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異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

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第八十三話【二度目】


 痛い。頭が痛い。思い出させられた不快感に襲われて、気持ち悪くなって、息が出来なくなって。それで……頭が、胸が、指先が、しびれて痛い。


 盗賊のボスと、国の代表。ジャンセンと、フィリア。話をしているのはそのふたりで、俺が守らなくちゃいけないのはフィリアだ。

 なのに、ジャンセンの言葉が、声が、表情が、視線が、態度が、胸の真ん中に刺さって、フィリアを気にかける余裕がない。


 ふたりは話をしている……と、思う。でも、言葉をきちんと聞き取ることが出来ない。聞いた言葉をちゃんと飲み込む余裕がない。

 守らなくちゃいけないのに。俺が、フィリアを――王様を、この国を、守らなくちゃ――


「――ぅ――ぅうわぁああ――っ!」


 守らなくちゃ……って、わかってるのに、動けない。動けない……俺を、何か、温かくて、優しいものが包んだ。

 それは、フィリアの声だった。フィリアの匂いだった。聞いたことない叫び声をあげたフィリアが、俺を庇うように抱き締めた温かさだった。


「――な……にそれ。フィリアちゃん、そりゃないよ。そんなの、子供の癇癪かんしゃくじゃ――」


「――それはこちらのセリフです――っ! そんなの――こんな話があってたまるものですか――っ!」


 フィリアの……声……だった。けど、王様らしくない、感情的で、厳格さも威圧感もない、わがままな声だった。

 王様らしくないフィリアの、いつもののんきな姿らしくもない。明確に、怒りのこもった声で……フィリアは……


「ようやく――ようやく、ユーゴに対等な友人が出来ると思ったのに――っ!」


「……フィリア……?」


 頭を抱き締められて、背中を撫でられて、それで……やっと、言葉を理解出来るようになった。

 出来るようになって……最初に、いきなりわけわかんない言葉が飛び込んできたから、余計に混乱した。


 だって、そんな話してなかった。そんな、友達がどうとか、わけわかんないだろ。

 だって、これは、王様と盗賊が、手を取り合って何をするか……って、そういう話し合いの場だったんだ。

 話し合いの場……だって、勝手に思い込んでたのは、俺達だけで。ジャンセンは、最初から協力する気なんて……


「貴方達と共に――っ。同じ目的を持って、共に戦い、生活を近しくする。ユーゴにとって、これ以上ない機会だと思ったのです。それが……どうして、こんな……」


 だから、フィリアのその言葉は、その感情は、その行動は、あまりに似つかわしくないものだった。

 けど……なのに、すごく、温かくて、心地いいものだった。


 心地よくて……だから、そんなフィリアが焦ってるのが、裏切られたことが、余計に許せなくて。


 ああ、そうだ。忘れてた。俺は、フィリアを守るんだ。フィリアが指示した通りに戦って、フィリアが守りたいものを守るんだ。

 俺は――フィリアが掲げた理想を守るんだ。そのための力が、この手には――


――ダサいとこ見せるわけにはいかないだろ――


「――っ!」


 声が聞こえた。知らない声だ。知らない、男の声だった。でも……その言葉には、同意せざるを得ないとも思った。


「……重い。熱い。苦しい。近い。デブ、離れろ」


「っ! ユーゴ……」


 フィリアの声だ。フィリアの匂いだ。フィリアの……っ。フィリアが……俺のこと抱き締めてるから……だから……


「――近い! デブ! 離れろ! 重い! 痩せろ! デブ!」


「で――っっ⁉ い、今はそんなことを……今……こんなときにまで……そんなことを言わなくても……」


 あっ……ヤバい、泣かせたかも。言い過ぎた。さっきまで真剣な顔で……真剣な顔……だったよな? とりあえず、ゲロ男とにらみ合って……ゲロ男? えっと……


「違う――っ! お前はいい! あと! 文句があるのはこっちだ! おい! ゲロ男!」


「……なんだよ。フィリアちゃんに守って貰わなくていいのか。フィリアちゃんに支えてて貰わなくて、そばにいて貰わなくて、それでお前は――」


 声が聞こえる。知らない声だ。こいつでもなかった。ゲロ男でも――ジャンセンでもない、男の声。

 でも、その声は俺の言いたいこと全部言ってくれてる気がする。まだぐちゃぐちゃしててまとまってない頭の中を、代わりに整理してくれたみたいな。


 だったら俺は、その声をそのままなぞればいい。それでいいとは思ってないけど、とりあえず……ムカつくから、ゲロ男を黙らせるためには、それが一番だ。


――種は割れてる。お前はただ――


「――ただビビってるだけだろ――お前が――っ! めんどくさいことすんな! アホ! フィリアは本気で協力する気なんだ! 黙って今まで通りにしろ!」


「…………び、ビビってる……か。まあ……それは自覚もあるけど……あん? お、おい……? ユーゴ……? えーと……お前さ、ついさっきまで……」


 うざい! キモい! 臭い! 近寄るな! ゲロ男! って、あれ? 今まで通り……?

 なんか……言いたいことがまとまってたから、それをそのまま口に出したけど……


「……? なんだ……なんか……今、ちょっと変なこと言ったか、俺」


「変なこと……まあ、お前は頭の先から足の裏まで変なやつだし、何言っても変だろうよ。だけど……」


 声……が、聞こえなくなった。さっきまで、俺が言いたいこと全部まとめておいてくれた、知らない男の声が。

 そうなると……じゃあ、さっき言ったことがどういう意味だったのか、どういう意図だったのかが、俺にもわかんなくなって……


「……まあいいや。おい、ゲロ男。足引っ張んな。フィリアはアホだけど、アホなりに本気なんだ。本気で、お前みたいなやつのことも救おうとしてるんだ」


「ゆ、ユーゴ。そんな乱暴な言いかたをしてはいけません。真意が伝わっていない、志を信用していただけていないのは、すべてこちらの落ち度なのですから……」


 まあ、わかんなくても問題ないか。とりあえず、ハッキリしてることはあるんだ。それを突きつけて、ムカつくやつを黙らせよう。

 そう考えて、それでいいとも思うんだけど、フィリアが焦った顔で止めるから……なんでお前が止めるんだよ。困ってるのはお前のほうだろ。


「アホ。デブ。まぬけ。ゲロ男はただビビってるだけなんだ。フィリアがアホ過ぎて理解出来ないから、ビビって腰が引けてるんだよ」


「で……こほん。ですから、その……私が原因で理解していただけていないのなら、やはりそれはこちらの落ち度ということで……」


 落ち度じゃない。フィリアはアホだけど、悪いのはゲロ男だ。そう言えば、フィリアはもっと困った顔になった。でも、今はいい。問題はフィリアじゃない。


「おい、ゲロ男。もういいだろ。俺でも姿が見えないくらい遠くから正確に射撃するなんて、出来るわけない。全部ハッタリだって、わかってるんだからな」


「っ! っと……なんだ、見抜いてやがったのか。そう、その通り。三方にわかれた鉄砲部隊なんていないよ。さすが、目がいいな」


 うざ。認めたふうなこと言って、まだ自分のほうが優位に立ってると思ってやがる。ムカつく。

 でも、そもそもその勘違いから正す必要があるんだよな。だって、こいつはただ――


――ただ、フィリアが怖いだけなんだ。知らない優しさを、疑わずには――


「そんなのいらない。駆け引きとか、余計な手間かけんな。今度は俺が全員守るから、変なこと言ってないでフィリアに従え」


……? あれ? また、なんか変なこと言ったか? 今度……って、前はいつだ。

 さっきから、俺、ちょっと変だな。知らない声も聞こえなくなったのに、誰かの言いなりで喋ってるみたいだ。


 だけど……誰の言葉だろうとも関係ない。とりあえずハッキリしてるのは、俺に言われて、ゲロ男が顔色を変えたってことだ。

 だったら……


「――俺は信じたぞ。フィリアのこと、怖くても信じた」


「っ!」


 そうだ。誰の言葉とか、そんなのなんだっていい。大事なのは、俺が、ジャンセンを変えたかったことだ。


 俺はそれを知ってた。その不快感を知ってた。だから、同じ恐怖を抱えるこいつを、俺が説得するんだ。


――今度は、俺がジャンセンを――


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