第九十二話【予期せぬ訪問……?】
今のこの国の一番南の街、カンビレッジ。そこよりもさらに南にある港を使えるようにして欲しいってのが、カスタードからの頼みだった。
東側から海路を繋げて、船で行けるようにして欲しい……ってことだったけど。
「……ナリッド……ナリッド……ここか。ここへ行くなら……」
パールに借りてる地図の上で確認すると、その港のある南の街……ナリッドは、カンビレッジからそう遠くない場所……に、見えた。
でも、諦めて切り捨てられた場所……なんだ。ってことは、そこまでには魔獣がたくさんいるとか、そういう厄介な問題があるんだろう。
そんなとこに、まだ使える港が残ってる……としたら、やっぱり盗賊団が守ってるのかな。南にもいっぱい拠点ありそうだったし。
「ユーゴ、出発しますよ。準備は出来ていますか」
「ん、すぐ行く」
っと。考えごとしてたらもう出発の時間になったらしい。フィリアに呼ばれて部屋を出るなんて、いつ以来だろ。
結局、カスタードに話を聞いたその翌日には、南へ行くことが決定した。フィリアとしても、やっぱり打つ手がないから、ここに注力したかったんだろう。
そんなわけだから、遠征が決定したその次の次の日……今日、馬車はまた南へ向かって走り始める。俺とフィリアと、またいつもの面々を乗せて。
「皆、揃いましたね。では……こほん。目的地は、今回もカンビレッジです。そこで、ナリッドの情報を集めます。そののちに……」
カンビレッジでナリッドの情報を集める。そして、もしも可能だと判断したら、そのままナリッドを目指す。
フィリアのその説明に、いつもの面々……ギルマン達は、かなり渋い顔を……緊張した顔をしていた。
まあ、無理もないよな。だって、国として管理してない区域に踏み込むんだから。そこは当然、危険な魔獣がたくさんいるって想定するしかない。
しかも、ただ危険なだけじゃない。何がどうなってるかわからない……魔獣によってどれだけの被害が出てるかわからないんだ。
つまるところ、魔獣に食い荒らされた廃墟が見つかるかもしれない、と。そのことをみんな怖がってるんだと思う。
別に、本人から聞いたわけじゃないけどさ。でも、そのくらいは俺にだってわかる。
みんな無事だったのに、誰も死ななかったのに、ヨロクの街がボロボロになったのを見たときは、俺もかなりキツかったから。
それよりもっとひどい状況を、誰もいない有様を目にしたら……って。そう思ったら、今から嫌な気持ちにもなるよ。
「容易なこととは思いません。ですが、不可能とも思っていません。ユーゴがいて、皆がいる。たった数名の調査部隊でも、出来ることはきっとあります」
そして、そんな簡単じゃなさそうな作戦を、いつもの面々だけでやろうとしてるから、みんな余計に緊張してるんだろうな。
今回の予定は、あくまでも街でナリッドの情報を集めるところまで。そこから先は、出来たらいいなってフィリアが掲げてる目標みたいなもの。
つまるところ、そこまでやるだけの人員や物資は準備出来そうにないから。そこまでしてたら議会から許可が下りないから、形の上ではカンビレッジでの調べ物止まりなんだ。
フィリアのことだから、ちょっとでも危険だと思えばやめる……やめさせるとは思うけど。それでも、ギルマン達からはわかんないからな。
フィリアはあくまでも王様で、王様の命令があればなんだってしなくちゃいけない。その王様が、もしかしたら……って言った時点で、みんなは覚悟することになるんだ。
ただそれでも、緊張してるだけで、みんなの士気は高かった。王様を守るって仕事は、なんだかんだで誉れ高いものだからかな。
馬車の中はいつもよりさらに活気に満ちた状態で、にぎやか……通り越して、ちょっと騒がしいくらい元気にランデルを出発した。
そして、二日かけてカンビレッジへ到着すると、フィリアはまず役場へと向かった。
なんにしても、公的な記録はここへ来るのが一番手っ取り早いからな。まあ……今回は、そうじゃない記録、情報についても求めてるから、ここだけじゃ終わらないんだけど。
「ナリッドの記録……でございますか。しょ、少々お待ちください」
で……もう国の一部じゃない街について、王様直々に尋ねられてしまった役場の大人は、みんな青い顔でいろんな棚をひっくり返し始めた。
公的なものじゃない記録、情報を求める理由……でもあるけどさ。なんて言うか……いきなり来てこれは、ちょっとかわいそうな気がしてくる……
ナリッドはもう、アンスーリァじゃない。それはつまり、連絡も、交易も、そもそも安否確認さえもずっとしてないって意味だ。
そんな場所についての記録なんて、大昔のものしかないだろうし、それさえちゃんと管理されてない可能性が高い。
大人達の慌てぶりからも、まさかそんなものが必要になるとは……って心境が透けて見える。
なんか……小学校の裁縫道具とか、習字道具みたいだな。もういらないだろって思ってたら、高学年でまた使うことになって押し入れ探した記憶がある。
「……フィリア。俺、ちょっと外出てくる。ここで話を聞くのはフィリアひとりでいいだろ。護衛ならみんながいるし、街の外の様子を見てくるよ」
「はい、お願いします。信頼はしていますが、くれぐれも気をつけてくださいね」
気をつけるも何も、街の外……南側には、魔獣は一頭もいないんだよな。
たぶん、ナリッドはその魔獣がいない地帯を越えた向こう側だ。ひとりでそこまで行くんじゃない限り、危険はこれっぽっちもないだろ。
でも、まあ、それをいちいち食ってかかってもしょうがないしな。この場はフィリアに任せて、とりあえず俺も何かしよう。
俺がひとりで街を出たくらいで何かわかるとは思わないけど、それでもじっとしてるだけじゃ退屈だし。
「……さて。でも、手がかりいっさいなし……は、さすがにな」
そんなわけで、フィリアを置いてひとりで街の外へ出た……んだけど。出たところで、さっそくどうしたもんかと頭を抱える。
魔獣を探すならその気配を追えばいいけど、ここは魔獣の気配もないし、そもそもいないし。
ナリッドの手がかりを……なんて言っても、俺はその街を知らないし、それを知ってる人のことも知らないしで…………
「……いや。ひとつだけあるか、手がかり。不本意だけど……まあ、そうも言ってられないしな」
いや、ひとりだけ……ひとつだけ、ナリッドのことを知ってるかもしれない連中がいるな。
それを思いついたから……行きたくはなかったし、出来れば会いたくもないけど、とりあえずそいつらがいるほうへと歩き出した。
ひとりで調べてくるって言って出てきた手前、やっぱり何もわかんなかった……は、ちょっとダサいから嫌だしな。
だったら、あんなやつらでも話を聞きに行く価値はあるか。それに、アイツがいるとも限らないしな。
「えーっと……ここは、こっち……だったな。こっちから……えっと……うーん。こっちか。それで……ああ、あれか」
そして、多少迷子になりながら歩き続けているうちに、ちょっとだけ知ってる景色に辿り着いた。
しばらく歩き回らされた先にあったのは、ツギハギの砦……砦跡を勝手に改造した、盗賊団の拠点だった。
カンビレッジより南の街をいくつも繋いで商売をしてるアイツらなら、ナリッドのことも知ってるハズ。
そう思ってここまで来た……けど。うーん、しまった。忘れてた……ってより、うっかりしてた。
「……おーい、誰かいるかー。ちょっと話を聞きたいんだけど」
俺、ここにいるやつらのこと知らないわ。少なくとも、友達でも、仲間でも、協力関係でも、ましてや敵じゃないわけでもない。
せめてゲロ男かマリアノがいたら、ちょっとめんどうだけど、話は出来そうだよな。でも、どっちもいなかったら…………
「おうおう、誰だ、こんなとこに。ここは街のお役所じゃねえぜ。迷子だったら、そのまままっすぐあっちへ……あぁん?」
「……? なんだよ」
どうするかな。って、考える前にドアを叩くと、中から頭悪そうなチンピラが出て来て、へらへら笑いながら近づいて来た。
近づいて……それで、なんか……いきなり、奇妙なものを見た顔になった。いや、奇妙なもの見たからか。こんなとこにひとりで来るやつなんて、いるわけ……
「……お前か。入れ、頭から手紙を預かってる」
「……手紙? 頭? お、おい、なんのことだ? 俺はただ、ナリッドって街のことを……」
いるわけないから、それが奇妙に見えた……わけじゃない、のか?
チンピラはなんかいきなり真面目な顔になって、砦の中に入るよう促した。頭から手紙を預かってる……とか、なんとか、わけわかんないこと言って……
頭……ボス……ゲロ男のことか? でも、俺に手紙……?
でも、協力関係は結ばなかったわけで。じゃあ、俺がここに来ることなんて、わかるわけなくて……?




