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超能力者たちの事件簿  作者: 白雪
第2章 狂い咲きの桜と聖なる泉 ~木更津伊織の場合~

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06

 研究所に戻ってから、松峰家の桜や松峰家について知りたいと言ったら研究所の書庫から、数冊の本を借りることができた。ただ、本の研究所外への持ち出しは禁止なので、研究室の中で読んでいた。


「伊勢大輔……の、桜?」


 確か前に授業で習った気がする百人一首の句の一つを詠んだ平安時代の女性。だが、伊勢大輔やその句を思い出すことはできない。


 慌ててネットで検索をする。こういう時インターネットが普及していることに感謝したくなる。


「えっと、一条天皇や藤原道長の娘である藤原彰子に仕えた女性で、百人一首に載っている句は……いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな……意味、わかんない……」


 伊織はあまり本を読まないし、歴史は大っ嫌いなのだ。同じ日本語のはずなのに、何を書いてあるのかさっぱりわからない。でも、なんとなく、瑠衣に頼るのは嫌だ。負けた気がする。


「えっと、意味は……いにしえの昔の、奈良の都の八重桜が、今日は九重の宮中で、ひときわ美しく咲き誇っております……意味わかんんない、もっとわかりやすく書いてよ……ええと……元々紫式部が歌を作るように頼まれていたのを後輩の伊勢大輔に譲った? って、紫式部って誰よーーーもーーーやだーーーー」


 読んでいた本やタブレットを放り出して暴れる。


「荒れてるね。あんた、本とか、古典とか苦手だしね。ちょっと頭休めに鑑定してみない?」


「やる!」


 今のこの苦行から逃れられるなら、と即答した伊織のテンションは瑠衣が持っている文庫本を見てテンションが下がった。


「読んで欲しいわけじゃないわ。能力具よ。後で鑑定してもらうわ。……その前に、あんたが匙を投げたそれの解説をしてあげる」


 頭休めの鑑定が、なぜ勉強のあとなのだろうえ。納得できない。それに、今教えてくれるなら、初めから教えて欲しかった。


「なら、初めっから……」


「それはダメ。苦労してこそ、自分のものになるの」


「義姉さんの、意地悪~~」


 伊織の駄々にすーーっと目を細めた瑠衣がにっこりと笑みを浮かべて手にしていた本を机に置いた。


「そうね。私は意地悪だから、このまま帰るわ。なんか用を思い出した気がするし」


「え!? だめ、じゃない……天使のように優しいお義姉様~~お願いします~~教えてください~~」


 伊織の頭はすでにパンク状態だ。放りだされたら、溜まったものではない。瑠衣に頼りたくない、負けた気がする……と思っていたのも、記憶の彼方に放り捨てていた。


「ほんと調子のいい子ね……しょうがないから優しいお義姉様が教えてあげるわ」


「ありがと~」







「それで、松峰家の桜だけど、今から一千年以上前、平安時代に天皇の住まう皇居に奈良から献上されたものよ。あれは、その桜」


「じゃあ、千年前は東京にあったの?」


「は?」


 唖然としたような表情で伊織の方を見てくる瑠衣が本当に驚いているのがわかって伊織は思わず身構えた。


 皇居が東京にあることくらい伊織でも知っている。だが、あんぐりと口を開け、魔の抜けた表情をしている瑠衣を見ると途端に不安になった。何か、変なことを言っただろうか。


「義姉さん?」


「……高専は、能力重視、とはいえ……え? あんたの歴史の成績が底辺はってるのは知ってたけど……マジか……ああ、これ終わったら、家庭教師つけるわ。ちょっと甘やかしすぎたかも」


「え? 家庭教師? やだ、勉強したくない!」


「黙らっしゃい! 皇居は元々京都にあったの。それはもう千年近くね。東京に移ったのは明治に入ってから! 歴史どころか近代史だわ!」


 はぁーーと深いため息をついた瑠衣に伊織は思わず身を引いた。流石にまずいことは自分でもわかる。


「え、っと、ごめん。さすがに勉強する」


「……はぁ。まあいいわ。あまりごちゃごちゃいうと混乱しそうだから、要点だけ伝えると、紫式部は知ってる?」


「はい! 知りません!!」


「元気に言わないで……。源氏物語くらいは知ってるわよね?」


「名前、だけは」


 読んだことはないし詳しく知らないけど、名前だけは聞いたことがある気がする。


「それでいいわ。その源氏物語の作者で、当時身分は低いながらも帝に重宝されていた女房よ。正確には帝ではなくて、藤原道長に、なのだけど。特に当時最も評価される歌の作者としての才能が突出していたの。だから、帝に送られた桜の祝いの歌を贈る役目を与えられた」


「それを、えっと、伊勢大輔に譲った?」


 今しがたみたばかりの情報を口にすると、ずっと難しい顔をしていた瑠衣が少しだけ笑みを浮かべた。正解らしい。


「そう。その桜の歌が詠まれてから百年~二百年くらい経ってからかな……当時宮中に仕えていた男性があの桜に惚れ込んだの。あまりに惚れ込んでる様子にあの桜は下賜されて、松峰家に屋敷に植えかれたのだけど、ある日その男性があの桜の根元で亡くなっているのが見つかったの。そして、それ以来あの桜は咲き続けている」


 命と引き換えに綺麗な花を咲かせ続ける能力具のようになった桜。


「……それがここにきて急激に元気が亡くなって、きた……?」


「そう、背景を知った上で見れば、何か別のものが見えてくるかもしれないわね。……それはそれとして、これ、鑑定して」


 すっと差し出された本を鏡に映した。周囲に淡い光を纏っている。能力具の証だが、あまり強い光ではないので、込められた力はそんなに強くないのだろう。


「……あ!?」


「伊織?」


 あの桜が纏っていた光を思いだす。この能力具とあまり変わらない程度の光が桜の木の周りに見えた。


「……光が、少なかった? ……力が、弱っている?」


「正解」


 にこりと笑った瑠衣。あの桜について教えると同時にヒントを与えるために来てくれたらしい。

 寿命、なのだろう。もう何百年も前に作られたものなのだ。だからもう、どうしようもない。あとは力を失っていくのを見守るのみ。それが、瑠衣が出したあの桜の鑑定結果。でも、伊織は、寿命だからと終わりにしてしまうのが嫌だった。たくさんの人の願いが籠った桜。普通の桜なら、終わりがきたら、もう諦めるしかないのかもしれない。でも、霊力が籠った桜であれば、もしかしたら……生き残る道があるのではないか、そんな気がした。


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