第七十八話【南の拠点】
そして、カンビレッジ到着の翌日。役場に……いや。役場にいることを公的に発表していないハズのフィリアに、一通の手紙が届けられた。
それを見た役場の大人は大慌てだったけど、予定通りなんだって説明されれば、ひとまず納得はしてくれた。
その手紙の差出人の名前は、ジャンセン=グリーンパーク。ゲロ男こと、“元”盗賊団のボス。
和解を果たし、協力の約束を取りつけた、これから一緒に国を守っていく仲間だ……って、フィリアは口うるさいけど……信用していいものかどうか。
「――ようやくですね。ユーゴ、あまり無礼のないようにお願いします」
「ジャンセンさんやマリアノさんはいくらか心を許してくださっているようですが、しかし他の方々がどうかはわかりません。悪印象を持たれてしまったら、これからの活動に支障をきたしかねませんから」
「……なんか、転校でもするみたいだな」
それと……信用うんぬんもだけど、フィリアはちょっと……のんき過ぎないか……? 和解が成立してるとはいえ、元は敵対してた相手なんだけどな。
これはもう諦めたこと、俺がしっかりすればいい……とは思ってるけど、それにしても限度がある。自衛出来る範囲は自衛して欲しい。
「ま、やることは変わんないだろ。俺が魔獣を倒して、他のやつが後始末をする。フィリアよりしっかりしたやつが手伝ってくれるなら、もっともっと強いのと戦える。なら……まあ、あのゲロ男と手を組んでやってもいい」
それに、成立したことに文句言っても何も始まらないしな。ただ信用を失うだけだ。
俺としては、一刻も早く信頼されたい……子供扱いをやめさせたい。そういう意味では、味方が増えて動きやすくなるのはありがたいし。
それがたとえあのゲロ男だとしても、使えるものは使わないと。うざいしキモいけど、役には立ちそうだしさ。
そうして活動範囲が広がれば、もっと強い魔獣と戦う機会も出てくるハズ。そうなれば、俺にしか倒せない敵ってのも増えてくるだろう。
それを望むわけじゃないけど、そうなったら自ずと俺のことを子供扱いしてる余裕もなくなる。いいことじゃないけど、望むところではあるんだ。
「んで、どこ行けばいいんだ? 何するんだ? そういうのはまだ決まってなくて、カスタードみたいにこっち来いとだけ書いてあったのか?」
「はい。場所と時間、それから人数の指定があるだけで、何をするかの記載はありませんでした」
「こちらもまだ疑われる……警戒される立場ですからね。大勢の目に触れかねないものに、これからの行動予定を記したくないのでしょう」
さて。そうと決まれば、さっさと行って話を聞かないとな。本当は一発ぶん殴ってからにしたいけど、それも我慢。
とりあえず、手紙には……この街からちょっと離れた砦跡に、俺とフィリアだけで来い……って書いてあったらしい。
じゃあ、なおのことさっさと行こう。時間かかると人が集まって、出発したくても許して貰えない感じになりそうだ。
ただ……それにしても、俺とフィリアだけで来い……とは、また……警戒心剥き出しって感じだな。
昨日の様子を見るに、もう気を許してるのかも……って思ったけど、やっぱりあのゲロ男、抜け目がないって言うかなんて言うか。
「いきなり全幅の信頼を寄せられれば、それはそれで……疑わしいと言うか、奇妙だと考えてしまいそうですからね」
「このくらい緊張感のある関係から始めるほうが……? ユーゴ? どうかしたのですか?」
「……いや……うん……」
どうやらフィリアも同じようなこと考えてたらしい。らしいけど……なんか、それをうれしそうに言うのはどうかと思うんだよな。
緊張感は大事だ、それは間違いない。だから……それを、フィリアにも持って欲しいんだけど。言っても伝わらないんだろうな。はあ。
「……どっちにしても、心配は必要ないと思う。マリアノより強いやつなんてそういないだろうし、アイツが一応は味方してくれるって言うなら……」
「そうですね。あのかたの力は、およそ並大抵の鍛錬で身に着くものではないでしょう。単に努力を積み重ねただけでは、あんなにも強くはなれないでしょうから。きっと……良い意味ではなく、環境が彼女を育てたのでしょうね」
強くなる必要があったから、強くなるように鍛えた。マリアノはそう言ってたっけ。昨日のゲロ男の話と併せて考えると……結構重たいよな、あの言葉も。
ゲロ男より歳上だって言ってたけど、それでもアイツら全員子供のころから戦う必要があった……んだもんな。
だとしたら、それこそ今の俺と変わらないくらいのときから、誰かに力を貰うこともなく、自分の意思で決めて、鍛え続けたんだよな。
それは……とんでもないことだよな。少なくとも、今からやれって言われても俺には出来そうにない。
そんなやつが味方についてくれたのは頼もしいんだ。なら、信用し過ぎないようにしつつ、必要なところではちゃんと協力しよう。
魔獣と戦う必要があるのはお互い同じだからな。なら、そこでいがみ合うことはないだろうし。
そんな話をしつつ、約束の時間よりもずっと早くに出発して、ちょっと街を歩いてから砦跡へと向かった。
早く出たのは、周りからうるさく言われないように、こっそり抜け出すため……だけど。今回はフィリアが言い出したからな、俺は悪くない。
まあ……言われなかったら俺から提案したかもしれないけど。それはよくて、だ。
「……で、その砦ってのが……」
「……はい。あれですね」
そんなこんなで連れて来られたのは、ヨロクのほうでも見たような、ツギハギで増築された、見るからに危なっかしい砦だった。
フィリアはその安全性にちょっと疑問を持ってるっぽくて……いや、まあ、わかる。台風とか来たら倒れそうだしな。
「……ま、建物がどうだって今はいいだろ。問題は、この中にちゃんとアイツらがいるかどうかだ」
「……? ええと……呼び出されたのですから、当然……」
アホ。バカ。まぬけ。さっき、この関係には緊張感があるべきだ……って、自分で言ってたのに。ほんと……はあ。
「警戒してるのが当然だって言うなら、罠があるかもくらいは考えとけよ。あのふたりは俺に気配を覚えられたって知ってるからな」
「全然違うとこにいて、中には武器持ったやつがたくさん待ってる……なんてのもあり得るだろ。あってもなんとでも出来るけど」
「そう……ですね、確かに。ユーゴの言う通りかもしれません」
まったく、本当に危機感ないよな、フィリアは。まあ……それをするメリットがあるとも思えないけどさ。
結局、フィリアが提示した条件は、向こうにばっかり有利なものだったんだから。なら、こんなとこでひっくり返す理由もないだろう。
でも、警戒する癖はつけとかないと。いつ、どこで、なんのために裏切るかわかんないからな、アイツらも。
「……では、ここからおふたりの気配は感じられますか? 以前は酒場にいたジャンセンさんの気配を感知していましたが……」
「無理。ドアが閉まってるから……なのか、それは関係無いのか。俺もなんでわかるのかわかんないから、なんとも言えないけど。少なくとも、この中がどうなってるかは……」
それに、警戒して貰わないと困る理由もある。それは、俺が気配を感じ取れる範囲とか、仕組みとか、そういうのがあんまりわかってないからだ。
俺としては頼って欲しいけど、でも、こればっかりは過信出来ない。ヨロクでデカい魔獣が出たときも、街の真ん中に出るまで気づけなかったし。
「ごめんください。フィリア=ネイ=アンスーリァと申します。ジャンセン=グリーンパーク殿からの招待状の通り、ユーゴと共にやって参りました」
まあ、そういうわけだから。気をつけろと言ったものの、本当に気をつける以外に出来ることもなくて。フィリアはいつも通り、のんきな顔でドアをノックした。
それ……本当になんとかなんないのか……? 絵面もまぬけだし、気が抜けるんだけど……
「あー、ごめんごめん。ちょっと準備手間取っててさ、出迎え行けなかった、申し訳ない。よく来たね、フィリアちゃん」
「それと、よくまだ俺のこと警戒したままでいたな、ユーゴ。このあいだでめっちゃ打ち解けたつもりだったのに」
「あれで打ち解けたと本気で思ったなら、お前もフィリアと大概変わんないな。まぬけ過ぎる」
それに、砦の分厚い扉を叩いて、本当に中まで声が届いてるのかも疑問だ。って、そう思ってたところに、ムカつく声と顔が現れた。
ムカつく。へらへらしやがって。クズ。人間のクズ。
「とりあえず奥入ってよ。罠とかないから、安心して。って言うか、そんなのかけるくらいならもっと早い段階でやってたし。だから、おら、ユーゴ。いい加減その顔やめろ。傷付くぞ」
勝手に傷付け。それで、出来ればそのままどっか行け。うざいな、ほんと。
けど、俺がどれだけ睨んでも平気な顔で、ゲロ男は砦の中を案内し始めた。中は……きれいとは言い難かったけど、使うための整理と修繕はちゃんとやってるっぽかった。
そうして最終的に通されたのは、片付け途中ではあったけど、デカい机とたくさんのイスが準備された、教室……いや。会議室みたいなところだった。




