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異世界転生  作者: 赤井天狐
第一章【信じるものと裏切られたもの】

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第六十七話【計の外】


 カスタードから聞かされたのは、マリアノが盗賊団と関わってるって話と、盗賊団と戦ってるらしい北の組織に、人を洗脳する魔術師がいるらしいって話のふたつだった。

 マリアノの件についてはなんとなく予想通りだったけど……まさか、正体不明の別の敵が、洗脳とか催眠とか使えるやつだとは思わなかったな。


 しかも、結構大ごと……って言うか、笑ってられない状況にハマっちゃった感じがする。

 カスタードにも言われたけど、宮に出入りしてる人がもう操られてる可能性だって否定出来ないんだから。

 いや……俺のことを知ってて、隔離するためにランデルへと魔獣を差し向けた……って仮定をそのまま信じるなら、もう手遅れになってる可能性も……


 しかし、だからって何もしないわけにはいかない。こっちの行動が筒抜けだとしても、それを打破するべく動く必要はある。

 そんなわけで、俺達はまたヨロクへと戻っていた。ヨロクへ戻って……そして、初めてマリアノと遭遇した、あの魔獣のいない林の調査を繰り返していた。何度も。何度も。


「……はあ。次に来たときには、成果が出るといいのですけど。こうも往復させられていると……」


 何度も何度も……ヨロクへ来てからもう十二日経って、林の調査も三回繰り返した。

 さすがにもうタイムリミットだ。これ以上はランデルの警戒が薄くなり過ぎるから、一回戻らないと。


 これだけいたのに、調査もしたのに、手がかりひとつ手に入ってない。魔獣の襲撃があった以前と変わらず、ロクな手応えも得られていなかった。

 今も、ロクな進捗も望めないまま、とりあえず話しながら街を歩き回ってるだけ。何か閃いたらいいな……って。


 林の調査をする目的は、やっぱりあそこが不審だから……違和感満載で、気持ち悪い場所だから。何かあるならきっとあそこだろう……ってのがひとつ。

 それとは別に、盗賊団の情報が増えない以上、やっぱりマリアノを通じて連絡を取るのが一番の近道だろうってのも理由になってる。


 事情がいろいろと込み合ってきたから、もうなりふり構ってられないんだ。どんな方法でもいいから、とにかく結果を急がなくちゃいけない。

 いけないんだけど……どうしても、今までうまいこと行ってなかった問題ばっかりだから。急いでも慌てても焦っても、結果はあんまり変わってないわけだ。


 で……結果が出ないのも大問題なんだけど、それより一歩手前……調査をする部分にも問題が発生してるのが現状。

 その新しい問題……前にはそんなに重たくなかった障害ってのは……


「それが狙いなんだろ。馬車を動かすのに、兵士を動かすのに金も時間もかかる。そのあいだはほかのことも出来ない。あっちが俺のこと……俺達のことを知ってるんだとしたら……」


 たった今もフィリアが嘆いたところだけど、調査をするには資金が必要になる。その資金が……いくら王様とはいえ、かなりの負担になってるっぽい。

 しかも、ついこのあいだ街が襲われてるからな。前みたいに数人で調べに行く……なんてのも許して貰えなくて、余計に出費がかさんでるんだ。


 街を襲ったのが盗賊団なのか、それとも例の催眠術師のいる組織なのか。それはわからないけど、こうして俺達が困ってるのは、向こうにとって都合がいいだろう。

 何もしなくても勝手に金を使いきって、もうどこにも調査に出られない……なんてことになろうものなら、捕まる心配なんて必要なくなるんだから。


 特に、俺がいるあいだはボロなんて出さないだろうな。

 元々知られてたっぽいけど、マリアノとは直接戦ったし、この前もかなり暴れたし。余計に知れ渡ったハズ。

 となれば、そんな特別に強いやつがいる状況で、見つかりかねない無茶はしないだろ。


「……しかし、もしもそうだとしたら……あのとき、どうしてマリアノさんは私達の前に姿を現したのでしょう」


 そんな話をしてたら、フィリアは首をかしげて、アホみたいな顔でわかりやすい疑問を口にした。

 俺のことを知っていたなら、どうしてマリアノは俺達の前に現れたのか。林で遭遇してなかったら、今こうして調べたりも出来なかったのに、って。


「……そうまでして確かめたかったことがある……? そうです……あのとき、マリアノさんはユーゴだけを狙っていた……初めからユーゴの実力に気づいていた。ユーゴの力を確かめて……それで……」


 それで……どうしたかったのかは、フィリアにも俺にもわからない。

 ただ、あのときマリアノは、明確に俺を狙ってた……王様じゃなく、強そうなほかの兵士でもなく、見た目はただの子供だった俺を。

 これはつまり、やっぱり俺のことは知られてた……俺のことを知ってる組織にマリアノも属してる……って、そう思うべきなんだろう。


 それで……だ。うん、それで……


「……それで……の先は、本人に聞けば早いだろ。出て来いよ。バレてるぞ……っての、バレてるんだろ」


 話をしながら街を……復興が進む街並みを歩き回ってた俺達を、早い段階から尾行してるやつがいるのには気づいてた。

 壊された役場の代わりの仮設拠点や、兵士が何人もいる駐屯所。それに、人間よりも匂いや音に敏感な馬小屋を訪ねたときにも、誰にも見つかることなくけてたやつが。


 で……その正体に気づいたのは、そもそもそんなこと出来るやつに思い当たる節がほかになかった……のと。それと、そいつの気配がやたらと威圧的だったから、だ。

 それこそ、あの巨大な魔獣を殴り倒せるくらい強いやつ。そんなの、ひとりしかいない。


 俺の呼びかけに応えるように……実際には、ちょうどいいタイミングになったから、だろう。

 さっきまで隠れてたそいつは、物陰からゆっくりと、そのくせ堂々と、俺達の前に姿を現した。


「――マリアノさん――っ。まさか、ユーゴの感知をすり抜けて……っ」


「……あー……違う。フィリア、違う。ちょっと黙ってろ。前にも言ったけど、お前はちょっと黙って引っ込んでろ」


 だから、感知はずっとしてたって言って……いや、言ってはないな。まあ、言わなくてもいいか、いまさら。めんどくさいし。

 それに……フィリアが口を挟むと、マリアノはまたキレそうだしな。


「……ついて来い」


「っ! マリ――っ。むぐ……もが」


 だから、口を挟むなって……言ってはないな、これも。でも、いい加減察しろ。フィリアがアホなこと言うと、マリアノは……なんかやたらとキレるから。


 尾行されてたのに気づいたのは、マリアノの気配が……殺気みたいなものが、普通じゃあり得ないくらいデカいから。

 でも、その尾行を今の今まで振り切ろうとしなかったのは、そのデカい殺気を俺達に向けてない気がしたから。


 マリアノは俺達に用がある。でも、場所を選ばないと話が出来ない……んだろう。だから、こっちの様子を窺い続けてるんだ……って、そう思った。

 そして、案の定……ってわけだ。役場や屯所を離れたら……要するに、公的な施設から遠ざかって、役人や兵士がいなくなったから、隠れる必要もなくなったんだろう。


 でも……そこまで様子を窺っておいて、そしてもう大丈夫だと思ったくせに、まだ場所を変えたいっぽい。

 ついて来いなんて言って、俺達がちゃんと追いかけられるようにゆっくりと街の外へ向かって歩き始めた。


 どんどん役場や屯所から遠ざかって、ついに街の敷地外に出て、俺達三人以外に何も見当たらないような荒れ地にまで案内して……


「――これっぽっちも警戒って言葉を知らねえんだな。どうしてこんなとこまで平気なツラしてついて来やがる。頭の中何も入ってねえんじゃねえのか」


「っ?! つ、ついて来いとおっしゃったのはマリアノさんではありませんかっ!」


 それで……なんか、めちゃくちゃ困った顔で……いや。呆れた顔で、ゆっくり振り返ってそう言った。

 まあ……そうだな。それについては、俺もまったく同じ意見だ。フィリアは本当に危機感がないし警戒心も薄い。


「……悪いな。フィリアは真面目にやってこれなんだ。もうなんとなくわかってるだろうけど」


「っ!? ゆ、ユーゴっ?! 貴方までどうして……っ!」


 でも、心外なのはそれを俺にも言ってそうなことなんだよな。俺はさすがにフィリアほどまぬけじゃない。

 マリアノのことは警戒してたし、周りにも気を配ってた。そして……警戒したうえで、今のマリアノは信用しても大丈夫だと思ったから。


 だって、ここに来るまで一度もこっちを振り返らなかった。一度も、マリアノより強い俺のことを警戒するそぶりを見せなかった。

 なら、戦うつもりはないんだろう。ま、そんなのは街にいたころからわかってたけどな。殺気がこっちに向いてなさ過ぎたし。


 でも……そのどこにも向いてない殺気が、信用してもよさそうな気配が、ちょっと変わったのがわかった。

 マリアノがこっちを向いて、フィリアに呆れた顔をして、俺の言葉に頭を抱えてから。


 別に、それまで一瞬も笑ってなんていなかったけど。それでも……明確に、冷徹さが表情に浮かび上がった。


「――剣、抜けよ。こそこそ嗅ぎ回られんのもこれで終わりにしてやる。オレがお前らを叩き潰して、それで全部――」


「――フィリア――退がってろ――っ!」


 マリアノの手には剣が握られていた。林の木々をなぎ倒した、魔獣の群れを蹴散らした、あのバカみたいにデカい剣。

 そのバカデカい剣を……振りかぶって、俺に向かって振り下ろして、振り回して。


 けど……そこにはまだ、殺気も殺意も、警戒心すらもがこめられていなくて……


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