第八十五話【それでも先へ進む】
盗賊団との協力関係は結べなかった。それでも、俺達にはやるべきことがある。
やるべきことがある……けど、それを果たすために味方を増やしたいって話だったからな、そもそもは。だから、かなりの痛手となったのは間違いない。
だけど、手に入らなかったものをいつまでも嘆いていたってしかたがないから。
今ある力で、今いる人で、なんとかして問題を解決するしかないんだ。
それに、フィリアはまだ諦めてないし、盗賊団が発端となってる問題については、いくらか軽減されるわけだから。
また魔獣の大群がランデルを襲うかも……なんて心配はせずに済むんだ。少ないながらに、収穫もないわけじゃなかったと思おう。
と、そうやって無理矢理前向きになったところで、今ある力を最大限活用すべく、俺とフィリアは宮を出ていた。
目的地は……と言うか、目的の人物はもちろん……
「――よくぞ参ったであーる! もてなすのであーる!」
「い、いえ、おもてなしは結構ですから……」
洞窟に住む奇妙なおっさん、自称伯爵のカスタードだ。フィリアが忙しくて遠くまで調査に行けない以上、結局こいつを頼るしかないんだよな。
「おい、カスタード。遊んでる暇もないんだから、ちゃんと情報寄越せよ。ってか、ちゃんと調べてただろうな」
「愚問であーる。そして、バスカークであーる! そちはいい加減……と、このやり取りはもう飽きてきたのであーる」
飽きたならやるなよ。バスカークってなんかちょっとかっこいいし、似合わないんだ。カスタードクリームで十分だろ、甘党おっさんなんだから。
で、そんな甘党のおっさんにわざわざ会いに来たのは、いつも通り調べ物を頼みたいのと、前に頼んだ情報がどのくらい手に入ったかを確認するためだ。
「申し訳ありません、バスカーク伯爵。盗賊団の首魁との対面は叶ったのですが、協力を取りつけるには至らず……」
「むう……しかたがないのであーる。相手は犯罪組織、後ろ暗い連中であーる。協力を申し出られたとて、何かあるのではと勘繰ってしまうのも無理はないのであーる」
そんなカスタードに、フィリアはまず謝罪から……今回の一件の顛末について、説明するところから入った。
でも、当のおっさんは説明を聞く前から眉間にしわを寄せていた。最初から難しいってわかってた……断られる理由まで想像出来てたっぽいな。
「でも、関係がこじれた感じじゃないから、盗賊被害は出るだろうけど、前みたいにランデルを魔獣が襲うみたいなことはなくなると思う。あいつらが犯人だったら……だけど」
「ふむ、さようであるか。ならば、此度の一件は成功と捉えてもよいかもしれんであるな」
成功って言われるとちょっと違う気もするんだよな。うまいことやってたら、アイツらも仲間に出来てたような気がするし。
根拠はないんだけど、なんとなくそういう気がするんだよな。なんでだろ。ムカつくやつだけど、なんか味方になるイメージが浮かぶんだ。
「さて。では、本題に入るであーる。例の組織について、判明したことを伝えるのであーる。以前同様、完全に他言無用で頼むのであーる」
「はい、心得ております」
俺とフィリアが揃って首を縦に振ったのを見ると、カスタードはにこにこ笑って、よろしいのであーる。とかなんとか、うれしそうに言った。
でも、笑顔はその瞬間まで。すぐ真面目な顔になって、その例の組織についての情報を説明し始めた。
「以前に話した、人心を支配する魔術師について。やはりこれは、間違いなく存在すると考えるべきであーる。手段は突き止められなかったであるが、被害の現場を捉えたのであーる」
最初に挙がった話題は、前にも聞いた人の心を操る敵についてだった。
そいつは絶対に存在する。その被害を直接確認出来ている、と。
けど、それと同時に、そんなことが出来るのはごく限られた人間だけで、多くても数人、現実的にはたったひとりの特殊な魔術師に依るものだろう。と、そう続けた。
「この魔術師こそを、組織の中枢に近い人物だと注視することにしたのであーる。現在、その個人についての情報をかき集めているのであーる。また何かわかれば連絡するのであーる」
「はい。どうか、よろしくお願いします」
今の言いかた的に、そいつが誰なのかまではまだわかってない……ってことか。わかってたら、外見とか性別とか、目で見てわかる情報くらいはくれるもんな。
ってなると……もしかして、目の前にいなくても人を操れちゃうのかな。それはかなり厄介……ってか、無茶苦茶過ぎるな。反則だ。
怪しいやつが近づけば察知する自信もあるけど、遠くから……それこそ、水晶玉とかから遠距離を覗き見て、それで術をかけたりとかするなら、俺じゃどうしようもないぞ。
「では次に、それと地続きな問題……盗賊団と競り合っている、北方の組織についてであーる。こちらについては、今の段階では大きな動きもないであーる」
「ふむ……そうでしたか。いえ、ある意味では当然かもしれませんね。だからこそ、ジャンセンさんもマリアノさんも、対話の席に着いてくださったのでしょうから」
戦線が激化してたらそれどころじゃないもんな。少なくとも、マリアノはそっちにいないと話にならないだろ。
まあ……人を操る魔術があるなら、マリアノは離れてるべきなのかもしれないけどさ。あんなのが操られたらおしまいだろうし。
レベルが高かったら操られない……とか、そういうのでもないんだろうな。もしかしたら、メンタル強かったら耐えられるとかはあるかもしれないけど。
「しかし、ならばこそ、手を取り合えなかったことが悔やまれます。戦況が落ち着いている今にこそ、必要な支援について相談する余裕もあったでしょうから」
戦況が悪化したら、嫌でもフィリアの提案を飲むしかなくなるから。むしろ、そっちのほうが都合がいいんじゃないのか? って、聞いたらまたアホみたいに怒るんだろうな。
フィリアにとってあの盗賊団は、代わりに国を守ってくれてた恩人……みたいなものになりつつある。
だから、対等な関係にこだわるし、それが成り立たなくなる前になんとか協力関係を結びたいって考えてるんだろう。
まあ……その対等にこだわる姿勢が奇妙に映ったから断られたんだけどな。向こうからすれば、何を企んでるのかわかんないし。
「フィリア嬢。ユーゴ。どうか、この組織の打破を頼むのであーる。これらは国を……世界をも脅かす存在と見て間違いないのであーる」
「世界を……そんな規模なのか? でも、そのわりには……」
あいつらと……盗賊団と競り合ってる……んだろ? あいつらが競り合えるレベルなら、国ならまだしも、世界をどうこうは……無理だろ。
でも、カスタードはそう思ってないみたいで、かなり真剣な表情で、深く頭を下げて頼み込んだ。どうか、必ず払拭してみせるであーる、って。
もしかして……カスタードはこの北の組織について、もうちょっと情報を手に入れてるのかな。
ただ、それが不確定で、説明するにはもうちょっと証拠を集めてからじゃないと無理だと思ってる……とか。
あるいは……俺達がもう操られてる可能性も考慮して、まだ打ち明けられずにいる……とか。
俺達に口酸っぱく言うくらいだから、このおっさんが自分で気をつけてないわけないもんな。あっちこっちに行ってる俺達が操られてない保証なんてどこにもないんだし。
ただ……今回手に入った情報では、これからどうするべきかの方針は打ち立てられそうにないな。
北の問題については、表立って盗賊団を支援するわけにもいかない以上、しばらく手を出せそうにもないし。
フィリアもそれは考えてるみたいで、洞窟を出て、宮に戻ってからも、しばらく頭を抱えたままだった。
これから私達は、何から手をつければいいのだろうか、って。




