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超能力者たちの事件簿  作者: 白雪
第1章 鹿と少女の戯れ ~御崎美桜の場合~
7/18

07

 カツカツと小さな足音が人気のない病院の中に響いていた。虚な目をした少女、美桜が小さな箱を片手に何かに導かれるように迷いなく進んでいく。


 キーーっと小さな音を立てて開いた扉の先にあったのは、真っ白な壁紙の個室。その壁際に置いてあるベッドの上に寝ている五条俊子の姿を目にした美桜の目がパチクリと瞬かれ、瞳に意志の力が戻ってきた。


 目の前の五条は眠っている。その穏やかな表情にぎり、と唇を噛み締め、指先に力が入る。カツリ、と手の中に硬い感触を感じて小さく息を呑んだ。


「先生が持ってた……」


 封印箱。この中には美桜が作った呪物が入っている。これを使えば、穏やかに眠るこの人を地獄に突き落とすことができる。


 箱を開けた時に見えたのは呪物となったもの。禍々しい気配を感じた。これを使えば、きっと素晴らしい地獄を見せることができるだろう。


「美桜の話、好きだなぁ。なんか、ほっこりしてるのがいいよね」


 それに触れた時、頭に浮かんだのは母親の笑顔だった。初めて書いた物語を見せたとき、とても楽しそうに、優しそうに笑ってくれた。初めてで、文章力だってなかっただろうに、それでも、目一杯に誉めてくれた両親。その笑顔を見て、やっぱ物語が好きだなぁって思ったことを思い出す。あんな笑顔を見たかった。……地獄に突き落とすような物語なんて、考えたくもなかったのに。


 パタリ、と箱の蓋を閉める。その瞬間周囲の空気が緩んだのがわかった。呪物が封じられたからなのか、それとも、別の理由があるのかは美桜にはわからない。


「私は、笑って欲しいだけ,だから……」





 ふっと目を覚ました時、美桜は入院していた病室にいた。俊子の姿も呪物認定された小説もない。


「夢……じゃない、よね?」


 箱を開けた時に感じたゾッとするような気配は絶対に夢じゃない。でも、どうやってここに戻って来たのか覚えていない。


「その説明をする前に、一つ聞かせてくれ。なんで絶好の機会があったのに使わなかった。アレが許せなかったんじゃないのか?」


 気づかなかったが、榊原はいたらしい。もしアレが夢ではないならずっと榊原はここにいて美桜の行動を見ていたのだろう。その理由はわからないが、なんか嫌だなぁとは思う。試されたかのような不快感を感じた。そんなこと直接口にできないが。


「……おかあ……母が、褒めてくれたんです。私が書いた小説。拙いのに、文法だって文章だってメチャクチャで、絶対に面白くないのに、それでも面白い、良かったって。それを思い出して……私は別の世界を垣間見せてくれるそんな物語が好きで……それを読んで、見て、感じて、経験して欲しくて……でも、それは……体験して欲しいのは……絶対に絶望じゃないんです……うまく、言えないですけど……」


「なるほど,ね。その気持ちを忘れなきゃ大丈夫だろう。……御崎、この世界で呪物を作る人間は少なくない。自分の意思で量産する人は多くないが、お前のように突発的に作ってしまう人はそこそこいる。だが、そんな人間を全員拘束などできないだろう? そもそも呪物を初めて作った時は大体能力の暴走によるものだからな。それを全て拘束するなどいくらなんでもやりすぎだからな。……だけど、作れると証明できた人を野放しにもできない。だから。今後を決めるために試験をしているんだ」


「試験……あれが? あの時、もし使っていたら……、どうなったんですか?」


「問答無用で拘束、幽閉処分が下される」


 ぞくり、と背筋が凍りついた。それは、自分に訪れる幽閉という未来だけではなく、あの呪物を使った結果を想像したからだった。


「でも、それって使った後、ですよね? 私は使おうとして、踏みとどまりましたけど、踏みとどまらずに使ったら幽閉。なら、その場合、五条俊子は?」


「別にどうもしない。あれはそれだけのことをしたからな。今回の試験、五条俊子への処罰も兼ねている、まあ、今回は処罰されなかったから、内容は再度検討されるが、懲役刑程度ではすまない」


 あの、異様に軽い処罰自体が美桜に対する試験のための嘘だったらしい。完全に手のひらの上で踊らされていたという事実に深いため息をついてしまった。


「ひどい……」


「悪いな、だが、合格したから今まで通り過ごせるぞ。まあ、いくつか条件はあるが」


 美桜の目の前にパワーストーンのようなブレスレットが差し出される。


「条件、ですか?」


 淡い水色の石が付いているパワーストーン(仮)をまじまじと見つめながら首を傾げた。とても涼しげな色で、好きだと思う。


「それは……まあ、首輪みたいなものだな」


「首、輪、ですか?」


 可愛いブレスレットが一瞬で禍々しいものに見えた。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だって。お前が強い力を使った時に研究所に連絡が行くようになっている。強い力を持っていたり何らかの懸念がある人間に渡される首輪だが、それでなんらかの制限が科されるわけではない。ただ、一度つけたら、外せるのはつけた本人だけだ。まあ、見張り役がはめるきまりになっている」


「先生が、見張り役?」


「そうだな。今お前の一番近くにいる研究所関係者だからな。どうする?」


「……選択肢、ないですよね? 拒否したら幽閉な気がします」


 美桜が差し出した手首にパワーストーンが嵌められた。ゆるそうに見えたのに、ピッタリと美桜の手首にハマる。これもきっと強い能力具なのだろう。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


「先生、私、強くなりたいです。……呪具を作るのではなく、人を笑顔にすることができる物語を書きたいです」


「そうか」


 応援するような言葉ではない、ただ頷いただけ。でも、なぜか頑張れ、と言われているようなそんな気がした。


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