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異世界転生  作者: 赤井天狐
序章

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第七話【期待をかけるもの】


「――うん、終わった。ここらのは……ってだけだろうけど。でも、もうこっちにはネズミはいない」


 みんなに大慌てで止められて、なんだったらちょっと怒られて、それでも足を止めずに街の外へ出た俺達は、すぐに魔獣の群れと遭遇した。

 この街を襲っている三種類の魔獣のひとつ。ネズミみたいな小さな魔獣……の、その大群と。


 で……護衛の兵士はその数にビビってる感じだった。踏んづけて倒そうにも数が多過ぎるし、かといって大きな武器で足元を攻撃するのは簡単じゃない。

 だから、かなり倒しにくそうな敵だ……って、そう思ったんだろうな。


 でも、俺の敵じゃなかった。たしかに、今までに戦ったのよりは苦戦したけど、それそのものはさして強くもなんともなかったから。

 剣なんて使わずに全部蹴っ飛ばして、フィリアが変な心配するよりも前に片づけてやったんだ。


「このまま街の外ぐるっと回って蹴っ飛ばしてけばいいのか?」


「お疲れさまです、ユーゴ。このまますべての……と、話を急ぎたいのは私も同じですが、一度街へ入りましょう」


 片づけてやったんだから、俺はちゃんと強いぞ。フィリアの願いを叶えられるぞ。って、そう考えてくれていいと思うんだけど。

 どうにもまだそうはなってないらしくて、まだ不安そうな顔で空を睨んでる。


「飛行型の魔獣がいつ襲って来るかわかりません。それに対する備えもしなくては」


「……まだ飛んでくるのは見えないけどな。まあ、そうするなら一緒に戻るけど」


 空を飛ぶ魔獣が街を襲ったら、大きな被害が出る。フィリアはそれを一番警戒してて、それだけは防ぎたいんだ。

 その気持ちはわかるし、俺だって最初からそのつもりだ。でも、空を飛んでるやつなんて目立つんだから、見つけてから街に戻ったって大丈夫なのに。


 やっぱり、まだ信用はされてないんだな。どうしても、フィリアからは子供にしか見えてないらしい。

 まあ、フィリアと比べたら実際に子供だけどさ。でも、フィリアだって王宮じゃ子供のほうなのに。

 それでも王様としていろんなことを任されてるんだから、同じように俺にも任せてくれればいいのにな。


 けど、それを今の俺が訴えても変わんないだろう。信用出来ないやつに信用しろって言われても、わかったって上辺でそう答えるだけだ。

 フィリアに、それからフィリアの周りの大人に信用されるには、やっぱり強さを証明するしかない。

 なら、倒すべき敵をちゃんと倒す。その順番が決まってるなら、それも守る。ムカつくけど、今はそうしておこう。


「ユーゴ、喉は乾いていませんか? 携行用の保存食ならば準備がありますから、補給が必要でしたらおっしゃってくださいね」


「別に、喉も乾いてないし、腹も減ってない」


 それにしても……魔獣を倒して街へ戻る最中にする会話がこれか……? 遠足じゃないんだから、もっと……緊張感とか、ないのか。


 フィリアとしては、俺には万全の状態で戦って欲しい、絶対に魔獣を全滅させて欲しいって気持ちなのかもしれないけどさ。

 だとしても、もうちょっと言いかたがあると思う。あやされてるみたいですっごく嫌だ。


「貴方の強さはよく知っているつもりです。未だ、その底を認識することさえ出来ていない……という段階でしかありませんが。それでも、疲れるものは疲れるのですから」


 休めるときにはきちんと休んでください。と、フィリアはそう付け加えて、小さい袋を渡してきた。

 中身は……甘いお菓子だ。前に食べたことあって、たぶん……美味しいとか言ったんだろうな、俺が。それを覚えてて……


「……ムカつく……」


 それだけ渡して、フィリアは街の大人のところへ行った。とは言っても、すぐそこにいるんだけど。俺の様子を窺うのをやめて、街の人に指示を出してるんだ。

 そんな背中が……ちゃんとしてる姿が、やっぱり王様なんだよなって思わせるから。それがムカつく。

 そう。ちゃんとした王様なのに、どうして俺に対してはこんな……幼稚園の先生みたいなことしやがって。


 なんとかして信用させたい。って言うか、ちゃんと認めさせたい。

 フィリアがやりたいこと、フィリアが掲げる願い、フィリアが望んだ平和は、俺なら全部叶えられるんだから。

 そのことを、しっかりわからせてやらないと……


「――では、私達はまた外へ。行きましょう、ユーゴ」


「っ。お、おう」


 っとと、いつの間にか話が終わってたらしい。今回は聞き耳を立てるのすら忘れてた。

 でも、やることが変わってたらそれはちゃんと言うだろうから、また街の外に出て、あのネズミ魔獣を倒すんだろうな。


 でも……あんな弱いのばっかり倒してても、フィリアはきっと認めないよな。

 じゃあやっぱり、森の奥にいるって言うもっと大きい魔獣を倒さないと……


「……フィリア」


 って、それは今考えることじゃないか。

 街から出てすぐにネズミ魔獣の気配を感じて、フィリアと兵士を俺よりずっと後ろに下がらせる。

 別に、近くにいても大丈夫だけど。でも、出しゃばられると邪魔になりそうだし。なら、最初から遠くにいて貰うほうがいい。


「ここも……ですか。お気をつけて」


 魔獣が隠れてる場所が街から近いから……だけじゃないだろうけど、きっとそれも大きな要因として、フィリアは苦い顔をした。

 そうだよな。人が住んでる場所からすぐのところにあんな群れがいた……なんて、王宮で暮らしてたら想像も出来ないもんな。


 フィリアのこういうところ、ちょっと……結構、尊敬……はしてないけど、偉いなって思う。

 フィリアは王様で、安全な場所で暮らす権利もあって、実際にそう出来てる。

 なのに、わざわざこんな危ない場所にまで出て来て、そこで暮らす人のことを真剣に考えてる。

 真剣に考えて、自分のことみたいに悩んで、それをどうにか解決したい……って、そう思ったから、俺をこの世界に呼び出したんだもんな。


 じゃあ、俺はやっぱりフィリアのために戦えばいいんだろう。フィリアに認めさせるのは俺個人の目的として、俺がここにいる意味はそっちにあるんだ。

 フィリアの願った通りに、フィリアが頼んだように戦っていれば、きっと大勢を救えるだろうから。

 フィリアがいいやつなのはわかってるから、なら……フィリアのために戦えばいいんだなって。そういう意味で、フィリアがわかりやすいやつでよかったよ。


「――はぁあ!」


 みんなを下がらせて群れに近づくと、ネズミ魔獣はしばらく威嚇してて……そして、テリトリーに踏み込んだ瞬間、一気に飛びかかってきた。

 キモい。ネズミだし、汚い。それに……正直、まだ怖い。かじられたら痛そうだし、変な病気にもなりそうだし。

 でも、フィリアのためになら戦える。いいやつだから、守ってやるかって気持ちになる。


 蹴っ飛ばして、蹴っ飛ばして、剣なんて使わずに全部蹴っ飛ばす。それで、今度もまたネズミ魔獣の群れを全滅させた。

 苦戦もせず、ケガなんて当然なく、あっさりと勝つ。それが二回目ともなれば、フィリアも兵士も、さっきよりずっと気楽そうな顔で俺を見ててくれた。


「……うん、終わった。フィリア、もうここにはいない。次のとこ行くぞ」


「はい。お疲れさまです、ユーゴ」


 お疲れさま。って、フィリアは……笑顔でそう言った。さっきまであんなにつらそうな顔してたのに。今はもう笑えてた。


 そうだ。俺が勝てば、俺が魔獣を倒せば、俺が願いを叶えれば、フィリアも、みんなも、笑顔になる。

 別にそれが目的じゃないけど、まあ……悪い気分じゃないから、そのために戦うってことにしておいてもいいや。


 それに……こういうやりかたなら、嫌なやつにもならないだろう。強いだけで、なんにも正しいことなんてしない、ただの嫌なやつには。


「――っ! ユーゴ! 上を――っ!」


「……? 上……飛んでるやつ、来たのか。すぐ戻ろう」


 でも、せっかく笑ってたみんなが、空に変なものが見えた途端にまた険しい表情になってしまった。


 ネズミは弱過ぎてつまんなかったし、うじゃうじゃいてキモかったから、別の敵が出てきたのはちょっとうれしい。

 うれしい……けど、やっとみんな安心したとこに出てきたのはムカつくな。こいつらもさっさと倒そう。


「ユーゴ――! 剣を!」


 魔獣が来るより先に街に……建物がある場所に戻って、飛ぶ魔獣を迎え撃つ準備をする。

 兵士はみんな大きい槍を構えてて、フィリアは街の人に避難しろって指示を出してる。いや、フィリアが一番先に避難するべきだと思うんだけど。


 で、俺は……そんなフィリアに預けてた剣を握り直して……


「……なんか出来そう。やってみるか」


 助走をつけて建物に飛び乗って、その壁を強く蹴ったら、そのまま上に向かって駆け上がれた。

 出来るとは思ってなかった。そもそも、どういう理屈で出来てるのかもわからない。でも、そういうシーンはアニメとかであるよな……って。

 そう思って試してみたら……なんか出来た。壁を走って登るなんてことも出来るのか、俺って。じゃあ……


「――終わりだ――っ!」


 登って跳んで、この手が空まで届くなら、俺が全部斬っておしまいだ。


 飛ぶ魔獣の数は多くなかったから、疲れるほど何回も壁を登らなくて済んだ。まあ、何回やっても全然疲れなかったと思うけど。

 それで、とりあえず見えてる魔獣を全部倒したら……やっぱりフィリアがやって来て、お疲れさまです。って、笑顔でそう言ってくれた。


 まあ、でも……別に、頼まれたからやっただけだし。フィリアのために戦えば、それで大勢守れるから。大勢守ってれば、俺はいい暮らしをさせて貰えるから。

 それだけだから。だから……別に、うれしいとかはないし。子供じゃないんだから。


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