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超能力者たちの事件簿  作者: 白雪
第2章 狂い咲きの桜と聖なる泉 ~木更津伊織の場合~

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 今回の調査は一泊の予定だ。年一回の研究所による鑑定は無料だが、その代わりに鑑定者を宿に泊めてくれるのだ。今回伊織も共に泊まれたのは研究所に対する旅館側のご厚意からだった。


 旅館の裏手に小さな林があり、その中央部分に桜の木とあの泉がある。季節によっては緑や紅葉に囲まれた素晴らしい景観を見ることができるようだが、冬の今は葉のない木々の中にピンク色の花をつけた木が一本立っていて、目を引く。


 伊織たちが泊まる部屋の窓からその林を見下ろすことができる。瑠衣は元気がないと言っていたが、初めて見る伊織にはとても綺麗に咲き誇っているように見える。


「去年の光景も映ればいいんだけどな……」


 伊織は手鏡を見下ろした。ほんの少し力を入れるとあの桜の木が映った。写真であれ、現物であれ、一度見たことがある場所であれば、今の状況を鏡に映すことができる。だが、その場所のの過去や未来を見ることはできない。


 ふぅ、と息をついた伊織はパン、と頬を叩いた。できないことを考えても仕方がない。今、できることを考えなければ。


 伊織は部屋を出るとエントランスへ向かった。確かエントランスに四季の桜、と題して四枚の写真が飾ってあったはずだ。入った時にはチラッと見ただけでよく見ていなかった。


 四季の桜は確かにすごかった。満開の桜、その冬の写真と鏡に映った今の桜を見比べる。ぱっと見でわかるほどに桜の花が少ない気がする。撮影日は一年前だ。毎年、撮影をし、年度頭に入れ替えて一年飾るらしい。過去の写真はアルバムという形で写真の下の本棚に収まっている。


 そのアルバムの最新版をパラパラと見る。ずっと同じ量の花を咲かせていた桜。でも、今だけは明らかに量が少ない気がする。


「すごいですね。それ、今の桜の光景? それともあなたの記憶を写しているんですか?」


 背後から聞こえてきた声に慌てて顔を上げた。従業員用の着物を身につけた女性が鏡を覗き込んでいた。年は大体二十代前半くらいに見える。


「今の光景です……あの……」


松峰加寿子まつみねかずこです」


「松峰、ということはここの……」


「娘です。いずれは女将を継ぐ予定ですが、今の所は見習いです」


「そうなんですか……これは、一度見聞きしたことがある場所の今の光景を写しています。私は狂い咲きの桜を初めて見たのですけど、元気がない、と聞いて……」


「今年の夏くらいまでは良かったんですけど、だんだんと力がなくなってきて。初めて見た人はわからないと思うけど、見たことある人には、明らかな違いがわかります」


「でしょうね」


 としか答えられない。写真と比べても明らかに元気がない。


「あの……あなたは能力者なんですか? それとも、その鏡が……」


 鏡が特別なのか、という言葉を飲み込んだであろう加寿子の目がキラキラと輝いていることにほっとした。まあ、その目はすぐに曇ってしまうのでしょうけど。


 能力者を前にした非能力者は大体三パターンいる。一つは気にしない人。興味がないと言ってもいい。二つ目は未知のものに対して興味関心を持つ人。最後は恐怖と嫌悪を持つ人。加寿子は興味関心を持つタイプなのだろう。


「鏡面……鏡とか水たまりとかに映ったものを鑑定したり、遠くの光景を鏡面に映す能力を持っています」


「ということは、私が持っててもただの鏡なんですね」


「すみません」


「あ、ごめんなさい。怒ってるわけじゃないんです。でも、能力者に憧れがあって……あの桜や泉を作ったのはご先祖様なので、私にもああいう力があればいいのに、って思うのよね」


 悲し気に笑う加寿子の姿を思わず鏡に映していた。加寿子の周りに白い光が見える。能力者、もしくは能力者へ成長する可能性がある人に見える霊力の渦だ。


「……あ……」


「伊織!」


 そのことを伝えようとした伊織は、いつもとは違うどこか鋭い口調で伊織を呼ぶ瑠衣の声に口をつぐんだ。その声音はまるでそれ以上口を開くなと言われているような、そんな気がした。


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