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超能力者たちの事件簿  作者: 白雪
第2章 狂い咲きの桜と聖なる泉 ~木更津伊織の場合~

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02

 研究所は能力者に割り当てられる研究室の他にも様々な部屋があるため、莫大な敷地に立っている。伊織も一応狭い研究室を割り当てられているが、今は、研究所から持ち出し禁止のものを鑑定する時くらいしか使っていなかった。


 その研究室は相変わらず机と椅子しかないシンプルでがらんとしている。その机の上にポツンと見慣れない箱が乗っている。そして、椅子に瑠衣が座っていた。極力箱から遠ざかろうとでもしているかのように、椅子を壁際まで寄せている。


「その中に呪具が入ってるわ」


 昨日鏡越しに見た本を思い出した。本の形をした呪具。キュッと手鏡を握りしめる。物を映す鏡面はなんでもいい。なんなら水を張ったタライや水たまりでも問題はないのだが、いつも持ち歩いているこの手鏡はずっと伊織の力を吸い続けているからか、一種の能力具となっていて、他のものを使うよりも少ない霊力で力を使えるので、基本はこの手鏡を使うようにしていた。


 深呼吸をして、箱に手をかけて蓋を開いた。ほんの少しずらしただけで感じる嫌な空気に思わず怯んだ。


(これが、呪具……気持ち、悪い……)


 体の内から湧き上がってくるような何かを感じて思わず呻いた。それでも一気に蓋を開ける。視界の端で瑠衣が顔を顰めるのがわかった。


 極力本物を見ないようにしながら鏡に映す。といっても鏡越しでも感じる禍々しさ……鑑定の力も相まっておそらく実物を見るよりも鏡越しに見る方が辛い。でも、鏡から目を逸らすことはできない。


 鏡の表面にうっすらと文字が浮かび上がった。この文字、どうやら伊織にしか見えないものらしい。伊織には普通に見えるので不思議な感覚だが。その表面に映った文字を読み上げて行く。


「作成者、御崎みさき美桜みお。対象者、五条俊子ごじょうとしこ。被害者として取り込まれ、体験する。体に傷は残らないが、心の傷は癒やされないため、下手したら廃人まっしぐら。五条俊子以外にとっては普通の本」


 普通の本と書いているが、おそらく能力を発現する程度に霊力を持つ人にとってはただの本じゃ済まない気がする。取り込まれなければその洗礼は受けないだろうが、読むこと自体が苦痛な気がする。


 読み終わるなり箱を閉めてぐったりとその場に座り込んだ。自分の手鏡を使っての鑑定なので普通ならそこまで力を使わないはずだが、別の意味で疲れた。


「お疲れ」


 箱を持って一旦外に出て行った瑠衣がすぐに戻ってきて伊織にはコーヒーを入れてくれた。


「あの、結果は?」


 鑑定の場合、通常二人以上が鑑定をして、その総合結果を正とする。それは、時に鑑定結果がずれる場合があるのからだった。精度100%はあり得ないと言われていて、でも数が多くはない能力者。だからこそ鑑定ができる能力者はさほど強い力でなくても貴重とされている。


 今回は正式の鑑定結果はすでに出ているはずなので、それを合わせての答え合わせとなるはずだ。


「あたりよ。今回は強い呪具だったからか、私ともう一人、それから伊織の結果が完全一致しているわ」


「通常はあそこまでではないの?」


「そうよ。よほど込めた想いが強かったのね。まあ気持ちはわかるけど」


 五条俊子の名前には覚えがあった。年末にやっていた刺繍展で展示していた刺繍作家で、作者事情のため、という不思議な理由で途中で内容が差し代わっていた。


 昨日見た光景を思い出す。多分呪具を手に動いていた少女が御崎美桜、ベッドで寝ていた女性が五条俊子なのだろう。この呪具を使っても構わないと研究所が判断するレベルの何かをやらかしたのだろうが、知りたくはない。絶対に胸糞悪いに決まっている。


「五条俊子の能力は、刺繍が動くという物だけど……」


 聞きたくないのに瑠衣が話し始めた。きっと、耳を塞ぐことは許されない。塞いだら無理やり指を剥がされて聞かされるに違いない。


「確か……景色系は基本動くけど小さな動きで、生き物は動く時と動かない時があるんだよね?」


「そう。見たことはある?」


「ない。刺繍展にも行ってないから」


「……生き物が動く条件だけど、生きている生き物を取り込むこと」


「は?」


「猫の刺繍に生きてる猫を取り込むと動くようになるの。……動物だけじゃなくて、人もいてね、この呪具を作った子たちが暴いたみたい。……高専のミステリーサークル。それは知ってるでしょ?」


 ミステリーサークルは知っている。詳しいメンバーは知らないが、警察に協力しているとも言われていて、できたばかりの部活なのに、結構有名なのだ。だが、そのサークルに意識が行く前に、生き物が動く条件、が脳に浸透して、吐き気を感じた。


「……とり、こむ……? 生きている動物や人、を?」


 なぜそんなことができるのかわからなくて、怖い。


「誰も……気づかなかった、の?」


「……鑑定できる能力者は少ないもの。まあ、本人と作品を何人かの鑑定の能力者が鑑定したけど……誰一人として命を取り込む事実を鑑定できなかったのだけどね」


「なぜ?」


 数が少なく、ムラがあるとしても伊織以外はベテランの能力者だ。誰も鑑定ができなかった、というのは信じられない。


「さあ? 正解は誰も知らないわ。ただ、おそらくだけど……いけないことだと、誰にもバレてはいけない、と知っていたのでしょうね。だから、能力自体が、欺く側に動いた。……事実を知ったあとですら、隠し切るんだもの、相当よね」


「鑑定しても、気づかれない、ように?」


「おそらくね」


「……あの、取り込まれた人や動物は……」


「全員無事よ……ただ全てを失って、刺繍の中で生きていただけだから」


 命が無事だった。それは嬉しいと思う。でも、これを『無事』と言っていいのか、伊織にはわからない。中には幼い子供もいたという。その子供の時間が大人の勝手で奪われていいわけがない。


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