05
「伊織。松峰加寿子さんを鑑定した?」
やはりどこか冷たい口調。彼女の鑑定はNGらしいことはその口調からもわかる。
「ダメ、だった?」
「鑑定すること自体はダメではないわ。でも、それをみだりに口にしてはダメ。……結果を口にするのは正式な依頼があった時、あとは同じ鑑定の能力者や上位の術者へ相談する時。だから私も、泉の結果は伝えたけれど桜に関しては何も告げていないわ。なぜかわかる?」
「……鑑定の能力は貴重で、みだりに振りまくべきではない、から」
正直納得はできないが。仕事、というのもわかる。でも、彼女は能力を欲していたし、発現しないことに落ち込んでもいた。彼女の能力の発現を促すことはできない。でも、安心させてあげることはできる。
ムッとした、納得してませんという顔をしている自覚はあった。だから、瑠衣が呆れたようなため息をついても驚かなかった。
「それもあるけどいちばんの理由はそれじゃないわ。……特に他者の霊力や能力の鑑定は慎重になるべきなの。……ちょうどいい例だから、彼女、松峰加寿子さんのことを話すと、彼女は確かに能力に目覚める可能性が高いだけのポテンシャルを持っているわ。でも、同時に命を失う危険性も秘めている」
「え……?」
瑠衣の言葉を瞬時に理解できなかった。否、言葉はわかる。話しているのは日本語で伊織にとっても日常言語だ。だけど、その意味を理解することを脳が拒んでいた。
「桜や泉、あれはある意味で高度な能力具よ。そして。松峰家はそういう能力具をいくつか持っているわ。……その全てがご先祖さまが命と引き換えに作成したものよ」
「いのち、と……?」
「松峰家は代々強い霊力を持って生まれるけれど、能力者を輩出はしていない。ただ、時折莫大な霊力と命を使って前代未聞の能力具を作る人がいるの。だから、松峰家は代々当主以外はその事実を知らされずに育つ。あなたが中途半端に期待をもたせた結果、松峰加寿子が命と引き換えに何かを生み出したら、あなたは責任が取れる?」
頭の中にぐるぐると今まで言われてきたことが頭を駆け巡る。何度も言われた、結果を口にする時はきちんと他者と相談してから。そう、何度も言われていた。その結果を、理由を、今突きつけられた気がした。
「……人には人の事情や状況がある、それを、知らずに中途半端な結果を告げてはならない」
「鑑定は必ず二人以上の能力者の結果を踏まえること。それは、能力が不安定だから、だけではなく、勝手に暴走してその結果とんでもない自体を引き起こすことを防ぐ意味もある。……伊織、能力は完璧じゃない。だから、使う人は心を強くもたなければならない。……能力は使う人によっては毒にも薬にもなる、便利な道具でしかないの」
伊織は今まで力を使うことを怖いと思ったことはなかった。実の両親にはこの力のおかげで嫌われたが、それでも、怖いと思ったことはなかった。それは、引き取り育ててくれた義家族が大切に愛してくれたからだ。でも、今初めて怖いと思った。
「……誰も、傷つけないくらい、強く、なる」
伊織の決意に、瑠衣が優しい笑みを浮かべた。能力に関してはとても厳しい人だけど、でも、優しいのを伊織は知っている。




