13.鉄屑の包囲網
地上の遺跡周辺は、既に戦場と化していた。
空を埋め尽くす飛行船団からの爆撃。 地上からは戦車砲の雨。 だが、遺跡自体が持つ強力な「古代の防御障壁」が、それらを弾き返している。
「……ふん、さすがは神代の遺産だ。外殻は硬い」
俺たちは制御室のモニターで戦況を見ていた。 だが、安心はできない。 敵は「力押し」だけではないからだ。
「少佐! 侵入者あり! 地下搬入路、ゲート7が破られた!」
ガラードの報告。 正規軍の物量作戦の裏で、特殊部隊が侵入を開始している。
「……カロン重工の『掃除屋』たちか。それに、帝国の『対魔導憲兵隊』も混じっているな」
どちらも、裏仕事専門のプロフェッショナルだ。
「エレオノーラ、お前は解析に集中しろ。……ここからは、俺が『指揮官』に戻る時間だ」
俺はヘッドセットを装着し、複数のモニターを並列展開した。 遺跡内部の防衛システム――生き残っているゴーレムや、トラップ、防壁。 ハッキングによって掌握したこれらを、俺の手足として使う。
「……第7ゲート、隔壁閉鎖。通路Cへ誘導し、ガス放出」
俺がコマンドを入力すると、画面の中で侵入者たちの反応が消滅する。
「第4通路、敵影確認。……ヴァルカ、行けるか?」
ヴァルカが無言で頷き、通気ダクトへと飛び込んだ。 彼女は神出鬼没の遊撃手として、入り組んだ遺跡内部で敵を狩る。
【遺跡内部・第4通路】
帝国の憲兵隊長は、焦りを感じていた。 「ただのテロリストの制圧」と聞いていたが、この遺跡はまるで生き物のように襲いかかってくる。
「くそっ、道が変わっただと!? 地図と違うぞ!」
「隊長、後方からゴーレムが!」
「迎撃しろ! 魔法を使え!」
部下が杖を構える。 だが、次の瞬間。
ヒュンッ!
どこからともなく飛来した弾丸が、部下の杖を持つ腕を吹き飛ばした。
「ぎゃあああッ!?」
「狙撃手だ! どこだ!?」
隊長が周囲を見回す。 だが、そこには無機質な壁と、点滅する照明があるだけだ。 彼らは気づいていない。 この通路の反響音すら、アラストルによって計算され、銃声の発生源を誤認させるように調整されていることを。
「……撤退だ! ここは罠だらけだ!」
隊長が叫んだ瞬間、天井が崩落し、彼らの退路を断った。 モニター越しに、冷徹な声が響く。
『――チェックメイトだ。……そこが貴様らの墓場になる』
【中枢制御室】
「……よし、第2波撃退」
俺はコンソールの前で息を吐いた。 だが、休む暇はない。 地上では、敵が「本気」の兵器を投入しようとしていた。
モニターに映し出されたのは、帝国の旗艦から降ろされる巨大な物体。 それは、かつて俺が破壊した『ホワイト・グリント』よりもさらに巨大な、多脚型の要塞兵器だった。
「……『ベヘモス』級攻城魔導砲。あんなものまで持ち出してきたか」
あれの一撃を受ければ、遺跡の防御障壁ごと、この塔は消し飛ぶ。
「エレオノーラ、あとどれくらいだ?」
「5時間! ……でも、今のままじゃ間に合わない! 敵の解析班が、こちらのバリアの周波数を特定し始めてる!」
「……計算しろ、アラストル」
俺は自分に言い聞かせる。 手持ちの駒は、弾切れ寸前の狙撃手一人と、ショットガンを持ったおっさん一人。そして、病人の俺と、パソコンに向かう女。 対するは、世界最強の軍事力。
勝率は0%に近い。 だが、方程式には必ず「解」がある。
「……ヴァルカ、戻れ。ガラード曹長もだ。……作戦を変更する」
俺はマイクに向かって告げた。
「敵の『ベヘモス』を、逆に利用する。……遺跡のエネルギーを暴走させ、奴らの主砲を誘爆させる」
「はあ!? 少佐、あんたまた無茶なことを!」
ガラードの悲鳴が聞こえる。
「死ぬ気で走れ。……俺たちの命を賭けた、最後の大花火だ」
俺は不敵に笑い、制御盤の「リミッター解除」のキーに指をかけた。 鉄と煤にまみれた参謀の、最後の悪巧みが始まろうとしていた。




