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国唯一の超能力の専門学校である「超能力高等専門学校」は部活動に力を入れている。部活動で自身の能力を研究し、学んでいくことが多い。高等専門学校と銘打っているが、実際のところは自分の趣味特技を磨くことに余念がないオタクの集まりだった。
読書オタクである御崎美桜もそんなオタクグループの一人だった。この学校の中では特筆する ことのない、目立たない生徒だ。
この学校は部活動が盛んだが、部員は大体似たような能力者で集まることが多い。そんな中、美桜が所属しているミステリーサークルの部員が持つ力はさまざまだった。
十月三十一日のハロウィンが終わると一気に冬の気候になる。そして、一大イベントであるクリスマスの準備がそこかしこで行われ、クリスマス企画と銘打った催しが各地で開催される。
美桜、部長の観神紫苑、二年生の絵崎美沙希、篠崎由衣夏のミステリーサークル所属の女子部員たちはそんな期間限定の催しの一つ、刺繍展にきていた。能力者の刺繍作家の個別展であり、顧問の榊原に「お前らが好きそう」と紹介されたのだ。
夕方に一度、二時間ほどの休館時間を挟むが他の時間は開館している上に、夜はライトアップもされるらしく、期間前からとても話題になっていた。
雰囲気の違いを見たくて、榊原にもらったチケットのほか、自費でチケットを購入して昼間と夜の二回見に行くことにしていた。
昼の展示を見終わり、四人で集合して夕食を食べて、二時間時間を潰すことになった。
「気に入ったのあった?」
会場内では自由行動をしていたので、それぞれ、どんなイラストに感動したのかわからない。
「全部すごかったですよね。話には聞いていましたけど、本当に動くんですね」
主催者の五条俊子が持つ能力は、自身が刺繍したものが動く、というものだった。生き物は動いたり動かなかったりするらしく、その違いや理由は作者本人でもわからないらしい。ただ生き物が動いた時の疲労具合がすごいらしく、無意識に力をこめすぎているのかな、という結論になっているという噂だ。真実はわからないが。
確かに膨大な展示物の中で、無機物の刺繍は何らかの動きを持っていたが生き物が動いているのは二割程度だった。無機物も動くと言っても葉が風にそよぐとか、水が波打つとかその程度だが、生き物が動いているものは全体的に活発だったイメージがある。
「私が描いた百人一首のイメージイラストと似た構図がいくつかあってちょっとびっくりしました。もちろん似ているだけで同じではないのですけど。一番はこれです、ものすごく活発に動いていたので、余計に印象に残ってるんですよね」
美桜はタブレットに過去に描いたイラストを表示させた。木々の中で鹿が鳴いているイラストだ。似ていると言っても出てくるものが似ているだけで同じではない。刺繍展では鹿と木々の他に幼い女の子の刺繍もあったので、他の人が同じに感じてくれるかはわからないが、美桜があの刺繍を見た時、このイラストを思い出した。
美桜が描いたのは皇太后大夫俊成の詠んだ句をイメージしたものだ。
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
『この世の中には悲しみや辛さを逃れる方法などないものだ。思いつめたあまりに分け入ったこの山の中にさえ、悲しげに鳴く鹿の声が聞こえてくる』
という内容の句だ。美桜が描いたイラストはなにかが違うが。
「ちなみに句がないのはこれです」
「……確かに似てるかも」
紫苑がメモ帳を取り出してサラサラと簡単なイラストを描いてくれた。見聞きしたものを忘れない紫苑は写真のようにそっくりなイラストを描ける。と言っても本人は描いていても面白くないらしく、あまり描いてくれないが、こういう時には率先して描いて見せてくれるのだ。もはや写真の代わりだ。
さすがは紫苑。よく似ている。でも、本物には敵わないと切実に思ってしまった。
「パンフレットが売っていないの、なんでって思ってたけど……これは、パンフレットにはできませんね」
「写真禁止は美術展示では当然として、ポストカードの販売もありませんでしたけど……写真に残しても魅力半減ですね」
紫苑が描いたのは白黒の鉛筆画だが、特徴を捉えていて、モノクロ写真に見える。でも、実物を見た時のような目を引く印象も、心に訴えかけてくるものも感じることができなかった。
女の子と鹿が戯れている様子と細かい動きが脳裏に焼き付いている。
「夜の展示も楽しみだけど……また、来たいよね」
そんなふうに言っていたが、まさかあんなふうに訪れることになることを予測できている人は誰もいなかった。




