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異世界転生  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】

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第九十六話【従えるかのように】


 馬車はしばらく順調に走り続けた。カンビレッジの南側には魔獣もいなくて、障害になるものが現れないから。

 けど……それもずっとは続かない。しばらくの平穏はいきなり聞こえた怒号に吹き飛ばされて、隊列の先頭が魔獣を見つけたことがわかった。


「……フィリア、なんかあったら大声で呼べ。表を片付けてくる」


「はい、お願いします。どうか、皆を守ってください」


……そのみんながお前を裏切るようなことがあったら……って、そういうつもりで言ったんだけどな。ほんと、危機感とかないのかな。王様なのに。


 それでも、ここでフィリアだけを守ってちゃ意味がない。それじゃ俺の価値を示せない、恩を売れないから。

 ここにいる盗賊団を全員守って、チエスコまで無事に送り届ける。それが出来たうえでナリッドの解放も済ませなくちゃ、ゲロ男の手の上で踊る甲斐もない。


「全員、魔獣は無視して進み続けろ。俺が全部倒す」


 馬車を飛び出して、一番前に合流して、馬の上で剣を振り回すやつらにそう言えば、みんなして余計にパニックに陥ってしまった。

 な、なんだこいつら。もしかして、魔獣と戦う経験はあんまりなかったのか? もうすでにいっぱいいっぱいで、変なこと言われて容量オーバーになってる顔だ。


「……安全な街にいる連中は、盗み以外にする必要なかった……のか。納得したけど、だったら……」


 だったらこんなの寄越すな! あのクズ! 足手(まと)いだろ! 荷物ばっかり増やしやがって!

 まあ、こいつらがいなかったらチエスコに行くことも、そこの砦を使うことも出来ないから、必要なのは間違いないんだけどさ。ムカつく。


「ああもう! 落ち着け! ザコ! 全部俺がやるから! すっこんでろ!」


「な――何言ってやがんだこのガキ! 戦わなきゃ食われるだけじゃねえか! バカなこと言ってんじゃねえよ!」


 ああもう、ぎゃあぎゃあうるさいな。こういうの、しばらくなかったから……懐かしくもなんともない。やっぱりうざい。

 だけど、これを静かにさせる方法は知ってる。もうやったことだから。昔、フィリア達の前でやったことをもう一回やるだけだ。


「――邪魔だ――っ!」


 半狂乱のチンピラより前に飛び出して、向かってくる魔獣の群れを薙ぎ払う。

 握り締めた剣を振り抜いて、剣のリーチよりも広い範囲を一気に吹き飛ばす。


 やっぱり……ヨロクでの戦いでやれることが増えてるな。このくらいの雑魚は前から余裕だったけど、なんか……


「前より軽い……動きやすくなった気がする」


 マリアノの真似をしたからなのか、それは関係ないのか。走る、跳ぶ、剣を振る動きのそれぞれが、ちょっとずつ速くなってる。

 ここのところは雑魚としか戦ってなかったけど、それでも経験値にはなってたのかな。マリアノの真似っていうスキルの習熟……みたいな感じで。


「――ぉお――うぉおお! すげえ! すげえぞこのガキ!」


「う、うるさ。おい! 誰がガキだ! ザコ!」


 って、考えごとする暇もないな。魔獣の群れを蹴散らした途端、チンピラ盗賊団が騒ぎ出して……おい、これどうやって収拾つけるんだ。

 さっきまで揃ってパニくってたくせに、みんなしてへらへら笑って……


「おい! 静かにしろ! 魔獣に見つかるぞ! ちょっとくらい考えろ! ザコ!」


「見つかったって平気じゃねえか! かしらはさすがだぜ! あねさん以外にもこんなバケモン見つけてくるなんてな!」


 誰が化け物だ! それと、ゲロ男の手下みたいに言うな! ムカつく!

 ダメだこいつら、全員フィリアみたいになってる。能天気で楽天的で、これっぽっちも状況がわかってない。


 もう魔獣がいない区画は出てるんだ。となったら、ここから先は魔獣の巣がいくつもあるだろう。

 そしてその中には、あのタヌキ魔獣みたいな厄介なのがいないとも限らない。


 そりゃ、いまさらあんなの出てももう苦戦しないけど。でも……こいつらが邪魔で強さのイメージが出来ない……とかなったら、守れない可能性だってある。


「進め進め! 俺達にはすげえバケモンがついてんだ! これならあねさん抜きでもナリッドまで行けちまうかもしんねえぞ!」


「うざい! うるさい! バケモンじゃない! お前らがザコなだけだ! それと、最初からナリッドまで行くつもりだ! アホ!」


 なのに……そんなこと知るわけもないから、チンピラどもはみんな浮かれてて……はあ。


 実際のとこ、ずっとあの砦にいたなら、魔獣と戦う機会も多くなかったんだろうな。それこそ、マリアノが戦ってる姿もあんま見てないのかも。

 だとしたら、この盛り上がりも納得ではある。わかんなくて怖かったことが、目に見えて安全になったんだから。


 けど……もうちょっと静かにしてくんないかな。群がってバカみたいに騒いでるの、頭悪いやつみたいで恥ずかしい。

 グリフィーとか、結構賢そうなやつもいたハズなのに。なんでこうなってんだろ。


「……ああ、そうか。賢いやつは表に出ないのか」


 賢いやつは馬車の中で指示出したり作戦考えてるから、表で剣振り回してるのは残りのアホばっか……ってことか。納得。


 まあいいや。今のところはデカい気配もヤバいニオイもしない。それに、そういうのが出たら流石のこいつらも静かになるだろ。

 としたら、このまま勢いに乗って進ませるほうがいいか。変に慎重になって到着が遅れると……帰りも遅くなって、言い訳考えるのがめんどくさくなるし。


「……はあ。おい! 魔獣は全部俺が倒すから、お前らは馬車だけちゃんと守ってろ! それと、もうちょっと静かにしろ! みっともない!」


 指揮執ったつもりはなかったけど、俺の言葉に全員がデカい声で返事して……うるさ……耳痛い……っ。

 とりあえず、チンピラ群団の士気は高まったっぽい。それはいいこと……だろうから、まあいいか。


 それに……もしかしたらって思って警戒してたけど、群団の中からも、馬車の中からも、嫌な気配は漂ってこない。

 フィリアの周りに護衛はいない……盗賊団から守ってくれる味方はいない。それが唯一の気がかりだったけど、どうやらそれも大丈夫そうだ。


 こいつら、本当にゲロ男の指示に従順なんだな。手紙に書いてあっただけなのに、ここまでちゃんと手伝ってくれるとか。

 それだけ信頼されてるんだな、アイツ。あんな人間のクズの手本みたいなやつなのに。


「……ムカつく」


 賢いから……だけじゃないよな。賢いから、こうやって全員に慕われるような振る舞いをしてるから、だけじゃないんだ。

 アイツはフィリアと同じで、みんなもうれしい理想を掲げて、それが実現出来そうなところも見せてる。

 ただ強いだけじゃない、ただ賢いだけじゃない、ただずるいだけじゃない。アイツはそういうのを全部持ってて、その全部をみんなのために使うから信頼されるんだ。


 ただ……まあ、そのみんなってのが、盗賊団のみんな……でしかないから。

 フィリアは、国のみんな……いや。国じゃなくなったところに住んでる人も含めたみんな、だからな。そこはフィリアのほうが格上だ。身の程知らずとも言うけど……


 でも……その身の程知らずの理想は、俺が叶えてやるんだ。なら、やっぱりアイツよりフィリアのほうが……


「……いや、別に、フィリアのほうが凄かったらなんだって話だけど……」


 それに、たとえ凄かったとしても、フィリアのほうがアホなのは間違いないしな。


 と、そんなどうでもいいこと考えてるうちに、遠くのほうから魔獣の気配が迫ってくる。どうやらこっちに気づいたっぽいな。

 さて……また群れが見えたらこいつらビビるかな。それとも、調子に乗って騒ぐかな。どっちにしてもめんどくさい……から、先に片づけてくるか。

 幸い、フィリアになんかするつもりもないみたいだしな。じゃあ、この作戦のあいだくらいは任せよう。


 部隊からちょっと前を先行して、魔獣の群れを蹴散らしながら南へ南へと進む。

 そうして日が暮れるよりも前に声をかけられれば、チエスコに建てられた盗賊団の砦が見えてきた。


 ここも無理矢理改造されたボロ砦だったけど、それが街を守ってることは見てわかる。

 街を、街に住む人を、そしてその生活を守る、盗賊団の戦いの証だ。


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