第九十一話【代行】
「――よく来たであーる。もてなすであーる」
「いや、ついこのあいだ来たばっかだろ。毎回そのテンションで疲れないのか、お前」
カンビレッジで倒したデカい魔獣について調べるつもりだったのに、なぜかそれの目撃情報すら残っていなかった。
だからしょうがなく、もう一回ランデルへ戻って、カスタードに調べて貰うことにした。
あるいは、あんなデカい魔獣だったから、頼まれるまでもなく調べてた可能性もあるけど。
でも……フィリアが王様だってことさえ知らないしな。興味ないことにはこれっぽっちも目を向けない可能性もある……か。
「来客は何度あっても喜ばしいものであーる。それがフィリア嬢のような美人ならばなおのことであーる」
「……まあ、こんなとこ住んでたら友達なんて誰も来ないだろうしな。いや、俺も友達になったつもりじゃなかったけど……」
親しい間柄ではなかったのであーる……? って、カスタードがめちゃくちゃがっかりした顔で言うから、フィリアは大慌てだったけど……まあ、友達……か? うーん……
「ユーゴ、どうして貴方はいつもそう……もう。頼もしいかただと信用しているのは貴方も同じでしょう。それに、これだけ懇意にしていただいて……」
「いや、まあ、うーん……親しい……うぅーん。嫌いなわけでも、仲悪いわけでもないとは思うけどさ……」
なんて言うか、カスタードは……協力者……って感じが強いよな。友達とかそういうのじゃなくて、もうちょっと……必要だから頼ってるって感じ。
まあ、大人になるとそういうのも友好関係に含まれる……のかな? どうなんだろ。
フィリアはまだ友達っぽいけど、パールとかカスタードは……クラブのコーチみたいじゃないか?
「申し訳ありません、伯爵。ユーゴはどうも素直になれないところがあって。伯爵のことは、信頼出来る大人として気を許しているのですが……」
「構わんであーる。ちょっとした冗談であーる。この歳の子供とは、友好や親愛に気恥ずかしさを覚える頃合いであーる」
なんだその言いかた、ムカつく。上から目線な感じだし、子供扱いだし。うざい。変なおっさんのくせに。子供の相手とか、絶対したことないだろ。こんなとこに引きこもってたんだから。
でも、それ言うとまたなんか揉めそうだし、フィリアもうるさそうだから……まあ、黙っとくか。
目的があってここに来てるんだから、さっさと話を聞かないと。いつも思うけど、カスタードといると気が緩むんだよな。もうちょっと真面目な顔しろ。
「して、本日は如何様な用件であーる? 無論、北の調査は続けているであーる。であるが、しかしまだ目ぼしいものは見つかっておらんであーる」
「はい。それが……ですね。先日、ヨロクに魔獣が攻め入った折に、異様に巨大な魔獣が現れたことは覚えておいででしょうか。そして、それ以前にも、同じような個体が……」
っと。真面目な顔になりきってないのに真面目な話するなよ、ちょっと反応に困る。
まあ、始めてくれたなら文句はないけどさ。うーん……やっぱり、どうしても気が抜けちゃうんだよな……
このあいだのヨロクで、そして結構前にもカンビレッジの近くで、やたらデカい魔獣が現れた。そのことは、カスタードにもちょっとだけ話してる。
ただ、あくまでも俺が倒した魔獣の中の一体としてしか伝えてなくて、それが重要な意味を持つとは言ってないから、再確認は必要だろう。
そもそも、俺達もアレを重要とは思ってなかったからな。いや、出たらヤバい敵だとは思ってたけど。そうじゃなくて。
別に、普通の魔獣でも十分にヤバいから。だから、俺が倒さなくちゃならない脅威のうちのひとつ……としてしか認識してなかったんだ。
今だって、ほかにすること、出来ることがないから、一番被害が大きくなりそうなやつの警戒をしよう……くらいの意識で調べ始めたところだしさ。
「林の木々よりも背の高い魔獣……ふんむ。話も聞いておるし、コウモリにも調べさせたであーる。あれがどうかしたであーる? よもや、群れを見つけた……などとは……」
「いえ、今の段階ではこれと言って何もないのです。何もない……のですが。そう……何もないので。ならば、危険度の高い脅威への備えをしておこうか、と」
そんな俺達の事情を聞かされると、カスタードはちょっとだけ困った顔になって、申し訳なさそうに頭を下げる。
調査にはどうしても時間がかかる。申し訳ないであーる。なんて、そんなことを言いながら。
「カスタードのせいじゃない。そっちが調べてくれてるあいだに何も出来ないのが嫌なだけだから。調べ物がさっさと進んでても、それはそれで別のことしてただけだし」
「はい、ユーゴの言う通りです。伯爵を責めようなどという意図は、ほんのわずかすらもありません。むしろ、いったいどれだけ感謝すればいいかと見当もつかないほどです」
そこまで言う気はないけど……まあ、責める理由はないよな。あっちへこっちへ行く手間かける代わりに、全部調べて貰ってるんだから。
「現状、私達には打つ手がありません。何か手を打つとすれば、それはきっかけがあってから。ならば、そのきっかけを起こすべく足掻くしかありません」
「ふんむ。意気込みは伝わってきたであーる。我輩からも、出来る限りの協力はするつもりであーる」
では、我輩は何をすればいいであるか? って、カスタードは張り切った様子でそう言ってくれた。
ふんふん鼻息荒げてる姿はおもしろいけど、でも……こんなんでも頼もしいのがムカつくな。
「カンビレッジのほうに出た魔獣は、街の誰も知らないうちに片づけられてたっぽいんだ。普通じゃあり得ないよな、そんなに早く死骸が消えてなくなるなんて」
「街道沿いにあった死骸が、往来の誰の目にも留まらぬうちに……であるか。それは不自然であーる。なるほど、その足取りを追って欲しいのであるな?」
え、出来るのか? そんな余裕あるとは思えないけど。って、俺がそう言えば、カスタードはやたらと偉そうにふんぞり返って、ふっふんと得意げに鼻を鳴らした。うざ。
「我輩を誰と心得るであーる。このバスカーク=グレイム、よもや調べ物のひとつも片手間で済ませられんと思われるほど落ちぶれていないであーる」
「いや、落ちぶれる前を知らないからわかんないけど……でも、ほんとか? だって、北の魔獣の監視と、謎の敵の調査と、そこにいる魔術師も追ってて、それ以外にも……」
いつも何かあるたびに連絡くれてる以上、ランデルとか、ほかの大きな街の安全確認もずっとしてくれてるんだろう。
それだけのことをしながら、これっぽっちも手がかりのない死骸の捜索なんて、とてもじゃないけど併進させられるとは思えない。
「むぉっほん。そち、我輩を、このバスカーク=グレイムを、誰と心得るであるか。万事任せるであーる。諜報において、我輩に不可能の文字はないであーる」
「いや、だから、洞窟に棲みついた変なおっさんでしかないって……いや、まあ、出来るならいいけどさ」
任せるであーる! と、強く言い切られると、それはそれで不安だな……
まあ、コウモリを飛ばしてそれに調べて貰ってる……ってことだし、数に限りはあっても、カスタード自身が疲れる心配はない……のかな?
「……しかし、交換条件……ではないが、そちらに頼みごとをしたいのであーる。聞いてくれんであるか」
「頼みごと……ですか。はい、こちらの都合ばかり聞いていただいては申し訳ありませんから。私達に出来ることでしたら、なんでも」
と、さっきまで自信満々だったカスタードが、ちょっとだけ不安そうな顔で頼むから……いや。フィリアはたぶん、そういうのなくても受けただろうな。
まだ何を頼まれるかもわからないうちから、なんでも任せてくださいと言わんばかりに力強くうなずいた。こういうとこがアホっぽいんだよ……
「東に海路を拓いて欲しいのであーる。と言うのも、南にナリッドという街があり、利用可能な港が残っているのであーる。そちらへ船を出せるようにして欲しいのであーる」
「ナリッド……ですか。ですが、そこは……」
理解しているのであーる。って、カスタードがまた申し訳なさそうに言うから……なんかあるのかな? ナリッド……って、今までに入ったことない街……だよな。
「そちは地理に疎いであるか? いや、その若さならば知らんで当然である。ナリッドとは、カンビレッジよりも南……つまり……」
「国が最終防衛線と認めた外側の街になります。ですので、そちらの港へ船を着ける……となれば……」
カンビレッジより南……今のアンスーリァの外側の街、か。なるほど、話が見えた。ようするに……
「アイツら……盗賊団か、または別の何かか。なんにしても、今は国とは別になってる組織が使ってる可能性が高いってことだな」
「そのとおりです。砦跡を盗賊団が再利用しているように、無事な港があるということは、誰かがそれを維持、管理していると考えるべきでしょう」
ってことは……カスタードの言う頼みごとって、そこを誰が使ってるのか突き止めつつ、俺達も使えるようにしろ……ってことか。
場合によっては力尽くで奪い取る……のは、流石にフィリアが許さないだろうな。じゃあ、盗賊団とは結べなかった協力関係を、その街とはなんとかして結ばなくちゃ。
「北の諜報に手を割き過ぎて、カンビレッジ以南については調査がほとんど進んでおらんである。危険度の高い組織があるようには思えんであるが、十分に気を付けるであーる」
「忠告感謝します。ですが……お任せください。我々にはユーゴがいますし、それに……海路のひとつも繋げられなければ、調査が済んでも北に手をつけられませんから」
難しくともやってみせます。と、フィリアは張り切って頼みを受けた。
それから俺にも視線を向けたけど……それ、事後承諾ってやつだぞ。まあ、俺も断るつもりはなかったけど。
よし。これでひとまず、デカ魔獣の消息を追って貰う約束は取りつけた。そして、思っても見ない形でこれからの指針も手に入ったな。
向かう方角はまた南。だけど……今度は、カンビレッジよりももっと向こう側、国から切り離された街だ。
海路を繋げる……とかなんとか言ってたから、船とか乗るのかな。それはちょっと楽しみだな。
馬車は……揺れるし、尻痛いし、遅いし、狭いし、全然楽しくなかったけど。船だったらもうちょっとマシだろ。




