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超能力者たちの事件簿  作者: 白雪
第3章 絵本の中の家と家族の思い出 ~見鍋景都の場合~

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02

 植物園で勤めている見鍋みなべ景都けいとは植物が好きだ。植物園で管理されて咲いている植物も、個人の家で大切に育てられている植物も、道端に咲いている植物もみんな好きだった。職場でも、家でも、出かける時にも好きなものに囲まれていて本当に幸せだと思う。


 だからなのか、歩くペースは遅い。ゆっくりと周りを見ながら歩いているので、普通に歩けば二十分ほどでつくはずの職場と自宅の道も一時間近くかかってしまうのだ。


 朝のキラキラとした朝露に濡れる様子も夜にひっそりと佇んでいる様子も見逃したくない。


 それくらい周りをよく見ているので、ソレに気づいた時は幻でも見ているのかと思った。景都の目の前にたくさんの木々に囲まれた一本の小道があった。毎日通っている道。でも、こんな景色ははじめてみた。


「え? なに、これ……?」


 しん、と静まり返った空気に嫌な汗が流れた。植物の声を聞く力を持っている景都。植物たちはいつも、いろいろと語りかけてくれる。でも、今、ここにいる植物たちはとても静かだった。それがまるで,現実ではないみたいで、ひどく怖い。


 景都は逃げた。生まれて初めて脇目も振らずに走って自宅までの道を駆け戻っていた。


「あれ、は、現実?」


 その答えは景都にはわからない。







 あの日見た森林小道は不思議な道だった。あの小道が見える日もあれば見えない日もある。あの道は見えている時に何度か幼馴染の松嶺加寿子まつみねかずこと通ったこともあるが、「何もないとも見てどうしたの?」と言われた。森も、道も見えていないらしい。


 この道は普通ではない、関わるべきではない。そんなことわかりきっていた。それでも、見えるたびに変わらない様子で佇んでいる木々の様子が景都の心をとらえて離さない。どうしても気になって仕方がないのは無口で……否、全く声が聞こえない木々が、少し前に寿命を迎えて消えてしまった桜の木と重なって見えてしまうから、なのかもしれない。伝えたいことがあるのに、景都の力が弱くて伝わらない、そう考えてしまう。


 景都の力は元々ものすごく弱い。あの桜の木と泉のおかげで多少は強くなったがそれでも弱い。


 週末のある日、景都はその森の前で立ち止まった。初めて見た日からすでに一ヶ月以上経っているが、その森が見える頻度が増えてきた。まるで、話を聞いて欲しいと木々が……植物が景都を呼んでいるような錯覚を感じる。


 そんなのは幻想だとわかっている。事実、本当に呼ばれているのだとしても絶対に一人で行くべきではない。誰かに……研究所と関わりのある人に相談すべきだ。そんなことはわかっているのに、もう、無視することができなくなっていた。もし、やばそうなら引き返せばいい、そう思ってしまった。







 森林小道の中に入ると、まだ日は落ちていないのにグッと明かりがなくなってまるで夜のようだ。それでも、木々の間から漏れる小さな光があるから怖くはなかった。


 小道の中に入っても左右に見える木は沈黙している。酷くよそよそしい雰囲気を感じて落ち着かない。あまり長くはない小道を抜けたその先にあったのは可愛らしい洋館だった。


「わぁ……」


 色とりどりの花が咲いている庭……庭園と言った方がいい気がする、とピンク色の壁と丸みを帯びたフォルムの洋館。まるで絵本の中から出てきたかのようなその景色に思わず小さく歓声を上げた。


 初めて見る光景のはずなのにどこか懐かしさも感じた。不思議な気分だった。


「こんにちは」


 小さく挨拶をして花の花弁に触れたが、花が返事を返してくれることはなかった。やはり、静まり返っている空気。歓迎されていないことを嫌というほど感じた。


 まるでよそ者を嫌う田舎のような、転校生を排除する学校のような雰囲気だ。どちらも経験はないけど。


 つい勢いでここまできてしまったが酷く落ち着かない。無言の花々に「帰れ」と言われているみたいで、景都は踵を返して逃げ出した。あの日、初めてこの小道を見つけたときのように全力で走り抜ける。そんなに長くない道。歩いても十分もかかっていなかったのですぐに抜けられるはずだった。事実すぐに明るい場所に出た。


「……は?」


 まっすぐな道を走ったはずなのに、目の前に広がっているのは、可愛らしい洋館と色とりどりの花が咲いている庭園だった。


『だから、来ちゃダメって言ったのに……』


 背後から聞こえてきた声、でも、景都にはそれに応えるだけの余裕がなかった。


 ポカン、と目を見張る景都の目の前でキーーっと小さな音がして、可愛らしい扉が開いて優しい笑みを浮かべた老夫婦が出てきた。


「あら、可愛らしいお客さんねぇ。いらっしゃい」


 ご近所のおばあさんのような、優しい笑みを浮かべている老婦人の言葉。でも現状が理解できないこの場では酷く恐ろしく感じた。


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