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超能力者たちの事件簿  作者: 白雪
第2章 狂い咲きの桜と聖なる泉 ~木更津伊織の場合~

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 ふっと目を開くと見覚えのない天井が見えた。


「気がついたみたいね」


 呆れたような声音に伊織は声の方に顔を向けた。


「義姉さん……ここ、病院……?」


「そうよ。松峰壮の方が救急車を呼んで私にも連絡をくれたの」


 勝手なことをしてごめんなさい、そう口にしないといけない。でも、それよりもあの桜の木が気になった。目の裏に着物姿の女性の姿が浮かぶ。


「桜、は?」


「満開の桜を咲かせたわ」


 すっと差し出された手鏡。伊織の霊力を多く吸っているこれなら弱っている今でも遠くの景色を見るくらい、何の問題もなく使える。そして、渡されたのは見ていい、ということだと判断して手鏡を手に取った。


 手鏡にあの桜が……満開の花を咲かせていた。写真で見たよりもずっとイキイキと咲いている。そして、その周りに光が見えた。今にも消えそうな、微かな光。最期の力を振り絞っているのだと、わかった。いつもみたいに鏡に文字は出てこない。だが、なぜかそれ以上の情報が伊織の頭の中に流れ込んできた。


「……寿命、なんだね……。義姉さん、もしかして、だけど、桜の木の下で亡くなったのって一回だけじゃ、ない?」


「そんなことは聞いていないけど……なぜ?」


「桜の木のところで、女の人……多分ずっと桜と共にいた、伊勢大輔のかけら、だと思うけど、彼女が、もう、誰も殺したくない、って言ってた、から。声が聞こえたのは、あの時だけだけど、なんか力が強くなったのか、今もこの鏡越しに桜の情報が伝わってくる」


「……あなたたちの力が強くなっているのは事実よ。複数の鑑定の能力者で確認したから。……これは、私たちの予想が入るけど、聞きたい?」


「聞きた……あなたたち?」


 この件に関わっている自分以外の能力者の存在が浮かばない。元々強い霊力を持ちながら能力を発現していない加寿子は数には入らないだろう。


「偶然だけどね、あそこにもう一人いたの。とても弱い力で高専にも通っていなかったし、研究所へも能力の登録以外の義務が発生しないタイプ」


 能力が発現したら研究所への登録は義務だ。違反すれば罰則がある。だが、伊織のように人に強い影響を及びす可能性があったり、力が強い能力者以外は登録以外の義務は発生しない。発現して一年ほどは経過観察のためと力の使い方を学ぶために研究所が開設している塾へ通う必要があるがそれだけだ。


「その方が、一緒にいたの?」


「そう、松峰加寿子さんの幼馴染であの桜の木ともなじみが深かったみたいね。あと、植物の声が聞ける能力もあって植物園で働いているから元気がない桜が気になっていたみたい」


「植物の、声? それって……」


「ただ、さっきも言ったけど弱い力だから、会話ができるわけじゃなくて、喉乾いたーーとかの独り言が聞こえてくるだけみたいだけど。桜はあれ自体が霊力が強いから何も聞こえなかったみたい。ただ、植物好きとしては放って置けなかったのね。見に行って……あなたが声が聞こえたのはおそらく、彼女の力」


「え? そんなことある? 他人の力を使うって聞いたことないけど」


「ほぼ前例はないけど、ゼロじゃない。……強い能力具にこもった霊力が何らかの要因で排出されて一時的に複数の力が合体することはあるわ。過去に数件程度の事例だけど」


「でも、強い能力具って……」


 桜は違う気がする。桜はもうほとんど力が残っていなかった。


「泉よ。あれ、あなたが倒れた後、跡形もなく消えてしまったみたい。その霊力放出の煽りもあって桜の木も満開に咲いているみたいだけど……あまりもたないだろうね。こもっている力自体は強くないから。……それで?あなたは何を鑑定したの?」


 鏡を見る。淡い光に包まれた桜の木。その気持ちが、思いが痛いほど伝わってくる。


「……あの、桜……多分今までも松峰家の人から霊力をもらってたみたい。……足りなくなるともらって、多分だけどそれからそう時間が経たないうちに、その人は、亡くなっていたんだと思う。そんな事例ないって言ってたから、すぐに亡くなったのは作った人だけだと思うけど」


「それで、もう、誰も殺したくない、か」


「そう。それで今回は私の力を吸ったけど、私は松峰家の人じゃないから……あの人に止められた。……これ以上はダメって。多分泉が霊力を放出したのは……」


「ずっと共にあった桜の願いを聞いて、これ以上人の命を奪わないようにするため、か」


「多分、ね」


「桜はどうなると思う?」


「あと、三ヶ月」


「え?」


「四月二十九日。その日を最後に枯れるか、消えると、思う。もう、本当に限界だった。もう、二度と何も奪いたくないって」


 きっと、力よりも、桜の中にこもった想いがボロボロだったのだろう。


「伊勢大輔のかけら……あれは……桜の精、だったの、かな」


 それは予想でしかないけど、そうだったらいいなと思う。そして、泉の精と桜の精が、ここではない別の世界で共にあれればいいのに、と願ってしまう。そんなことはありえないが。


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