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異世界転生  作者: 赤井天狐
第二章【惑うものと惑わすもの】

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第九十三話【予測済みの協力】


 ナリッドについて調べるために、街の外、国の外について詳しい盗賊団の力を借りることにした……って、決めてたわけじゃなかったんだけど。

 とりあえず思い当たったから拠点を訪ねてみたら、なんか……手紙を預かってるとかなんとか言われて、中に通されて……


「……おい。かしら……って、ゲロ男……ジャンセンのことだろ。なんでアイツが、俺に……俺達にか? 手紙なんて書いてるんだよ」


 入り口を開けてくれたチンピラは、襲いかかってくる様子も、嫌がってる様子もなく、真面目な顔で奥の部屋へ……前に使った教室みたいに広い部屋へと案内した。

 そこで、ゲロ男から預かったって言う手紙を棚から取り出して、警戒も拒絶もせず、かと言って友好的な笑顔も見せずに俺に手渡した。


「……ジャンセン=グリーンパーク……って、一応名前は書いてあるか。まあ、わざわざアイツをかたって俺に何かする意味もないし、本物だよな。でも……なんで」


 手渡された封筒にはアイツの名前が書いてあって、その裏面に……いや、こっちが表か。そこに書いてあったのは、フィリアと俺の名前だった。

 下っ端がアイツの意思を無視して俺達を騙すメリットはない。じゃあ、本当にアイツがこの手紙を残しておいた……のか?


「これ、なんて言って置いてったんだ? だって、協力はしない……って。フィリアの条件は飲めないって、決裂したんだぞ」


 俺が尋ねても、チンピラは何も答えなかった。バカにするでも、とぼけるでもなく、ただじっと俺を……俺と、俺が手紙を受け取ったことを、きちんと確認してるみたいだ。

 外で会ったときはへらへら笑ってて、俺のことガキだと思ってバカにしてたハズなのに。さすがにゲロ男の部下……ってことか。ただのチンピラじゃない。


「……まあいいや。どうせあてずっぽうでいろんなとこに置いといたんだろ。フィリアが協力を申し込みに来たら、これ渡して追い返せ……とか――」


「――かしらをあんまり侮るなよ」


 っ。別に、バカにするつもりも、侮ったつもりもない……けど。でも、認めたようなこと言うのはしゃくだったから出た悪口に噛みつかれた。

 でも、怒られた感じじゃない。警告……でもない。ただ、尊敬する人を馬鹿にするような態度が気にくわなかっただけ……だろう。

 ただそれも、子供に言って聞かせるようなものだった。俺に、ゲロ男は本当にすごいやつだぞって、わからせようとしてのもの……だった。


「……思い知ってるよ、そんなの。それに、たとえフィリアがここへ来る可能性が高いと知ってても、それにわざわざ備えたのは、やっぱりアイツが賢いからだ」


 俺達としては、なんとかしてこいつらに貸しを作りたい。貸しを作って、協力を断りにくい状況にしてしまいたい。

 フィリアはそんなふうに思ってないかもしれないけど、たぶんカスタードはうっすら考えてるんじゃないかな。協力を迫るなら、やっぱりそれしかないって。


 そしてそれは、ゲロ男もとっくにわかってることだ。だからこそ、先に手を打っておいたんだろう。

 こっちから何かを要求するタイミングが必ず来る。そのときに、逆に貸しを作ってしまえ……って、そういう魂胆に違いない。


 んで……それの何がムカつくかって、本当に貸しを作らなくちゃならない状況でここに来ちゃったことだ。

 ムカつく。マジでうざい、アイツ。まんまと手のひらの上で転がされた気分だ。


「貸し作るのは不本意だけど……ま、フィリアじゃなくてよかった。俺がひとりでムカついてるぶんには困らないからな。ざまあみろ」


 フィリアがこんなの見たら……やはり頼りになるかたです。なんとしても協力関係を結んでいただかなくては……とか、アホなこと言うに決まってる。

 そういう意味では、俺がひとりでこれを見たのは、ゲロ男にとっても予想外だろう。俺はこれを恩だなんて思ってやらないからな。


 となれば、これを持ち帰って一緒に見るわけにもいかない。さっさと中身確認して、ナリッドのこと聞かないと。

 ゲロ男もマリアノもいなくても、そう遠くない街のことなら、ここの連中でもいくらか知ってるだろ。


「えーっと……うわっ、なんかちゃんとした挨拶とか書いてある。気持ちわる。あんなんでも、一応は王様に対する敬意とかあったんだな」


 中身を確認すると、便箋が数枚入ってて、一番表には長々と丁寧なあいさつが書かれてて……キモい。そういうキャラじゃなかっただろ。

 で、それを読み飛ばしながら次に進めば……やっぱり、協力関係の申し出に対する拒絶の意志が示されてて…………?


「……? 協力に応じることは出来ませんが……代わりに……っ! おい! お前! これ、いつのだ! いつ置いてった手紙だ!」


「あぁん? もうずっと前だよ。それこそ、お前達を連れて来たあと、ここを出発する前に預かったもんだ」


 っ! あのときからそう経ってないあいだに、この手紙を残してた……? ってことは、協力を拒否したそのときにはもう、こうなることを予測してた……ってのか。


 あり得ない。あり得るか、そんなの。たとえフィリアがわかりやすいやつだったとしても、それは問題じゃない。

 協力出来ないって、条件を飲めないって、信用するなんて無理だって拒んだそのときから間を置かずに、こんな――


「……お前らはどこまで聞かされてる。この手紙のこと――俺達がナリッドの港を解放しようとしてるって、その手伝いをしろって、いったいどれだけ聞かされてる!」


「っ⁉ ナリッド……だと。バカ言うな、あそこはまだ俺達も手を出してねえ……っ。な、なんだこりゃあ……」


 近く、貴女がたは、ナリッドの解放を目論むことでしょう。状況もわからず、手がかりもなく、ただ港の価値を重要視して、海路を繋げるために。

 その際には、このカンビレッジの砦の団員に協力させましょう。貴女がたにはそれが必要な筈ですから。


 それが、手紙に記された最後の言葉だった。


 俺も、それを見せられたチンピラも、おそらく理由は違えど、それぞれパニックになっていた。


 アイツはどこまでわかってる。俺達のこと、どこまで見抜いてたんだ。

 そして……協力を拒んでおきながら、ここで手を貸すことにどんなメリットがある。いや……違う。ここで貸しを作ることに、どれだけの価値があると計算してるんだ。


「……っ。ムカつく。やっぱりアイツ、特段にムカつくやつだ」


 クズ。人間のクズ。味方にすらそのことを伝えずに、俺達が来るまで伏せとくとか。性格悪いとかそんなレベルじゃないだろ。

 でもこれ、たぶん意図的に伏せてあったんだ。理由なんてわからないけど、ここの連中に報せておくとよくない事情が何かあったに違いない。


 ムカつく……けど、やっぱり、アイツは俺達の誰よりもずっと賢い。だったら、その作戦に乗っかるのが一番効率のいい選択なんだろう。


「おい。ナリッドの解放……その作戦とか、あるのか。ないなら、なんかそれっぽいもの思いつくか。これってそういうことだよな」


「ガキが大人をあごで使うんじゃねえ。かしらの指示がなけりゃ動けねえなんて、そんなまぬけはいねえよ、ここにはな」


 チンピラは俺が冷静になったのを見ると……いや。それを見るよりも前から落ち着いてて、ゲロ男の手紙の意味を飲み込んでたふうだった。

 そして俺が頼むより前にまた棚を漁り始めて……今度は大きな一枚の紙を……地図を、テーブルの上にばっと広げた。


「ナリッドはここだ。そして、カンビレッジはここ。だが……このふたつをまっすぐ結ぶのは難しい。距離があって、万が一のときに戻ることも出来なくなるからだ」


 その地図は、パールに借りたものよりももっと詳細な……カンビレッジと、その近辺だけをズームして切り取ったもので、細かい地形まで書き込まれていた。

 それを見ると……たしかに、カンビレッジからナリッドまでは、馬車で半日以上かかる距離……に見える。でも……


「万が一なんてない。それしかない以上、無理矢理にでも突っ切るしかないだろ。魔獣なんて俺が全部倒せばいい」


「待て待て、そう慌てんな。おっかねえガキだな。いっぺん最後まで話聞けや」


 うざ。誰がガキだ。実際、魔獣なんて俺が全部倒すんだから、足を止める必要なんて……


「ナリッドが街としての機能を残してなかったら……とっくに魔獣の巣になってたら、そのど真ん中で馬車を休ませる気か」


「……っ。そっか……そうだな。それは……困る。馬もだし、フィリアも危ない目に遭うのはダメだ」


 港は無事だって聞いてる。だから、たぶん大丈夫だろう……って、思ってたけど。

 そう……だよな。街がとっくに魔獣の住処になっちゃってる可能性は否定出来ないもんな。


 でも、それを言い出したらもうどうしようもないだろ。まさか、途中に村でも作ってから進むのか?

 ナリッドまでのあいだには魔獣がいっぱいいるのに、そこに寝泊まり出来る場所を作るのは無理だろ。


「落ち着けって。ここだ、こっち。ここに、チエスコって街がある。このすぐ手前にも砦が建ってるんだ。ここからなら、街が無理だってわかってからでも引き返せる」


「チエスコ……ここか。わかった、それでフィリアが安全ならそっちのほうがいい」


 チンピラに指差されたのは、カンビレッジからずっと南に行った場所にある街だった。

 中間地点ってわけじゃないけど、そこのほうがナリッドにはずっと近い。たしかに、ここなら日が暮れる前に馬車を戻せる。


「おい、ガキ。えー……ユーゴって言ったな。俺はグリフィーだ、お前じゃない。ナリッドの解放は俺達にとっても重要な仕事だ。それも、かしらの指示とあらばヘマは出来ねえ」


「……当然だ。俺が行く以上、失敗なんてさせるもんか。だから……こっちで出来る準備があれば言ってくれ、グリフィー」


 ゲロ男の思惑通り……は、めちゃくちゃムカつく。でも、それでフィリアが助かるならやってやる。


 チンピラ……グリフィーと一緒にもう一回地図を見直して、チエスコって街からナリッドまでの道のりを詳しく聞いた。

 そこを踏破するのにかかる時間、そのとき必要な物資なんかをまとめて、この砦だけじゃ足りないぶんをフィリアに……国軍に出して貰うために。


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