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「もう、いいわ」
静かな部屋の中に響いた声に木更津伊織は詰めていた息を吐きだした。さっきまで病院の一室を映していた手鏡に、今映っているのは見慣れた自分と、そして師であり、義姉でもある石上瑠衣の顔だけだった。
様々な能力者がいて、同じ能力者が存在しない人も多い。そして、二つ以上の力が混ざったように見える能力を持つ者もいる。伊織が持っている力もその一つだった。鏡などの鏡面を通して、遠くを見る力。鏡面に映っているものを鑑定する力。どちらも不安定でまだまだ修行途中ではあるが、伊織だけが持っている武器だ。
鑑定の能力者は貴重だ。貴重であるがゆえに、能力の強弱、練度にかかわらず研究所への所属・監視が義務付けられている。といっても、子供のうちから研究所の命令で能力を扱うことはほとんどなく、あるとしても練習として扱うことになる。
その日、伊織が学校から戻ると瑠衣に今夜研究所に併設している病院の中を見せるように、と命令をされた。その結果見たものを消化しきれない。
「義姉さん……今の、は……」
「彼女が持っていたのは、彼女自身が作ってしまった呪具よ」
呪具、という言葉に小さく息をのむ。伊織の力で呪具を作ることは不可能に近い。それでも、呪具の存在と危険性については叩き込まれる。能力者の義務であるだけではなく、伊織の場合は鑑定を依頼される可能性があるからだ。
「あれが、呪具?」
「そう、伊織は遠見で見たものを鑑定ができないから気づかないと思うけど、あれは、かなり禍々しい気配を漂わせていたわ。ぞっとするほどにね。あそこまで強い呪具を見たのは初めてだった」
「義姉さんは、直接見たの?」
「ええ、鑑定を依頼されたから。誰が見てもぞっとするもので呪具であることは確定だったけど、どんなものかはわからなかったから。……表に出せるようなものではないけれど、でも、あの子は合格。あなたと同じ紐付きではあるけど、外の世界で生きていけるわ」
呪具を作る人は二種類いて、一つは意図的に作る場合。それはもう極刑に値する大罪だ。だが、心が乱れたせいで、呪具となってしまった場合。こちらは試験をし、合格すれば今まで通りとはいかずとも日常生活が送れると聞いたことがあった。
「よかった……」
「それで、本題なのだけど、明日、あの呪具を鑑定してみて」
義姉が鑑定したという呪具。それを鑑定しろという。結果が知りたいのではなく、伊織の能力の練習のためであろうことは想像に難くない、があまり気分のいいものではない。それでも、能力を扱えるようになること、きちんと訓練することは能力者として生まれた伊織の義務だった。能力者は国から優遇される反面、強い制約を受けることもある。制約が強い能力者ほど、優遇も強い。要はギブ&テイクだ。伊織はまだ未熟だが、いずれ優遇される能力者となることを期待されている。そうならなければ、伊織を拾い、育ててくれた儀家族に申し訳が立たない。




