏伯爵家は実家の子爵家の援助で生活が成り立っているのだから、本来なら誰よりも大事に扱われなければならないはず。だが、主も使用人も馬鹿しかいない。だから没落したのだろうが、その辺は何も考えていないのか、実家が高位貴族との繋がりが欲しくて伯爵家の嫁の立場にお金を払っているのだと思われていた。ちなみに旦那様は自分をイケオジだと思っているらしい。見た目に惚れていると思われており、誠に心外である。

 そもそも、この家にくるまで旦那様の顔も何もかも知らなかったのに。


 1週間待った。

 が、待遇は何も改善されなかったし、日に日に配られる食事も質素になって、最終的に昨日の夜はりんごが一つだった。


 もういいか、と、空腹で眠れぬ夜を過ごしたケイトは、日が昇ると同時に屋敷の主の部屋へ特攻したのだ。



「さぁ〜て!食べるぞ!!」



 流石に夜明けすぎて厨房には誰もいなかったが、冷所庫をあければ肉でもハムでも野菜でも何でもある。



「んー!朝だし、ベーコンエッグとフレンチトーストにしよっかな!チーズトーストもいいな……もー、お腹ペコペコだから何でもいい!!」



 フライパンをコンロにかけて温め、油を軽くしいて分厚く切ったベーコンをのせる。焼き目をつけたら卵を割り入れてしっかり焼き、軽くトーストしたパンに乗せておく。溶き卵と砂糖とミルクにひたしたパンはたっぷりのバターで焼いて、お皿にのせたらはちみつをとろ~りと垂らす。忘れてたチーズは、削って卵のうえに。ワインは飲まないので、オレンジとバナナとりんごを魔道ミキサーにかけてジュースにした。もう匂いだけでお腹がぐーぐー鳴っている。



「いっただっきまーす!!」



 はふはふガツガツと食べすすめる。

 まともな食事は実に1週間ぶりだったので、懐かしい美味しさに涙が出てきた。そうやって料理に舌鼓をうっているケイトの元に、厨房の料理人たちが現れた。



「なっ、なにしてんだ!!誰の許可を得て勝手にここでメシを喰ってる!?」



 料理人のなかでも下っ端―――まだ見習いの若者が下拵えの為に早く来たようだが、先客がいて、さらにその人間が厨房で勝手に食事をしていれば激怒するのも当然で。だが、許可云々の前に、ケイトは貴族、相手は平民。本来糾弾する資格も権利もなにもない。しかもケイトは一応この伯爵家の嫁。立場は完全にうえであるのに、この使用人は何もわかっていなかった。



「旦那様です!ほら、この『魔法契約書』のサイン見て下さい!」



 言いながらも食べる手を止めない。もっしゃもっしゃと咀嚼しながら相手をしていたので、下っ端料理人はイライラしたのか、その契約書を取り上げようと手を伸ばす。

 


「何が契約書だ!こんなも―――っがぁっっ!!!」



 紙を掴もうとした瞬間、男は後ろに吹っ飛び、壁に身体を強く打ちつけてぶっ倒れた。男が大声を出していたので、続々と出勤してきた使用人達がなんだなんだと覗きに来ていて、その一部始終を見て声なく固まる。



「だから旦那様の許可だっていったのに。魔法契約書を害そうとすると危険だって知らないんですかー?おバカさんですねぇ」



 固まる使用人達に見せびらかすようにひらひらと紙を振る。ふふ、っとわらってケイトは食事を再開した。

 まだまだおなかは満たされていない。



「という訳で、1週間分の飢えを満たそうと思います。ここは私が占拠したので皆さんは別の場所でお仕事して下さいねー。」



「ぐあっっ!」

「へげっ!」

「どわっ!」



 その後も懲りない使用人というチャレンジャー達を斬っては投げ斬っては投げ…いや、斬らずに契約書効果で吹っ飛ばしてるだけだが、厨房の入り口には腕っぷしに自信のある男達がひっくりかえり、積み重ねられていく。


 何をバカみたいに大人しく1週間も耐えていたんだろう。そもそも伯爵家(このうち)は自分がいなければ没落するだけなのだ。だからここで一番偉いのはお金をだしている子爵家からきた自分。なのに、立場もわきまえずなかなか酷い事をされてきた。



「そうだ、ザマァをしよう!」



 この家にいる人間の生殺与奪は自分にある。夫の立場や今後の人間関係を考えて大人しくしていたが、そんな必要はなさそうだ。

 使用人達の給与を払っているのは子爵家。そう、自分である。敬えないなら辞めてもらえばいいだけ。あとはやられた分を倍返し(ざまぁ)すればいい。

 ケイトは根に持つタイプだった。


 数時間後。



「ねぇ、食事はまだ?私、お腹すいたんだけど。一体いつになったら準備されるわけ?」

「す、すみません…!すぐに準備できるかと…」

「もぅ!そういってから何時間たってると思ってるの!」



 恋人(ベルーナ)に責められしどろもどろに謝る使用人を見て、流石におかしいと感じた主は執事を呼ぶように指示する。だが、執事から逆に呼び出される形となり、主は腹をたてながらその場所へ向かった。



「な……お前、なにがあったんだ?!」



 部屋に入るとベッドの上に満身創痍の執事が横たわっていた。包帯だらけで顔も青く痣になっており腫れあがっている。



「奥さまが厨房を占拠し、止めにいったら旦那様の指示だと契約書をたてに我々に不当な扱いを」



 確かに契約書にサインしたのは自分だが、屋敷の人間に乱暴することは許可していない。怒りのままに厨房へ向かうと、甘いいい匂いがして、奥から楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。そんな楽しげな空気に対して、廊下には倒れている厨房の料理人たちの姿。屍累々の様子にここは本当に自分の屋敷なのかと疑ってしまう。



「次は〜カスタードクリームとりんごのクレープだぁ〜♪」



 ナイフとフォークを使い、楽しげにそれを口に運ぶ女の姿。細身のその身体でどうやってこの屍の山を作り上げたのだろうか。いや、それよりも。



「ん?あれ、旦那様?」

「……美味そうだな」



 自分も空腹なのだ。つい言ってしまった。



「あげませんよ?私が作ったんですから」

「くっ…しかし!お前が料理人達をここに入れないせいで私は食事が出来ないのだぞ?お前のせいなのだから、それを私に寄越してもいいだろう!」



 とりあえず今自分の空腹を満たせればいい。愛人の事は頭からすっぽ抜けていた。



「私、ここに来てから1週間、まともな食べもの貰ってなかったんですよね。だからと―――ってもお腹空いてるんですよ」

「いや、だがそれは私のせいでは…」

「旦那様が私をぞんざいに扱っていいってそう指示したんでしょう?皆さんのお腹が空いてるのは自業自得です。そもそもこの食材、子爵家(うちの)お金で買ったものなんですから、私の采配でどーするも自由です」

「なんだと貴様…!!」

「私はね、旦那様。1週間待ちました。耐えました。でも、何もかわりませんでしたし、悪化していきました。もういい嫁キャンペーンは終わりです。この屋敷はいい思い出もないのでぶち壊して新しい家を建てることにします」

「なにを勝手な!この家の主は私だ!!嫁のお前になんの権利がある!離縁だ!縁を切ってやるとっととここから出ていけ!!」



 男が興奮してつばをまき散らしながら吠える。真っ赤な顔でゼイゼイ息をきらしており、とても伯爵家当主の威厳など見られない。



「この家の主は確かに貴方かもしれませんが、使用人の裁量権はそもそも伯爵家当主の妻である私にあります。あと、離縁を決めるのも貴方ではありません。文句があるならここから出ていっていいですよ?行く所がおありなら」

「な―――」



 嫁の一方的な物言いに二の句が継げない男に対し、ケイトは高らかに言い放つ。



「執事バートンは私に敬意を払わず使用人達の私への態度も修正出来ない無能な人間なので解雇。メイド長も同様なので解雇。調理長は私にまともな食事をよこさないし、食材をちょろまかして自分達もいいもの食べているので横領罪もあるわね、こちらも解雇の上憲兵に突き出し。他の料理人達も私を見下して料理の質をどんどん下げてくれたから全員解雇。メイド達も誰一人として部屋の掃除もしなければ私の支度を手伝うことも無かったので解雇です。庭師のボブは私の窮状を知り、パンをくれたので引き続き雇入れると共に、ご家族ごとこちらの屋敷で住み込みで働いて構いません。あ、あと、洗濯場の下働きの皆さんもこっそり洗濯してくれたし替えのシーツをくれたりしたので、こちらも継続雇用します。継続雇用の方は皆様賃金を引き上げますね。あとの方は皆さん、解雇(クビ)です。勿論、旦那様とその恋人さんもです」

「そんな、奥様!横暴すぎます!」

「何とでも。お金を払ってるのは私なので」

「そ、そうだ!勝手すぎるぞ!!しかも何故私まで解雇なのだ!私は伯爵家当主だぞ!」



 ケイトはその言葉に鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。



「後妻のお前にそんな権限などな―――」

「は?私が旦那様の妻?なに馬鹿なこといってるんですか頭に花でも咲いてるんですかお花畑はその格好だけにして下さい。無能で腹のでたおっさんがいい年してなんでピッチピチの私と結婚できるとなんて思ってるんですか。いいですか、私は伯爵家の『嫁』だと言ったでしょう?あなたの―――」

「いったい何の騒ぎだこれは」



 現れたのは20代そこそこの若者。



「ゼロス、遅い」

「ぼ、ぼっちゃん!!」

「若様、聞いてくださいこの悪妻が家を乗っ取ろうと!」

「当主様は金にものいわせるこの女に逆らいきれず!」



 皆に一斉に話しかけられ男性はその綺麗な顔を顰めた。



「ケイト、遅くなってすまない。皆、よく聞け。彼女は間違いなく現当主の妻だ。権限も采配も全て彼女にある。そもそもお前たちは誰に仕えてると思ってるんだ?」

「え…?」

「ゼロス、この人達なんか勘違いしてるっぽいんだけど、それを差し引いても私に対する態度、とてもじゃないけど許容できなかったからザマァしてあげたの」

「…ザマァは拳で解決するものじゃないんだけど」



 ザマァが何たるか本当にわかってはいないケイトは、物語によくあるザマァを何となく起こしていた。

 


「父上、私はこの家から退去するよう3ヶ月前から連絡していたはずですが?新居も準備しているし、引っ越し費用など当面のお金も預けてあったはず―――伯爵家の当主はもう貴方ではなく私です。早々に出ていって下さい」

「くっ……うるさい!!私はお前に当主を譲るつもりはない!私の、これから産まれる子供にその座を渡す!お前など伯爵家から籍を抜けばいいのだ!廃嫡してやる!」

「……本当に何もかも忘れたんだな。いいか、よく聞け」



 そう言ってゼロスは説明し始めた。

 当主であるゼロスの母が亡くなった場合、息子が成人するまでは夫が代理で当主を務め、成人後は速やかに当主の座を明け渡す、という取り決め。正統な当主の権利を持つ者の成人と同時に当主変更の手続きが取られる。



「正統な当主となるのは母の―――伯爵家の血を持つ者にのみ権利がある。婿のお前にも無いし、まして愛人の子になどあるわけがない」

「なんだとっ……!」



 情事に耽ってばかりいる男はそんな事も忘れていたのだろう。彼は単なる婿の立場だということを。



「尊敬する所なんて一つもないが、種馬として俺をこの世に誕生させてくれた礼として、今後住む家も普通に生活していけるレベルのお金と使用人も置いてやったんだが、気に入らなかったようだな」

「あんな辺鄙な田舎になぜ私が行かねばならん!」

「それは貴方が無能でお仕事一つろくに出来ないからでは?」

「なんだと貴様!そもそも、お前が旦那様とかいって紛らわしい事を!」

「私は最初から『嫁』だと伝えたはずですが?伯爵家の当主の嫁です。あなたは代理ですよね?旦那様といったのは、この屋敷に対しての呼称です。伯爵様でもなければ私の主でもないですし、除籍されるあなたはお義父様でもないですから、丁度いい呼び名がなかったんです」

「な―――」

「1週間見てましたが、あなたは全く働く様子もないですし、この屋敷の人たちは皆客のもてなしも出来ない出来損ないの使用人しかいないので、こんな気分の悪いとこはもう解体して、新しい屋敷にした方が嫌な思い出もスッキリというもんです」



 ケイトは手続きをしているゼロスに代わって様子を見に来たのだが、散々な扱いをされブチ切れたのだ。



「屋敷の中のものは一切持ち出し禁止です。給料泥棒に払うお金は不要ですし、推薦状もありません。今すぐとっとと出ていって下さいね。あ、個人の荷物はこちらで選別して納屋に入れておきます。後日引き取りに来て良いですよ。」

「そ、そんな、奥様!」

「今更そう呼ばれても、覆りませんよー。あと、貴方達が奥様と呼んでた女性は窃盗罪でお役人さん呼んでるから、今頃もうここに居ないかも?」

「!!ベルーナ!!」



 慌てて走り出す元伯爵代理。しかし時すでに遅し。女は役人にしょっぴかれた後。あまりに煩くてすぐ猿轡をはめられたので静かなものだ。



「正統派ザマァならもっと派手にやるべきだったかしら」

「いや、ザマァに正統も何もないからね」



 ケイトの呟きに即ツッコミが入る。

 彼女の隣に立つ人物こそが『本物の』夫、ゼロス・ダッカント伯爵だ。家格差と経済差はあれども、れっきとした恋愛結婚である。元々は母親同士が親友で幼い頃から一緒に遊んだ仲であり、旧知の友であったのだが、惚れたのはゼロスの方からで、母親達もドン引きするほどの熱量でケイトを口説き倒したという黒歴史を(ケイトにとって)持つ。



「ごめんね、一カ月のんびり暮らしてもらってるとばかり思ってたよ……」

「あの人、私に手を出して来なかったから、温情で野垂れ死にしない程度の暮らしはさせたげよう。除籍はするけど」



 その辺りの分別はついていたのか単に好みじゃなかったのか、真実を知る術はないが、確かめるほどゼロスも野暮ではない。2人は予定通り不実な使用人達を追い出し、改築した邸宅で仲睦まじく(ケイトは自由に)暮らしたのだった。


 尚、余談ではあるが前伯爵代理は2人の思惑に反して一人で戻って来て息子夫婦の住む屋敷に無理矢理住み着いたが、孫が生まれた後はただの孫LOVE爺さんと成り果て、積極的に孫の世話をし、伯爵代理だった時より生き生きと仕事をこなしていた。


 嫁の作るリンゴとカスタードクリームのクレープが大好物のただの爺さんは、沢山の孫に囲まれ、幸せな老後生活を送ったそうな。






前伯爵代理はさみしがりやさんだったので、奥さんが病気で死んじゃって耐えられなくて優しくしてくれたベルーナに走った感じ。

浮気グセのある人ではなく、単に伯爵としての仕事ができないだけの人。ゼロスの顔は自分に似ているからライバル心があった?けど、孫はみんな可愛い。孫は奥さんとケイト似。

(若い頃、顔が良くて奥さんに見初められたクチ)


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