第九十四話【謀反なのかもしれない】
ナリッドの港を解放する。ついこのあいだ決めたばかりのその作戦は、とっくに見透かされたものだった。
ゲロ男は……ジャンセンは、俺達がナリッドへ向かうことを予測して、その手伝いをするようにと団員に置き手紙をしていた。
それも、前に俺達をここへ呼んだとき……協力関係を破棄したそのときにはもう、ここまで計算してたらしい。
頭のいいやつだとは思ってたけど、ここまでされるとさすがに……キモい。ただでさえキモいやつだったのに、別の方向にもキモいとか、勘弁して欲しい。
だけど……今はアイツがどれだけキモかろうと関係ない。手のひらの上で転がされた気分でムカつくけど、このチャンスは活かさないと。
貸しになったとしても、実績を作った事実は残せる。それを積み重ねていけば、アイツも俺達を無視出来ないだろ。
そんなわけで、砦にいたチンピラ……グリフィーから必要な物資のメモを貰って、俺は急いで役場に戻った。
帰ってみれば、そこにはまだ大慌ての役人と、それを見てなんかハラハラしてるフィリアの姿があった。まだやってたのか……
「フィリア。おい、ちょっと」
「……? ユーゴ、もう戻ったのですか。となると……やはり、街の外に手がかりらしいものはなかったでしょうか……」
魔獣もいないし、ここからナリッドの街並みが見えるわけじゃないからな……じゃない。アホ。手がかりがあったから急いで戻ったんだろうが。
ただ……その手がかりが、公の場で王様相手に伝えていいものじゃないから。だから、ちょっと場所を変えよう……って、手を引っ張ったんだけど。
なんか……まだ探し物して貰ってるから、もうちょっと待って……みたいな反応されて……アホ。
「アホ。デブ。まぬけ。さっさと来い。手がかりならあったんだよ」
「っ! ほ、本当ですか? 聞かせてください」
だから! それを伝えるために場所を変えるって言ってんだ! 察しろよ! アホ!
そうでなくても、どこで誰が操られてるかわかんないって釘刺されただろ、カスタードに。重要な話は出来るだけ周りに人がいない状況で…………
「……まさか、アイツも……? いや……まさかじゃないな」
「……? ユーゴ? どうなさいましたか?」
どこで誰が操られてるかわからない……その魔の手が王様にまで届いてないとも限らないから、俺達の協力を受け入れられなかった……のか。
今更になってアイツがやたらと俺達を疑った……どう見てもただのアホでしかないフィリアを警戒してたのは、人を操る魔術師をアイツも知ってたからなのかも。
だとしたら……北の組織と敵対するような行動を見せれば、手を取って貰える可能性はまだ残ってる……のか。
「……じゃなかった。今考えるべきはナリッドだ。フィリア、早くこっち来い。アホ」
俺達がパールやリリィすら疑わなくちゃならない状況にあるように、あっちも味方を簡単には増やせない状況に陥ってたんだな。
なんか、それがわかったらちょっと気が楽になった。俺達が役に立ちそうにないから、信頼出来ないから……だけで拒んだんじゃなかったんだな、って。
でも、それは今の問題じゃない。やっと動いたフィリアを連れて、馬車へ……荷物も降ろして馬も外した、ただの大きな箱へと入る。ここなら誰かに聞かれることもないだろ。
「外の砦に行ってきた。ここより南のことなら、アイツらのほうが詳しいと思ったから。直接的なものじゃなくてもいいから、ナリッドについて何か教えてくれって」
「っ⁉ と、砦……とは、盗賊団の拠点に乗り込んできたのですか⁈ な、なんて無茶を……」
アホ。誰の心配してるんだ。いや……これはあれか。いきなり無茶して、敵対されることを懸念してる……のか? いや…………普通に俺の心配してそうだな。アホ。
けど、フィリアがアホなのにはもう慣れた。そんなの無視して、さっさと話を進めよう。時間ないんだから。
「結論から言うと、ナリッドの港に目をつけてたのは俺達だけじゃなかった。ゲロ男のやつ、俺達がそこを目指すって予想してたらしい」
ゲロ男の置き手紙があったこと。そこには、盗賊団にナリッドの解放を協力させる旨が記されていたこと。そして、その手紙の指示通りに手伝って貰えそうなこと。
砦の中で起こった出来事をとりあえず伝えると、フィリアは目をぐるぐる回しながら……おい。混乱してる場合か。
「え、ええと……すみません、話が突飛なもので……こほん。ジャンセンさんは、私達が……協力者を得られなかった国が、次にどこへ目をつけるかと予測していたのですね」
「ムカつくけど、そういうことだろ。ここに来たこと、ナリッドを目指すこと、そのうえでアイツらに手がかりを求めること、全部お見通しだったんだ」
ムカつく。いいように使われてる感じが特にムカつく。でも……一個だけムカつかないとこもある。
「……お見通しだった……けど、一度は拒んだ俺達に手を貸してでも、ナリッドの港は使えるようにしたいんだ、アイツらも。なら、これはチャンスだぞ」
俺達を上手く誘導しないといけない。マリアノがいても、アイツらだけじゃナリッドの港は解放出来ない……って、そういう判断を下したってことだろ、つまり。
なら、この一件を成功させれば、向こうとしてもこっちに貸しを作ったことになる。対等な協力関係を目指すなら、そういうのは無視出来ない。
「で……だ。力を借りるにしても、そもそもはマリアノがいても出来そうにないことだからな。こっちからもいくつか持ってってやらないといけないものがある」
「え、ええと……もしや、すでに共同作戦を決定してきた……のでしょうか。いえ、その……そうですね。拒む理由はありませんが、しかし……」
勝手に決めたのは……ごめん。だけど、一回戻って確認してから……とか、そういうのやってる時間も惜しかったから。
フィリアはめちゃくちゃ忙しいから。もし確認のために時間を使って、そのせいで実行が遅くなったら……そのときも手を貸してくれるかはわかんないし。
それと……たぶん、そういうのを全部フィリア頼みにしてると、ゲロ男はこっちを認めないと思う。
少なくとも、俺を戦力として計算してるなら、それがいちいちフィリアの指示を待ってたんじゃ使い勝手悪いからな。
「……ふう。そうですね、今はことを急くべきでしょう。何よりも、彼らは未だ北方にて、別なる敵と対峙している最中なのですから。一刻も早く共闘の形を整えなければ」
俺の考えをフィリアも理解してくれたのか、ちょっとため息はつかれたけど、すぐに納得してくれた。
そして、グリフィーのメモに目を通すと……かなり神妙な顔をしたけど、ぎりぎり首を縦に……傾げながら、かなり悩みながらだけど、頑張って頷いてくれた。ごめんって……
「……食料、医薬品、弾薬……たしかに、すべてこちらから支給することの出来る物資です。ですが……国軍の物資を持ち出すとなれば、当然許可が必要になりますし……」
それに、運び出すにも人手が必要になります。と、フィリアは拳で眉間を抑えながらそう続ける。
そっか……いや、そんなの考えるまでもなかった。そうだよな、いくらフィリアが王様でも、国のものを好き勝手に持ち出せるわけないし、そもそも物理的に運べるわけ……
「……いや。違う、そうじゃない。そうじゃないだろ。運べるぞ。いいや、それでもない。そもそも、運ばなくてもいいんだ」
「……? 運ばなくともよい……とは、ええと……? 運ばねば、どれだけの食料も持ち出すことは…………っ! そ、そうでした」
俺達が運び出す必要なんてなかったんだ。だってアイツらは、公的な施設を狙う盗賊団……泥棒なんだから。
どこに、何が、どれだけあって、いつ、どのくらい人が見張ってるか。そういう情報を伝えさえすれば、あとは勝手に…………
「…………すぅー……いや、待った。俺は……俺はさ、いいアイデア思いついた……くらいのテンションでもいいと思うんだけどさ。フィリアがそれは……ダメじゃないか?」
「っ⁉ き、急に冷静にならないでください。そして、私だけを切り捨てないでください……」
盗みの手助けをする王様……って、めちゃくちゃダメじゃないか……?
あー……いや、じゃあ……そうか。そもそも、俺がフィリアに相談したとこから間違いだったのか。
全部俺が仕組んで、アイツらと共謀して、表面上だけでもフィリアの知らないところで起こったこと……にしなかったのは……俺のミスだな、うん……
いや、でも、まあ……どのみち、どこに何があるかなんて聞かなくちゃわかんなかったし。俺ひとりでうまいことやれたビジョンは見えないから、これでよかったんだ。
フィリアはかなり……見たことないくらい渋い顔をしてたけど、でも……それが一番手っ取り早い方法だとは思ってるっぽいから、何もなければ今のとおりに進めるんだろう。
今のとおり……盗賊を手引きするやりかたで……ごめんって。今回は本当に反省するから……




