第七十六話【到着、合流、予定外】
宮を、ランデルを出発したその次の日。バンガムで一日過ごした馬車は、何ごともなくカンビレッジへと……目的地へと到着した。
道中には多少魔物もいたけど、前に出たようなめちゃくちゃデカい魔獣もいなければ、タヌキ魔獣みたいな変なやつも出ない。雑魚ばっか、退屈でつまらない道のりだった。
けど、今回は魔獣退治が目的じゃないからな。ここで時間を使わなくていいならそれに越したことはない。
まあ、どんなのが出ても時間なんてかからないんだけどさ。俺がいるんだから、魔獣なんて障害にならないし。
そうして馬車を街の中へ乗りつけて、役場で荷物を降ろしたところで……
「……はて……」
「……? おい、フィリア? どうしたんだよ」
フィリアがアホみたいな顔してフリーズしてしまった。こら、動け。止まるな。デカいんだから、邪魔になるだろ。
そんなフィリアだけど、ひとりでなんかぶつぶつ言って……約束まで日があるとか、どこへ向かえば合流出来るのかとか、悩んでるらしい。
そういえば、ヨロクで約束した十日後って、明日か。三日かけてランデルへ戻って、ランデルで四日。昨日一泊して今日着いたから、約束してから九日目なんだな、まだ。
いや、まあ、それなら悩むのは明日でいいんじゃないのか……?
明日になっても連絡がつかないとか、どこにもいなさそうだとか、そういう話ならわかるけど、今はまだ別に……
「……? げっ。おい、フィリア。フィリアってば。おい! フィリア! バカ!」
「ひゃあっ?! な、わっ、どっ、どうしたのですか?!」
気にする必要もないし、気を揉む必要はもっとないと思う……んだけどな。でも……言われて気にしたら……嫌な気配を感知してしまった。
ゲロ男だ。ゲロ男はもう街にいて、なんか……ヨロクではあんなに気配を感じさせなかったくせに、ここにいるぞってアピールしてるくらい強い気配を感じる。
「……合流、まだ先だったよな。んじゃあ……なんだろ、普通に街で暮らしてるだけか? それとも……」
まだボケーっとしてるフィリアの背中を叩いてそれを伝えれば、ちょっとだけ納得したような顔になった……けど、それは何に対する納得だよ。
まさかとは思うけど、マリアノのときにもそれで合流出来たから、その手があったか……みたいなこと考えてないだろうな。
「どうする。見に行く……到着したぞって言いに行くか。それとも、まだ時間があるから放置するか。俺は……無視したい」
「こ、こらこら、いけませんよ。善意で迎えに来てくださっただけの可能性だってあるのです。行動開始がまだ先だとしても、話を出来る時に出来るだけしておくのは重要です」
行ってみましょう、案内してください。って、当たり前のように言われちゃったけど、もうちょっと疑うべきじゃないか……?
なんでそんなこと出来る前提でいるんだよ。普通じゃないだろ。いや、出来るけどさ、実際。
そして、出来てしまうからにはまっすぐに気配のほうへと案内して、そうして大通りを進んだ先で見つけたのは……賑わってる酒場だった。
アイツ……この街でも、しかも明日王様と仕事するってわかってても、酒飲んでんのか。人間のクズ……
「……フィリア。帰るなら今のうちだ。今度こそ……」
「だ、大丈夫ですって。今にして思えば、あれが……あれこそが、私達を安心させるための演技、罠だったのかもしれません」
今度こそゲロかけられるかもしれない。正直、マリアノとかに攻撃されるよりずっと嫌なんだけどな。
でも、まあ、ううん……ここまで来たからには……だよな。ムカつくけど、こうして誘い出されたのには、やっぱり意図があったんだろうし。
としたら、それを確認しないわけにはいかない。また試されてるんだとしたら、これをクリアしないんじゃ対等な扱いもされないだろうしな。
そんなわけで、不本意だけど店の中をぐるっと見回して、あの人間性最悪のゴミクズカスの姿を探し……探すまでもなく、割とあっさり見つかった。
「いらっしゃい! 子連れかい? 悪いね、どこも混みあってて、適当に空いてる席座っとくれ」
「は、はい。では、奥のあの席に……」
誰が子供だ、ふざけんな。フィリアもちょっとは否定しろ。いや、そんなとこに躍起になってる場合でもないけどさ。って、それはよくて。
見れば奥のほうに、今にも寝そうな姿勢の、たったひとりだけで酒飲んでる男の背中が見えた。
こんなに賑わってる酒場で、そいつだけひとりなもんだから。嫌でも目立つって言うか、目に留まるって言うか。
フィリアもそれは見つけてたみたいで、俺が何を言うより前にその席へ案内してくれって頼んでた。
店員から変なやつだと思われそうだな。よりにもよって、あんな不審者の隣に座らせてくれなんて……
「お客さん、ちょっと隣いいかい。こっちのお客さんが座りたいって」
「……んがっ。んあ……ああ、はいはい。ひっく……あー……空いてますよー……」
うわっ、もう潰れる寸前みたいな酔いかたしてる。吐くなよ? 絶対吐くなよ。吐くとしても、俺達が帰ってひとりになって、出来ればゴミ箱とかに頭突っ込んだ状態で吐け。
けど……どうせ吐かないんだろうな。こんなわざとらしい酔いかたしておいて、こっちを見ることもせずに席をズレて、俺達が座る場所を作ってた。
こうやって誰かが探し当てることは予測済み……ってことか。となると、この誰も絡みたくないひどい酔いかたも、人払い的な意味で計算ずくだったり……
「……ん……んー……? んが……っ!? ふぃ――フィリアちゃんっ!? なん――なんでこ――げっほっ!? ごほっ! ごほっ! なんでこんなとこいんの!?」
「えっ? あ、あれっ!? ジャンセンさん、私達に気づいていたのではなかったのですか?!」
……あれ? なんか……思ってたのと違うリアクションだな。
今日はいつもと違って気配を感じた……露骨に存在感があったから、てっきり呼び出してるもんだと思ってたけど……違ったのか?
もしかして、俺がこいつを警戒するようになったから……その度合いが強くなったから、前よりももっと強く感じ取れるようになってただけ……だとか。
いや、でも、じゃあ……それならそれで、どうしてこいつはこんなとこでひとり酔い潰れかかってたんだ……? そっちのほうが……なんか……人としてダメだろ……
「へい、お待ち。なんだ、知り合いだったのかい。それじゃ、ごゆっくり」
「……え……? フィリアちゃん……その……その酒樽何……? ま、まさか今日も飲み潰しに――」
「え……? えっ、あっ、違――て、店主さんっ。違いますっ。こ、こんな、樽で持って来てくださいなんてひと言もっ」
「ち、違うのです、ジャンセンさん。私はてっきり、ここで……その……次の打ち合わせをするものだとばかり――っ」
ただのぼっちだったのか。って、納得しかけてたところに、席に着くときに頼んだ酒が運ばれてきて……それを見たゲロ男は、真っ青な顔で怯え始めた。
前にも二回飲み潰されてるから、フィリアに対して……酒の席でのフィリアに対しては、かなりの苦手意識を持ってるっぽいな。なんか……清々する。ざまーみろ。
けど……あれだな。この反応を見るに、今日のうちにしておくべき話なんてなかった……んだろうな。
当然、そんなつもりで呼び出したつもりも……そもそも、呼び出しをかけたつもりもなかったんだろう。
ならこんなとこ来たくなかったんだけどな。やかましいし、臭いし。普通にご飯食べて寝たかった。うざ。




