08
「景都ちゃん、また来ていたの? 本当に花が好きなのね」
満開の花畑。絵本の世界から出てきたかのような洋館風の可愛い屋敷。その花畑の中を小学生くらいの女の子が駆け回っている。
満面の笑みを浮かべていて、声をかけてきた相手を見る。初めは顔がわからなかった。どこかぼんやりとしていて、でも、花にそっと伸ばす皺だらけの手を見て、花のことを教えてくれるゆったりとした声を聞いているうちにまるで視界が開けるかのように顔が見えた。今では毎日見ている女性、そして、幼い頃に花のことを教えてくれた、優しい老夫婦。
幼馴染の松嶺加寿子の遠縁だと言う彼らに子供はいない。だから、遠縁の子である加寿子やその幼馴染でご近所さんだった景都を本当の孫のように可愛がってくれていた。
「おじいちゃん、おばあちゃん……」
パチリ、と目を覚ました景都の目は涙で濡れていた。おじいちゃん、おばあちゃんと呼ぶのがしっくりくると思っていたが、それもそのはず。景都は幼い頃から彼らをずっとそう呼んでいたのだ。
窓の外から広がる花畑と森を見た。何もない野原だと思っていた場所。でも、あの場所は数ヶ月前まで広大な森とそこからつながるお屋敷があった。この広大な土地はあの……澤村千織と哲の老夫婦が持つ土地で、子供たちの遊び場だった。自分たちに子供がいない分、子供たちを可愛がってくれている。景都や加寿子も子供の頃は何度もお世話になっていた。
最後に覚えているのは飼い猫のミイちゃんを探しているところ。猫は死に顔を見せないと聞いたことがあって、しかも、ミイちゃんは猫にしてはめちゃくちゃ長生きで、いつお迎えが来てもおかしくはなかった。だからこそ懸命に探していた。もし、命を終えたのだとしたら、ちゃんと弔ってやりたい、と。
「ミイちゃん、元気だったなぁ」
ここで会ったミイちゃんは、最後に見た時よりも元気になっていた。
「おじいちゃんも、おばあちゃんも、明るくなっていたな……」
最後に見た意気消沈した姿からは想像もできないほどに、明るい笑みを浮かべていた。
「幸せ、なんだよね……」
景都が帰ると言うことはこの穏やかで幸せな日常を壊すということ。澤村夫妻の状況はわからない。予想するにも判断材料が足りなさすぎる。だが、ミイちゃんはきっともう、生きてはいない。そう思ってしまうから、この空間を、箱庭を壊すことを躊躇してしまう。
最も躊躇も何も、この空間の壊し方を景都は知らないが。
「あの子たちは、思い出せ、と言ってたけど、思い出すだけじゃダメ、なんだよね……どうすれば、いいの、かな……」
思い出すだけでいいなら、もう外に出れているはずだ。
この空間を壊すか否か、決めるのは後でいいのかもしれない。まずは壊す方法を知るべきだ。




