第六十五話【力の開示】
「――強さの正体がわかった……ですか?」
「うん。なんとなく、そうじゃないかな……ってレベルだけどな」
ヨロクでの一件もすっかり遠い出来事のように感じられる……ほどは時間も経ってないけど、安全なランデルに戻って、少し気分も落ち着いたころ。
ふと思い出したのは、あの戦いでなんとなく理解した俺の力……この世のあらゆるものよりも強いって能力について、まだフィリアに相談してないことだった。
そんなわけで、ご飯のために俺の部屋に来てたフィリアを捕まえて、食後にちょっとだけ話を聞いて貰うことにした。
本当はそんな暇ないんだろうけど……息抜きなしで仕事ばっかしてると、疲れてサボり出すからな。気分転換もかねてると思えば、まあ。
「ヨロクで戦ってるとき……いや、本当はもうちょっと前からなんとなく察してたんだけどさ。でも、違う可能性も考えられたから」
「ええと……なんとなく……でありながら、しかし以前よりはずいぶんと確信を持ってそうだと言えるようになった……と、そういうことでしょうか」
ちょっとめんどくさい言いかたに直すなよ。まあ、そういうことだけど。
それこそ、飛ぶ魔獣を倒したあたりからなんとなく感じてたんだ。必要に応じて強くなる、俺の求めた力が手に入るんじゃないかって。
それで……ヨロクではそれが、うまいこと機能しなかった。思ったように強くなれなかった。
だからこそ、そうなんだろうって確信を得たんだ。いや、不確かなままなんだけどさ、実際は。
でも、不確かだからこそ打ち明けて相談しておく必要があるって思ったんだ。フィリアに何かして貰うとかはないけど、知っておいて貰わないといけないしな。
フィリアだけが俺の秘密を知ってるから。そのフィリアが、間違った認識を持ったまま俺に指示を出したら、場合によっては大勢に迷惑がかかっちゃう。
「最初は、必要に応じて強くなる……ええっと……問題が起こったときに、それを解決出来るようになってる力なんだと思ったんだ。ほら、前に飛ぶ魔獣を倒したときにさ」
「飛行型の……ええ、覚えています。街へ飛来した魔獣の群れを、壁を駆け上がって退治してくれましたね。あのときはたしかに、そんなことも出来るのかと驚きましたが……」
その口ぶりでは、以前には出来なかったことなのですか? と、フィリアは首をかしげてそう言った。
それは、疑問に思ったから聞いてる……って感じじゃなくて、自分の認識があってるか不安だから確かめてる……って感じなんだろうな。
なんだかんだいつも話をしてるから、考えてることがいくらかわかるようになってきた。いや、顔に出過ぎなんだけどさ、フィリアの場合は。
「うん、そう。あんなこと出来なかったと思うし、そもそも出来るとも思ってなかった。試してないから知らなかっただけで、本当は最初から出来たのかもしれないけどさ」
「この世のあらゆるものよりも強い……と、そういう力を持っているわけですから。知らずのうちから出来ることだった可能性もありますよね。それでも貴方は、そうではないと思った……と」
ああ、そう、それだ。いい感じに表せる言葉を思いつかなかったけど、フィリアの今の言いかたはなんとなくしっくりくる。
そう、そうなんだ。ほんとは最初から出来たけど、知らなかったからやってなかっただけ……の可能性がずっと残ってたから、確信を得られなかったんだ。
進化する力、必要に応じて強くなる力……じゃなくて、最初からなんでも出来るけど、そのことを俺が知らないだけなんじゃないか、って。
でも、ヨロクでの一件でそれが否定された。あんまりうれしいことじゃなかったけど、理解が進んだのは重要だと思う。
「ヨロクではさ、もう被害も出てて、指示を出してくれるパールもいなくて、ちょっと焦ってたんだ。焦ってたら……なんか、思ったような成果を挙げられなかった」
「ええと……それは、普通のことではないのでしょうか。もちろん、貴方が普通の戦士でないことは重々承知の上なのですが……」
普通……か。まあ、そうだな。焦ってたらうまいこと行かないのは普通だ。
でも、焦っててもいつもどおりに出来る強さ……だって、本当ならあるハズなんだ。この世のあらゆるものよりも強いって力の中には。
「この際だから言うけど、初めて魔獣と戦ったとき、結構……かなり、緊張してたからな。あんなのと戦えるのか……って。それでも、蓋を開けたら楽勝だった」
「うっ……す、すみません。そのような力を与えたのだとだけ説明して、訓練もなしにいきなり実戦に向かったのは、今にして思えば早計だったかと反省しています……」
いや、まあ、それはいいんだよ。結果としてはそれで十分だったんだから。
でも……そう。その最初に限らず、まったく知らないものと戦う機会は少なくなかった。
つまり、動揺とか、不安とか、そういうのは当たり前につきまとってたハズなんだ。
それでも、魔獣に苦戦することは一度もなかった。まあ、雑魚が相手だっただけ……って言われたら、それまでかもしれないけどさ。
だけど、それだけじゃない気がする。ただ相手が弱いだけだったら、俺がなんのミスもしなかった理由にはならないから。
「マリアノが出てくるまではさ、苦戦してたんだ。なんか……襲ってくる魔獣を倒すのは慣れてたけど、どっかに向かってる魔獣を追いかけて倒すのが難しくて」
早く倒そうと思っても、逃げる魔獣を倒す強さは持ってなかった。これは……弱いやつをわざわざ倒しやすくする必要がなかったから……だと思う。
この時点で、もとから出来たことを知らないだけ……じゃないことはなんとなくわかる。この力に、雑魚を倒す強さは含まれてない……なんて、そんなわけないんだし。
だからきっと、必要としなくちゃ進化しない、イメージがないと発揮されないものだ……って、そう仮定した。
仮定して……一回役場まで戻って、時間を使って、冷静になってからもう一度戦ったら……そのときには、まだいくらか楽に戦えるようになってたんだよな。
「走るのも、ちゃんとイメージしたら前よりもっと速くなった。剣だって、振りかた変えたら威力も変わった。だから、ほぼ間違いない。この力は、イメージを実現するものだ」
「……なるほど。その……正直に言ってしまうと、私ではその差はわからないのです。ですが……貴方自身がそう感じているのであれば、そういうものと認識すべきなのでしょう」
この力は、強さは、万能だけど、弱点がないわけじゃない。ちゃんとそう考えておかないと、万が一があったら困るからな。
事実、ヨロクではその万が一が起こりかけたんだ。逃げる魔獣に手間取ったのもそうだし、それに……
「……それに、あのタヌキみたいな魔獣。あんな小さくて弱そうなの、倒せないイメージなんてなかったんだ。でも……あれを簡単に倒す想像も、わざわざ出来なかった」
「……取るに足らない相手と思ってしまったがために、予想外の強さへ対応するのが遅れてしまった……と。それは……非常に厄介な性質ですね」
最終的には、俺自身ですら覚えてないような倒しかたをしてたから……あれも危ないよな。
だって、もしもフィリアが間違って飛び出してたら……とかさ、あり得ないことじゃないんだし。
なんにしても、この世のあらゆるものよりも……なんて大仰な説明だけ聞かされてたこの力は、それ相応に使い手がちゃんとしてないといけない力だったわけだ。
国を救うほどの力を……って、フィリアのそんな願いに対しては、ちょっと足りてないものになっちゃうかもしれない。
まあ……今は、だけどさ。今はそうだから、ちょっと気をつけろよってだけ。
ちゃんと使いこなして、強くなって、タヌキ魔獣にもマリアノにも簡単に対処出来る強さを手に入れるから。




