第七十話【それぞれの強さ】
「……チッ。来たか」
「来たぞ。来いって言ったのそっちなんだから、そんな態度すんなよ」
街はずれに感じた気配を辿ってみれば、そこにはやっぱりマリアノが待っていた。
待ってたけど……待ってた割に不服そうだな。もしかしなくても、マリアノは賛成してないんだろう。フィリアと話し合いの場を設けることに。
「……ありがとうございます、マリアノさん。きっと……きっと友好的な関係を結んで、共に戦っていきましょう。国の為、民の為、そして……私達全員の為にも」
「……ァア? おい、クソガキ。コイツどうにかしろ。イライラしてきた」
で……賛成してない理由は、フィリアのこういう……良くも悪くも空気読めないところなんだろうな。
のんきって言うか、のろまって言うか、アホでまぬけで、とことんまで他人を疑わない。
正直、マリアノにだってあんまり気を許し過ぎちゃいけないんだよな。一緒に街を守ってくれたけど、最初はいきなり襲われてるわけだし。
ただ……まあ、今日のマリアノは、いつも振り回してたあのデカい剣も持ってないから。
戦う意思はとりあえず見られない……って、そういうふうには思ってもいいのかもしれないけどさ。
そんな、剣も戦う気も持ってないマリアノに連れられて……なんか言われたわけじゃないけど、勝手に歩いてく背中を追って、俺達はまた街の外へと出た。
目的地は……昨日の場所とは違うのかな。とりあえず、進んでる方角は違う。近い方向には進むけどさ。
「……おい、クソガキ。そのデカ女、どうしたんだ。なんでオレのこと見てやがる」
さて、どこに連れてかれるのかな。って、それだけ考えながら後ろを歩いてたら……さっきまで一言も発しなかったマリアノが、イライラした顔で振り向いてそう言った。
フィリアが……マリアノを見てる? まあ……たしかに、じーっと見てたけど。それは単に、案内役を見失わないように……じゃないのか?
「……マリアノさん。申し訳ありません、女王としてあまりにも不出来で、気が回らず、それに……貴方達をどこか見下してしまっていた……軽んじてしまっていたのかもしれません。そんなつもりは毛頭なかったのですが……しかし、結果としては……」
「……ァア?」
見失わないように……じゃ、なかったのか。なんかやたらに重苦しい顔で、深く頭を下げながら、また変なことを言い出した。
「少しだけ……少しだけ時間をいただけませんか。必ず、ふさわしい服装に――姿に着替えて参りますから」
「少なくともその呑気な頭の中身がふさわしくねえよ、何考えてんだテメエは。パーティじゃねえンだぞ」
そして、そんなフィリアに、マリアノはいつものイライラした様子で……かつ、いつも以上に混乱した顔で、舌打ち混じりにため息をつく。
しまいには頭を抱えて立ち止まっちゃったから……はあ。ただでさえ頭痛いんだから、変なこと言って足を止めさせるなよ……
「服装がふさわしくないから……私に責任が足りていないから、マリアノさんは不機嫌だったのではないのですか……?」
「……ア? 別に、普段からこうだよ。ンだテメエ。オレが不貞腐れてるように見えンのか?」
いや、不貞腐れてるようには見えるだろ。いつもイライラしてるし、口悪いし。
でも、フィリアの言ってることのほうが意味わかんないから、全然味方してやれない。何言ってんだ、お前……
一応……頑張って擁護するとしたら、マリアノが剣も持たずに現れたから、王様としてふさわしい格好をしてくるべきだった……って、言いたいんだろうな。
今のフィリアは……って言うよりも、宮を出るときのフィリアは、街で暮らしてる役人とそこまで変わらない格好に着替えるから。
それこそ、酒場に飛び込んでも不審がられないくらい、普通の服装なんだ。いつも、今も。
それがふさわしくないって、王様としての話し合いをするなら、ちゃんとするべきだった……って。
そう……マリアノがそこにキレてるんだって、なんでかそんな勘違いをしたんだな。アホ……
「……はあ。いいから黙ってついて来い。オレはテメエらなんかにこれっぽっちも期待なんてしちゃいねえよ。あのバカが勝手に……」
まあ、フィリアのアホさ加減は今更だし、俺はもう何も驚かない。マリアノも……ちょっと慣れてきてるっぽい。
ひとしきりイライラし終えたら、ため息ついてまた前向いて歩き始めた。なんか……申し訳なくなるな。
「……マリアノ。その……着く前に一個だけ聞いときたいことがある。フィリアとか国とかは関係ない、俺が気になっただけだ。その……お前について」
「……ァア?」
申し訳ないついで……じゃないけど。フィリアがアホなおかげでちょっと空気が緩いから、一個だけ聞いておこうかな。
カスタードが調べてくれた結果……について、なんだけどさ。どうも……やっぱり、本当にそんなことあるのかなって、思うから。
「お前、変な力は使ってないんだよな。なんか……変なの。そういうのなしで……ただ鍛えただけでそんだけ強いんだよな」
「……ンだそりゃあ。変な変な……って、要領得ねえ奴だな。テメエに叩き潰されたってのに、どこを強いと思うんだ」
いや、どこも強いと思うだろ。身体のデカい大人が、それも毎日鍛えてる兵士が、束になっても敵わない魔獣の群れを、マリアノはひとりで蹴散らすんだから。
そう。カスタードはマリアノの強さを、ただ鍛えただけで得たものだ……って、そう言ってた。調べた結果、変なものは見つからなかったって。
でも、カスタードは俺の強さの秘密を知らない。知れてない。調べられてない。なら、マリアノに同じものがあっても気づけない可能性は高い。
もし、マリアノにも同じような力が与えられてるのなら。それは……もしかしたらさ、マリアノも俺と同じような理由でここにいるのかな、って。
俺と同じように……誰かに、この世界へ召喚されたんじゃないかな……って、思わなくもないんだ。
だとしたら、まあ……別に、それで仲良くするわけじゃないけど。でも、事情が多少でもわかったら、交渉とかもしやすくなるだろうし。
「……そうだ。オレはガキの頃から戦う為に鍛えられて育った。だから、強い。敵を殺す為に、全部ぶっ潰す為に、強くなる為に鍛えた。だから、強い」
けど……マリアノの返事は、俺の考えを否定するものだった。どうやら、嘘をついたり、何かを隠そうとしてるわけでもなさそうだ。
強くなるために鍛えたから強い……か。マリアノらしい言葉だとは思うけど、それは……俺にはちょっと、耳の痛いものだった。
「お前のは違うんだろうな。強いやつの顔してねえ。強いやつの腹を――心をしてねえ。だけど、テメエはどうしてか強い。オレよりも。さっきやけに気にしてた“変”ってのは、テメエのことを言ってんのか? だったら納得だ」
そして……それはやっぱり、マリアノにはお見通しだったっぽいな。
俺は……強くなくちゃいけないから、強くありたい。そういう力を貰ったから、強い。
でも、俺は……強くなるために何かをしたわけじゃない。何もせず、ただ貰った力を上手いこと使って魔獣を倒してるだけだ。
だから……だと思う。タヌキ魔獣に苦戦したときに、めちゃくちゃ焦ったし、嫌な幻覚みたいなものまで見えた。
目の前で誰かが死んじゃう……守る力を貰ったのに、守れなかったっていうイメージが、あんなにハッキリと……
それからはマリアノもこっちを見ることもなく、みんな黙って歩き続けた。
まだ足を止めてはいないけど、連れて来られたのは……また、林だった。でも、前とは違う場所。
なんとなくだけど、初めてマリアノと遭遇した場所に似てる……気がする。もしかしたら、あの林と繋がってるのかもしれない。
あっちも、ここも、パッと見て終わりがわからないくらい広いから。
まあ、それをフィリアに聞いて確かめるのはあとでいい。今はただ、前を歩くマリアノの背中を追いかけるだけだ。
このあとの話がどうなるかはフィリア次第だけど、本当に話し合いだけで済むのかは……まだ、わかんないから。




