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都市伝説な日々  作者: K
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SNS時代のメリーさん



 ルフは自室のパソコンの前でニヤニヤしながらブツブツ何かを呟き、キーボードに指を走らせていた。

 今まさに彼は荒らし行為の真っ最中だった。

 

 SNSで気に入らない発言をしている人を見かけたら、裏アカウントで絡みに行くのが最近の彼の楽しみだったのだ。

 とはいえ、大抵返り討ちにあいむしろ逆にフラストレーションが溜まるというものであるが。


 そんな作業を今日もしていると何か通知がきた。

 相手がリプで反論でもしてきたか? と、彼は通知を見た。


 そこには、


「私、メリーさん。今最寄り駅にいるの」


 と一言のリプが届いていた。そして一枚の写真。

 それは彼の最寄り駅だった。


「な・・なんだこいつは?」


 彼はアカウントの名前を見た。

 『メリーさん』・・だと? なんて悪趣味なやつだろう。彼は自分のことを棚に上げてそう思った。


 しかしこれはよく考えたら大問題なのだった。

 それは最寄り駅がなぜか知られているということに集約されていた。このメリーさんを名乗るアカウント主が一体どこから自分の最寄り駅を知ったのか?


 まさか特定されているのか?

 恐怖しつつその日はもう寝ることにした。



 次の日、引きこもりであるルフは食料の買い出しに自宅近くのコンビニを訪れた。


 そこで知り合いの月ヶ瀬迷衣とばったり出くわした。

 彼女がどこの誰かなのかはよく分からない。最初に出会ったのは友人のふぁん太経由だった。どうやらふぁん太の運営しているオカルトサイトの常連であり、偶然家が近いことから、時々会って話をするようになった。


「ルフくん、新しい都市伝説を聞いてみない?」


 開口一番そんなことを聞いてくる月ヶ瀬。

 そう、こいつは都市伝説ハンターを自称するオカルトジャンキーだ。


「どんな話だ?」


「SNSに現れたメリーさんの話」


 心臓がキュッとなった。嫌な汗が出てくる。

 ルフは平静を装い、続きを促した。


「これはとあるSNSの話なんだけど、あるところにひどいSNSの使い方をするユーザーがいたのね」


 俺のことか? ルフは頭がくらくらした。

 

「そのアカウントの持ち主はたくさんのアカウントを持っていて、相手にブロックされても別のアカウントで攻撃して、とにかくいろんない人が被害を受けてたんだよね」


「典型的な荒らしだな」


「そんな荒らしの元に一つのリプが届くんだ。そのリプのアカウントはメリーさん。某駅の写真が貼られていて一言、「私メリーさん、今○○駅にいるの」」


「もしかしてその駅が荒らしの最寄り駅?」


「そうじゃないかと言われているよ。そのリプが送られるとすぐに荒らしは反応して、こう返した。「お前は誰だ?」。メリーさんは何も返さない。翌日の深夜、再びリプが来た。「私メリーさん、今あなたの職場の前にいるの」。なんとそのリプには職場の写真が!」


「で、それからどうなるんだ?」


「メリーさんからのリプは次の日も来た。そのリプには「私メリーさん、今あなたの家の前にいるの」。そしてすぐにもう一つのリプが、「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」。この荒らしアカウントは、結局完全に沈黙してしまうの。後日、ニュースで不可思議な事件があったことが伝えられた。都内のある住宅で男の人の遺体が発見されました。その遺体は首がもぎ取られていたのです! そしてその人の住んでいた家はメリーさんが送ってきた写真と同じだったのです!」


 ルフは真っ青になってブルブルと震えていた。


「結局、その人死んじゃったのか?」


「その通り。どう? 怖かった?」


「怖すぎるって・・。一つ聞きたいんだが、それは実話なのか?」


「半分実話で半分作り話。実際にピングーっていうSNSでメリーさんを名乗るアカウントが次々に荒らし行為を行なっているアカウントにリプを送りつけて、その荒らしアカウントが沈黙しているのは事実。でも、最後の首がもぎ取られているっていうのは創作だね、私の。荒らしアカウント主がどうなったかは誰も知らない。どうしたの? 顔が真っ青だよ」


 月ヶ瀬が不思議そうに顔を覗き込んできた。彼女は勘が鋭いところがある。もしや俺のところにもメリーさんから脅迫のリプが届いたのがすでにバレているのではないか。


「なんでもない」


それだけ呟くとルフは足早にその場を後にした。



 家に帰りネット依存症のルフはパソコンの前に陣取って次のリプが来るのを待った。

 リプが来た時刻は午後7時。今日もメリーさんからリプは来るのか?


 待っている間にざっとピングー内の検索機能を使ってメリーさんが本当に他の人のところにもリプを送っていたのか調べた。どうやらそれは事実らしいことが分かった。


 ルフのところに来たリプにもメリーさん騒動を聞きつけた野次馬がいくつかリプを送ってきていた。


 7時。メリーさんからリプが来た。


「私メリーさん、今あなたの家に向かってるの」


 そこにはルフの住んでいる家がある通りの写真が載っていた。

もう耐えられない。誰かにSOSをすることに決めた。



 翌日、彼は友人であるふぁん太のアパートを訪ねた。


「頼む! なんとかしてくれ!」


 土下座で頼み込むルフにふぁん太は呆れながら呟いた。


「まさかルフがネット荒らしだなんてな・・、失望したわ」


「もうあんなことしない! だからどうすればいいか教えてくれないか?」


「俺もピングーのメリーさん騒動はピッとアンテナ貼って知っていたけど、そうか。今回のターゲットはルフか。確かにあの写真は俺たちの最寄り駅だし、あの通りはルフの家があるところだよなあ。明日あたり家に来るんじゃないか? つまり正体を掴むいい機会だな。よし、手を貸すよ」


「ほんとか!?」


「その代わりネット荒らしはもうやめろよ。レスバ弱いんだからやるだけストレス溜まるだけだわ」


「恩に着る!」


 その時、アパートのドアの方から声がした。


「話は聞いたよ。私にも協力させてくれない?」


 開いたドアにもたれかかりカッコよくポーズを決めているのは、月ヶ瀬迷衣その人だった。



 3人はふぁん太の部屋の中でコタツに入りながらこれからの計画を話し合った。


「そもそもこのメリーさんは一体何者かってところが問題だ」と、ふぁん太。


「なんで俺たち荒らしの住所を特定できてるんだろう」


「最初、私は自作自演説を考えてたんだよね」月ヶ瀬がスマホをテーブルに差し出しながら言った。


「今までにメリーさんにターゲットにされた人はルフ君を含めて4人。みんな最後に「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」とリプを送られてから沈黙している」


「ツイッターみたいに鍵かけられたらいいんだけど、ピングーはそれができないから容赦無く全員家を晒されてるな」


 ルフは身震いした。


「ピングーって複数アカウントを持てるんだよね。だから全員同一人物で、なんらかの目的でターゲットがメリーさんに特定されていく様を演じているって思ったんだよ」


「でも、俺はそんなことしないぞ」と、ルフ。


「そう。ルフ君が実際にターゲットにされているからこの線は無くなった」


「ルフが自作自演の張本人だったりして」ケラケラ笑いながらふぁん太が冗談を飛ばす。


「さすがに自分の家が特定される行為はしないっての」


「そこで私は考えました! 流れ的に今日あたりメリーさんはルフくんの家に来て、写真を撮るはず。だから、家の前で待っていたらその瞬間を見ることができる。そうすれば少なくとも犯人が誰かが分かるはず!」


「なるほど! その手があったか!」と、ルフ。


「よし、そうと決まったら早速誰がその瞬間を見届けるか決めようじゃないか。俺はこんな寒い中外で待ちたくないから部屋に篭るぜ」


「監視役は私が引き受けるよ。確かリプが来るのは7時だったよね。都市伝説ハンターの前に、冬の寒さなんてどこ吹く風よ」


「さすがマヨちゃん。そこに痺れる憧れるう」


「で、俺はどうすればいいんだ?」


「とりあえず、俺のアパートでかくまってやるよ。メリーさんが本当にルフに危害加えるようなことがあったら危ないからな。少なくとも俺のアパートにいれば特定されているであろう家にいるより安心だ」


「ありがとう、ふぁん太」


「というわけで、、計画の開始としようではないか」


 月ヶ瀬が高らかに宣言したのであった。



 夜7時。

 月ヶ瀬はルフの家が見える通りの陰に隠れて見張っていた。


 時間になったが、しかし誰もこない。5分経ったが怪しげな行為をしている人の姿はどこにもなかった。

 その時、彼女のスマホが鳴った。


「もしもし、ふぁん太? こっちは誰もこないよ」


「ピングーを見ろ。時間通りにメリーさんがリプを送ってきたぞ」


「ほんと?」


 確かめてみると、確かに7時ちょうどにルフのアカウントにリプが飛ばされているのが分かった。「私メリーさん、今あなたの家の前にいるの」と一言。そしてそこにはルフの家の写真が貼られてあった。


 

 ルフはふぁん太のアパートの部屋でメリーさんから最後のリプが届くのを恐怖しながら待っていた。

 家の写真が送られてきた数分後、リプが来た。


「私メリーさん、今あなたの後ろにいるの」


 スマホを見ていたルフとふぁん太は後ろを恐る恐る振り返った。

 そこにあったのはふぁん太のオカルト趣味のコレクションだった。メリーさんの姿はどこにもない。


「なんだ、何も起こらないじゃないか。俺はてっきりスイカのお化けが現れてルフが全身の血を吸われて絶命するかと思ってたんだが」


「なんの話だよ」


「昔の映画の話さ」


 ルフとふぁん太は体から力が抜けて、へなへなと横になった。


「一体なんだったんだ・・」


「ルフよお、メリーさんに文句言ってやれよ。来なかったじゃねえか、この腰抜け野郎ってな」


 それもそうだ。ルフはスマホで自分のアカウントにリプしてきたメリーさんに、一言何か言いたい気分になってきた。


「返信して大丈夫かな?」


「いいんとちゃう? 命の心配はもうしなくても良さそうだしな」


 ルフは決心してメリーさんが最後に残したリプに返信しようと思い立った。「お前は誰だ?」と。

 しかし・・。


「あれ・・、リプが送れない」


「どうした?」


「おかしいんだよ。ボタン押してもなんの反応もない」


 何度も送信ボタンを押したが一向にスマホは反応しなかった。試しに自分の今までのコメントの一つを消そうと思ったが、それもできない。スマホが壊れたのかと他のアプリを開くが、これは操作ができた。


 ピングーは動かなくなってしまったのだ。


「それって、凍結したんじゃね?」


「いや、凍結だと通知が出るはず」


 ドアが開き、ダッフルコートに身を包んだ月ヶ瀬が部屋に入ってきた。


「おお寒い寒い。暖まらせてえ」


 コタツに潜り込み、頬を上気させる。


「写真は誰も撮りに来なかったけど、多分前もって撮っておいたんだろうね。で、結局どうなったの? メリーさんは?」


 彼女は2人から謎のエラーがルフのアカウントに起きたことを聞き、ハッと目を見開いた。


「どうした? 何か気づいたのか?」と、ルフ。


 彼女は考え込むように口元に手を添えて、しばらくそのままの様子でいたが、やがて口を開いた。


「盲点だったけど、もしかしてメリーさんの正体って・・」



 数日後、ルフは自宅のテレビでニュースを見ていた。

 その場には大学の講義をさぼって家に来ていたふぁん太と、どこからともなくやってきた月ヶ瀬の姿もあった。


 ニュースの画面にピングーのアプリの映像が流れる。


「利用者の個人情報を不正に利用したとして、ピングーの運営者が逮捕されました。運営者の緑川茂明容疑者は自身の運営するピングーの利用者が投稿した写真の位置情報から、自宅の場所を特定し、「メリーさん」を名乗るアカウントで、利用者の自宅が分かる写真を送りつけ、不特定多数に特定できる形で晒した疑いがもたれています。緑川容疑者は動機について、「荒らし行為をする利用者を懲らしめるためにやった。抑止力になればいいと思った」などと供述しているとのことです」


 月ヶ瀬が話した推理は完璧に当たっていた。


「運営者はIPアドレスから辿れば荒らしの本アカも裏アカもすぐに分かるからねえ。本アカに自宅で撮った写真を載せてればアウトってわけ」


「あの謎のエラーは荒らしが死んだように見せかけるためのプログラムだったんだな」と、ルフ。


「でも本末転倒だよな。ピングーのアプリの利用者、この事件でほとんどいなくなったんだろ?」


「そりゃあ自分の撮った写真載せたら運営者には場所が筒抜けになるアプリ誰も使いたがらないよ」


「何はともあれ、一件落着ってわけだな」と、ふぁん太。


 その時呼び鈴が鳴った。

 ルフが応対して戻ってくると、その手には謎のパンフレットが握られてあった。


「それ何?」月ヶ瀬が聞く。


「高校のパンフレットらしい。俺の住所宛に送られてくるようになってた」


「そういえばルフは家が特定されてたんだったな」と、ふぁん太。


「嫌がらせの一環かな?」と、ルフ。


「世間の目が他の出来事に移るまでとりあえず辛抱するしかないね。うんうん」


 月ヶ瀬も同情の眼差しを向けてくる。


「そりゃないよお」


 ルフは荒らし行為をしたことを深く後悔するのだった。



 


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