第八十九話【置き書きみたいな】
まずはヨロクでも見かけたバカデカい魔獣について調べる。そのために、俺達は南へ……カンビレッジへと向かうことになった。
結局、俺が行きたいって言ったの、そのまま通った。本当にどうしようもなくて困ってた……ってことかな。
でも、それ自体は俺にとって都合がいい。部屋でじっとしてるだけなのも退屈だし、自分の意見が通ってそれで何かが動くのは……なんかちょっと、大人っぽいしな。
「……それで、今日はどこへ行くんだよ。見た感じ、まだカンビレッジには行かないんだろ」
「はい。もう少し……まだ、しばらく。宮を空けることは出来そうになくて……」
で、そうしてちょっとテンション上がってたのに、今日はいつもより小さい馬車で、いつもより少ない人数で、出発の準備が進んでいる。
これ、どこに、何をしに行くんだ? って、一応はフィリアに聞いたけど……まあ、なんとなくわかってる。小さい馬車で少人数で……ってのも、初めてじゃないし。
「南へ調査に出るのならば、そのことについてバスカーク伯爵に相談しておこうかと。所在を知っていただけば、万が一の際に報せていただけますから」
「やっぱりか……まあ、いいけど」
やっぱり、カスタードの洞窟に行くんだな。わかってたけど、あの変なおっさんばっかりアテにしてるの、情けなくなるから控えて欲しい。
ただまあ……情けないことに、あのおっさんの情報をアテにしないと前に進まないところもある。ムカつくけど、やっぱりあの情報網は便利だ。
「では、出発します。陛下、揺れにお気をつけください」
そして準備が整えば、何に阻まれることなく馬車は走り出して、障害のひとつにすらぶつからずに洞窟の入口へと辿り着いた。
カスタードいわく正面玄関らしいほうの横穴から入って、もうすっかり慣れた薄暗い洞窟を進んで、一番奥の広い空洞に辿り着けば……
「フィリア嬢、よく来たであーる。もてなすであーる」
「……だから、もてなすも何も、何もないだろ、こんなとこ」
いつものアホづらに出迎えられて、相変わらずの気の抜ける声で呼びかけられる。はあ……ほんと、これをアテにしなくちゃならないの……なんとかならないかな……
「しかし、はて。今日はどのような用件であーる? つい先日、報告と、そして新しく調査を頼まれたばかりであーる。さすがの我輩も、これっぽっちの時間では何も調べられていないであーる」
「いえ、本日はお願いに参ったのではありません。当面の方針が定まりましたので、そのことについて報告にと」
さようであるか。フィリア嬢はまめで礼儀正しい娘であーる。って、カスタードはにこにこ笑ってフィリアを褒めるけど……それ、王様だからな……?
知らないとはいえ、礼儀正しくしなくちゃいけないのはカスタードのほうなんだけど……って、これを俺から言うと話がややこしくなるな。
「伯爵。我々はこれより、南へと向かうつもりです。とは言っても、カンビレッジと、その近辺を調べるだけなのですが」
「カンビレッジであるか? なるほど、悪くない案だと思うのであーる。北方では、盗賊団と件の組織とが競り合っているのであーる。むやみに刺激せぬべきであーる」
悪くない……か。カスタードはそう言って、けど、ちょっと不思議そうな顔で首を傾げた。
たぶん、なんでいまさら? って、そう思ってるのかもしれない。
前に俺達は、カスタードから助言を受けてるんだ。まず、南の街から手をつけるべきだ、って。
そのときは今よりもっと情報が少なかったけど、それでも、盗賊団が謎の存在と戦ってるから、って。だから、刺激しないようにするべきだって、今と同じ結論を出した。
そのうえで、盗賊団もその謎の敵もまとめて相手出来るように、南側から手をつけて、しっかり準備するべきだ……って。そういう話だったと思う。
だけどフィリアは、だからこそ、北から手をつけると決めた。魔獣とも、その謎の敵とも戦ってる盗賊団を、なんとかして助けたいから、って。
カスタードはその意見も否定しなかったし、なんだったらそれもありだって乗り気に見えた。
まあ、実行するのは俺達だから、半分部外者のおっさんがあれこれ口を挟む理由はない……ってだけかもしれないけど。でも、そこまで薄情なやつじゃないだろうし。
なんにしても、北から解決するアイデアには賛成したんだ。それが今になって、そっちはあとに回すって聞かされれば、どっちつかずでフラフラしてるようにも見えただろう。
「……今回は俺から頼んだんだ。カンビレッジでもヨロクでも見た、めちゃくちゃデカい魔獣。あれをちゃんと調べて、ほかの場所にもいないか確認したほうがいいかな、って」
「巨大な魔獣……ふむ、なるほど。街に対する明確な脅威を事前に排除する……あるいは、対処する備えをさせる策であるか」
ふーむ。ふーむむ。って、カスタードはしばらくうなり続けて……そして、眉間にしわを寄せたまま俺をじーっと睨んだ。
な、なんだよ。またなんか文句あんのか。前にも言われたからな、重要な場面で慎重になり過ぎるとか、ほぼいちゃもんみたいなことを。
「……そちはやはり、冷静であーる。以前にはそれを、良くも悪くもあると評したであるが……此度はそれが、良いほうに作用しているであーる」
「……なんだよ、いきなり。いつもプラスに作用してるし。アホなこと言ってんな」
だから、またいちゃもんつけられるのかな……って思ったけど。どうやらそういうつもりじゃないらしい。
さっきまで睨んでたくせに、またにこにこ笑って……褒められたな。ちょっとうれしい……気もするけど、やっぱムカつく。変なおっさんのくせに、偉そう。
「盗賊団との和解が成立しなかった今、対立関係に戻ってしまうことだけは避けねばならないであーる。であれば、かの団にも恩恵のある策を実行するのは、とても賢い選択であーる」
「……別に、そういうのじゃないけど。フィリアが仲間にしたいって、ずっとうるさいからな。じゃあ、その邪魔はしないでやるかって、そう思うだけだ」
協力……は、やっぱり出来たらしたほうがいいに決まってる。そんなのは当たり前、単純な足し算の話なんだから。だから、別に特別な考えかたでもなんでもない。
なのに、カスタードはそれをやたらといいことみたいに言うし、フィリアもそれを聞いて、なんか……うざ。にこにこへらへら笑って俺を見てる。ムカつく。アホ。
「ふふ。ユーゴも、彼らとの和解を望んでいる節がありましたから。それこそ、ヨロクでの共闘の折には、かの少女……マリアノさんを信頼した様子でもありましたし」
「そんなんじゃない。マリアノは強いけど、信頼はしてない。あのクズの言いなりだったし。それに、どっちにせよアイツらも街は守るだろうって、そういう話だったからで……」
うざい。笑うな。へらへらすんな。こっち見んな。アホ。ムカつく。
マリアノでギリギリだからな。あれだけ強くて、街を守るために戦う姿を見て、それでやっと最低限だ。
ゲロ男なんて……これっぽっちも仲間になんてしたくないし。キモいし、臭いし、うざいし、汚いし、人間性終わってるクズだし。
「むぉっほん。なにはともあれ、事情は理解したであーる。では、何かあれば南へもコウモリを飛ばすであーる。どこにいようとも、連絡を届けるであーる」
「ありがとうございます、頼もしい限りです。この御恩は必ず、ピカピカになった大広間と廊下でお返しさせていただきます」
楽しみにしているであーる。って、カスタードも大喜びで乗り気だけど……情報提供の見返りが洞窟の掃除なの、本当にわけわかんないよな。
それと、今の話……やっぱり俺も参加する……んだろうな。はあ……なんで、掘れば掘るだけ土が出てくる地面を掃除しなくちゃならないんだ……




