12.全人類の敵
地上。 オアシス都市カナン。
その日、世界は「悲鳴」を聞いた。
突如として、街中の魔導機器が一斉にスパークし、停止したのだ。 空を飛んでいた飛行船は推力を失って墜落し、工場のラインは急停止した。 魔導ランプが明滅し、ラジオからは不気味なノイズだけが流れる。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
人々が空を見上げる。 南の方角。 『星の墓場』がある砂漠の彼方から、天を貫くような「青い光の柱」が立ち昇っていた。
それは、アラストルたちが地下で干渉したマナの逆流現象だった。
【帝国軍参謀本部・作戦司令室】
「報告します! 世界各地で魔力濃度の異常低下を観測! このままでは、あと72時間ですべての魔石がエネルギーを失います!」
「馬鹿な! 魔石が使えなくなれば、我が軍の戦力は鉄屑だぞ!」
将軍たちが怒号を飛ばし、狼狽していた。 そんな中、巨大なモニターに一つの解析画像が映し出された。 光の柱の中心、遺跡の最深部から発信されている信号パターンだ。
「……こ、これは……」
解析官が震える声で告げる。
「信号の発信源特定……個体識別ID……アラストル・クレイグ少佐です」
静寂が走る。 かつての神童。そして、今は泥沼の最前線に左遷されたはずの病弱な参謀。
「……あの男が、世界を壊そうとしているのか?」
「直ちに止めろ! これはテロだ! 国家反逆罪どころの話ではない、人類に対する宣戦布告だ!」
【連邦軍・最高評議会】
事情は敵国である連邦も同じだった。 カロン重工からの緊急連絡を受け、彼らは事態の深刻さを理解していた。
「我が国に亡命したエレオノーラ技術少将も、アラストル少佐と行動を共にしているようです」
「狂ったか、天才どもめ……。自分たちの頭脳で、神にでもなったつもりか」
議長が重々しく決断を下す。
「帝国へホットラインを繋げ。……一時休戦だ。今は戦争をしている場合ではない」
「目的は?」
「アラストル・クレイグの抹殺。および、遺跡の完全破壊。……奴らが世界から魔法を奪う前に、物理的に消滅させる」
【遺跡・中枢制御室】
『――警告。地上より、高エネルギー反応多数接近。……敵対的戦力と推測されます』
システムの音声が、無慈悲な事実を告げた。
「……来たか」
俺は端末から顔を上げた。 モニターには、地上周辺のレーダー画像が映し出されている。 北からは帝国の魔導戦艦隊。 東からは連邦の航空部隊。 そして地上からは、両軍の機甲師団が、蟻のように押し寄せてきていた。
「……笑えるな。昨日まで殺し合っていた連中が、俺たちを殺すためだけに手を組んだぞ」
ガラード曹長が、呆れたように口笛を吹く。
「当然よ。私たちがやろうとしていることは、彼らの『文明』を否定することだもの」
エレオノーラが作業の手を止めずに言う。 彼女の顔には、恐怖よりも、世界を相手に喧嘩を売る科学者としての高揚感があった。
「演算完了まで、あと何時間だ?」
俺が問う。
「……最短で12時間。それまでは、絶対にここを動けない」
「12時間か。……カップラーメンを作るのとは訳が違うな」
俺は杖をついて立ち上がり、ヴァルカを見た。 彼女は静かにライフルを磨いている。 その瞳に、迷いは一切ない。
「……総力戦だ。世界中の軍隊が、この塔をへし折りに来る」
俺は全員を見渡した。
「俺たちが死ねば、世界は5年で終わる。俺たちが勝てば、魔法は消えるが世界は続く。……割に合う賭けだと思わないか?」
「へっ、地獄の道連れにしちゃ上等だ」
ガラードがショットガンをジャキッと鳴らす。
「……配置につくぞ。ここが、人類最後の砦だ」
世界で最も嫌われた4人の、孤独な防衛戦が始まろうとしていた。




